そして私は目を覚ましました。横を見ると縦になった地面。どうやら寝ころんでいるらしい。起き上がり改めて見回すと木々に囲まれていた。ここは異世界らしいが、木々を見るとあまり変わらない。
ちょっと安心した。見たことのない意味の分からない木が多かったらこんなに安心できなかった。でも、ここは異世界ではないと告げるものがあった。それは鳥だ。なにかグロテスクではないが、あきらかに見たことのない鳥だった。
だって大きさが私の大きさと同じだったから。人間と同じくらいの鳥なんて聞いたことがない。しかもそれが飛んでいる。本当に聞いたことがない。そして、自分が着ている服も見たことがない。動きやすそうではあるが。
着ている服は民族衣装のようなもので、私のいた現代の服と比べると少し古い文明の服に見える。どうやら神様が私のために用意してくれたらしい。あと、見たことのないお金もあった。おそらくこの世界のだろう。どのくらいの価値なのかは分からない。
さて、ここはどこなのでしょうか。とりあえず誰かいる場所に行きたい。でも、怖い。人と関わることを恐れているからだ。前の世界ではそれでも生きていけた。だが、今回の人生は違う。人と関わらなければ生きていくことはできない。
だから関わるために人と会いたいのだ。この世界は私の新しい人生なのだ。だから、がんばらなくては。私は人のいる場所、町もしくは集落などを目指して歩き出した。荷物は食料やお金が入ったバッグと水の入った金属でできた水筒のみだ。
バッグは大きく中身はほとんど食料で重いはずなのだが、重いとは感じなかった。神様がくれた二人の能力のせいだろう。真祖の吸血鬼である一人がいたから。きっと吸血鬼の身体能力のおかげだろう。
吸血鬼の体でよかった。もしも、普通の体だったらこんな荷物は持てなかったから。ん? いや、ちょっと待って。真祖の吸血鬼? えっ、つまり私って人間じゃないってことだよね?
うわ、なんだか気分が悪くなってきた。まさか吸血鬼になっているなんて……。しかも真祖の吸血鬼だから不老不死だし。うう、でもそうだよね。人間の人生という短い時間で終わるような簡単な仕事じゃないよね。
そう考えると吸血鬼でよかった。神様は私に幸せを求めていいと言ったけれども私は仕事をするためにこの世界に来た。神様には悪いけど少なくとも仕事が終わるまでは幸せを求めないよ。
私はとにかくこの森を出ることを目的として歩き出した。ここがどこか分からない以上、こうやって適当に歩くしかない。吸血鬼の体となった私は歩き続けて一時間でも疲労を感じなかった。
以前の私なら十分森の中を歩くだけでギブアップしていた。これが人間じゃない生き物の身体能力。アニメや漫画では異種族が差別されているが、それがよく分かった。こんなに強い身体能力を持っていれば恐れて差別したくなる。
力といえば私も魔法がつかえるのだろうか。あんまり使いたくはないけど、自衛のためもある。神様も言っていた。持っているのと持っていないでは違うって。それに合わせるなら使い方を知っているのと知らないのでは違う。
ではさっそく使ってみよう。『ネギま』の魔法だと始動キーが必要らしい。まずはそこからだ。でも、それは難しいな。どうしようか。そうだ! ならすでにある始動キーを使わせてもらおう!
だから、使うのは『エヴァンジェリン』の始動キーだ。私が一番好きなキャラクターだ。
「えっと、まずは魔法の矢からやろうか。『リク・ラク ラ・ラック ライラック 光の精霊三柱 集い来りて敵を射て 魔法の射手 光の三矢!!』」
手のひらをすぐそばにある木に向けて言った。だが、なにも出なかった。どうやら練習が必要なようだ。はあ……人生はそんなに甘くないということですか。でも神様。これくらいすぐにできるようにしてもいいじゃないですか。
だって私は神様の依頼でこの世界に来たのに。思わず神様に向かって文句を言う。と、そのとき、何かが茂みから飛び出してきた。それは小さく白い物体だった。この世界には見たこともない動物もいるということもあって、私は驚き、
「きゃあっ」
悲鳴を上げてしりもちをついてしまった。こんな情けないところを誰にも見られなくてよかった。立ち上がってその飛び出したものを見る。
「ワンッ!」
それは白い毛並みの揃った犬だった。まだ子犬であった。だが、ここは異世界だ。やっぱり犬も普通ではなかった。その背中には毛と同じ白い小さな羽を持っていた。普段、羽の生えていない犬を見慣れている私にはその犬が異形に見えた。
私は思わず後ろへ後ずさる。羽がなければ私はすぐに撫でただろう。でも、ごめん! まだこの世界に着たばかりの私にはちょっと難易度が高い。そんな私に対して子犬は首を傾げ勢いよく尻尾を振って近づいてきた。
「ひゃあああああああっ」
私は声を上げて逃げた。それを子犬は遊びだと思ったのか追いかけてきた。思いっきり走って気づいたが、私の走りはスピードが出ていた。きっとオリンピック選手にでもなれるほど、いやそれ以上かも。これも吸血鬼の体のおかげだ。
これで追いつけないだろうと思って後ろを見るが、子犬は私のすぐ後ろを走っていた。
「な、なんで追いつけるの!? 子犬だよね!? ありえないよ!!」
オリンピック選手以上のスピードで走る私も十分でありえない。
「お願い!! 止まって!! 追いかけないで!!」
情けなく子犬に言うが異世界とはいえ、動物には言葉は通じなかった。
「うわああああああんっ。なんで追いかけてくるのよぉぉぉぉ!」
