「君はバカかい?」
高級そうなソファーに座った絢音が倒れている私に呆れ顔で言います。そっか。さっきこの状態で気絶したから、この状態でここに来たようです。私はゆっくり立ち上がります。少し体に、いえ、意識体に力が入りません。どうやら意識までにダメージがあるようです。立てずそのまま座り込みます。
そんな私を座っている絢音は足を組み、見下ろします。手にはチョコレート持ち、そのチョコを口に運んで噛み砕きます。
パキンッ
という音が響きました。どこの偉い人ですか。というか、可愛い服を着てその態度は似合いませんよ。
「大体ね。君はまだ吸血鬼に覚醒して、すぐだよ?体が人間だったのに、あんなに激しく動けば体にダメージが来るに決まっているじゃん。君はまだ人間と吸血鬼の半端者。たしかに覚醒したけど、本来の覚醒にはほど遠いよ」
色々と言われます。というか、まだ先があるんですか。吸血鬼はそれほど強力な存在のようです。
「本来の状態だと本気で殴った場合、壁に穴が開くだけじゃない。君が放った桜華崩拳より上くらいの威力だよ。それに魔力だってもっとあるよ」
次々と本来の力のことを説明されます。それに私は驚くことしかできません。あれだけの強さだったのにあれがほんの一部。再び絢音のチョコが噛み砕かれます。
「自分だって戦闘の途中で気付いていたでしょう?私も気付くべきだったよ。まさかこんなにボロボロになるなんて」
絢音が私のもとまで来て、頬をチョコを持っていないほうの手で撫でます。
「ごめんね。本当にそう思っているよ。これは私の責任だね。私に気付かせないようにしていたなんて、思ってなかった。それを考えていればすぐに気付けたのに」
絢音の人差し指が私の額に触れます。私の体に何かが入ってきます。しばらくすると、体に力が入るようになり、立ち上がります。
「体の負担をなくしただけだよ。これからも戦闘をするなら、今の状態より覚醒したほうがいいよ」
「どうすればいいの?」
その答えに絢音の口が弧を描きます。
「吸血をすればいい」
「それだけ?」
「それも大量な血だよ。人、6人分の血。あなたは人間6人を犠牲にできる?」
ただそれだけではありませんでした。人を犠牲にしたくはありません。それなら体をボロボロにしたほうがいいです。
「ふふふ、他人を犠牲にするなら自分が犠牲になる。やっぱり優しいね。そこである方法を教えるね」
絢音が再びソファーに座ります。優しい顔で私を見ます。
「回数を分けて吸血すればいいの。時間が結構かかるけど、誰も犠牲にはしない。兄さんにそれを話して、吸血すればいい。きっと良いって言うよ」
回数を分ければいい。でも、私のためにそこまでやっていいのでしょうか?
「いいんだよ。それに君は吸血鬼だよ。吸血鬼は血を吸うから吸血鬼って言われる。いつか血に飢える日が来る。そのときの吸血鬼は吸血欲に支配される。支配された吸血鬼は多くの人間の血を吸うようになる。それも死ぬまで。欲が治まるのは多くの人間を犠牲にした後。それだったら兄さんに日頃から吸血したほうがいいでしょ?」
吸血される人のことを思ってためらえば、多くの人を犠牲にする。そういうことですか。だったら自分の意思で吸血したほうが良いです。
「でも、まだ兄さんに言ってません」
「なら、これをきっかけに本当のことを言ったら?いいんじゃないの?」
「そう、ですね。そうします」
「それに、兄さんも吸血する必要があるから抱き合いながら、吸血なんてこともできるよ」
それを想像しました。
……
…………
………………
ボンッ!
そんな音が自分から聞こえたような気がします。体中が熱くなりました。た、たしかにそれも良いですが、まだちょっと早いです!
