放課後になります。小猫ちゃんが教室を出るのを見て、後をつけます。もちろん気づかれないようにです。しばらく廊下を歩いていましたが、小猫ちゃんがいきなり止まります。周りには誰もいません。
「……絢乃さん、なんでついてきているんですか?」
あれ?ばれました。どこかの映画みたいな尾行だったんですけどね。それを尾行してすぐに気付かれるなんて。これが猫の力……。恐ろしいです!
「リアス先輩に言われたんです。用があるから小猫ちゃんについて着なさいって」
私は正直に説明します。それを聞いた小猫ちゃんはため息をつきます。
「……分かりました。後ろに立たれるのは嫌なので、横に来てください」
あんたはどこの殺し屋か!ってつっこみそうでした。私は小猫ちゃんの横を歩きます。横顔を見ますけど、今の小猫ちゃんは私と2人きりのときの表情が見え隠れしています。おそらく、人が少なくなったからでしょう。
しばらく歩き続けると、旧校舎が見えてきました。見た目はボロボロです。中はきれいだといいんですけど。私たちは旧校舎の中に入って行きます。中はきれいでした。どうやら、掃除などはされているようです。
中も多少ボロボロだけど、大事に扱われているようです。物を大切にするのはいいことです。それにこういう古い建物は好きです。私は歴史があるものは、大抵は好きです。今の若い子ではないような趣味です。いえ、趣味ではありません。ただ好きということです。
私が旧校舎の中を見ながら歩いていると、ある扉の前で小猫ちゃんが止まりました。え~と「オカルト研究部」だそうです。そういえば、そんな部、ありました。私は部活なんて興味なかったので、詳しくは見ませんでした。
ここにいるみたいですね。確かに中には人の気配がします。小猫ちゃんがその扉を開きました。中に入ると壁、床、天井に至るまで私が見たことのない文字が書き込まれていました。そして、中央の床には巨大な魔方陣。
確かにオカルト研究部らしいです。やっぱり毎日、降霊術みたいなことをしているんでしょうか?ちょっと興味はあります。
「部長、2人が来ましたわよ」
私がこの部屋を見ていると、ソファーに座っていた朱乃先輩がリアス部長に呼びかけます。でも、見えるところにリアス先輩はいません。朱乃先輩が向けた視線の先を見るとカーテンがされていました。奥では水が流れる音がします。そのカーテンに女性の陰影が映っていました。
その陰影からその人物がリアス先輩だと分かりました。まさか、室内にシャワーがあるなんて思いませんでした。
キュッ
水の流れる音が止みました。その音を聞き、すぐさま朱乃先輩が着替えを持って、カーテンの中へ入って行きました。
「ありがとう、朱乃」
どうやら着替えのようです。小猫ちゃんは無表情のままソファーに座ります。その対面には木場先輩。えーと、私も座っていいんでしょうか?いいですよね?だって呼び出されましたし。私は小猫ちゃんの横に座ります。
「ごめんなさい、今日は体育があってね。それでシャワーを浴びてたの。本当は絢乃が来る前に終わらせるつもりだったのだけれども、遅れたわね」
まだ、軽く濡れている紅い髪の毛が宙に舞います。その姿はひどく美しいものです。その姿で私にむけて微笑みます。きっと誰もが見惚れてしまうでしょう。その後ろには朱乃先輩です。
「それで私に話しとはなんですか?」
私は早速用件を聞きます。リアス先輩は軽く歩きながら、私の対面のソファーに座ります。その直前にそのソファーに座っていた木場先輩は立ち上がり、ソファーの横に立ちます。なんだか、上下関係が激しいみたいです。
座ったリアス先輩は足と腕を組みます。腕が組まれたことにより、その大きな胸が溢れるようになり、強調されます。この人はわざとですか!私に対する挑発ですか!私だって結構ありますよ!ただ私の方は「巨」ではなく「美」だった話です。けっして「微」ではありませんよ。「美」ですから。
「あなたは本当に真祖の吸血鬼なの?」
それは私が人間だったときがあるからでしょう。真祖は純血です。人間が吸血鬼になれば、眷属となり真祖とはいえません。
「そうです。私は何百年を生きた吸血鬼……らしいですよ」
わざと曖昧にして、答えます。私自身そんな感覚ありませんので、そう答えました。
その答えにリアス先輩は眉を寄せます。
「どういうことかしら?」
「実は人間になってからの記憶しかないんです。そんな風にしたのはどこかのバカがやったそうです」
「なら、あなたはなんで何百年を生きたって分かるのかしら?」
「それは秘密です。誰にも言えません」
絢音のことは話しません。言っても誰も信じませんよ。
「まあいいわ。あなたは私たちの敵かしら?」
そうリアス先輩が言った瞬間、木場先輩と朱乃先輩が警戒します。私の返答次第ですか。私はにいっと笑います。私の唇が弧を描きました。それを見た3人の警戒が高まりました。私の隣では小猫ちゃんが船を漕いでいました。あまり眠れなかったんでしょう。
私は小猫ちゃんを私の方へ寄らせます。そして、その頭を肩に乗せました。それを合図に小猫ちゃんは眠りにつきました。3人はまだ警戒しています。というか、また警戒が高まりました。なんで?