オリンピックの選手以上で走る私に同じスピードで追いかけてくる子犬に、私は走りながら泣いた。だって子犬なのに同じスピードで走ってくるのだ。恐怖以外のなにものでもない。
私はそれから何時間も走り続けた。ただてきとうに走り回った。それはもう自分でさえもどう走ったか分からないほど。そして、私はついに体力が切れて子犬のほうも体力が切れて同じ場所で倒れこんだ。
すでに日も傾き空は茜色に染まっていた。どうやら異世界でも日没は私の世界とは変わらないということが分かった。違うのは動植物だけなのか。まだ分からないことだらけだ。
「うう、ゲホッゲホッ」
「クゥ~ン」
子犬と私の距離はあとわずか。しかし、もう体力の限界でそんなことは気にしていなかった。それで結局のところ、私は子犬から逃げることはできなかった。だから、この勝負は私の……
「……負けたよ。君の勝ち」
「ワウ?」
子犬は寝そべった状態から首だけを上げて首を傾げた。なんだか、羽がある犬にも慣れた。今では可愛く思える。だけどまだ触るのには抵抗があった。でも、
「ほら、だって私が逃げて君が追いかけて私は、逃げられなかったんだよ。だから君の勝ち。ほら、おいで」
私は勇気を出して手を差し出した。子犬は這って私の手元へと来る。そして、その小さな舌でペロッと私の指を舐めた。舌の生暖かい感触がした。そして、子犬は私の手にその小さな顔をすり寄せる。
それがなんとも愛らしい。私は体を起こし座り、子犬の体を抱きあげる。もう羽の生えた子犬に触れることに抵抗がなくなった。もう、なんで私は羽の生えたこの子犬に抵抗感があったのだろうと思うほどに。
こうなってしまえば、もうどんどん愛着が沸いてくるだけ。私のこの子犬に対する気持ちはすでに自分のものにしたいと思ってしまうほどだ。
「ふふふ、いい子だね。そういえば君のお母さんは? いたの? いたら……ごめんね。私が逃げたせいであの場所から遠くに離れちゃった。君を帰すことは私には無理だよ。だから……」
続きを言いかけて私以外の誰かの腹がぐう~~っとなった。とても小さな音だった。ここにいるのは私以外では羽の生えた子犬以外にいない。
「ワンッ」
「ん? お腹が減ったんだね。そうだよね。あれだけ走ったんだもの。でも、私はこの世界の植物や木の実がどれが食べられるかなんて分からないし……」
自分の世界の植物や木の実でも分からないが。私は困る。食べ物がない。そこでふと背中に背負っていた物の存在を思い出した。
「あっそういえば、バッグがあったんだ。重さなんてあんまり感じなかったから忘れてた。確かバッグの中に食べ物があったはず。それでいいなら食べる?」
「ワンワンッ」
「食べるってことでいいよね?」
私はバッグを下ろし、中から食料を取り出した。やっぱり食料も見たことがない。おそらく全部携帯食だ。私は取り出した食料を一部をちぎって子犬の前に出す。子犬はそのにおいを嗅いだ。
しばらくするとぱくりと一口で食べた。美味しそうに食べている……のかな? それを見て私も一口、食べてみる。う~ん、美味しいくもまずくもない味だな。やっぱり文明の高さの違いか。
きっと前の世界のような美味しい食べ物を食べるにはちょっと苦労しそう。それか自分で作るしかない。私だって引きこもる前はよく料理を作っていた。材料さえあれば少しは満足できる料理ができる。
だけど、ここでいい質の材料があるのだろうか。私のは材料があってこその話だから。なかったらと思うと、それだけ私の世界の食文明が発達していたということだ。
「はあ……思ったけどここはどこなんだろうかな? 君は分かる?」
「グル」
「君に聞いても分かるのか分からないのか、それさえも分からないね」
「ワンッ」
「うわっ、ちょ、ちょっと舐めないでよ」
ああ、なんだかこの子を手放したくないな。さらに愛着が沸いてきた。この子となら私は何でもできる気がする。だから、
「私と一緒に来る?」
言葉は子犬には通じない。にもかかわらずそう言った。だが、子犬は
「ワンッ!!」
今までで一番大きな声で吼えた。互いに言葉の通じないもの同士だったけど、私にはそれが肯定を表していると感じた。それを表すかのように子犬も尻尾を激しく振ったり、私に体をすり寄せたりした。
ああ、本当に可愛いな。この子はもう私のもの。これからはずっと一緒だ。
「これからは私の家族だからね。だからまず名前からだね。君の名前はエイナだよ」
「ウウ?」
「君の名前だよ。エイナ。数字の一って意味だよ。君は私の初めて会った生き物だしね」
多分まだ『エイナ』という言葉が、自分の名前だと分からないだろう。でも、これが名前だと認識するまで言い続ければちゃんと認識してくれるはずだ。
「それじゃ今日はとりあえず寝よっか、エイナ」
すでに日は完全に落ちて月明かりだけが私たちを照らす形となっていた。体力を使い切った私たちは寝ることにした。もちろんここにはベッドはないし、小屋もないので外で寝ることになる。一番心配なのは寝る場所ではなく、寝ている間に凶暴な獣が襲ってくるかこないかだ。
いくら身体能力が高くなったとはいえ、魔法は使えないしこの生き物であるエイナは、私と同じスピードを走ることができる。なのであまり身体能力はあてにならない。本当にここの動物たちって怖いよ。
エイナが成長したらもっと速くなるのかな? うう、考えただけで背筋に寒気がするよ。あと早くちゃんと魔法を使えるようにならないと。私は草で柔らかな地面に何もひかずにただ横になった。
