「何これ!? どういうこと!?」
私はその叫び声に近い声によって覚醒します。瞼を開ければそこはオカルト研究部の天井です。私は上半身を起こしました。辺りを見回せば寝ているアーシアさんのほかに誰かいるようです。誰かと声の方向を見れば、そこにはリアス部長と朱乃先輩がシャワーカーテンのところにいました。
「ふわあああ、どうしたんですか?」
背筋を伸ばし、2人に問いかけます。2人は真剣な表情で私を見ます。
「絢乃、これはどういうこと?」
「どういうことです?」
質問に質問で答えます。
「これよ」
リアス先輩が見せたのは血に塗れた壁と浴槽です。ああ、このことですか。そういえば、片付けるのを忘れていました。あれでも蒸発したほうなんでしょう。けど、それでも大量の血で塗れていました。
「それは私の血です。なので気にしないでください」
「どこをどうすれば気にしないでいられるのかしら? これは私も使うのよ。ちゃんと掃除しなさい」
「そこですか!? ちゃんと何があったか聞いてください!!」
私は思わずつっこみます。いえ、私がボケたようなものですね。私は起き上がり、血を洗い流します。その作業に朱乃先輩の手伝ってくれます。手伝ってもらったおかげで、僅か数分で終わりました。
「それで何があったのかしら?」
私はすべての出来事を説明します。終わった後はリアス先輩が顎に手をあて、真剣な表情で考えているようでした。時折、アーシアさんのほうも見ていました。朱乃先輩はアーシアさんのところにいます。
おそらく、警戒をしているのでしょう。それでもきっとアーシアさんが2人を襲っても返り討ちにすると思います。それぐらいの実力はあるはずです。
「なるほどね。よく分かったわ。アーシアは小猫のときのようにしないとだめなのかしら?」
「ええ。そうするしかないでしょう。けど今回は私の血を吸いました。何があるか分かりません」
「なら貴女のもアーシアの傍に居るのかしら?」
「いえ、私はいません。今日は兄さんと過ごすという予定ですから。けど、御2人ならアーシアさんを止めることができるでしょう」
それにリアス先輩が苦笑いしました。
「吸血鬼である貴女にボロボロにされた私たちで大丈夫かしら?」
「大丈夫です。真祖である私の血を吸ったとはいえ、御2人よりは弱いです」
「そう。分かったわ」
心配そうな顔で頷きました。私はアーシアさんの口を開け、八重歯を調べます。変わらず、その歯は吸血鬼の歯でした。そこに扉が開き兄さんと木場先輩と小猫ちゃんが入ってきました。
手にはみんな昼食を持っていました。兄さんの手には2つです。おそらく片方は私のです。兄さんはそのまま私のもとまで来ます。
「昼食だ。パンだけど大丈夫か?」
「大丈夫です」
兄さんからパンを受け取ります。兄さんは私の隣にきます。私との距離は僅か数センチ。もうこれはくっつくしかないですよね。私は兄さんの体に密着します。
「……部室でいちゃつくのは止めてください」
ほぼ無表情状態の小猫ちゃんがジト眼で言ってきます。いえいえ、私は別にいちゃついてはいませんよ? ただくっついているんです。私にとってこれはスキンシップですから。
「さあ、兄さん。食べましょう」
「無視ですか」
私はいくつかあるパンの中から、甘い系のパンを手に取りました。パンは丸い形で大きさは私の手に収まるかくらい。
「はむっ」
そのパンにかぶりつくと口の中には甘さが広がります。その甘さに思わず頬が緩みました。
「美味しい」
その言葉は私の近くにいる者にしか聞こえないくらいの呟きで、私の近くにいた兄さんはそれを聞き取りました。
「そうだな。美味しい」
他のみんなも食べだします。しかし、アーシアさんは寝たままです。今は起こさないほうがいいと考えたのでしょう。
「兄さんとこうするなんて久しぶりですね」
「そうか? まだ数日だぞ」
「ああ、兄さんにとってはそうでしたね。私にとっては長い間、まあ一ヶ月くらい会っていないという感じということです」