「ね?良いでしょ?」
「でも、どうやって言えば……」
「そうだね。何か出来事があればいいんだけどね」
そうです。兄さんが何かのきっかけで吸血鬼だと知ることができればいいです。けど、だからといって兄さんには危険な目にあってほしくはありません。なら、私が気付かせましょう。
「私が兄さんに軽い傷を負わせます。例えば画鋲を踏ませるとか」
「確かにそれは軽い傷だけど、できる?」
絢音が私の目を鋭い目で見ます。その目には兄さんを自分の手で傷を付けられるのか、と聞いています。その目を逸らさずに言います。
「できる。兄さんのためだから」
その答えを聞いた絢音は、鋭い目から優しい目に戻りました。
「それじゃ、明日から作戦会議しよっか」
「そうですね」
何事も準備が必要です。準備なしの行動は失敗です。
その後、私は絢音とこの空間でゆっくりを休みました。
翌日、私はいつもより早く起きます。それは小猫ちゃんの拘束を解くため。横にはまだ寝ている兄さん。あれ?なんで私はベッドで?たしか床で気絶していたはずなのに。
きっと兄さんが起きたときに、運んだのでしょう。
私はそう推測し、そのお礼として頬にキスをしました。
では、早く準備をしましょうか。私は制服に着替えます。1階に降り、リビングのテーブルに書置きをしたあと、私は小猫ちゃんのもとへ転移します。
え?どうやって小猫ちゃんのもとへ行くか?たしかに場所は分かりませんが、そんなのは気合いで解決です。気合いですべてが解決します。
私はある部屋の中へ転移しました。おそらくここが小猫ちゃんの部屋なんでしょう。
部屋のベッドには拘束された小猫ちゃんが寝ています。服は着替えており、シンプルなパジャマです。そのベッドの近くに3人の姿。リアス先輩と朱乃先輩と木場先輩です。リアス先輩は寝ているようです。他は起きています。
「おはようございます」
「うふふ、おはようございますわ」
「おはよう、兵藤 絢音さん」
私があいさつをすると、2人はあいさつを返してくれます。その言葉に敵意がないことから、昨日のことについてなにもないようです。私は寝ている小猫ちゃんのもとへ向かいます。
「部長は起こさなくていいのかい?」
「部長?ああ、リアス先輩のことですか。ええ、起こさなくて良いです。お二人も寝ていて良いですよ」
さりげなく2人の心配をします。だって、きっと徹夜です。今日は学校があります。絶対に寝てしまいますよ。なら、少しだけでも寝ているほうがいいでしょう。
ですが、それを断ります。まあ、いいでしょう。
「では拘束を解きます」
小猫ちゃんを拘束しているのは、鉄の鎖です。3人はこれで十分だと思ったようですが、私からしてみればまだ足りない、が正直な感想です。でも、私の魔法がよく効いていたのか、抵抗された様子はありません。
私は小猫ちゃんの唇を開きます。その八重歯はいつも通りの歯です。吸血鬼のものではありません。私は安心して息を吐きます。戻ったみたいです。私は断罪の剣をナイフサイズで発動させます。断罪の剣で鎖を斬りました。
斬られた鎖は大きな甲高い音を立て床に落ちます。思わず体がびくっと震えました。もう少しで声を上げそうでした。私は一息ついて落ち着きます。そして、私になにも起きていなかったような感じで言います。
「はい。完了です」
終わったことを伝え、二人のほうを振り返りました。
「もう小猫ちゃんは吸血鬼ではありません。なので近寄っても血を舐めても問題ないはずです。では、リアス先輩にそれを伝えてください」
「いえ、その必要はないわ」
いつの間にか起きていたリアス先輩が、私の後ろに立っていました。小猫ちゃんの傍で寝ていたので当然です。リアス先輩は腕を組んでいました。それは堂々としたものでしたが、寝癖のせいでそれが台無しです。
そこに慌てた朱乃先輩がリアス先輩のもとへ行きます。朱乃先輩はリアス先輩の寝癖を直そうとします。自分の寝癖に気付き慌てて直そうとします。
「ごほん、ちょっと待ちなさい」
頬を赤く染めて言います。私はその場で回転し、直す姿を見ないようにします。
ふふふ、まさかリアス先輩のあんな姿が見られるなんて。ちょっと可愛い姿でした。
本当はずっと見ていたかったんです。あんな姿は滅多に見られないものです。
周りのクラスメイトたちが言うには、リアス先輩と朱乃先輩は学園のお姉さまらしいです。結構男女問わず人気があるそうです。そんなリアス先輩の姿はレアなのです。
「待たせたわね」
振り返ると寝癖の直ったリアス先輩が堂々とした態度で立っていました。
「絢乃、放課後に小猫について行きなさい。小猫が向かった場所で話があるわ」
「分かりました。小猫ちゃんについていけばいいのですね」
「そうよ」
私は小猫ちゃんを見ながら言います。今も静かに寝ています。私の視線にリアス先輩も小猫ちゃんのほうを見ました。リアス先輩は笑みを浮かばせながら、見ていました。おそらく私もです。そこに朱乃先輩が前に出てきます。
「部長、そろそろ時間ですわ」
「そうみたいね。けど、小猫をどうにかしないと」
「私が小猫ちゃんを起こします。3人は先に行っても大丈夫です」
まだ1時間あります。これなら小猫ちゃんに朝食を食べさせたあとでも十分間に合います。
「そう。分かったわ。小猫のことはあなたに任せるわ」
リアス先輩は他の3人を連れて部屋を出て行きました。さて、食事を用意しますか。
私は勝手にキッチンを漁ります。冷蔵庫などを見たところ、あまり料理はしないみたいですね。ゴミ箱の様子からも、インスタント系やパンだけみたいです。
あまり健康とは言えません。もう私が毎日作ったほうがいいような気がします。そっちのほうが小猫ちゃんにもいいでしょう。よし!そうします!