布団はもちろん、それに代わることもない。でも、多分大丈夫だと思う。今の気温からしてそこまで寒くはならないと思う。
「おやすみエイナ」
「ワウッ」
初めての世界での一夜は初めての野宿だった。布団に慣れている私が何も文句も言わずに野宿なのだから、私自身もそんな自分に驚いていた。そして、すぐに寝た私にも。まあ、寝心地はいいとは言えなかったけど。
私は夢の中で明日の予定を考えていた。明日はちょっとだけ魔法の練習をして、てきとうに歩こう。早く誰かに会いたい。
そして、翌朝になる。エイナが私の顔を舐めて起こした。おかげで私の顔は朝からよだれで濡れていた。うう、よだれ臭い……。しかもベタベタするし。私は水を探す。だが、私の見える範囲にはない。私はこの高い身体能力を使うため目を閉じ耳を澄ませる。
吸血鬼の身体能力なら多分聞こえるはず、近くにある川の水音が。集中してしばらく。うん、聞こえた。私の耳は川の流れる音を捉えた。ここからは数百メートルくらい離れている。
前の私ならともかく今の私なら楽々だ。私はバッグを背負う。
「ちょっと移動するよ。朝ごはんはそれからね」
「ワウン」
そして、歩き出した。私が前でエイナが私の後ろからついてくる。トコトコと私の後ろを歩くのでそれがとても可愛かった。本当にどうしてこんな子犬があんなスピードを出せたんだろうか。
私、この世界で生きていけるのかな? エイナと同じ種類の大人の犬に会ったら死んじゃうかもしれないよ。チラッと見た私にエイナは首を傾げていた。歩いて数分。耳を澄ませなくても川の流れる水の音が聞こえてきた。
そして目視でも確認ができた。結構大きな川のようだ。ここから川までは約二メートルほどの高低差があった。しかし、緩斜面のため楽々と降りることができた。川岸に降りた私はさっそくそこで顔を洗う。
冷たい水が顔に当たる。そして、顔に付いたエイナのよだれと少々残る眠気を洗い流した。さっきよりも頭がすっきりとする。
川を洗ったあとは水も飲んだ。隣でエイナも飲んでいた。私たちの向かいの岸を見ればそこにも水を飲んでいる動物がいた。私よりも大きい。こっちも見たことがない。やっぱり異世界だなあ。あれ、肉食じゃないのよね?
初めて見る草食か肉食か分からない動物に警戒しつつ、水を飲んだ。飲み終わるとその場で食料を出す。よく分からない動物が対岸にいるというのに、ここで朝食を食べようとする私はバカなのか?
「ほら、お食べ。今日はいっぱい歩く……けど、昨日あんなに走れるって分かったからこういうのはいらないね。とりあえず今日は人に会いにいくよ。いい?」
「ワンッ」
「多分だけどこの川沿いを歩いて行けば、きっと何か誰か見つけられると思う。水あるところに人あり、だからね」
「ウウ?」
「ふふふ、気にしないで。さてと、私も食べよ。はむっ」
私も食べ始める。やっぱり美味しくもなくまずくもない。早く美味しい料理を食べたいよ。エイナは勢いよく食べている。
「エイナはよく食べられるね。美味しいの?」
「ハグハグハグッ」
「………………」
「ハグ、ハグハグハグ」
「……聞いてないし」
私はエイナが食べ終わるのを待つ。その間は簡単な魔法の練習をする。もちろん全く何も起こらなかった。昨日今日始めたばかりで、なにも起こるはずがない。早く使えるようになりたい。
じゃないと襲われたときの自衛できない。もちろん殺すわけではないが。殺すなんて私にはできない。そういう世界で生きたから。多分、きっとその甘い考えのせいで死に掛けるだろう。いや、死ぬ。やっぱり誰も殺さずになんてなにかのプロ以上出ないと無理だ。
何か武術もやっていなかった私では無理。誰も殺さずに戦うには傷を一瞬で回復できる人間でない別の生き物でないと無理な話。そう思うと吸血鬼でよかった。どうやら私はうまい選択を選ぶことができたようだ。
あのときエヴァンジェリン以外の人物を選んでいたら、どうなっていただろうか。考えたくもない話だ。
「ワウッ」
「ん? 食べ終わったの?」
エイナは私の足にすり寄ってじゃれていた。私はエイナのその小さな体を私の目の高さまで抱き上げた。その顔はどう見ても犬という顔だった。うん、やっぱりどう見ても犬だ。だけど背中を見れば羽がある。毛と羽は純白といってもいいほどの白。
そして、エイナ自身を見ても汚れなんてないかのようだ。天使なんていってもいいくらい。羽も付いているしね。
「よし! 行こうか!」
「ワンッ」
「今日は絶対に誰かに会うんだから!」
「ワンッ!!」
私の勢いのある声とともにエイナも吼える。
「美味しいご飯を食べたいしね!」
「…………ワウン」
「あれ? 反応が……。そ、そんなに楽しみじゃないの?」
「ワンッ」
「そ、そうなんだ。エイナは犬なのにえらいね。私なんかもっとうまいものが食べたいって思っているもの。でも、何か欲しいのがあったら言いなさいよ。……………………お金はちょっとしかないけどね」
「?」
私はエイナを地面に降ろし、歩き出す。今日はとりあえず誰かに会うことが目的。なので、川沿いを歩くことにした。川を正面としたとき、左に山があったので右へ歩く。川下のほうが人がいそうな気がしたから。しばらく川沿いを歩いていると水を飲みにきた動物たちをよく見かけた。
やっぱりどれも見たことがない。その動物たちは私たちを見るとすぐに逃げ出した。速さはどういうわけか私たちよりも遅いような気がする。チラッとエイナを見る。この子が特別なのかな?
