今私は、小猫ちゃんの手によって、服を脱がされています。ああ、別に襲われているんじゃないんです。正しい言い方をすれば脱がしてもらっています。やっぱり他人に服を脱がされると、恥ずかしいです。
一応、自分で脱ぐって言ったんですけど、身体に無理をかけるからっと言ってやらせてくれませんでした。これぐらいなら大丈夫だと思うんですけどね。
「さあ、入りますよ」
「う、うん」
互いに体をタオルで隠しています。女の子同士ですが、なんとなく恥ずかしかったので隠しました。風呂は私たち2人でもまだ余裕があるくらいの広さでした。マンションなのに広かったので驚きです。
「まずは、頭から洗います。目を瞑ってください」
「ちょ、ちょっと待って!手の届くところは自分で洗うから!」
「ダメです。無理はさせません」
「いや、無理なんてならないよ!?」
自分で洗うと言いますが、小猫ちゃんはそうさせてくれません。髪は別に任せてもいいのですけど、この歳で誰かに洗われるの恥ずかしすぎます!絶対に自分で洗います!
「いいですか。私が洗います」
「嫌!」
「ダメです!」
「嫌!!」
「ダメです!!」
「「む~~!!」」
互いに睨み合います。どちらも譲りません。小猫ちゃんってこんなに頑固でしたっけ?互いの体はシャワーのお湯によって、濡らされています。そのシャワーのお湯の流れる音が、室内の静寂を崩します。
「はあ~、分かったよ。じゃあ、髪と背中は小猫ちゃんに任せるよ。他は自分で洗う。それでいいよね?」
「……分かりました。無理しないでください」
「無理しないし、ならないよ」
小猫ちゃんに交渉し、それが受け入れられた私は、小猫ちゃんに背を向けます。背中からゆっくりと頭までお湯をかけられます。しばらく頭にお湯をかけられると、シャワーの音が終わり私の髪に小猫ちゃんの手が入り込みます。
小猫ちゃんの手が動き少しずつ泡だっていきます。小猫ちゃんの手は優しく、気持ちいいものでした。あ~、気持ちいいです。まさか、こんなに気持ちいいなんて思いませんでした。
「痛くないですか?」
「うん、痛くない。むしろ、気持ちいいよ」
「良かったです。もう少しで終わります」
頭を洗いおわり、シャワーで泡が流されます。流れて行く泡はお湯とともに排水されます。そして、しばらく流れ続けたあと泡は流れなくなり、シャワーも止まります。終わったみたいですね。私は前にきた髪を後ろへ回します。
なんだか、さっぱりしましたね。やっぱり数日分の汚れが取れたせいなんでしょう。きれいになるっていいですね。でも、兄さんは嫌いみたいですけどね。いつも部屋を汚くしますし、風呂だって私が言わないと入らないんです。
ん、そうだ!私も一緒に入ればいいんです!兄さんも男です。女の子と一緒に入れるなら喜んで入るでしょう。
「どうしたんですか?」
「え? ああ、ちょっと考え事」
「そうですか。では、体を洗います。じっとしていてください」
「うん、分かった。お願いね――――って言わないよ!! なにさりげなくやろうとしてるの!!」
「……すみません。嘘です。でも、背中は私がやります」
「うん、そこはよろしくね」
私は体を洗い始めました。私は前を、小猫ちゃんが背中です。同時進行なのでなんだか変な感じがします。
「肌すべすべですね。ちょっと羨ましいです」
「そう?でも、小猫ちゃんだってすべすべだよ。それより、もう終わった?私は終わったよ」
「はい、私も背中は終わりました。では流しますね」
肩からお湯がかけられ、体中に付いていた泡が流されていきます。丁寧に流してくれます。お湯の温かさが少し冷えた肌を温かくします。体全体にお湯が流れ、泡はなくなります。
「それじゃ、湯船に入ってください。私も体を洗いますので」
私の体を支えながら、小猫ちゃんが私を湯船のなかへ運びます。湯船のお湯はとても温かく、ちょうどいい温度でした。体の疲れが取れます。私は湯船のふちから顔を出し、小猫ちゃんが体を洗っているのを見ます。
別に下心があって見たわけじゃありませんよ。私は男の人が好きです。特に兄さんが。下心があって人の裸を見るのは兄さんだけです。
「絢乃さん、何見ているんですか?」
「ん?小猫ちゃんの体だよ」
「……私の体に興味があるんですか?」
「う~ん、ないよ」
バシャッ!