私は健康のことをよく考え、あるのだけで作ります。
調味料が十分あるので苦労はしませんでした。材料は……ギリギリでした。
今思いましたけど、小猫ちゃんは一人で住んでいるようです。ちょっと殺風景です。
今度、買い物したときに色々と買いましょう。
女の子なんだから、もう少し可愛らしくしてもいいと思うんです。
おっと、そろそろ起こさないといけませんね。私は寝ている小猫ちゃんに傍へ行きます。
「起きてくださ~~~~い!!」
小猫ちゃんの耳元で叫びます。小猫ちゃんの体がもぞもぞと動きます。その目がゆっくりと開かれます。にしても、結構大きな声だったのにゆっくりとした動作でした。
結構にぶい?
「あや……の、さん?」
「はい、そうです」
「ここは?」
「小猫ちゃんの部屋です」
小猫ちゃんが起き上がり、辺りを確かめます。ちょっと困惑しているようです。誰だってそうです。自分の部屋に帰っていないのに、いつの間にか自分の部屋で寝ていたらそうなります。
「なんでここに?確か、私は神父にやられた後、それから……」
「思い出せないみたいですね。私が簡単に説明すると、私が助けに来て、神父を倒しました。詳しいことはあとで。今は朝食を食べましょう」
小猫ちゃんが起き上がります。そのとき小猫ちゃんがふらついたので、横から支えます。きっと一時的に吸血鬼になった後遺症です。そのまま支えながらテーブルまで連れて行きます。
「……これは絢乃さんが?」
「そうだよ。冷蔵庫の中身を見たけど、栄養バランスが悪いと思うの」
私は小猫ちゃんの肩に手を置きながら言います。まるで説得するかのように。
「だからね。これからは私が食事を作るよ」
「……迷惑じゃないですか?」
「心配しないでください。迷惑ではないです。むしろ、栄養不足で倒れたほうが迷惑です」
ちょっと言い方がきついですが、これが私の本音です。倒れて何かあったら、私も倒れてしまいそうですよ!そんなことにならないためにも、私が毎日作ります。
「……お願いします」
ちょっと頬を赤くし、頼んできます。か、可愛い!こんなに可愛い顔を見れるなんて、今日もいいことあるに違いありません!可愛いは正義です!体が思わず動きそうです。
あ、手が小猫ちゃんの方へ!
私は小猫ちゃんに抱きつきます。だ、ダメでした。抵抗したんですが、勝手に体が動いて気付いたときには、もう…………
「………何しているんですか?」
「か、体が勝手に~」
小猫ちゃんの冷たい目を向けられます。は、はは、こ、怖いですよ~。でも、抱き心地が最高です。このままずっと抱きついたままでいたいです。
「そろそろ怒りますよ」
小猫ちゃんの目が本気でやばいのですぐに離れます。離れた後、自分の衣服の乱れを整えます。さっきので色々と乱れちゃいましたから。小猫ちゃんのパジャマも乱れていますが、それは鎖とか寝ていたからとかが原因ですから。私は小猫ちゃんの乱れも整えます。
「早く食べないと学校遅れるよ?」
「……誰のせいで食べられなかったと思っているんですか」
ちょっと起こり気味の小猫ちゃんから言われます。小猫ちゃんは椅子に座り、私が作った朝食を食べ始めます。私は小猫ちゃんの対面の席に座ってその姿を見ていました。私が見ているのに気付き、こちらを見ます。私はそれにニコッと笑います。
その私の顔を見たせいか、小猫ちゃんの顔が赤くなり食べながら俯きます。やっぱり可愛いですよ~。今すぐ撫でたいです。
「……ごちそうさまです」
食べ終わった小猫ちゃんが口を拭きながら言います。私はその皿をキッチンを洗い場に持っていこうとします。
「………美味しかったです」
持って行く途中で小さな声で言ってきました。ちょっと照れています。
「ふふふ、ありがとうね」
うれしくてニコニコ顔になりました。私は汚れた皿を水につけます。皿を洗うのは放課後です。小猫ちゃんはすぐに着替えます。どうやら制服の替えがあるようです。下着は可愛らしいです。パジャマはあまり可愛らしくなかったので、パジャマも買いましょう。私たちは玄関まで行きます。
「絢乃さん、そろそろ行きましょう。でも、もう間に合いませんけど」
「大丈夫だよ。ほら、手を出して」
私は小猫ちゃんに手を差し出します。小猫ちゃんは首を傾げながら私の手を繋ぎます。私は小猫ちゃんを抱き寄せます。小猫ちゃんは抵抗しようと、離れようとします。ですが、私は離れません。
「い、いきなり何をするんですか!」
ちょっと怒り気味です。