だとしたら、なにかとんでもないものを拾ったのかもしれない。だって天使みたいだし。
「ん? どこ見ているの?」
ちらっと見たエイナは川のほうを見ていた。私も見ると川にはいくつもの波紋が広がっていた。ああ、川にいる魚か。私が川を見ている間にも魚は跳ねる。その時に見えた魚の体は私の知っている魚の姿をしていた。
いや、そもそも前の私の世界の魚の名称すら知らない私には、この世界の魚すら同じように見える。
「あれって美味しいのかな?」
昨日からあの携帯食しか食べていない私には魚=食べ物以外の式が思い浮かばなかった。
「でも、釣り竿持ってないから捕まえられないなあ。手づかみも無理。やったことないし。それに熊じゃないし。吸血鬼だもん」
もうあきらめるしかない。魚を食べたいと思うけど、捕まえられないのだから。魔法を覚えて魔法は魚を捕まえるために使おうかな。私は魔法で誰かを殺すつもりはないし、戦闘に使うにしても自衛のために使うから。
私は黙々と歩く。でも、川を泳ぐ魚が気になった。あれ? おかしいな。私はいつから食いしん坊キャラになったのだろうか。やっぱりあの携帯食を食べているためだろうか。私たちは森を抜ける。木々はすくなくなった。
ずっと歩いていると岸と岸を繋ぐなにかを見つけた。吸血鬼の身体能力なら離れた場所でも見える。橋だ。見た感じだと木でできているしっかりとした橋だった。新しくないというのが見ても分かるほどの汚れぐあい。
だが、近づいて分かる。手入れが行き届いているせいか、全く崩れそうな感じはしない。誰もが道を歩くようになにも心配もせずに歩ける橋だ。あきらかにここ最近も使われていると分かる。
私の心の奥底から二つの感情が湧き出た。一つは恐怖だ。私の前の人生は親友に裏切れたそのときの恐怖。人に会いたいのに昔の出来事がそれを拒む。これってトラウマなのだろうか。
きっと私はこれに縛られるのだろう。たとえ人と仲良くできても心の中では、この恐怖が息づいていくだろう。いつまでも消えないのか。全くあの親友は最後にとても大きなものを私に置いていった。
そして、もう一つは喜びだ。恐怖が大きいが、その中でもちゃんと存在している。人に会うことが怖いが、だが会いたいと。その感情は恐怖と比べるとやはり小さい。だが、それでも人に会いたいという気持ちは大きくなるばかりだった。
「エイナ! やっと人に会えるよ! 人に会えたら美味しいごはんを食べれるよ!! あ~、どんな料理があるのかな~? 楽しみだなあ」
「ワウワンッ」
「あはは、人と会えるんだよ!!」
私はエイナを抱き上げてその場ではしゃぐ。誰かがいたら絶対に笑われているだろう。
「うう~、風呂もあるのかな! あったら入りたいな。エイナもそうでしょう? ほら、だってせっかくの白い体がドロだらけだもん」
「ワウ」
エイナも頷く。ん? 私の言葉が分かったのかな? だとしたらうれしい。もしも通じてなくても、なんとなくで感じ取ってもそれはさらにうれしい。それは意思疎通で心と心が通じ合っているということだからだ。
「でも、橋はあったけどどっちに人がいるんだろう。どっちにも道はあるけど人がいるのはどっちだろう? 多分どっちにも町か集落があると思うけど……。そうだ!! さあ、エイナ!! 出番だよ!! においで人がいる道を探して!! 美味しいご飯と風呂のために!!」
私はエイナを地面に降ろし、エイナが動くのを待つ。だが、動かない。ただ、私の足元で私にじゃれるだけ。
「…………うん、そうだよね。ああ、別に大丈夫だからね。ちょっとしか期待していなかったから。はは、てきとうに歩こうか」
「ワウンッ」
「じゃあ、どっちにしよう」
私はそこらへんにある木の枝を折り、それをまっすぐに立てる。木の枝はバランスを崩し右へ倒れた。
「よし、決まった! 右の道へ行こうか!!」
私はエイナを連れて歩く。なんだか自分で決めたのに迷いそうな気がしてきた。私の人生も迷いそう。そう思いながら進んだ。うう、本当に迷わないよね? なんだか本当に迷いそうになってきた。
これってフラグってやつなのかな? 今から反対側の道へ戻ろうかな。どうしようか。
「……ねえ、どっちの道がいいと思う? やっぱり引き返そうか?」
思わず聞いてしまう。だが、エイナは顔を伏せて黙々と歩く。どうやらエイナは答えたくないみたい。ねえ、どうして何も言わないのかな? ちょっとは何か吼えるかなにかしてほしい。
とても不安だらけなんだけど。ちょっとは私の心配をなくそうとしてほしいよ。
「に、人間!?」
この世界に来てやっと人語を聞いた。すぐに声の持ち主のほうを見る。そこには私のような肌を持ち、四肢がありちゃんと二本足で立っていた。つまりは人。性別は女のようだ。彼女はまだ幼い顔をしているが美少女という言葉が似合う容姿だった。少女は腰を抜かしたのか尻餅をついて涙目になっている。
だが、私はそんなことを気にせずに自分の気持ちを表に出した。思いっきり拳を天に突き上げてジャンプした。
「や、やった!! 久しぶりの人だ!! あはははっ、やったやった!!」
「ひいいいいっ」
怯える少女を無視して私ははしゃぐ。
「ほら、エイナ!! 人だよ!! 今日の目標は達成!!」
「こ、殺さないで!!」
「どうしよっかな~どうしよっかな~!」
「死にたくない!! お願いだから!! どうか命だけは!!」
「しかも獣耳だよ!! 獣耳!! ん? ちょっと待って、獣耳?」