私の顔にお湯がかけられました。な、なにするんですか! そういう目で訴えます。小猫ちゃんは目を細めて睨んできます。
「……もう上がりましょう」
「湯船に入らなくていいの?」
「ええ、今はそういう気分じゃないので」
怒り気味の小猫ちゃんに支えてもらいながら、風呂をあとにしました。あれ? 私、小猫ちゃんの体、洗ってないよ……。
小猫ちゃんに体を拭いてもらい、着替えた後はベッドに入ります。温まった体には少し熱いです。上に乗っている布団を横にずらし、体を冷やしました。うっすらと冷えた風が私の体を冷やしていきました。
ですが、小猫ちゃんがそれを見て、私に布団をかけ直します。私はまた横にずらします。それをまた小猫ちゃんが……と繰り返されます。
「もう!なんでずらすんですか!」
「だって、熱いんだもん!」
「我慢してください!風邪をひきますよ!」
「むう~!」
「絶対にダメです!」
結局私は小猫ちゃんに負け布団をかけられました。その頃には体は冷えていたので、布団をずらす理由はありませんでした。しばらくベッドでゆっくりとくつろいでいると、意識が少しずつ眠りに落ちていきます。
おかしいなあ。私ってこんなに眠る子でしたっけ?数日も寝ていたのにこんなに眠いなんて、やっぱり体の負担が関係しているのでしょうか?だとしたら、早く治したいです。兄さん、力を、いえ、血をください!
「絢乃さん、もう寝ますよ」
小猫ちゃんがベッドに入ってきます。このベッドはなぜかでかいです。そのため私と小猫ちゃんくらいは入ります。
「明日も学校なので、私が起きる時間に起こします。私が学校へ行った後は自由にしてもらってもかまいません。ただし、絶対に無理をしないでください。そして、絶対に外へ出ないでください」
「分かっているよ。そういえば、私のお母さんたちには何て言ったの?」
「部長……つまり、リアス先輩が伝えています。内容は分かりませんが、気にしないでください」
「そう、今度礼を言わないといけないね」
それに、みんなに謝らないと。私たちが暴走したせいで、みんなを傷つけました。きっとまだ傷が残っているに違いありません。そう思うと心が痛みます。私がまだ未熟なせいで皆を傷つけました。
「……もしかして、あのときのこと気にしてますか?」
「……分かるの?」
「だって、つらそうな顔をしています。そんな顔をしたら誰だって気付きます。今なら私のほかに誰もいません。思いっきり心の底のものを吐き出してもいいですよ?」
「うん。ありがとう。でも、大丈夫だから」
小猫ちゃんが私に近づき、私を抱きしめてくれます。私より小柄な小猫ちゃんの体は、今は私より大きく感じました。私もその好意に甘え、その身を預けました。抱きしめられ、その心地よさを感じ私の眠りにつきました。
朝。私は小猫ちゃんに起こされます。相変わらず、体はうまく動きません。体を支えてもらい、椅子に座り朝食を取ります。
「今日は早く帰れそうです。昼食は……インスタント食品です」
「うう~」
「唸ってもインスタント食品が昼食だということは変わりませんよ」
「分かっているよ~」
私は朝食を食べながら、うな垂れます。やっぱり早く兄さんの血を飲みたいです。一度だけ飲むだけでも、だいぶ楽になるでしょう。私はインスタント食品をいじりながら、兄さんとの吸血を想像します。
「ごちそうさまです。私はこのあと軽く身支度し、学校へ向かいます。昨日言いましたが、無理と外に出ないなら自由にしてもらってもかまいません。昼食はインスタントですけどね」
「分かってる」
小猫ちゃんが立ち上がり、身支度をします。その間に朝食を食べます。食べ終わったあとは周りの物を使い、ゆっくりと立ち上がります。片手で壁に手をつき体を支え、もう片手で箸などを持ちます。
これぐらいはできます。小猫ちゃんにばかりにやらせません。私はゆっくりと歩き、キッチンまで行きます。キッチンで箸やごみを捨て、再び椅子のもとまでゆっくりと歩きました。
やっぱりきついです。これじゃ兄さんのもとへ行けるんでしょうか?いえ、行きます。行かないと行けません。私のためにも兄さんのためにも。
「絢乃さん、私行きますね。絶対に無理はしないでください」
「分かってるよ。無理なんてしないよ」
ごめんなさい。私はその約束、守れません。もしばれたとき、私は小猫ちゃんからの言葉を受け止めます。殴られても仕方がありません。これがきっかけで絶好なんてされても……。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい」
