私の目の前には私と同じ姿の女の子。違うところは目の色です。その子の色は金色です。そんな彼女、つまり絢音は私に向かって、土下座をしています。私がやれって言ったんじゃないんですよ。絢音がいきなりやったんです。
「つい暴走しちゃいました! ごめんなさい!」
ああ、なるほど。確かに暴走していました。いつもならもっとクールな絢音が、戦闘狂になって暴れていました。きっとそのことです。私は絢音の前まできて、その場に座ります。私の手は絢音の顔へと持っていかれます。
手は絢音の頬を撫でました。いきなりでびっくりした絢音の方がびくっとなりました。私はその顔を上げさせ、私と目を合わせさせます。
「私は別に怒らないよ。綾音はやるべきことをやったのだから」
「でも、たくさんの人を……」
いつもと違う絢音。それは暴走した罪の意識からか。それとも私へのものか。もしくは両方か。
「えっ?」
私はそんな絢音を抱きしめます。気にするなという意味で。強く抱きしめました。その体は少し震えていました。
「もういいよ。大丈夫。元はと言えば私が悪いの。だから、ね?気にしないで」
「私、を……嫌いになら……ない?」
「ならない。私は絢音のこと、大好きだよ」
そう言うと絢音の目に涙が溢れ出します。絢音はその顔を私の胸へ押し付けました。そして、肩を震わせ声を押し殺し泣きました。その涙は私の服に染み込んでいきます。その姿はまだ幼い子供のよう。私にはただ抱きしめ、見ることしかできません。
「うう……ひぐ、ぐ……」
しばらくしてもいつまでも泣き続きました。それはずっと昔から溜めていた感情を開放したかのように。
「さ、さっきのことは忘れて!いい?分かった?」
泣き終えた絢音が私の服を掴みながらいいます。掴んでいる場所は胸ぐらではありませんよ?子供みたいに服を掴んでいるんです。
「ふふふ、分かってるよ」
絢音の頭を撫でます。
「こ、子供扱いしないで!」
頬を染めた顔で訴えます。絢音って色々とキャラが変わりますよね。クールだったり、今みたいな子供だったりと。まあ、可愛いからいいんですけどね。
「ごほん、絢乃。早く血を吸って覚醒したほうがいいよ。このままじゃ、体に負担をかけてばかり。それにさっき……わ、私が……体を無理に動かしたせいで、負担の回復ができなくなったの。しかも、負担がとても大きくなって。だから、もう激しい動きをしたらダメ」
さっきとは違い、その表情は深刻な顔をしています。いつもの絢音に戻ったみたいです。
「したらどうなるの?」
「死にはしないけど、体が動かなくなるよ」
鋭い目で私と目を合わせます。いつもよりも深刻だと分かります。これは絢音に従わないといけません。
「分かったよ。できるだけ早く、兄さんの血を吸う」
「うん、それがいい。それでもう直球でいくことにしたの?」
私たちの体はもうボロボロです。早く血を吸うことが優先です。だしたらそうするほうがいいです。絢音はいつの間に出したふわふわのソファーに座っています。本当に便利ですね。
「うん、そう。遠回りはやめて、そのまま言うことにした」
「そっか。分かった。意識は体が回復が終わったら目が覚めるよ。それまでは、一緒に遊ぼ?」
絢音は首を傾げながら、私を見つめます。は、反則です! 私が可愛いものに弱いって知っていてそれは! 断ろうにも断れません。私はその場に膝をつきます。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないです」
「じゃ、遊ぼ」
「……はい」
私はあきらめて遊ぶことになりました。どれだけの時間を遊びに費やしたでしょうか。私が知っている遊びはすべてやったような気がします。
私はゆっくりと目を開けます。まず最初に見たのは天井です。はじめて見る天井です。まざ、私の部屋ではありません。精神時間は1ヶ月くらいですが、身体時間はどのくらいでしょうか?体に力を入れます。
問題なく力は入りました。それを確認し、体を起こしました。服は見知らぬ服です。誰がこれに着せ替えたのでしょうか?その答えはすぐに分かります。私は周り見回しました。見覚えのある部屋と家具。
それは小猫ちゃんの家でした。そういえば、絢音が小猫ちゃんにそう指定したと言っていました。時計をみると、まだ13時です。つまり、小猫ちゃんは学校です。私はベッドから出ます。
久しぶりに体を動かしたので、体はふらつきます。私は高い位置から倒れるのを防ぐために、その場に肩膝をつきます。そして、右手で顔を覆います。負担と久しぶりに体を動かしたせいで、気分が悪くなりました。
動くのは止めたほうがいいです。うう、早く帰ってきたください~。もう動けませんよ~。床にうつ伏せになります。もうベッドへ向かえません。床がひんやりして気持ちいいです。
もうこのまま、待つしかないです。あと数時間……。私、大丈夫でしょうか?まあ、死なないので、衰弱するだけでしょう。私は再び眠りにつきます。片腕が頭上へ伸ばされているので、途中で力尽きたみたいに見えるでしょう。間違ってはいませんけどね。
私はひんやりとした床を感じながら眠りにつきました。
誰かに体を揺さぶられます。結構乱暴なので目を開けます。そこには不安そう顔で涙目になっている小猫ちゃんです。あれ?いつの間にベッドに?