「これには意味があるの。別にスキンシップをしようとしているわけじゃないの」
「本当ですか?」
……どうやら信じてないみたいです。まあ、いいでしょう。私は下、つまり、床を見ます。そこにあるのは硬く冷たい白のタイル。でも、その白さも薄暗いせいで輝きを失ってます。しかし、それは関係ありません。別に、あっ、小猫ちゃんの家のタイルって良いね、と思って見たわけじゃありません。
私は
私たちの体が影に沈んでいきます。
「あ、絢乃さん!」
初めてのことで戸惑う小猫ちゃんが、私に寄ってきます。ちょっと得しました。
「大丈夫。怖いなら目を閉じてて」
「こ、怖くありません!目を開けてます!」
私はその頭を撫でます。撫でてもらって怖くなくなったのか、安心した顔で私に寄りかかってます。その間に体は影の中へ沈んでいきました。
しばらくすると頭のほうから影の外へ出てきます。すぐに体が影の外へ出ました。
辺りは確かに学園内です。誰かと一緒に転移は初めてでしたけど、成功みたいです。失敗したらきっとひどいことになっていたでしょう。
「着いたみたいですね」
「うん。さあ、あと5分だよ。教室に行こう」
私は繋いだままの手を引き、校舎に向かって走ります。教室に着いた頃にはあと1分でした。ギリギリでした。
「……手、そろそろ放しましょう」
「そうだね」
小猫ちゃんは私以外の人がいると、雰囲気が変わります。例えば、会話のとき最初に軽く間を空けることです。それに2人きりのときのような表情を見せません。まあ、小猫ちゃんを独占しているみたいで、うれしいですけどね。小猫ちゃんは人見知りみたいです。
昼休みになります。私は急いで2年の兄さんのいる教室へ向かいます。私の手には2つの包み。弁当です。今朝は小猫ちゃんのところにいたので、渡すことができませんでした
。なので、こうして急いでいます。兄さんの教室の前まで来ます。私は戸に手をかけ、一気に開きます。
バンッ!
戸と壁が勢いよくぶつかります。その音に反応し、皆がこちらに注目します。その視線の中には机で、うつ伏せになっていた兄さんの視線もありました。私は周りの視線を気にせずに兄さんのもとまでたどり着きます。
「弁当です。遅れてすみません」
「いや、いいよ。ありがとう」
私の手から兄さんの手に弁当が行き渡ります。私は兄さんの前の席を借り、座ります。
「なんで座ったんだ?」
「もちろん、兄さんと一緒に食べるためです」
「周りの視線が気にならないのか?」
確かに、周りからの視線が集まっています。私には正の感情が込められた視線、兄さんには負の感情が込められた視線が向けられます。
「お~い、イッセー。一緒に食べようぜって、絢乃さんじゃありませんか!」
「ほ、本当だ!これは夢か?」
松田さんと元浜さんです。その後ろには藍華さんです。元浜さんと松田さんはどうしてか、年下の私にさん付けをしたり丁寧なしゃべりをします。
「一緒に食べます?」
「いいんですか!?」
「ぜひお願いします!」
「言っとくけど、変態2人組みは絢乃ちゃんの隣はだめだからね。そこは私の席よ」
藍華さんが椅子を私の隣に持ってきます。他の方たちも持ってきます。たまにはこういうのもいいですね。こうなるんだったら小猫ちゃんも連れてきたほうが、よかったかもしれません。
「うおっ!松田、これを見ろ!」
「なっ!これは……!」
2人の視線の先には兄さんの弁当です。ご飯にはハートがかかれています。そういえば、そうでした。今回はそういうふうにしたんでした。兄さんは照れているのか、頭を掻いています。
「へ~、羨ましいね。私も誰かに作ってあげたいな~なんて。私はどちらかというと、食べるほうが好きかな」
「そうなんですか。なら、今度私が作りましょうか?」
「本当!なら、お願い!ハートはなくてもいいからね。私、絢乃ちゃんの料理気に入ってたんだよね」
「ありがとうございます」
藍華さんが目をキラキラさせながら、私の手を握ります。きれいな手です。私も思わず握り返します。すべすべです。他の3人はそんな私たちを見ています。元浜さんと松田さんはガールズラブ?とやらだと思っているのでしょう。
兄さんは仲が良いなと思っているみたいです。兄さんはちょっと鈍いですが、今回は兄さんが鋭いです。
「ん?なに見てるの?ほら、早く食べよう」
藍華さんが3人に言います。空気が変わりました。さっきの私と藍華さんの2人だけの空間から、5人の空間へ。弁当を食べ終わった後、私は軽く会話をし、自分の教室へ戻りました。