よく少女を見ると確かに人間にはないはずのものがあった。獣耳と尻尾だ。色は炎のように赤い。髪もまた赤髪だ。背は私のほうが大きい。ん? 獣耳? 尻尾? ま、まさか人間じゃない!? その事実に私の顔が喜んだまま固まる。こういう種族って獣人って言うんだよね。私はアニメなどの知識から推測する。
ということは私は人間側じゃなくて妖怪たちのほうへ来てしまったということ? ど、どうしよう。そういえば、この少女は私に命乞いをしていた。つまりは今の私はすぐに攻撃はされないということだ。
よし! これなら争わずに済む。それに人間だと勘違いされているけど、それも大丈夫だ。私は吸血鬼だから。さて、ちゃんと言って安心させよう。少女を見ると、
「お願い……お願い!! なんでもしますから!! 命は!!」
泣いていた。どうしようか。あれ? 思ったけど私ってなんで人じゃない子を見て嫌悪感とか生まれないんだろう。まあ、その理由はもう自分で分かっているけどね! だってこの子、可愛いんだもん! こんな可愛い子に嫌悪感とか生まれるわけがないよ!
「えっと、安心して。私は何もしないから」
「う、うそよ!! 人間はそう言って騙すって言ってたもん!! 嘘を言うくらいなら、正直に言ってよ!!」
「本当だって。何もしないよ。それに私は人間じゃないもの」
「また嘘を!! どうみても人間じゃない!! さあ、もうあなたの好きにしなさいよ!! で、でも命だけは……」
好きにしていいよって言ったのに命はダメなのか。それにしてもこの子ちょっと興奮し過ぎだよ。でも、仕方ないか。この世界では大きく分けて二種が争っているんだから。争っている相手と会ったらこうなるさ。そして、私はこの少女の命をどうこうする気はない。
う~ん、それにしてもこの子がそんなことを言うとなんだかこっちも(別の意味で)興奮しちゃうよ。なんだか悪戯しちゃいたい。あれ? 私って悪戯をしちゃうような子だったっけ? 隠された性癖? ともかく私の唇が弧を描く。妖しい笑みだ。
「へえ、そう。好きにしていいんだ。だったら服、脱いでもらおうかな♪」
「女なのに同性の裸を見たいの!?」
「あれ? 好きにしていいんじゃなかったの? 抵抗するの? 獣人って嘘つきなんだね」
私は挑発する。
「くっ、この変態!!」
「いいのかしら、そんなことを言って」
「っ!! …………すみません」
少女はゆっくりと手を動かす。そばにいるエイナがなんだか冷たい目で見ているような気がする。気にしないでおこう。
「ほら、まだ?」
赤髪の少女はびくっと体を震わせてゆっくりと服に手をかけた。少女が着ていた服は村娘が着ているような服だった。それ以外に表現のしようがない。きっと近くに村か何かがあるのだろう。さて、そろそろ止めたほうがいいね。
私は別に同性の裸を見ても興奮はしないし、そんな趣味はない。いや、趣味のほうはあるかな。悪戯のね。もう一度言うけど興奮はしないけど。
「もういいよ、脱がなくて」
「す、すみません!! すぐに脱ぎますから!!」
「いや、いいから。もう本当に脱がなくて!!」
「お願いです!! チャンスをください!! 素早く脱ぎますから!! 命だけは!!」
やばいやばい!! なんかやりすぎたし、調子に乗りすぎた。今から誤解を解くってとても難易度が高くない? こんなことになるなんて……。本当にバカなことをした。
「ねえ、本当に命は奪わないから脱がないで!!」
「い、命を奪わないなら」
「奪わないよ。だから脱がないでね」
「……分かりました。ありがとうございます」
少女は深く頭を下げる。その体はまだ震えている。そして、涙目だ。
「ふう、えっとまず謝るね。意地悪してごめんなさい!」
「??」
「私は人間じゃないの。ほら、見て」
私はそこらへんにあった尖った石を手にとって、その尖った部分をもう片方の手に殴りつける。
「……っ」
痛さのあまり私は顔をゆがめる。尖った部分は私の手に深く刺さった。そこからは血が溢れ出る。やっぱり傷ができると痛むんだ。やだな。死ぬ度にこれ以上の痛みを味わうんだ。体中から汗が大量に出る。
ここからが問題だ。少女に傷を見せる。少女は顔を背けながらも目だけは傷を見ていた。その私の傷はすぐに治っていく。
「なっ!?」
「こんなこと人間にはできないでしょ? それにこの八重歯。人間はここまで長くはない」
八重歯が長いことは川で顔を洗ったときに確認済みだ。
「つ、つまりあなたは人間じゃない? 私たちの同属ということ?」
「う、うん、そうだね。こんな見た目だけど人間じゃないの」
人間だった私にはちょっと複雑だ。
「なら、私があなたにあんな命令したのは?」
「本当にごめんなさい。あなたが可愛すぎて意地悪しちゃいました!」
「…………」
少女は顔を伏せる。そして、そのまま数秒。私には数分くらいに感じた。
「ふ、ふざけないでください!! 意地悪で私は同属のあなたの命令に従うなんて真似をしたんですか!? 屈辱です!! 最低です!! どう責任を取ってくれるんですか!!」
「えっと、あなたをもらうという形で責任を取ります」
「同性ですよ!? それで責任を取るんですか!?」
「だって、可愛いから」
「それだけで!?」
「うん、それだけで」
それだけで責任を取るよ。私は誰かと会うことに恐怖している。なのに、この少女に対しては全く恐怖していなかった。この世界で初めて会った人だということもあるが、それだけではないのかも知れない。
なにか運命的なものだと私は思う。だからこの少女と一緒にいたいのかもしれない。エイナと私とこの少女でというのもいい。それでこの世界のバランスを取る、か。人間たちとを仲良くさせるなんてこの子は賛成してくれるのかな?