「どうなの?」
「敵でも味方でもないです。私は兄さんと小猫ちゃんの味方です。2人を攻撃したら敵とみなす。それだけです」
私がそう言った瞬間、あれほど高かった警戒がなかったかのように消えました。リアス先輩は足と腕を組みなおします。
「部長」
そこに木場先輩がリアス先輩に声をかけます。リアス先輩は木場先輩のほうを見ました。木場先輩は体をこっちに向け、顔はリアス先輩のほうを向いています。内心ではまだ私のことを警戒しているのでしょうか?
「僕は兵藤さんと戦いたいです」
「なぜかしら」
リアス先輩が目を細め聞きます。私には予想がつきます。多分、私にやられたからでしょう。木場先輩にもプライドはあります。私みたいな女の子にやられたら誰だって嫌ですからね。
「僕はスピードに自信があります。だけど、彼女はそれを簡単に見切って、あまつさえ遅いと言ってきた。だから、もう一度試したい」
リアス先輩が手を顎のほうまで持って行き、しばらく考えます。私はあまり戦いたくないんですがね。私は平和主義ですよ。攻撃されない限り、手は出しません。
「絢乃、いいかしら」
私に答えをふってきました。考えてそれだけですか。まあ、どちらにせよ、最後は私の答え次第です。最初から私に決定権はあるのです。
「いいですよ」
私は木場先輩からの挑戦状を受け取りました。一応、木場先輩のプライドのためです。でも、手加減はしません。手加減をすれば、逆に傷をつけるだけですから。一気に終わらせます。
私たちは旧校舎の前に移動しました。小猫ちゃんはそのまま寝かせました。すぐ終わるかと思い、置いてきたんです。今、私と木場先輩は向かい合っています。私は腕を組んで立っているだけ。対して木場先輩は何も持たずに姿勢を低くして立っています。
「始め!」
リアス先輩の声が合図となります。私はそのまま立っています。木場先輩はそのまま突っ込んで来ます。その手にはどこから出したのか西洋の剣を持っていました。それが振り下ろされようとします。
私は指の1本曲げまる。木場先輩の踏み出そうとした足に糸が巻きつきました。足が固定され、木場先輩がバランスを崩します。
「なっ!」
木場先輩が驚いている間に、私は木場先輩の目の前に来ました。そして、右手で木場先輩の額に掌底を放ちます。その私の攻撃によって木場先輩が後ろに倒れます。私はさらに指を曲げます。それにより木場先輩の体の四肢、首に糸が巻きつきました。人形使いのスキルです。
「い、糸!?」
「そうです。糸です」
気付いた木場先輩に優しく言います。ちょっと軽く手を動かすと、糸が木場先輩を締めつきます。木場先輩は声を抑えながら苦しみます。なんだか、癖になっちゃいそうです。
「降参してください。私の勝ちです」
「い、や……まだだ!!
そう叫んだ瞬間木場先輩の周りに多くの剣の刀身が突き出します。私は一気に後ろへ下がりました。その刀身は木場先輩に取り付いた糸を切ります。糸が切られ自由となった木場先輩が立ち上がりました。
へ~、すごいです。どういうからくりか分かりませんけど、注意したほうがいいですね。私はいくつか鋭い氷を出します。それを木場先輩に向け投げます。木場先輩はそれを剣で打ち落とします。
なかなかやりますね。私と木場先輩の距離が近づいていきます。再び振り下ろされます。私は何もしません。いえ、何もできません。なんともピンチなことに、体が動かないのです。この感じは昨日の体に負担をかけたときと同じです。
早過ぎます! 昨日はまだ大丈夫だったのに! やばいやばい! 確かに死にはしませんけど、痛いのは嫌なんです! に、兄さん! 誰か!