「体に何か異常はありますか?」
「ううん、大丈夫。もう元気。でも、しばらくは支えてもらわないと動けない」
「良かったです。本当によかったです。絢乃さんが寝続けて今日で3日目でした。それに帰ってみれば、絢乃さんが床で力尽きていました。見たとき、私は本当に心配したんです!!」
目に涙を溜め、私に言います。ここまで、怒った小猫ちゃんは見たこと無いです。でも、それだけ私の心配をしてくれたという事実が身に染みます。
「なんで倒れていたんですか!! ちゃんと……ベッドで……寝ていてください……! 大切な……ぐすっ……親友を……失いたくないんです!」
「ごめんね」
「……許しません。心配かけた……罰です」
「どうしたら許してくれる?」
「早く元気になってください。そ、そしたら許します」
顔を背けた小猫ちゃんが言います。その頬はうっすら赤く染まっていました。あ~、体がうまく動かないこの状態が恨めしいです。動いたら小猫ちゃんを抱きしめていたんですけどね。抱きしめるといえば、最近兄さんと触れ合ってません。元気になるまでここで休むので、思いっきり甘えることができるのは、数日後です。例え、明日、元気になってもです。
それに、学校で倒れたら兄さんになんと誤魔化せばいいのやら。事実を言うにしても、まだ心の準備ができてません。事実はちゃんとした形で言いたいです。そのためにも、早く元気になって、ちゃんと休まないと!
「ねえ、小猫ちゃん」
「何ですか?何か必要だったら遠慮なく言ってください」
「ご飯食べたい」
そう言うと、小猫ちゃんの顔色が変わりました。え?なんでそんなに顔色が変わったの?ただ食べたいって言っただけだよね。
「…………分かりました。ちょっと時間がかかりますので待っていてください」
「う、うん。分かったよ」
間が長かったのが気になりますけど、ご飯が食べられるのならいいです。あ~、小猫ちゃんの手料理ですか~。初めてです。というか、人の料理を食べるのは初めてです。いつもは、お母さんか私の料理です。
初めてが小猫ちゃんでよかったです。ちょっと時間もかかると言っていたので、それまで寝ときましょう。長い時間寝ていましたが、体の負担が残っている私の体に睡魔が襲ってきます。
早く元気になりたいです。でも、完全覚醒するまで車椅子のほうがいいかもしれません。体に負担かけませんからね。体育もできません。
「…………できました」
「ん、分かった!ちょっと待ってて」
私は体をベッドから出し、立ち上がります。立ち上がりましたが、すぐにふらつきます。それに気付いた小猫ちゃんがすぐに私を支えてくれます。やっぱり、ダメでした。む~、これじゃ小猫ちゃんに迷惑ばっかりかけます。
「私が支えます」
「迷惑じゃない?」
「いえ、迷惑じゃありません。もっと私を頼ってください」
「ありがとう。じゃ、私のダメージが抜けるまで頼るね」
「ええ、それでいいです。今は食事です」
私は小猫ちゃんに肩を支えられて、移動します。小猫ちゃんは小柄なのに力持ちですね。妖怪だからでしょうか?そういえば、リアス先輩たちのあれはなんでしょうか?みんな人間じゃありませんでした。小猫ちゃんと同じ妖怪でしょうか?そうだとしたら、うちの学園は妖怪が支配しているんでしょうか?
