小猫side
兵藤 絢乃。私の親友です。それも生まれてはじめてのです。
私は決して部長から言われたことを、忘れていません。
絢乃さんの護衛。騙すように友達になり近づきました。忘れたくても忘れません。
私には姉さまがいます。私と姉さまはとても仲がよく、私は姉さまが大好きでした。
でも、ある日、姉さまがある悪魔の眷属になりました。生活は豊かになりましたが、姉さまと過ごす時間が少なくなりました。
私は豊かな贅沢な生活より、姉さまと過ごす時間が一番でした。だから、そのときからあまり表情を出さなくなりました。私の表情は姉さまだけのもの。姉さま以外に見せる理由はありません。
そして、ある日、姉さまが主を殺しました。そのときの姉さまは少し怖かったですが、それと同時に再び私と一緒に暮らせると思いました。すべては姉さまの主のせいでした。あいつが姉さまといる時間をなくした。だから、いなくなったらすべて元通りだと思いました。
主を殺した姉さまは追われる立場になりましたが、私はそれでもよかったです。
いつか、幸せになるときが来ると思ったから。そのときがたとえ、長い時間がかかってもです。そして、そのときが私が寿命で死ぬ少し前でも。
ですが、姉さまは私を置いていきました。私も一緒に連れて行ってほしかった。でも、そうはならず、部長の眷属、下僕になりました。部長が私を眷属にしなかったら私は危険だという理由で殺されていました。確かに感謝しています。でも、幸せだったかと聞かれるとそうではありませんでした。
ただ過ごしただけです。なにも楽しいことは全くありませんでした。周りの人たちは楽しくしていましたが、私は無表情でいました。私は姉さまとしか楽しくできません。
いえ、他の人と仲良くしたいとは思いませんでした。
いつの日か、私は本当に無表情になりました。私は作り笑いをすることで周りの人達に
対応しました。誰もこれには気づきませんでした。そのとき、私はこの中に私の表情を
変えることができる人が、いないと気づきました。
それは長い間ずっと変わりませんでした。長い間ずっといるのに誰も気づかない。
やっぱりこの人たちではダメ。みんなただあまり感情を表に出さない子だと思っている。これじゃ、姉さまといても本当の表情を出せないかもしれない。
それは私とって最悪なことでした。今になって気付いてしまいました。
心の中で私は助けを求めました。誰か私に表情を出させて、と。ですが、そのときは来ませんでした。あのときまでは。
それは絢乃さんと出会い。部長の命令で近づき、でもそのときの私の気持ちを、理解してくれました。だから、親友となりました。それから私たちはプライベートでも遊んだりしました。そして、気付いてのです。いつの間にか、本当の表情で笑っていると。
気付いたときには頬に涙がこぼれていました。絢乃さんもいたのでとても心配されました。でも、なんとか誤魔化しました。その日は一日中、絢乃さんに心配をかけました。
夜にはその喜びで声をあげて泣いてしまいました。
絢乃さんには感謝しかありません。それから毎日、絢乃さんといるのが楽しくなってきました。人生でこんなに楽しかったことは小さい頃でした。そのときと比べられるほどの思い出が多くできました。これからもずっと、親友でいたい。でも、それは無理な話です。
私は永遠に近い時を生きる悪魔。絢乃さんは最大で100年しか生きられない人間です。
いつか別れが来る。いつかそのときが来た時、私はその悲しみに耐えることができるのでしょうか?きっと耐えられないでしょう。
それほど絢乃さんは私の心に影響を与えました。それは私にとって人生で一番大きい出来事です。おそらくきっと。
そして、絢乃さんとそのお兄さんとその先輩方と遊んだ、楽しい日の翌日。
私は絢乃さんが人間じゃないようなにおいを感じました。だから、放課後、呼び出しました。
