「そうか。俺の気のせいか」
アーシアさんの答えに兄さんはそう答えた。兄さん、アーシアさんのあの動揺した答えでどうしてそう言えるんですか? どう聞いても嘘だって分かるじゃないですか。まあ、気にしてもらわれても困るんですけどね。
私は小猫ちゃんを撫でていた手を止める。小猫ちゃんは止められたのが不満なのか、私を見上げてくる。
「にゃあ?」
「もう食べよう。冷めちゃうから」
「分かりました」
小猫ちゃんは気持ちを切り替えたのか、猫語から人語に変わる。そろそろ兄さんとアーシアさんとの会話を止めないと仲良くなりすぎるからね。私は兄さんが座っている席の隣に座る。
「食べましょうか。いただきます」
「「いただきます」」
「い、いただきます」
私は手を合わせて言う。みんなも私につられて言った。アーシアさんはまだ慣れてないせいか、ちょっと恥ずかしそうだった。ではではと私はハンバーガーを手に取った。包みに包まれたハンバーガーは温かい。
それはできたてだという証拠だった。包みをとり中身の一部をさらけ出した。うん、やっぱりできたてだ。ハンバーガーからは湯気が溢れ出た。私はちょっと周りを気にし、口を開けかぶりついた。
口に広がる肉とケチャップの味。久しぶりにこういうのを食べました。でもやっぱり油っこい。毎日食べようとは思わない。私は口の中にあるものを飲み込んだ。それでみんなを見る。
小猫ちゃんは無表情で食べる。兄さんは男らしく大きな口を開けて食べていた。そして、アーシアさんは……戸惑っていた。
「どうしたの?」
私は声をかけた。
「私こういうのって食べたことはなくて……。だからどう食べていいのか……」
「そっか。ちょっと貸して」
私はアーシアさんのハンバーガーを手に取り、包みの一部を開いた。それをアーシアさんに渡す。
「これに口を開けてぱくって食べればいいよ」
「ぱくっですか。そ、それって恥ずかしくないですか? 周りに他の人もいますし……」
アーシアさんは頬を赤く染め、上目遣いで周りを見回す。
「大丈夫。ここでは普通だから。みんな気にしないよ。ほら食べてごらん」
「は、はい」
アーシアさんはなぜか目を瞑り、大きく口を開けハンバーガーにかぶりついた。うん♪ いい食べっぷりだね♪ それを見て私の頬も緩む。私はそれを眺めながら、自分のを食べる。
「はむ、んむんむ」
「あ、ちょっと待て」
「ん?」
隣の兄さんに止められる。兄さんを見ると私に手が伸びていた。その手にはナプキンが握られていた。それは私の口の端を撫でる。
「ほら、ケチャップがついていたぞ」
「ありがとうございます」
まさかケチャップが付いていたなんて、恥ずかしいです。気をつけないと。ちょっと対面にいる2人を見ると小猫ちゃんがむっとした顔だった。まさかと思いますけど、兄さんの私に対する行動に嫉妬しているわけではないですよね?
そして、小猫ちゃんは自分のハンバーガーを見つめる。小猫ちゃんのハンバーガーはあと半分。つまり半円。小猫ちゃんが小さく口を開け、かぶりつく。小さな口と大きなハンバーガー。
どうなるか。もちろん口の端にハンバーガーから溢れるケチャップが付く。その状態の小猫ちゃんが顔を上げて私を見てきた。つまり、兄さんが私にやったように私が小猫ちゃんの口の端をきれいにしろということ。どうしよう。ここはやってあげたほうが――――
「ああ、小猫さん、口の端についてますよ。ほら」
アーシアさんが小猫ちゃんの口の端をきれいにした。それに対し小猫ちゃんがアーシアさんを睨むが、それに対し、アーシアさんはにこりと微笑む。小猫ちゃんはあきらめてハンバーガーを食べるのに集中した。
あんな微笑を見たら私もそうなります。そういえばアーシアさんはシスターさんでしたね。最初に着ていた服がそうでしたから。その微笑みはまさにシスターさんです。きっと子どもに好かれやすいと思う。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまです」
ちょうど兄さんと私が食べ終わる。あとは小猫ちゃんとアーシアさんだけだけど、もうあと一口くらいだった。私は飲み物を飲む。やっぱり油濃いものを食べると飲み物を飲みたくなる。
「ごちそうさま」
「ご、ごちそうさま」
2人も食べ終わる。しばらくここで休んだ。食べてすぐに動くのはきついです。お腹を休めるという意味でもここでのんびりするのは必要です。