今思ったんですが、約1ヶ月もあの世界にいる必要があったんでしょうか? 絢音に聞いたほうがいいですね。分からないなら聞く、です。
「そうか。でも、今はそうじゃないだろう?」
「はい。今はこうして隣にいますからね」
私は兄さんの腕を組みました。私の胸は兄さんの腕に当たり、服の上からでは分かりませんが、形を変えていました。
「お、おい、その、アレが当たっているんだが……」
「アレって何ですか?」
わざととぼけます。ふふふ、ちょっとからかってもいいですよね。別に兄さんが悪いことをしたわけではありませんが、ちょっとしたサービスです。
「…………胸だ」
少し照れているのか私から目を逸らされます。
「ふふふ、うれしいですか?」
「うれしいかと聞かれれば、うれしい。俺も男だからな」
こんなに正直に言われるとは思いませんでした。逆に恥ずかしくなり、私から離れます。ああ、私の負けです。やっぱり兄さんには敵いません。
「……バカップル」
小猫ちゃんからの痛い一言。私の行動はまさにそうだったので、何も言えません。周りも苦笑いで見ていました。
「うふふ、若いですわね」
「ええ。けど、小猫の言うとおりあまりいちゃつかないでちょうだいね。ここは一応部室だから」
そう言われますが、兄さんとくっつけないのは嫌です。なので適当に頷きます。私と兄さんとの間には隙間があります。私が恥ずかしくて離れた結果です。私の恥ずかしさもなくなったので、再び近づきました。
「はあ~、もういいわ。あなたに言っても意味はないようね。兵藤一誠くん、あまり絢乃といちゃつかないように」
「……善処します」
兄さんも曖昧な返事です。曖昧に返すということは、兄さんも私といちゃつきたいということですか! なんだかうれしいです。人前というのは恥ずかしいですけど、多少ならちょっとえっちなことでも……
「あらあら、絢乃ちゃんはエロエロですね。真面目な子がこんなになるなんて、私にもイッセーくんを貸してもらえませんか?」
「だ、ダメです!! 兄さんは私のです!! 少しも貸しません!!」
「うふふ、冗談ですわ。ちょっとからかっただけです」
「……本当ですか?」
「本当です」
ちょっと怪しいです。朱乃先輩には気をつけたほうがいいような気がします。兄さんには兄さんが私の物で、私は兄さんの物だということ自覚してもらいましょう。ふふふ、今夜を覚悟してくださいね。
私は再び腕に抱きつきます。兄さんもそれを拒まず、私が抱きつきやすいようにしてくれます。
「それじゃあ、アーシアを起こすわ。絢乃、お願い」
「分かりましたわ」
朱乃先輩がアーシアさんに近づきます。私はただそれを横目で見るだけです。
「なあ、なんで今までアーシアさんを起こさなかったんだ?」
「う~ん、それは乙女の秘密ですね。まあ、今日中に分かります」
「そうか」
「そうです」
そんな話をしている間に、朱乃先輩がアーシアさんを起こします。小猫ちゃんを見れば私を鋭い目で見ていました。思わず、目をそらします。あの目はいちゃつくなと言っている気がします。今は別にいちゃついていないですよ。
ただこうやって腕に抱きついているだけです。これくらいはスキンシップです。もしいちゃつくのなら、ここでキスでもしていますよ。
「……いやらしいです」
「な、なんだか今日は厳しいね」
「私との約束を破りましたからね。何か異論がありますか?」
「……いえ、ありません」
小猫ちゃんとの厳しい会話が終わった私は、抱きついていた腕をさらに思いっきり抱きつきました。
「うう~、あとで私を慰めてください~」
「分かったから、わざと胸を押し付けるのをやめろ。というか、さっきは離れたのにまたどうして」
「吹っ切れました。もう何を言ってもずっと離れませんよ」
「そっか。なら俺も絢乃を一生放さない。ずっと一緒だ」
「「「「「!!」」」」」
まだ寝ているアーシアさん以外の私たちがその発言に驚きました。小猫ちゃんだってみんながいる場で、驚いたという表情をしていました。だってこれはプロポーズじゃないですか!! 「一生放さない」「ずっと一緒」どう考えてもそういう意味ですよね!