私が小猫ちゃんに連れられ、リビングに行くとなんともいえないニオイがします。発生源を見るとそこには、言葉では表すことができない料理がありました。え?これなに?
「……すみません。実は料理を作ったのは今日が初めてなんです。一応料理本を見たんですけど、ダメでした。すみません」
「いや、いいよ。ありがとう」
たしかに見た目とニオイは怪しいです。でも、きっと味は大丈夫なはずです!私は椅子に座り、その料理を食べようとします。けど、そこに小猫ちゃんが入り込み、それを阻止しようとします。
「だ、ダメです!食べたら死にます!」
「でも、せっかく小猫ちゃんが作ってくれた料理を残すわけには……」
「いいんです!食べないでください!」
「でも……」
「ダメです!」
この攻防は長い時間続きました。結局、小猫ちゃんの料理は食べられませんでした。
「どうぞ」
そう言って出されたのはインスタント食品のカップ麺でした。ちょっとがっかりした顔をしますが、小猫ちゃんは何も言わずただカップ麺をすすめます。それを食べるしかないみたいです。
私は我慢してそれを食べることにしました。はあ~、一応料理がうまくなったら、食べさせてくれるという約束はしました。
「本当にすみません。私、がんばりますから」
「うん、がんばって。しばらく私がいるから味見は任せてね」
「……がんばります」
「あと、作り方とか教えるからね」
「お願いします」
これで、一応失敗作も含め、小猫ちゃんの手料理を食べることができます。体はボロボロになりましたけど、結果を考えればプラスです!戦いより小猫ちゃんや兄さんのほうが優先順位や価値は高いです。
「ねえ、小猫ちゃん、明日から学校へ行くよ」
「ダメです!まだ体が動かないじゃないですか!動くようになるまで行かせません!」
「でも、勉強が遅れると……」
「大丈夫です。絢乃さんの学力は一流大学レベルだと聞いています。安心して休んでください」
なんだか小猫ちゃんが厳しいような気がします。でも、この体は兄さんがいないとダメなままのような気がするんですけどね。だから、数日後や元気になるまでではなく、こっそり行きましょう。
兄さんと4日も触れ合っていない! こんなに兄さんと触れ合わなかったことなんて今までありませんでした。だから、会わないといけません。きっと身体は回復するはずです。ただそういう気がするんです。
「何か企んでいませんか?」
「え!? な、なんで?」
「そんな顔をしてました。絢乃さん、もし私に心配をかけることをしたら、分かってますよね?」
小猫ちゃんの鋭い目が私を射抜きます。こ、怖いです!で、でも、ごめんなさい!兄さんのところへ行きます! だから、今は嘘をつきます。私は小猫ちゃんの目を合わせ、言います。
「分かってる。そんなことしないよ」
「私、信じてます」
胸が、心が痛いです。やっぱり親友を騙すということは、色々とつらいです。ごめんなさい。でも、兄さんに会えば大丈夫なんです。そう身体が告げているんです。私と小猫ちゃんは食べ終わります。
小猫ちゃんはカップを捨て、食事の片づけをします。片付け終えた小猫ちゃんは私を抱き上げます。え!? 何事!?
「な、なんで?」
「絢乃さんは動けません。ならこうするしかないです」
「でも、なんで風呂場に向かっているの?」
小猫ちゃんは私を抱き上げ運んでいます。しかし、向かっているのは寝室ではなく、風呂場がある場所です。寝るんだったら寝室ですよね?小猫さん、どうして風呂場に向かっているんですか?
まさかとは思いますけど、このまま風呂に入るんじゃないんですか?つ、つまり、小猫ちゃんと風呂!風呂に一緒に入る!こんなすばらいいことがあっていいんでしょうか!!今日の私はついてます!
「今から風呂です。私が洗うのを手伝います。3日分の汚れを落としましょう」
「じゃあ、お願いね。あと、洗いっこしよ」
「……まあ、無理をしないならいいです」
「無理はかからないよ。腕動かせるしね」
腕に力が入ってよかったです。腕もダメだったら、何もできませんでした。神様、ありがとう!!