「もっと他の責任の取り方を思いつかなかったんですか!?」
「う~ん、思いつかなかったよ」
「思いついてください!! しかも即答!?」
「嫌なの?」
「嫌です!! まだ会ったばかりだし、変な出会いだったじゃないですか!! どうしていいって言えると思ったんですか!!」
「ちょっと落ち着きなって。興奮しすぎじゃない?」
「あなたのせいです!! あなたが変な命令しなかったらこうはなりませんでしたよ!!」
「まあ、それよりも君は私が君をもらうということで責任を取るという形で」
「だから嫌だって言ってるじゃないですか!!」
少女は肩で息をするほど興奮していた。
「もう本当に落ち着いたほうがいいよ。ちゃんと空気吸えてる?」
「これもあなたのせいでしょう!! はあ……もう嫌です……」
私は近寄り頭を撫でる。うわっ、この髪さらさらしてるよ! やっぱりこの子も欲しい!! いろんな意味で欲しいよ!!
「なっ、頭を勝手に撫でないでください!! 子どもじゃないんですよ!!」
「そうなの? 何歳なの?」
「じゅ、十三ですけど……」
「子どもじゃん」
「こ、子どもじゃありません!! お、大人です!! そういうあなたはどうなんですか!!」
「私は……十六だよ」
私は前の世界の年齢を言った。もちろんこれは正しい。この体は前の私の体と同じなのだから。
「あなただって子どもじゃないですか!!」
「ん? なら君も自分が子どもだって認めるの?」
「あなたが私のことを子どもだって言ったからです!!」
「ねえ、それより君の村? 町? に案内して」
「いきなり話を変えるんですね!! 自分勝手ですね!!」
「実は私、ちょっと記憶がないの。覚えているのは私が人間じゃないことと年齢だけ。だからずっと困っていて……」
私はついさっき思いついた設定を話した。こっち側の生き物である私がこっち側のことを知らないのはさすがに怪しすぎる。だけど、記憶がないのなら別だ。記憶がなければ覚えていないことにも誰もが納得できる。
そう思って言った。さて、こう言ったからにはちゃんと気をつけなければ。だから下手に何かを言わないようにしないと。
「そ、そうなんですか!? ならなんでそう言わなかったんですか!! というかよくそんな不安な状態でそんな話をすることができましたね!!」
「心配してくれているの?」
「ち、違います!! いえ、心配はちょっとはしてますよ。だって記憶がないんです。それは怖いじゃないですか。もう無理しなくていいんです」
少女は私を抱きしめた。いきなりのことで私はびっくりした。え? なんで私は慰められているの? 私よりも小さい子に慰められるなんて。しかも可愛い子に。男じゃないけどちょっとどころかとてもうれしいな。
思わず頬を緩む。そうやって少女にデレデレしていると、エイナの冷たい視線が私に突き刺さる。そういえば、さっきからかまっていなかった。ああ、ごめんね。あとで思いっきり可愛がるからね。
でも、今はこの少女のぬくもりを楽しもう。それに私の目の前にある獣耳。これも触ってみたい! でも、今はダメ。今はぬくもりを楽しむから。楽しみを今、全部楽しむのはダメだ。
もちろん私たちの出会いがもうないということだったら話は別だが。しかし、それはないだろう。なにせ私はこの子に町に案内してもらうから。そして運がよければこの子の家に!!