「ところで次はどうするんだ? もうやることはやったんだろう?」
「はい、やりました。なので次はアーシアさんの日用品を買おうかと」
兄さんの問いに答える。
「えっといいんですか?」
「いいよ。今日から小猫ちゃんの家に住むんだからね。小猫ちゃんの家にはアーシアさんに合う服とかはないよ」
私はアーシアさんと小猫ちゃんを交互に見る。うん、やっぱり無理だね。どう見てもサイズ的に入らない。私が着たときもそうだった。あのときはショートパンツだったからよかった。でもジッパーを閉めることができなかったけど。
あの時は本当に恥ずかしかった。服だった小さかったので、へそが出ていたしね。それで学校へ向かった。誰かに見られなくて良かった。あんな姿見られていたら恥ずかしくて簡単に外へ歩くことできなかった。
「ちょっと待ってください。それは私の背や胸が小さいって言っているんですか?」
「ち、違うの。そ、そういうつもりで言ったんじゃ……」
小猫ちゃんが睨んできたので、私は慌てる。
「いいんです。どうせこんな体です。これ以上……成長しないですから」
「そんなことないよ。ちゃんと成長するよ。きれいになる。胸だって大きくなるよ」
「……慰めはいいです」
そうは言ったけど、小猫ちゃんはうれしそうだった。私はまだ成長すると思っている。あと数年経てばそうなっていると思う。私と小猫ちゃんは長い付き合いになると思う。楽しみです。
「んじゃ、行くか。3人とも大丈夫か?」
兄さんが立ち上がり、言う。
「大丈夫です」
「はい」
私とアーシアさんが返事をし、小猫ちゃんは頷く。それを確認した兄さんはごみを片付ける。私たちは机が汚れていないか確認した。こういうことは大事です。終わった後、私たちは店を出た。
外に出た瞬間、熱気を感じる。本格的な夏まではあと1ヶ月以上あるけど、やっぱり暑い。うう、暑いのって嫌いなんですよね。私の魔法だって氷系や風系ですしね。対称的です。まあ、暑くても魔法で私の周りの外気を冷たくすれば問題ないんですけどね。
ちょっとずるいですけど、私吸血鬼なので。
「あ、あの最初に服などを見たいです。いいですか?」
「いいよ。じゃあ、おすすめのところがあるからそこにしよ」
「お願いします」
ではまずは服からですね。店に囲まれた道を歩く。休日なので人が多い。
「ここ……ですか?」
「うん、そう」
その店は外見を見ても、私たちくらいの年齢にはぴったりというものだ。つまり若者向けの店だとわかる外見。繁華街にある店だけど、隣り合う店同士が合体して1つの店になっているため、中は広い。
そのため、結構人気がある。この町には一応ショッピングモールはあるけど、ここからでは遠いため、通行費をかけたくない学生たちはここで買い物をする。でもただそれだけではない。
それは品揃え。やっぱりこれです。品物が多くないと若い子は来ない。少なかったらショッピングモールに行っているはずです。
「絢乃、俺も入らないとダメか? 店の外見を見るに男の俺が中に入るのは、とても難易度が高いんだが」
「兄さんも入ってください」
嫌がる兄さんにそう言った。
「私の服も買おうかと思うんです。だから一緒に入ってください。」
「つまり俺に選べと?」
「察しが良くて助かります。そういうことです。ダメですか?」
「はあ~、俺が絢乃の断れるわけないだろう」
兄さんはやれやれという顔をしながら言った。中に入ると確かに兄さんのような男に場違いだと分かる。だけど、よく店内を見回すと男性が見える。その隣には女性。どうやらカップルらしい。
1年前はちょっと羨ましく思っていたけど、兄さんと恋人になったときからそう思わなくなった。もう兄さんという恋人がいますからね。では、私も選びますか。私は兄さんを連れて店内を歩く。
アーシアさんは小猫ちゃんと一緒だ。ここにはおとなしい服から派手な服まである。アーシアさんを見る限り、アーシアさんはおとなしい系がいいらしい。小猫ちゃんに似合うかどうか聞いている。
「兄さん、これなんてどうです?」
「……なんでショートパンツなんだ?」
「ダメですか?」
「ダメだ。小猫ちゃんとかくらいなら大丈夫だが、お前が着るとエロくなる」
「そうですか?」
私はそのショートパンツを自分の下半身に合わせる。よく私くらいの人が着ていたし、大丈夫かと思ったんですけどね。
「いや、エロいというのは言い過ぎかもしれないが……ちょっとな」