―――――全くしょうがないね
そんな声が聞こえました。それはもう一人の私の声。絢音の声です私の意識はその声を聞いた瞬間、深い眠りにつきました。
全く、あの子はバカだね。負担がかかったのは昨日だよ。それが次の日に治るわけがない。体の負担は吸血鬼の再生で治せるものではない別のもの。それが体の負担。負担が残った体であんなに激しく動けば、すぐに負担がかかる。
そうなって当たり前。でも、今回はしょうがない。私の説明不足。ちゃんと言えばこんなことにはならなかった。あの子もできるだけ激しく動かないようにしていたみたいだね。
それにしても、久しぶりの外だな。ここ数年は出てこなかったからね。さあ、戦いましょう。絢乃の敵は倒す! それだけ。
あと少しで私の体に触れるところの剣が何かに阻まれます。それは私の物理障壁です。今のまだ完全覚醒していない私の魔力ではできませんが、本来の体のリミッターを解除した今の体ならできます。そのかわり、体にとてつもない負担がかかりますがね。
デメリットはとてつもないです。でも、そのかわり身体能力と魔力が上がるので当然です。
「なんだ? なぜ!」
私の障壁は見えません。不思議に思うのは当然です。私は剣を持った手首を掴みます。そして、その手を引っ張ります。木場先輩は私の方へ引き寄せられました。私はもう片方の手で顔を殴ります。
吹き飛ばされかけますが、私が手首を持っているせいで吹っ飛びません。再び引き寄せ、膝を腹に蹴りました。私が手を放さない限り、あなたは私の玩具。でも、これじゃあやりすぎるね。腹を蹴られ、くの字になった木場先輩を横蹴りをします。
「がっ!」
蹴ったと同時に木場先輩の手首が私の手から離れます。吹き飛ばされた木場先輩は木にぶつかり止ります。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷』」
私の手から雷が放たれます。その雷は木場先輩に当たります。
バァァン!
激しい音が鳴り響きます。魔力は抑えたので大したダメージはないはずです。ふふふ、私も甘い。前の私なら腕一本は消してやるのに。これも絢乃の影響かな。
「ぐあっ……ぐっ……」
まだですか。しょうがない。続けてあげる。私も消化不良だからね。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧』」
雷の斧が木場先輩に迫ります。しかし……
「そこまでよ!」
リアス先輩が声をかけます。私は攻撃を止めました。やっぱり甘くなりましたよ。前の私なら絶対に止めませんでしたからね。
「ふふふ、なんで止めたの?」
私は微笑みながら聞きます。もうちょっと楽しみたかったのに。もはや、本来の目的を忘れた私。今はただ楽しむだけ。
「さっきので祐斗の負けよ。ならそれ以上やる必要はないわ」
ああ、まだ終わりじゃない。まだ、あと
「どうするつもり?私と戦うの?」
リアス先輩は堂々とした態度で言いますが、その額には汗が零れ落ちます。朱乃先輩はリアス先輩を守るように前に立ちます。朱乃先輩もまた汗を流しています。ふふふ、どうやらちゃんと実力差というのが分かっているようです。
ちゃんと分かるのは強い証拠です。さあ! もっと私を楽しませて! まだもっと! 私の体から魔力が溢れます。その魔力の量を見た2人はさらに汗を流します。
「ふふふ、あはははははは! 楽しもう、この戦いを! 愉快な戦いを! あなたたちもそう思わない?」
私は2人に問いかけます。おや? こちらに近づいてくる者たちがいるみたいですよ。現れたのは生徒会長たち。その目には鋭いものを感じました。
「リアス、これは何事です?」
生徒会長がリアス先輩に尋ねます。リアス先輩たちは私に警戒しつつ、生徒会長たちに近づき合流します。ああ、私と戦ってくれる人が増えるなんて、うれしいことです。私ともっと楽しもうよ。リアス先輩が生徒会長に説明します。
「そういうことですか。おそらく戦いのせいで正気を失っているのでしょう」
生徒会長はそう言います。え? 私が正気を失う? 戦いのせいで? あはははははははは! その冗談は最高だね! そんなわけないよ!