私は確かめなければなりませんでした。もしかしたら、絢乃さんが殺され、別の生き物が成り代わっているのか。それとも、絢乃さんに何かがあったのか。私は戦闘には自信があります。絢乃さんが前者のような場合でも倒せる自身がありました。
でも、そうでないよう願いました。だって、それは親友が死んだということなのですから。そうなったら、私は狂ってしまいます。だから、質問して答えが返ってくるまで、不安でいっぱいでした。しかし、それは絢乃さんの行動によって打ち消されました。
「可愛いいいいいい!!!!!」
私はその声にびっくりしました。叫んだ絢乃さんは私に抱きついてきました。
そういえば、絢乃さんは獣耳などが好きでした。それを忘れていました。
私の正体を教えるために耳と尻尾を出したのは間違いでした。
絢乃さんは私の耳と尻尾を触られ続けます。き、気持ちがいいですけど、そ、そういうことをやっている……とき、ではないん…です!私は絢乃さんを引き剥がします。絶対に絢乃さんの前でこの姿にはなりません。く、癖になりそうですから。
私は改めて聞きました。絢乃さんは何かを考えていました。その間に私はこの絢乃さんが絢乃さんだと決定付けました。それは直感とさっきの行動からです。あそこまでできる者はいないでしょう。
「……それで何者です?」
「私は吸血鬼だよ」
そう答えました。でも、答え方に疑問を持ちました。「なった」ではなく「だよ」です。まるで最初からそうだったというような感じでした。本当に吸血鬼なのか聞くと歯を見せてくれました。たしかにその歯は吸血鬼のものでした。
やっぱり絢乃さんは人間ではない。吸血鬼。それを知ったとき、私はうれしく思いました。吸血鬼は不老不死。私とずっと長い間いることができる。それだけで胸がいっぱいです。
「だから、もし危険になったら……え~と……そう!心の中で私の名前を呼んでね。すぐに駆けつけるから」
「……できるんですか?」
「できるよ」
私はその言葉を信じました。できるだけそんなことがないようにしたいです。
いくら、絢乃さんが吸血鬼だとしても、傷ついて欲しくありません。
あれから数日、絢乃さんのことは誰にも言っていません。何かあれば言うように言われていますが、私にとってそれより絢乃さんとの約束が大事でした。これは裏切りかもしれません。でも、初めての親友です。そっちのほうが大事なんです。
今日は悪魔の仕事です。悪魔は相手の願いを叶え、対価を貰います。その仕事です。
私は魔方陣を使い依頼者のもとへ転移しました。
「……依頼された悪魔の――――――!!」
私のお腹に激しい痛みが走ります。こ、これは光のダメージ!?なんで?私は膝をつきます。よく見るとこちらに拳銃を向けている神父の姿が見えました。その後ろには十字に磔にされている人間の死体がありました。あの人が依頼主だったみたいです。
「おややや~、これはこれは悪魔さんではあーりませんかー。適当に撃ってたら当たっちゃいましたー。なんて」
「……あなたがこれを?」
「そうでーす!悪魔にすがる人間なんて必要ねーですからね。そんな悪い子には俺がお仕置きよってね」
うまく体が動きません。さっきの傷が痛みます。この神父は色々とやばいです。
今の私で倒せるでしょうか?いえ、逃げることができるでしょうか?難しいです。
とりあえず、私はソファーを持ち上げ神父に向かって投げます。
「危ない危ない。そらよっと」
神父は投げられたソファーを軽々と避け、拳銃で撃ってきます。音はしません。私は避けますが、傷のせいで肩をかすります。かすっただけでも悪魔にとって大ダメージです。さらに撃ってきます。計3発。2発は避けました。でも1発、足に当たりました。
「くっ!」
「アハハ! どうしたのかな? もう終わり? 殺していい? 死にたくない? 神様にお祈り? 悪魔が? ハハハ! 面白いよ。俺は神父だ。さあ、祈りたまえってな!」
神父はもう片方の足にも撃ちこみます。痛い! 死にそうなくらい痛い! 歩けない。足が動かない。この神父は私で遊んでいる?ふざけないでください! 私はあなたの玩具じゃない! 私は神父を睨みます。
