「な、なにがかな? 心当たりって? そんなものないよ」
私はとぼける。小猫ちゃんは私から離れ、兄さんから自分の表情が見えないにし企みのある笑みを浮かべる。言ったら悪いけど、悪役みたい。
「嘘はダメです。本当に知っているんですよ。言ってもいいですか?」
「ま、待って今ここで?」
私は兄さんを見る。兄さんはどうした? という顔をしていた。
「そうです。もちろん聞こえないように、ですけど」
「うう……言ってみて」
一応聞いてみる。小猫ちゃんが
「絢乃さんにはもう一つの人格がある。それが答えです。それならさっきのも理解できます。どうですか?」
ま、まさかそこまで分かったなんて……。正解です。まあ、人格ではないんですけどね。
「正解。よく分かったね」
私はにやりと笑う。その笑みは人によって恐怖を覚えるだろう。そんな笑み。なぜなら真祖という存在と唇の隙間から見える八重歯がそうさせるから。私も人のことは言えない。悪役みたいです。
いえ、吸血鬼ってどちらかというと悪役です。だって夜の生き物です。夜ってどちらかというと悪役ですよね。ほら漫画の魔王とか魔物とか。光は勇者です。
「なんで分かったの? あの子は滅多に人前にでないし、出たとしてもあんまり分かんないんだけどね」
小猫ちゃんの前であの子が出てきたのってありましたっけ? 私は覚えてない。もしくは忘れた。どっちかと思う。
「前に絢乃さんが祐斗先輩と戦い、生徒会メンバーをボコボコにしたときです」
ああ、あのときですか! 思い出しました。確か、無理をして体が動かなくなり、絢音に変わってもらったんでした。今、思い出してもみんなには悪いことをしました。みんなのそのときの傷はもう癒えている。
私も完全に覚醒したので、絢音が出てくることはほとんどないので暴走することもない。でもたまにはこの体を貸して好きにさせてもいい。まあ限度はありますけど。
「私が見たときの絢乃さんは雰囲気が違いました。みんなは気付かなかったようですが、私には別人と思うほどです。それくらい雰囲気が違ったんです。だったら別の人間が化けているとしか考えられない。でも、不思議なことに体は絢乃さんのもの。なら出される答えはソレしかないなと」
やっぱり相手が親しいと分かるんですね。というか、それくらい雰囲気が変わるんですね。自分自身のことなので分からなかった。小猫ちゃんに今度、絢音を紹介してもいいですね。だって、もうばれちゃいましたし。
絢音の話し相手は私だけ。絢音だって話相手が多いほうがいいはず。うん、今は絢音は寝ているだろうし、言ってもいいか許可をもらっていないからダメだ。
「なんの話をしているんだ? さっきのか?」
「そうです。私がなぜさっきまで分からなかったことが分かったのかです。まあ、兄さんにちょっと関係はありますけど、今はダメです。許可ももらっていませんしね」
「許可? 誰の?」
「それも教えられません。それを言ったらもう正解を言ったようなものです。これはヒントみたいなものです」
兄さんはう~んと唸る。
「はあ~、絢乃さん。答えを知っている私からすれば、それはヒントのレベルじゃないと思います。ちょっと捻って考えたら分かります。まあ、私の答えに行きつくのは無理かもしれませんけど。それにイッセー先輩も分かるでしょう。いつまで考えているんですか?」
小猫ちゃんは呆れ顔で兄さんに言う。ちょっと優しくてもいいんじゃないんですか? ちょっとトゲトゲしいです。
「小猫ちゃんっていつもこうなのか? もうちょっと無口だったし無表情だったような気がするんだが」
「ええ、そうですよ。どうしてか分からないんですけど、私の前では結構表情を出しますよ。それにおしゃべりです」
兄さんと私はこそこそと小猫ちゃんに聞こえないように話す。兄さんに私のときと同じようにするなんて、結構気を許しているんでしょうね。よかった。このまま他の人とも仲良くしてほしいです。
次はアーシアさんとですね。アーシアさんと仲良くなればもっと気を許せるはずです。けど、無理強いはさせない。いやならやめるしかない。
「イッセー先輩、どうですか? 分かりましたか?」
「ん? ああ、予想だけどな」