動けない私に気を使ってもらい、私はリビングの椅子から小猫ちゃんを見送ります。しばらくして、ドアが開きしまる音がしました。部屋は静寂に包まれました。部屋って人がいるかいないかで、こんなにも変わるんですね。
小猫ちゃんはこの静寂の中で過ごしていたんですね。聞こえるのは自分の起こした行動によって生じる音だけ。それは悲しくつらいものです。まるで世界に一人しかいないみたいです。
そんな雰囲気をなくすためにテレビをつけます。テレビから明るい音が響きます。それによって静寂は破壊されました。小猫ちゃんはよくこれに耐えられましたね。私なら狂ってしまいそうです。
そのままテレビを眺めます。映っているのは芸人のバラエティ番組。私はそれをぼーっと眺めます。つまらないです。テレビの観客は笑っていますが、私を笑わせることはできない番組でした。
「ん、そろそろ時間かな」
時計を見てそう呟きます。小猫ちゃんが学校へ行って3時間です。そろそろ行きましょうか。私はゆっくりと立ち上がり、こっそりと小猫ちゃんのクローゼットを漁ります。ごめんなさい。外に出るために服借りますね。
服を見つけた私は早速それを着ます。サイズが合っていないので、ちょっと露出度が高い服になりました。小猫ちゃんが着たら、露出度は低いです。さて、そろそろ兄さんのもとへ行きますか。
外へ出た私は、できるだけ壁のある道を歩きました。周りから見ると露出度が高い女の子がちょっと気分が悪いようだ、にしか見えませんね。周りからの視線はそういうものが多いです。
そして、下心がある視線も感じます。私はその人物に襲われないのは、周りに人がいるからです。襲われないようにするためにも、遠回りしてでも人がいる道を歩きましょう。
今の私には押し倒されて、そのままバッドエンドです。兄さんならともかく、知らない男にはそういうことはされたくないです。そのときは死んでやります。まあ、死ねませんけどね。
しばらく歩きます。小猫ちゃんの家からなので、少し学校への道が分かりませんでしたけど、歩くうちに見覚えのある道へたどり着きました。この道を見れば後どれくらいで、学校へ着くか分かります。
大体30分でしょうか? 普通の状態なら10分くらいです。ふふふ、もうすぐで兄さんに会えます! 会ったらなにしましょうか。まずは抱きつきましょう! そして―――――
ドスッ
「へ?」
軽い衝撃が私のお腹からしました。私はそれにわけの分からない、という感じで声を出しました。自分のお腹を見れば、光に輝く槍。それは以前見たことのある光の槍でした。ゆっくりと振り返れば、黒い翼の露出度が高い女性。
その女性は私が約30年くらい凍り漬けにした人です。なぜその人が?コスプレさんの唇が弧を描き、にやりと笑っていました。お腹に刺さった光の槍が消えると、そこから血が溢れます。それと同時に痛みが走ります。
その痛みに耐えられず、膝が地面につきます。
「ふふふ、アハハハハハハ!! なにその無様の格好!」
「な……ん、で……あなた、が?」
「フフフ、教えてあげるわ。私には仲間がいるのよ。あなたの魔力? 魔法? まあ、分からないけど、その仲間があれを解除したのよ。けど、時間がかかって、あの状態から抜け出したのは2日前だったわ。目覚めたとき、私は決めたの。あなたを殺すって。あなたを見つけたとき、嬉さもあったけど警戒心もあったわ。だって、私があんな目にあったんだもの。けど、今のあなたを見るとそれは必要なかったようね」
コスプレさんはそう言い、私に近づいていきます。周りの人は何を! と思って周りをみますが、周りに人はいませんでした。どうやら何かの力が働いているようです。これじゃ叫んでも意味がありません。
コスプレさんは私のもとへ来ると、私の体を蹴ります。蹴られたせいで私の体は硬いコンクリートを転がります。うつ伏せになった私は、顔を上げコスプレさんを睨みつけます。
「なにその顔? まあいいわ」
このままじゃやられる! そう思った私はどうにかして立ち上がります。傷は少しずつ再生していますが、それは遅いものでした。体と魔力が衰退している私ではこれが精一杯です。
もう少しで兄さんのところなのに……。きっとこのままじゃ肉の塊にされる。それは嫌! だから、今ここで倒さないと!