「…………兵藤先輩、殺します」
「さすが兵藤くんだね。まさかの返しでプロポーズをするなんて」
「あらあら、学生結婚でもするんですか?」
「朱乃の言うとおりね。けど、ちゃんと卒業しなさいよ」
みんな好き勝手に言っています。でも、やっぱりプロポーズなんですね。
「に、兄さんはそこまで考えていたんですね。わ、私も兄さんと結婚してもいいですよ?」
「へ? な、なんで結婚の話に?」
「え? だって私を一生放さないって言ったじゃないですか。そ、それってプロポーズですよね?」
「あっ」
そこで兄さんの顔が赤くなります。それってまさか素で言ったんですか? うう、それはそれでうれしいですけど、他の女性には言ってほしくないです。それでその女性が兄さんを好きになったらと思うと……。けど、今は兄さんの答えが気になります。
「兄さん、どうなんですか? 私は兄さんと結婚したいです」
「まあ、俺も絢乃と結婚してもいい。いや、したい。けど、今はまだだ。せめて俺が働けるようになるまで待ってくれ」
「はうっ。わ、分かりました。つ、つまり、私は婚約者ですね!」
私は今、この瞬間から兄さんの婚約者になりました。しかも、みんながいる前で。恥ずかしくて顔が上げられません。
「……絶対に殺します。私の絢乃さんを!」
「あの、小猫ちゃん? 2人は幸せそうにしているんだよ。それに兵藤さんは小猫ちゃんのものじゃないよ」
「……祐斗先輩は口出ししないでください」
「あはは……」
なんだかあちらは物騒なことになっています。今の小猫ちゃん、物騒です。
「兵藤一誠くん、結婚するときは私たちも呼んでもらえるとうれしいわね」
「そうですわ。私もお2人を祝福したいですわ」
「式場は私たちで用意してもいいわね。朱乃、お兄さまにいいところがないか、メッセージを送ってちょうだい」
「分かりましたわ」
こっちはこっちですごいことになっています。もう式場のことまで。というか、勝手に決められているんですが。
「ふわああ~、あれ? なんで皆さんが?」
「アーシアさんが寝ている間に来たんです。体は大丈夫ですか?」
「はい。さっきまでなんだかいい夢を見ていた気がします。美味しい料理を食べて幸せでした」
「それはよかったね。じゃあ、ご飯食べよう」
アーシアさんが見た美味しい料理って私の肉ですよね。なんだかあまりいい気分ではありません。私は食用ではありませんよ。とりあえずアーシアさんにパンを渡します。
「はむ、はむはむ」
「どうですか?」
「う~ん、なんだかパンが食べ物じゃないような気がします。それよりもなんだかお肉が食べたいです。そうですね。絢乃さんのお肉はどうですか?」
「「「「!!」」」」
私と兄さん以外が驚きます。アーシアさんは私に向かってきます。やっぱり吸血鬼の本能が理性より勝っているようです。私は慌てません。
「―――――人形使いのスキル」
指を一本動かす。アーシアさんの足に人が絡む。アーシアさんは片足が動けなくなり、その場にこけた。さらに動きを封じるためにさらに糸でアーシアさんの四肢を固定。
「くううぅぅぅぅ! 私にその血を!」
「そんなに私の血が欲しいんだ。けど、もうあげないよ。私の血肉は兄さんの物だから。兄さんだけが私を好きにしていい。めちゃくちゃにしていい。それに私の血を吸い続けたら化け物になるよ?」
「関係ない! お願い! 私にその血をください!」
「う~ん、やっぱり私の血を飲んだせいかな? 吸血欲が高くなってる。やっぱり起こすのはダメだったか」
私はアーシアさんの状態を独り言のように呟く。やっぱり眠らせるしかない。吸血鬼という副作用がなくなるまで。
「朱乃、アーシアを拘束しなさい。アーシアには悪いけど、絢乃がいいって言うまで拘束させてもらうわ」
朱乃先輩がアーシアさんを拘束します。
「なあ、どうなっているんだ? 俺にはよく分からないんだが」
「はい、それを含め今夜説明します」
疑問ばかりの兄さん。ここで一番人間に近いのは兄さんです。だから、ここでは話にはついていきません。体は私のような化物ですが、まだ人間です。それはアーシアさんにもいえます。しかし、彼女は違う。体は悪魔と吸血鬼。そこまでは変わらない。
けど、今のアーシアさんは心が人間ではない。そこが兄さんとの違いです。心が吸血鬼の本能に負けた。それだけの違い。
「さて、みんな。もうすぐで昼休みは終わりよ。あとは私と朱乃に任せなさい」
兄さんたちはそれに従い、部室から出て行きます。
「兄さん、ちょっと待ってください」
旧校舎を出たところで兄さんを呼び止める。他の2人はそれにチラッと見ただけでそのまま校舎へと向かった。