わ、分かったんですか? でもきっと小猫ちゃんの多重人格とかいう答えではないと思います。
「その許可を出す奴と絢乃が突然分かったのは関係がある。そうだろう。しかも突然分かったのは許可を出す奴から教えてもらったからだ。それもあの一瞬でな」
なんかけっこういい線です。もう正解ですよね。けどまあ簡単でしたからね。兄さんが分かって当たり前です。
「悪魔や堕天使がいる世界だ。テレパシーみたいのもできるんじゃないか? 俺の答えはそれができる前提でのものだ。もしそんなのがないならもう分からねえ。お手上げ。降参だ」
兄さんは肩をすくめ、降参を示す。小猫ちゃんはちょっと驚いているようだ。私もちょっと驚きです。兄さんも人間側ではなくなってますね。ほとんどこっち側に染まってます。こういうときに非科学でするのは、その証拠。
「さすがですね。正解です。でも、テレパシーではないです。知識のなかにはそういうやり方がありますけど、そのときは兄さんに協力してもらわないといけません。や、やりたいですか?」
見上げるような形で兄さんを見つめた。私の頬は赤い。それは恥ずかしいからだろう。テレパシーみたいのをするためには、あれをしないといけない。いつもやっていることだから今更恥ずかしがる必要はない。だけど、予告してからのは恥ずかしい。
そういうものです。私の行動に兄さんは恥ずかしいのか顔を背け、小猫ちゃんはちょっと不機嫌になっていた。小猫ちゃん、やっぱりまだ私のことが好きなんだ。
「いや遠慮するよ。おい。ちょっと待て。やらないからと言ったからといって上目遣いをするのはやめてくれ! 可愛すぎて抱きしめたくなる!」
兄さんは目を背けたまま言う。私は顔全体が熱くなった。きっと頬だけでなく顔全体が赤くなっているのだろう。か、可愛くて抱きしめたくなる、ですか。えへへ、うれしいです。
うれしさのあまり兄さんに抱きつこうとするが、さらに不機嫌になった小猫ちゃんに止められた。そうさせた本人である兄さんは小猫ちゃんに蹴られていた。やっぱり扱いが違う。
「いたっ。こ、小猫ちゃん、なにをするんだ?」
「イッセー先輩、私の前でいちゃつこうとしないでください。ここは家のなかではないんですよ」
「お、俺たちは別にいちゃついたわけじゃないぜ」
「私は別に過去系で言ってませんよ。いちゃ
小猫ちゃんの目が怖い。もう殺気がこもったらそれで気絶しそうだなというくらい。私たちは小猫ちゃんから後ずさる。
「そ、それよりもうすぐで学校です。ほら見えてきました」
「そうだぜ」
どうにかして話を逸らす。私たちの視線の先には学校の一部が見える。それを見た小猫ちゃんの目にさっきの目はない。どうやら意識が学校へ向かったようだ。
「アーシアさんの吸血鬼化ってもう治ったんですか?」
小猫ちゃんの突然の問い。小猫ちゃんの顔には表情はない。どうやらまた無表情になったようだ。でも、声には感情が表れていた。ちょっと心配するような声。きっとアーシアさんのことを少なからず、心配している。
やっぱり気になるんだ。これから一緒に暮らすルームメイトのことを。私はちょっとうれしくなり、微笑みながら小猫ちゃんを見る。
「大丈夫。私の肉を食べたけど大して影響はないと思うよ。あったらとっくに私が動いてる」
「ちょっと待て。お前、肉を食べられたって大丈夫なのか?」
肉を食べられたと聞いた兄さんは、私の肩を掴み向き合うようにする。互いの顔は近く、互いの息が感じられる。
「だ、大丈夫です。私は真祖の吸血鬼なんですよ。ちょっと食べられただけじゃどうにもなりません」
「そっか。よかった」
安心したのか兄さんは息を吐き、私の肩から手を離す。肩から兄さんの手の感触がなくなり、物寂しく感じる。そう思っているとまた肩に感触が。でも、さっきとは違い小さい手だった。その手は力強く私の体の向きを強制的に変えられた。
案の定、その手の持ち主は小猫ちゃんだった。その顔はさっきの無表情とは違い、心配そうな顔だった。その顔は表情をまた変えた。
「なんで教えてくれなかったんですか! 怪我をしたら治っても言ってください! なにかあってからでは遅いんですから!!」
「ごめんね。今度から何かあったら言うから、ね? それになんともないから」