「あなたが十六でも今は年下の私に甘えてもいいんです。あなたは記憶がないんですから」
「うん、甘えちゃおう♪」
私も少女に思いっきり抱きついた。私の頬に柔らかな胸が当たる。うわっ、まだ未成長だけど結構胸がある。わ、私くらいはあるかも……。私のほうが三歳も年上なのに。いや、待って。これは頬で感じているからそう感じるからかもしれない。
手で触ったら実はそこまでないんじゃないのかな? そう思ってゆっくりと手を移動させる。そして、触れた。
「きゃっ、な、なにするんですか!!」
「…………」
私は無視して触れるだけでなく、揉んでみた。柔らかい感触がした。や、やっぱり同じくらいだった。と、年下に負け……てはないけど、同じくらいだなんて。
「だ、だから何するんですかっ!!」
「あうっ」
少女が私の頭を殴った。あんまり痛くはなかった。
「せっかくこっちは慰めていたのに!! どうしてそういうことをするんですか!!」
「どうしてってそれは君のことが気に入ったから。これはもう一種の愛だよ、愛。この気に入ったというところを大好きに変えてもいいよ」
「こ、告白ですか!? しかも同性なのに!!」
「ああ、違うよ。私は異性しかそういう対象にはならないから。ただ同じくらいってこと」
「……複雑です。ちょっと喜んだ私が恥ずかしいです」
少女は頬を染める。ああ、こんな反応もあるんだ。同性だけどこんな可愛い反応をされたら好きになっちゃうよ。もちろん、恋愛感情ではないが。少女はコホンっと咳をする。
「はあ……それで私の村に行きたいんですよね。案内します」
「ありがとうね」
「いえ、礼なんていいです。それよりも歩きましょう。私の村はちょっと時間がかかるので」
少女を先頭に私たちは歩く。私はエイナを抱きかかえて歩いていた。全くかまってもらえなかったエイナは、機嫌が悪かった。私が頭を撫でてもぶすっとしていた。次に体を撫でると尻尾で抵抗された。
ありゃりゃ、そんなに寂しかったんだ。それはとても悪いことをした。でも、こういうエイナも可愛い! でも、いつまでもこのままというのはちょっと……。
「ねえ、エイナ。ごめんね。別に忘れていたわけじゃないの。ただね、今前を歩いている子がとても可愛かったから、ね」
「…………」
「もう、本当にごめん。だからそろそろ機嫌治してよ」
「………………」
「エイナ~」
やばいよ。本当に機嫌が悪い。それもただ機嫌が悪いわけではないみたい。嫉妬だと思う。エイナとはまだ昨日知り合ったばかりだが、エイナは私に相当深い感情がすでにあるようだ。
そうだと分かるとなんだかうれしくなる。なので思わず優しくギュッと抱きしめた。エイナはまだぶすっとした態度だが、尻尾が大きく揺れているのを見ると実はうれしいようだ。もう本当に可愛いんだから。そのとき少女が振り向いた。
「ちょっといいですか?」
「ん? 何かな?」
「そのウルフとはいつからの付き合いです?」
「昨日からの付き合いだよ。まだ会ったばかりなんだ。ん? ちょっと待って。ウルフ? ウルフって言った?」
「言いましたけど?」
「……エイナってウルフなの?」
「え? はい、ウルフですよ。正式名は羽が生えていることからウィングウルフと呼ばれています」
「い、犬じゃないの?」
「いえ、犬じゃありません。それに犬は人間側の大陸にしかいませんよ。何を言っているんですか?」
う、うそ。え、エイナってウルフだったの!? こ、この顔で? エイナの顔はどう見ても犬にしか見えなかった。いえ、そもそも狼の顔を私はよく知らないのですけどね。だって前世の世界で狼なんて野生でいなかったんだもん。
知っているわけがない。犬だって飼ったことがなかったので、犬の顔だってぼんやりとしか覚えていない。なので分からなかった。
「それにしても珍しいです。白い毛並みなんて初めて見ました」
「他のウルフはどんな色なの?」
「薄茶色や黒に近い灰色とかですね。それが主です。それにしても、そのウルフを育ているつもりですか?」
「もちろん。この子は私の家族だからね。ずっと一緒だもん!」
「そうですか。でも食べ物はどうするんですか? 大人になるとウィングウルフは結構な量を食べるんですよ」
「大丈夫だよ、きっと」
まだ仕事なんてやっていないけど、それでも狼一匹養えるだろう。
「本当に分かっています? 家畜用の動物を一日に数匹ということですよ」
「…………………………………………………………………………なんて言った?」
「ウィングウルフは家畜用の動物を一日に数匹、食べるんです」
どうやら私の聞き間違いでもないらしい。私は抱きしめているエイナを見る。いつの間にか機嫌がよくなったエイナはペロリと私の顔を舐めた。なんだか信じられないな。だってこんなに小さいんだよ。なのにそんな家畜用の生き物を数匹だなんて。
とてもじゃないが信じられない。だが、少女が嘘をついているようにも見えなかった。そもそもこの少女が出会ったばかりの私に嘘をついても何のメリットもない。私はその事実にエイナを養える気がしなかった。
「うう……ごめんね、エイナ。私、エイナを養えないかもしれない」
「クゥン?」
「言い訳だけど私はエイナがそんなに大きくなるなんて思っていなかった。犬程度の大きさになるって思っていたの」
私はエイナとずっといたいと思っていた。だけど、私にエイナを養うことなど無理だ。ならばエイナとは今すぐにでも別れたほうがいい。幸い私たちが出会ったのは昨日。エイナは私に懐いているが、まだ間に合うレベルのはずだ。
ここで別れたほうが傷は小さくて済むはずだ。そう思って私はエイナを地面に下ろす。エイナは私のこの行動がどういうことか分かっていない。私は隣にいる少女に顔を向けた。
「どうする気なんですか?」
「エイナをここに置いていくことにするよ」
「いいんですか? 昨日会ったばかりとはいえ、大切なウィングウルフなんですよね?」
「うん。だけどそうだとしても養えなかったらこの子を逆に苦しめちゃうからね。だから置いていくの。この子は寂しい思いをさせてしまうかもしれないけど、この子はもともと野生の生き物だもん。本当はこれが普通だから」
私に置いていかれるということを理解できていないエイナは頭を私に摺り寄せる。その行動に思わず置いていきたくないという未練が大きくなる。
「そういえば聞いたことがあります。魔法に成長を止めるものがあると」
少女がいきなりそう言い出した。その情報に私は思いっきり食いつく。そう、少女の両肩を掴んで、顔と顔がもうすぐでくっつくほど。
「そ、それって本当!? うそじゃない!?」
「は、はい。本当です」
「どこに行けばその魔法をかけてもらえる!?」
「わ、私たち獣人には無理です。魔人たちじゃないと無理です」
「魔人?」
「し、知らないんですか? あと、手を退かしてください」
「知らない」
どういう種族なのだろうか? 私は怖いとも思いつつ会ってみたいという気持ちもあった。いや、怖い? ううん、そんなことよりも会いたい。とにかく会いたい。そういう気持ちが私の心を占めていた。
ふふふ、前世であんなにひどい目にあったのにね。それにさっきまで誰かに会うこと自体が怖いって思っていたのに。この少女に会ったから変わったのかな?