「あはははははははは!!私が正気じゃない?それは大きな間違いだよ。私は正気。分かった?分かったら戦おう?」
私の手に魔力の塊が出現します。それを見たみんなが警戒を強めます。まだ? まだ攻撃して来ないの? まだみたいだね。なら、私から攻撃してあげるよ。
「『掌握 術式兵装「雷天大壮」』」
私の体が光に輝きます。それは雷の輝き。それを見てやっと戦い決意ができたようです。皆が私に手のひらを向けます。魔力が込められているのが分かります。
でも……。私は雷化し一瞬で距離を詰めます。雷速瞬動です。
「なっ!」
1人に拳を放ちます。もちろん手加減をして、です。雷化した体で殴れば相手が死んじゃいますよ。それは面白くない。まだ私のために戦ってほしいです。殴られた女子生徒は木々をなぎ倒し、吹き飛ばされます。
「『来たれ氷精 闇の精 闇を従え 吹雪け 常夜の氷雪 闇の吹雪』」
私の魔法が放たれます。放たれた魔法は地面に当たります。
ドオォォォン!
そんな音がし、辺りを破壊します。それにより、数人が吹き飛ばされました。他の皆は私に魔力を放ちます。私はそれらを避けます。
そろそろ終わらせてあげるよ。私は宙に行きます。今から使う魔法は広範囲ようですからね。巻き添えは喰らいたくないです。
「『契約により我に従え高殿の王 契約により我に従え高殿の王 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の――――」
「やめてください!」
私はその声で途中で止めます。声の持ち主のほうを見ます。持ち主は小猫ちゃん。ああ、小猫ちゃんでしたか。私は小猫ちゃんに言われたとおり、戦闘態勢、つまり、術式を解除します。小猫ちゃんに言われたらやめるしかないですよ。それが私たちの優先しべきことだから。
「起きたんだね、小猫ちゃん」
私は小猫ちゃんのもとへ近づきます。そして、抱きつこうとしますが、いつもと違って力いっぱい押し返されます。それによって私は尻餅をつきます。
「え? なんで?」
その事実に私が驚きます。なんでそんなに抵抗するの? いつもはもっと優しいのに。なんで? 絢乃のことが嫌いになったの? 私の頭の中にはそんな色々な考えが占めています。それは嫌だ……。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
それは嫌だ! 小猫ちゃんに嫌われるのは嫌だ! 私の頬に涙が落ちます。その涙は次々と流れていきます。
「あなたは絢乃さんじゃありません。誰です?」
あれ? なんで私が絢乃じゃないって気付いたの? あはは、そっか。そうなんだ。嫌われたんじゃなかったんだ。小猫ちゃんはちゃんと絢乃のことを見てたんだ。すごいよ! 見分けることができる人なんて初めてだよ!
「小猫、どういうことかしら?」
「言葉通りこの人は絢乃さんじゃありません」
リアス先輩の問いに小猫ちゃんが答えます。もう! なんで私たちと小猫ちゃんの間に割ってはいるかな。私は少し怒りながらゆっくり立ち上がります。立ったのはいいですが、体に力が入りません。もう限界みたいです。フラフラとした足取りでゆっくりと歩きます。
「動かないでください! それ以上動けば攻撃を再開します!」
額から血を流している生徒会長が私に向かって言います。でも、止まることはできません。止まればもう歩くことができない気がします。だから、無視をして歩きます。そして、小猫ちゃんの前までたどり着きました。
小猫ちゃんは私を睨んでいました。ふふふ、私以外の人前では無表情だったのに、今は怒ると不安の表情が現れています。きっと、私がいて絢乃がいないことで忘れていたのでしょう。私は最後の力を振り絞り、リアス先輩たちから離れます。
「よく私が絢乃じゃないって分かったね」
「分かります。私の親友です。絢乃さんはどこです?」
「絢乃は今、寝ているよ。心配ないよ」
私の体が小猫ちゃんの方へ倒れかけます。小猫ちゃんは私の体を支えます。私はそのぬくもりに身を委ねます。瞼がゆっくりと閉じようとしています。
「ごめん。もう無理。体に負担をかけ過ぎちゃった。私の体は小猫ちゃんの部屋に寝かせて。私の家はだめ。お願い……ね」
私の意識は少しずつ沈んでいきました。最後に聞こえたのは小猫ちゃんの分かりましたという声だけでした。