今にも泣きそうなその顔。目にはもう涙が溜まっている。涙を流させないためにも、その頭を撫で小猫ちゃんを安心させる。そのせいか泣きそうだった顔も戻る。
「本当に私に心配ばかりかけてますね。もうこんなことにならないようにしてください」
「小猫ちゃんの言うとおりだ。心配ばかりかけるな。親友が傷つくのを見るのは誰だって嫌いだ」
兄さんは小猫ちゃんの隣に立ち、私に言う。優しい言葉だけど私は叱られている。
「兄さんにも親友がいるんですか?」
「まあ、いないな。でも木場とは仲がいいぜ」
「そうなんですか? でもそうには見えませんけどね」
私は兄さんと木場先輩が話しているところを見たことがない。本当ですか? そう思う。
「まあ、そうだろうな」
兄さんは口の端を上げてにやりと笑う。何かを隠しているような笑みだ。いつか教えてもらいたい。それに仲良くしているところも見たい。そこに小猫ちゃんが割り込み、話を中断させた。
「絢乃さん、それより私たちをこれ以上心配させないでください。それさえ分かってもらえば、私はなにも言いません。いいですね?」
「……はい。ごめんなさい」
素直に頭を下げ謝る。悪いことをしたなら謝らないといけないから。
「いいですよ」
小猫ちゃんはやさしく微笑む。
「次からはあまり心配かけないようにしてください。次は泣いちゃうかもしれませんから」
「な、泣くの?」
「かもです。絢乃さんは泣く私を見たいんですか?」
小猫ちゃんが泣きそうな顔になる。私は肩を掴んだ。
「見たくないです。お願いですから泣かないでください」
懇願するように言う。私は小猫ちゃんに泣いて欲しくない。前に見たとき、私は心が痛んだ。あんな痛みはもう味わいたくない。物理的な痛みより心の痛みは残る。それはトラウマと同じようなものだった。
同じようだと言ったけど、トラウマなんて私にはない。ただトラウマがあったらこうなのかなと思っただけです。もしかしたら、小猫ちゃんが泣かれることがトラウマなのかも。
でも、私がちゃんと約束を守ればいい。そうすれば小猫ちゃんは泣かないし、私は傷つかない。だから心配させることがないようにしないと。でも心配させることがあるかも。そのときはちゃんと言う。そうすれば泣かないだろう。
「おい、学校に着くぞ。大丈夫か?」
「大丈夫です。話は終わりました」
私たちは学園の敷地内に入る。学園内には人がちらほらといた。駒王学園はもとは女子高。それが共学になった。まだ共学になってから数年しか経っていない駒王学園では、その名残で女子のほうがまだ多い。
だから、ちらほら見える生徒は女子のほうが多かった。その学園にいる生徒がいる理由はほとんど部活。だからみんな体操着が多かった。私は兄さんの目がその女子たちに向かないか心配だった。
女子たちは体操着を着たことでみんなの胸が強調され、体のラインが出ていた。特に胸が大きい人は本当に強調されていた。私もあるほうだけど巨乳ではない。だから、心配だった。
「ほら兄さん。ちょっと急ぎますよ」
「そんなに急がなくてもいいだろう。まだ時間もある」
「いいからほら!」
兄さんの腕を掴み、強引に引っ張る。小猫ちゃんも私の気持ちを察したらしく、反対側の腕を掴んで引っ張ってくれる。周りから見れば羨ましい光景に見えるかもしれない。だけど、私と小猫ちゃんの心はそれぞれ。
私は他の女に取られないようにするため。小猫ちゃんはきっと私のため。羨ましい光景ではなく、三角関係に等しい。
「……浮気はダメです。ちゃんと絢乃さんを大切にしてください」
「ちょ、ちょっと待て! 小猫ちゃんは何を勘違いしているんだ!? 浮気しているようなところはないぞ」
「さっき周りの女子たちを見ていました。特に胸を。確かに絢乃さんは大きいとは言えません。だけど、その代わりにすばらしいものがあります。大きさも多き過ぎず小さすぎず。形も――――」
「ちょ、ちょっと待て!! なんで小猫ちゃんが知っているんだ? 俺が言うならまだしも……」
ちょっと待てはこっちのセリフです。なんで2人で私の胸の話をしているんですか? しかもとくに小猫ちゃん。くわしく説明しようとしましたよね? ここはまだ外ですよ。誰かに聞かれたらどうするんですか?