「なんだ?」
「ん~、えいっ」
兄さんの首にぶら下がるように抱きつきます。互いの顔に息がかかるほど、近くなる。兄さんの頬は照れているせいか赤くなっていた。無論私もそうなのでしょう。
「ちゅ……んん、あむ……んちゅ……ちゅ、ちゅう……じゅる、むちゅ……ぷはっ、はあ……はあ……はあ……兄さん、大好きです」
「ああ、俺も絢乃が大好きだ。ずっと一緒だからな」
「はい、ずっと一緒です。家に帰ったらお父さんたちに改めて言わないといけませんね」
「ああ、けど俺たちが付き合うことになったときに、絢乃と結婚すると言ったからな」
「あっ!!」
思い返せば確かに兄さんと結婚すると言いました。もうすでに婚約者。でも、実感したのは今日です。
「そうだ。やっぱり婚約指輪を買わないとな」
「い、いえ、別にいいですよ。兄さんだって金銭的にも問題があるでしょ。買うとしても兄さんが働いてからでいいです」
「そっか。絢乃がいいのならいいが……」
はう、私に婚約指輪なんて早すぎます! それに動揺しているのって私だけです。どうして兄さんは冷静でいられるんですか! ちょっと悔しいです。
「ふう、今日は色々ありすぎです」
「そうだな」
「兄さんは別に何もなかったですよね?」
「あったさ。久しぶりに絢乃に会えた。それに婚約だってしただろう」
「ほ、本当に兄さんはさらりとすごいことを言いますね」
それに対し、兄さんはきょとんとしています。兄さん、これも素ですか。漫画の主人公みたいです。兄さんがモテモテじゃないのが幸いです。
「ほら、もう時間です。そろそろ戻らないと授業に遅れます」
「ん、そうだな。じゃ、放課後に」
「はい。……ちゅ」
私と兄さんは軽くキスをして、別れました。部室に戻ると教室に戻る気配のない2人がいました。
「ああ、絢乃。私たちはアーシアを見るわ」
「本当はサボりないんじゃないんですか?」
「怒るわよ?」
「じょ、冗談です」
ニコニコ顔と裏腹にその背後からは黒いオーラが見えました。アーシアさんは再び眠りについていました。その顔は穏やかで苦しみも何もありません。
「絢乃ちゃんは兵藤一誠くんが大好きなんですね」
「い、いきなりなんですか?」
朱乃さんが私の耳に口を近づけ、囁きます。
「さっきお2人がキスしていたところを見ていたんです」
「!! み、見てたんですか?」
「ふふふ、濃厚なキスでしたね。こっちまで興奮しそうでしたよ」
「リアス先輩も見ていたんですか?」
「いえ、私だけですわよ。ふふふ、心配しなくても誰にもいいません。誰も来ない教室を教えますわ。どうします?」
なんだか悪魔の取引をしているみたいです。いえ、朱乃先輩は悪魔でしたね。でも、聞いておいて損はないと思います。私はそう思い、いつの間にか首を縦に振りその取引を受けていました。
「ふふふ、ではこれを」
渡されたのは鍵と一枚の紙。
「これは?」
「その教室の鍵と場所です」
「あ、ありがとうございます」
私はその2つを大事に胸の前で握り締めます。こ、この教室で兄さんと誰にも言えないようなことを……。はうぅ、なんだかはしたない考えです。やっぱりエロエロになっちゃたんですかね。
「朱乃、絢乃。何を話していたのかしら?」
「うふふ、秘密ですわ」
「なんだか仲間はずれにされている気分ね」
「気のせいですわ」
2人の会話を横で見ます。こうして見ていると主従関係なんてないように見えます。いるのはただの親友だけ。それはリアス先輩が特別なのか。それともこれが悪魔の主従関係なのか。どちらにしても、こういう関係でよかった。
漫画などで見るギスギスとしたのはあまり好きじゃありませんからね。私は寝ているアーシアさんのもとへ行きます。今は鎖に縛られています。鎖はアーシアさんの体をきつく絞めている。
体の自由を完全に奪うため。今回のことから私の血を飲ませるのは可能な限り、やめたほうがいいです。毎回これでは色々と面倒です。
「絢乃、私たちも放課後までここにいるわ。眠かったら寝てもいいわよ」
「ん、ありがとうございます。では、兄さんたちが来るまで寝ています。あと今さらですけど、服を借りています」
「別にいいわ。それに借りていいと言ったのは私だから」
私はアーシアさんが横たわっているソファーの向かいのソファーをベッドにし、眠りにつこうとしていました。私は兄さんに起こされたいなという希望を持ち、少しずつ眠りの海へと向かっていきました。
本当に今日は半日で色々なことが起きました。こんなにあったのは初めてです。今夜だって兄さんに色々と話さないといけないですから。