ドスッ ドスドスッ
倒すことを決意した次の瞬間、再び衝撃が3箇所から。1箇所目は右腕。2箇所目は右足。3箇所目は左足です。足を光の槍で刺され、後ろに倒れます。
「何かやるつもりだったみただけど……させないわよ。あなたがそんな状態でも油断はしないわ。認めたくはないけど、あなたは私より強いもの。だから終わらせるわ」
コスプレさんの手に光の槍が出現。この人はまだ私が不老不死ということは知らない様子。でも、肉の塊にされるでしょう。死なないでしょうが、嫌です。女の子としてそれは嫌なんです。
「さようなら」
そう言われ光の槍が投げられ―――――
「待ってください!!」
その声によって光の槍は投げられず、動きを止めました。止めた人物は金髪のシスターの服装した少女でした。彼女は両手を横に広げ、私を守るように立ちます。
「アーシア、どきなさい」
「嫌です! レイナーレさま、お願いです! これ以上ひどいことはしないでください!」
「あら。あなたはこの私に歯向かう気?」
「……そうです。主だってこんなことを望んでいないはずです!」
「そうね。神だって望んでいないわよね」
「じゃあ――――」
「でも、殺すわ」
「なぜですか! レイナーレさまだってさっき――――」
「私は堕天使よ。なんで堕天したか分かる?」
金髪のアーシアと呼ばれた少女は何も言えなくなります。コスプレさんはレイナーレというようです。今のうちに傷の再生をしないと。アーシアという子がなんとかしているようですが、これも時間の問題です。おそらくレイナーレさんのほうが立場が上のようです。
だから、きっと最後には私が肉の塊になる未来でしょう。そこはきっと変わりません。私がなにかしない限りですけどね。だから、私は再生に集中し動けるようにします。
「はやくどきなさい。じゃないとあなたも殺すわよ」
「それでもいいです! だからどうかこの方を殺さないでください!」
「どいてと言っているの! 私はあなたを、アーシアを殺したくはないわ!!」
「どきません!」
「その子が人外でも!?」
「そうです!」
2人が言い合います。レイナーレさんはアーシアさんに特別な感情があるように思えます。私はその間に再生を進めますけど、なかなか再生しません。魔力が衰退した私は魔力がなかったときのように、人間に近い存在になっているようです。
「……しょうがないわね。強制的にあなたをどかせるわ」
レイナーレさんはアーシアさんを手でどかせます。強い力でどかされたのか、アーシアさんは躓きます。私とレイナーレさんの間に何も壁はありません。ああ、間に合いませんでした。肉の塊になるのは嫌だったんですけどね……。
そう最後の時を迎えるように思いました。レイナーレさんは再び光の槍を出現させます。それが今、投げられました。私は目を瞑り、その痛みと衝撃に耐えようとしました。
ドスッ
しかし、その時は来ませんでした。確かに音はしました。頭の中には疑問でいっぱいです。ゆっくりと目を開ければ、金髪のシスター。つまり、アーシアさんが私を庇い、光の槍がその体を貫いていました。
光の槍が消えると私のときのように、その傷口から紅い鮮血が溢れ出ます。アーシアさんの体は力が抜けその場に倒れます。その際に見えたアーシアさんの顔は頬は涙で流れ、パクパクと口を動かしていました。
――――すみません。助けられませんでした。
そう口で示していました。アーシアさんの体が倒れると、その地面はアーシアさんの血によって紅く染まっていきます。レイナーレさんを見れば、目を見開いて口を開いていました。
「あ、ああ……なん……で……?嘘、でしょ?アーシア?ねえ、アーシア?」
レイナーレさんはゆっくりとアーシアさんのもとへ近づいていきます。足元はふらつき、今にも倒れそうでした。アーシアさんのもとまで行くと、レイナーレさんはその場に膝をつき、震える手でアーシアさんの顔を触ります。
「あ、ああ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レイナーレさんは声を上げました。そのときの姿は悲しみに満ちたものでした。