「熱い視線ありがとう。でも、俺には必要ありませーん。もう死んじゃう奴の視線ですから。それとも俺に惚れた?その視線ならもっと遊んで殺してあげるよ」
ハハハ、と笑っています。動けない足を引きずり、這いながら移動します。情けない姿です。神父はゆっくりと追いかけてきます。
「どこに行くのかな~。まさか逃げ切れると思っている?」
右腕を撃たれました。腕に力が入らなくなり、倒れます。やっぱり私を玩具のように扱っています。私の体から血がどんどん流れ出します。そして、血は血溜まりになり、私の顔を血で赤く染めます。
ここで死ぬの? それは嫌だ。ここで死にたくない! 姉さまをもう一度見たい! 絢乃さん……助けて! 絢乃さん、私を……お願い。神父が光の刀身の剣を振り上げ、私に振り下ろします。
「……やっぱり、嘘じゃないですか。駆けつけるって言ったのに」
それが最後の私の言葉でした。私は目を瞑りそのときを覚悟しました。あるのは多くの未練ばかり。姉さまの顔と絢乃さんの顔。二人が私に向かって笑っている顔。その顔で見ないでください。私はもう死ぬんですから。涙が流れます。さよなら……。
でも、しばらくしても何もありませんでした。涙を流した私を見て、楽しんでいるんですか?ならいっそ自分で死んでやります。
「なにが嘘なの?私はちゃんと駆けつけたよ」
覚悟していたら、聞き覚えのある声が聞こえました。やっぱり最後だからそんな声が聞こえたんですか。それでも気になって目を開けます。幻でもいいと思って。
目を開けた瞬間、そこには振り下ろされかけた剣を持った手首を掴んでいる絢乃さんがいました。本当に駆けつけてくれた……。ありがとう、絢乃さん。絢乃さんが来てくれたことに安心したのか、私の意識は沈んでいきました。
絢乃side
「てめえ、なにもんだぁ?そこの悪魔の仲間ですかぁ?」
「残念でしたー。私は友達です」
私も相手に合わせ、少しふざけた感じで答えます。ふふふ、今の私は怒っているんです。私の親友がここまでボロボロになったんです。殺しませんが、同じようにボロボロにしてやります。
神父が剣を持った手を自由にするために、もう片方に持っていた拳銃を私の腕に撃ちます。2発です。その2発は私の腕に当たります。その一瞬、手の力が抜けます。その一瞬で神父の手は自由になります。
ですが、傷はすぐにふさがります。吸血鬼を舐めないでください。
この程度でやられません。
「吸血鬼か?」
「正解です。正解者には私からボコボコにされる権利がプレゼントされます」
「いらねー!」
私は神父の懐に入り、拳を打ち込みます。神父は拳銃で受け止めました。いえ、受け止めましたが、そのまま吹き飛びました。神父の体は家の部屋の壁を破壊しました。廊下とこの部屋が丸見えです。本当はそこまでならように吹き飛ばしたんですが、強すぎました。
「まさか、防御した上から腕力で飛ばすなんて、クソみないなやり方だぜ」
「私も軽く殴っただけなのに、あんなに飛ぶなんて思ってませんでした」
「ふざけやがってこのクソアマがぁ!」
私の挑発にキレた神父が私に拳銃を向けてきます。神父が引き金を数回引きます。私は相手の視線を読むことで回避します。どこかのアニメでこういうシーンがあったんです。見ててよかったです。
まさか現実で再現できるとは思いませんでした。しかも、神父の狙いも結構正確なおかげで、避けやすいです。
「ハアアアアアアアアア!?なんで当たらないんですかああああ!!このクソ蝙蝠が!!ぜってー殺してやる!死ね!」
あ~、うるさいです。早く小猫ちゃんの手当てをしないと……。
私は無詠唱で「魔法の射手」を3つ腕に纏わせます。この技の名前は確か……
「もう、終わらせる。『
「へ?」
でしたよね?とにかく、魔法の射手を纏わせた拳で神父を殴りました。威力は数倍です。え?数倍?し、しまった!!さっきの数倍ということは、家の壁を壊して他の家の壁にも穴を開けてしまいます!