特に男子にです。聞かれたら恥ずかしくて学校に行けなくなります。それに兄さんもです。その発言はダメですよ。これでいじめられたらどうするんですか。兄さんと小猫ちゃんはまだ続けようとする
「2人ともそろそろその話を止めないと殴りますよ」
脅すような形でその話題を止めさせた。2人の顔はひきつっていた。その額には汗が流れている。そこまでなりますか? そこまでした覚えはないですよ。
「すみません。でも、絢乃さんの魅力よりも他の人に目が移ったイッセー先輩が悪いんです。だから、そうならないためにもと思って……」
「違う。俺は誰かなと思って見ただけだ。他の子に目移りなんてしない。ずっとお前一筋だ」
「絢乃さん、男はみんなこう言って最終的には浮気をするんです。気をつけてください」
「小猫ちゃんは俺と絢乃の関係を守るのか壊したいのかどっちなんだよ。2言前と言っていることが違う」
「どっちかと言うと絢乃さんの味方です。絢乃さんがイッセー先輩をどうにかしてほしいと言われればそうします」
「ちょっと待て。なんで俺が出てくる」
「絢乃さんからのことです。きっとイッセー先輩がなにかしたときしか、頼まないと思うので」
なんの疑いなく言ってきた。いや、きっとそれ以外も頼んだりしますよ。それに兄さんのことは自分で解決しようとすると思う。だから小猫ちゃんに頼まないと思う。そうこうしているうちに旧校舎に入った。
それにしても本当に2人とも仲良くなりましたね。うれしい反面嫉妬しそうです。兄さんも小猫ちゃんも大丈夫ですよね? 2人で恋愛関係に発展しませんよね? 今はこう敵対というか反発している。
でも、ずっとそうしているうちに互いに惹かれあっていって……的な話があります。前に見た小説がそうでした。見ているほうは楽しいですけど、実際に私が巻き込まれると楽しくないです。
だってその2人が親友と恋人なんですから。どこにも楽しむ要素がありません。むしろ邪魔をしたくなる。あれ? でも私の立場ってあの話だと主人公のことが大好きなサブキャラでした。
それと今の私たち。結構当てはまっていませんか? これがあの小説通りいくと小猫ちゃんと兄さんが恋人関係に……!!
「絢乃さん? 頭を抱えてどうかしましたか?」
「えっ!? な、なんでもないよ!! ほ、ほら入ろう」
頭を抱えていた手を下ろし、部室のドアを開けた。中にいたのは朱乃先輩とリアス先輩と未だに拘束され眠るアーシアさん。木場先輩はいない。朱乃先輩とリアス先輩はずっとここにいたのだろうか?
2人は眠そうにしていた。目の下を見れば隈ができている。なんだかちょっと悪いことをしました。私が見るべきでもあるのにそれを私が任せてしまった。今度なにかでお礼をしないと。
2人は入ってきた私たちにはすぐには気付かなかった。けど私が声をかけたことで気が付いた。
「ごめんなさい。ちょっと寝不足なのよ」
眠そうな顔で言う。もう早く寝かせたほうがいい。
「アーシアさんは?」
「まだ寝ているわ。あれからずっと起きてないわ」
「分かりました。リアス先輩たちはもう寝ていても大丈夫です。後は私に任せてください」
「そう。ならお言葉に甘えようかしら」
リアス先輩は朱乃先輩を連れて外へ出た。私たちはただ見送るだけ。本当にリアス先輩たちには後で何か礼をしないと。もう昼食を頼めませんね。しょうがない。
「小猫ちゃん、兄さんを」
たったそれだけで小猫ちゃんは私の意図を察し、兄さんを部屋から出す。兄さんはなんでだという顔をしていた。すみません。でもアーシアさんは女の子です。私がアーシアさんの吸血鬼化が治まったか調べるため、色々とします。そんな姿を異性に見せるわけにはいきません。
兄さんを出したあと、小猫ちゃんと一緒にアーシアさんの体を調べる。調べるのは私です。小猫ちゃんがいるのは何かあった時のためです。では早速、アーシアさんの体を調べるとしましょう。
アーシアさんは小猫ちゃんのときのように拘束されている。やはり見ていていい気分にはならない。早くこの拘束を解きたい。動けないという状態は私は嫌いだ。アーシアさんを早く自由にするために、私は手を口に伸ばす。
私の指が唇のやわらかな感触を伝えた。肌だけでなく唇もすべすべとしていた。強く押せばぷにゅっとした感触が返ってくる。次は頬を触る。こっちもやっぱりすべすべしていてやわらかい。
このままずっと触っていても飽きない。ずっとこうしていてもいいかも。だけど、それはすぐに終わりを告げる。
「絢乃さん? 何をしているんですか?」
ニコニコ顔で立っている小猫ちゃんが私を見下ろしていた。その表情と裏腹に背後にあるオーラは黒い。