「ちょっと、なんですか?」
「恋人としてはあんまりそういう格好をしてほしくないということだ」
「あ、ありがとうございます」
そういってもらうとやっぱりうれしい。そうですよね。水着とかならしょうがないですけど、他の人に変な気持ちで見られるのは気分がよくない。私は手に取ったショートパンツを戻す。そして、別のを手に取った。
「このスカートは?」
「まあ、いいんじゃないか? さすがにミニだったらダメだったけどな」
「そんなのは穿きません。恥ずかしいので」
手に取ったスカートは膝よりも下まであるもの。ちょっと清楚系です。ですが、ちょっと可愛らしい装飾がされているもの。ここはそういうものが多く、逆に単純系が少ない。
「ん~、でもちょっと穿いてくれないと分からんな。試着室があることだし、穿いてみてくれ」
「そうですね。なら上も決めてからにします」
さっそくとこのスカートに合う服を選ぶ。しばらく悩んでいるとアーシアさんがやって来た。
「絢乃さん、これどうですか?」
アーシアさんが手に持っているのはワンピース。色などは単純ながらシスターであったアーシアさんには似合うものだった。スカートの裾部分には刺繍があった。チラッと見ただけのでよくは分からない。
「うん、似合うと思うよ」
「ありがとうございます! あ、絢乃さんもそのスカート、いいと思います」
「ありがとう。ところで小猫ちゃんは?」
「あっ、小猫さんはあちらです」
アーシアさんが指差した場所に小猫ちゃんがいた。自分のも買うのか棚を見ていた。では服を探すついでに小猫ちゃんのところにも行きますか。
「何か見つけた?」
夢中になっている小猫ちゃんに声をかけた。どうやら私が来ていたことに気付いていなかったらしく、私が声をかけたときは体がびくんとなった。
「あ、絢乃さん。驚かせないでください。びっくりするじゃないですか」
「ごめんごめん。それで何か見つけたの?」
「……はい。これです」
見せてきたのはショートパンツ。うん、やっぱりね。だって小猫ちゃんの服を借りたとき、ショートパンツが多かったんだもん。でも、小柄な小猫ちゃんには私が持っているようなスカートではなくて、こういう足を見せるようなものが似合っているかもしれない。
そう考えつつ、小猫ちゃんと私の服を選んだ。小猫ちゃんはその容姿からちょっと可愛らしい系の服を。私はちょっと清楚系の服を。選んだあとは試着し、兄さんを呼んだ。
「ど、どうですか?」
私はくるりと回転し、全体を見せた。私は自分でも似合っていると思う。
「いいんじゃないのか? 可愛いしきれいだ」
「……そ、それって私がですか? 服がですか?」
「どちらもだ。とても似合っているよ。んじゃ、その服とスカートを買うのでいいのか?」
「はい。兄さんが似合ってるって言ってくれたので」
「似合っていると言った俺がいうのもなんだが、そんなに簡単に決めていいのか?」
「いいんです。ほら着替えるので閉めてください」
試着室の戸が閉められる。私はすぐに着替えた。試着室を出ると小猫ちゃんとアーシアさんが買う服を持って私を待っていた。すぐに近寄る。
「もう決まったみたいですね。下着は選びましたか?」
「えっと選びました。どうでしょうか?」
アーシアさんは選んだ下着を見せてくる。どれも白であまり派手な飾りはない。それはアーシアさんがシスターさんだったからだろう。私としてはもうちょっと可愛らしいものを買ってもいいと思う。
きっかけを作った私が言うのもなんだけど、アーシアさんはもう悪魔だから。もうちょっとそういう風に生きてもいいと思う。まあ、結局アーシアさん次第なんだけど。
「うん、いいと思うよ」
「……私もです。いいと思います。とてもアーシアさんらしいです」
「あ、ありがとうございます。で、でも、やっぱり下着を褒められるのって恥ずかしいです」
アーシアさんは手に持った下着で恥ずかしそうに顔を隠した。なぜ服で隠さなかったのだろうか? 今のアーシアさんは傍から見ると変態にしか見えない。でも、下着で顔を隠しているのは、女である私から見ても美少女だと認めるアーシアさん。
そんなアーシアさんが下着で顔を隠す。それはまあ、セーフでないだろうか? これが男性だったら誰でも引く。それが兄さんでも………………ひ、引きます! 今後の会話や対応が気まずくなるのは確実。
しばらくして、自分が顔を隠していた物が下着だと気付いたアーシアさんは、さらに顔を赤くして慌てて下着と顔を離す。