予想通り、神父は吐血しながら家の壁を破壊し、隣の家の庭まで吹き飛ばされます。
よ、よかった……。角度的に家ではなく庭でした。神父は私の一撃で気絶したようです。
きっと、内臓と骨に傷がついているでしょう。
気絶した神父を確認し、小猫ちゃんのもとへ行きます。小猫ちゃんの体が自身の血溜まりで赤く染まっています。一刻も早く、助ける必要があります。
「絢音!」
「どうしたの?」
「小猫ちゃんが重傷なの!どうしたら助けられる?」
私は絢音に助けを求めます。私には助ける方法は1つしか思い浮かびませんでした。
それは吸血鬼にすること。ですが、小猫ちゃんまで、そうするわけにはいきません。
きっと他に手があるはずです。
「なら、絢乃の血を一滴、飲ませてあげて」
「それで治るの?」
「うん。治る」
まさかそんなことができるなんて。吸血鬼の体はすごいです。これで小猫ちゃんを助けられます。現実に戻ろうとすると、待って、と言われます。
「絶対に1滴。これは守って。それ以上はダメ。何が起こるかわからない」
「分かった。一滴だね」
一滴、一滴、一滴……。忘れないように、頭の中で繰り返します。忘れないと思いますけど、大切なことですから。
「あと、さっきの技だけど……」
いなきなり、絢音が話しかけてきます。さっきの技?ああ、「梅華崩拳」ですか。
何か問題でもあったんでしょうか?
「名前、間違ってる」
「はい?」
間違っていると言われ、疑問で返してしまいます。
「梅じゃなくて、桜。
「本当?」
「本当」
「………」
「………」
空気が一瞬で凍りました。は、恥ずかしくて、穴に入りたいです!かっこよく決めたのに技の名前が間違えていたなんて!……今日は兄さんに慰めてもらいたいです。顔が真っ赤になっている私に、絢音が頭を撫でて慰めてくれます。
「大丈夫。知っているのは神父と私だけ。それにこの技の名前を知っている人はいない」
「……今度から気をつける」
「気をつけて」
絢音にフォローしてもらい、多少、楽になった私は現実に戻ります。
私は小猫ちゃんを仰向けで抱きかかえます。私は早速、指に傷を付けます。傷からは血が流れ出します。傷の付いた指を小猫ちゃんの口元に持っていき、指先に血が溜まるの待ちました。溜まった血は、重力と重さによって、今にも落ちてしまいそうです。
その指を軽く揺らしました。今にも落ちそうだった血は、その揺れによって重力に従い小猫ちゃんの口へ吸い込まれていきました。これ以上、血を飲ませないように、指はすぐに回復させ、残った血は舐めます。
「これでいいんだよね?」
少し不安になり、疑問系でつぶやきます。当然、誰も答えを返しません。というよりも、意識がある者はいないで返せません。飲ませてしばらくすると、小猫ちゃんの傷は少しずつ消えていきました。
これでもう大丈夫です。でも、小猫ちゃんはどうしましょうか?血に染まった服と体。私の家に運ぼうにも言い訳ができません。
どうしようか迷っているとき、数メートル離れた床が青く光りだしました。光は魔方陣を描きます。どのような効果の魔方陣か、分からない私は、小猫ちゃんをさらに抱き寄せます。
カッ!
魔方陣が光だしました。光の中に数人の影が見えます。転移魔方陣!?神父の増援?
やっぱり気付かれましたか。いいですよ。相手になります。
現れたのは見知った人たちでした。リアス先輩、朱乃先輩、木場先輩。まさか、敵だなんて……。