「はうう、こ、これは違うんです~」
顔を真っ赤にしながら言い訳をし始めた。
「け、決してそういう気持ちでこうしたわけではないです! た、ただ顔を隠したらこ、これだっただけですうう~。ああ、主よ。間違いとはいえ、こんなことをした私をお許しください」
服を脇に抱えながら、両手を合わせお祈りをする。もちろん悪魔が神様に祈ればダメージを受ける。祈った瞬間、あううっという可愛らしい声が漏れる。思ってはダメだけど、その光景に可愛いと思ってしまった。
「……アホな子」
小猫ちゃんがずばりと言う。私はそれにフォローできない。だってあながちはずれではないから。
「はあ、これから大変になります。私がちゃんとしないとダメみたいです」
「が、がんばってね。でも、いつもインスタント食品を食べている小猫ちゃんにはいい体験になるんじゃない? 私が毎日作ってやりたいけど、ちょっとそれは無理だからね。だから料理、がんばってみたら?」
「…………分かってます。私の目標は絢乃さんに食べてもらうことですから。がんばります」
「ん、がんばってね」
祈りによるダメージが抜けたアーシアさんと服の支払いをしに行く。値段は…………言いたくない。それほどの値段だった。おかげで財布が空になりそうだった。もちろん兄さんが自分が払うと言ったが、断った。
デートならまだしも、今は小猫ちゃんとアーシアさんの2人がいる。どちらかと言うと友達と遊びに来た、ですね。それに私だけ、というのは卑怯な感じがします。ああ、もちろんアーシアさんのは別です。
アーシアさんにはちゃんとした事情がある。悪魔になった今、荷物のある教会に入ることは出ない。だったらもう仕方がないだろう。
「ちょっと待ってて下さい」
買った後すぐにアーシアさんはそう言った。向かったのは外にあるトイレではなく、店の奥だった。そこにあるのは試着室しかない。なぜなのか分からないけど、私たちは待つしかない。
「……どうしたんでしょうか?」
「さあ? 来るまで待つしかないよ」
「そうですね。待ちましょう。ところでイッセー先輩は?」
「兄さんなら……あそこ」
私は店の外を指す。兄さんはすでに外で待っていた。もちろん日が当たらないように、店の日陰部分で待っているが。兄さんのその額には薄っすらと汗が流れる。やっぱり外は暑いようだ。
正直に言って外に出たくない。汗ってじめじめするから嫌だ。やっぱり冬が大好きだ。冬、万歳!! それくらい大好きだ。小さい頃から冬が好きだったのは、吸血鬼とか魔法とかが関係しているのだろうか?
「あっ、お待たせしました!」
声を聞いて振り返ると、服を着替えたアーシアさんが立っていた。さっきは着ていなかったのでどんな服かしか分からなかったけど、こうしてみると本当に似合っている。
「さっきまでの服はリアスさんの借り物だったので、新しく買った服を着たんです。あとで洗わないといけないですね。あ、あの小猫さん、洗濯機使ってもいいですか?」
「……いいもなにも、あそこは私とアーシアさんの家です。遠慮はしなくてもいいです」
そう淡々と言ったが、その顔には赤みがある。実はちょっと恥ずかしかったのだろう。
「!! そうですよね! 私たちは一緒に暮らすんですよね!」
アーシアさんがうれしそうに言う。小猫ちゃんに言われたのがうれしかったようだ。
「では行きますよ」
「は、はい!!」
「……はい」
外に出た瞬間、熱気が体を触る。なんだか気分が悪くなりそうな感じだった。思わず魔法で体を冷やした。ひんやりとした感じが心地よい。
「ん? お、やっと来たか。遅かったな。やっぱり女の子の買い物って結構時間がかかるんだな。絢乃のときもそうだったが、集団だとなおさらだ」
「それってもっと早くしろって遠回しに言っているんですか?」
「………………そんなことはないぞ」
「その間はなんですか? やっぱり図星だったんですね!! いつもそう思っていたんですね!! うう、ひどい。私は兄さんが喜んでもらえるようにと思って、時間をかけて選んでいたのに……」
顔を伏せ、泣く真似をする。
「……ひどいです。絢乃さんがイッセー先輩のために時間をかけていたのに」
「イッセーさん、私もいくらなんでもそれはダメだと思います」
2人が私を慰めつつ、兄さんに言う。ちょ、ちょっとやりすぎたような気がする。兄さんもちょっと困った顔をしているし。