「そう、ですか。記憶がないんですものね。分かりました。説明します。その前に手を退かしてください」
「説明お願いね」
「でも説明は移動しながらで内容は私たちと人間についてだけです」
「なんで?」
「ごめんなさい。もうすぐで村に着くのでそれ以上は無理と思うんです。それに私はあまり詳しくないですから」
「そう。それにしても君って言葉遣いが丁寧だね。もうちょっと私にみたいに気楽でいいんだよ?」
「嫌です。知り合ったばかりの人とそんな風にはしゃべれません! それと早く手を退かしてください!」
私も本当はそうだけどこの少女には素でしゃべっている。
「そう。なら君と仲良くなって気楽に話せるような関係になる!」
「そ、そうですか。は、話しますね。私たちは大きく分けて二つの種類です。一つは人間。二つ目は私たちです。私たちは多くの種族が集まっているので、特にといった呼び方はありませんが、人間たちからは『妖怪』『物の怪』『魔族』なんて色々な言葉で呼ばれます」
なるほど。神様は妖怪とかって言っていたけどね。まあ、たくさんの種族があるから、呼び方は仕方ない。
「そして、私たちと人間は二つの大陸に分かれて住んでいます。しかし、二つとは言いましたけど、ある意味一つとも言えるんです。それは私たちの大陸と人間たちの大陸は幅が約一キロメートル、長さ約二十キロメートルの陸で陸続きになっているからです。これは私たちが人間のことを嫌い、また人間も私たちのことを嫌っているのが原因です」
「へ~。でもそうなっているならやっぱり犬もこっちにいるんじゃないの?」
「それは育った環境のせいです。理由は分からないんですけど、こちら側の大陸では魔力が漂っているんです」
「こっちの大陸だけ?」
「はい。こちらの大陸だけです。なので魔力の漂うこの大陸の生き物は人間たちの大陸よりも凶暴らしいです」
「そうなの?」
「ええ、そうです。そして、生き物には私たちも含まれます」
なんだろう。少女の体は何も変わっていないのに何かがあるように感じる。私には見えない何かが確かに。私の反応を見た少女はなぜか首を傾げる。
「まさか……見えてません?」
「何を?」
「えっと、これです」
少女はただ立っているだけだ。見えるってなんだろうか? もしかして今、私が少女に感じているもののこと? 見えるものなの?
「その様子だと見えていないみたいですね」
「ねえ、何のこと?」
「私は今、魔力を纏っているんです。普通はこの大陸で生活していたら見えているものなんですけどね。まさか、もしかして人間――――」
「!!」
や、やばい! 怪しまれている!!
「――――側の大陸で生まれて育ったんじゃ……。ありえますね。あちら側には魔力なんて漂っていないそうですから」
た、助かった!
「に、人間側で生まれると見えないの?」
「いえ、ちょっと訓練すれば見えるようになります。もちろん個人差はありますけど。でも、人間側の大陸で生まれるなんてあなたのお母さんは奴隷だったのかもしれません」
少女は悲しそうな顔を浮かべてそう言った。事実を言えるはずがないのでその悲しい顔にさせないようにする訂正できない。
「人間は私たちを奴隷にするの?」
「はい、します。特に私たちのような人の姿をした種族が奴隷にされます。奴隷になるということは人間に捕まるということですが、なぜ捕まるのかというとやっぱり好奇心というもののせいですね。人間側の大陸には珍しい花や実などがあるそうですから。それで運悪く捕まっちゃうんです」
「なら、やっぱり私は人間側の大陸で?」
一応私は名前と自分の正体しか覚えていないという設定だ。ちゃんと話に合わせる。
「おそらくですが」
「そっか。そうなんだ」
「はい……。そして、あなたが記憶を失ったのはきっと人間たちのせいかもしれない。許せない! やっぱり人間は!!」
だんだんと少女は怒りをあらわにした。言葉からしてもその怒りが伝わってくる。私の感覚が鋭くなったせいか、少女の怒りが、怒気が伝わってきた。こ、これが漫画とかでいうやつなんだ。
殺気もこうやって感じるのかな? それにしても他人のことなのにこんなに怒ってくれるなんて、この子はやさしい子だな。ますます気に入ったよ。この子もエイナと同じく私のものにしたい!
そういえばさっき私が責任を取ってもらうって言ったし、それを利用すれば私のものになるはず。まだ時間はある。ゆっくりと私のものにしよう。そして、少女は優しい顔になる。
「でも、もう大丈夫だから。私たちがあなたを守るから」
「あ、ありがとう」
「いえ、仲間ですから」
うう……その優しさが心に刺さる! そこでエイナが吼える。その吼えた方向を見ると人工物が見えた。
「あっほら! 見てください! あれが私の村です!」
どうやら少女の村のようだ。
「あとちょっとしか時間はないですけど、話を続けますね。私たちと人間たちの大陸の説明はとりあえず終わりです。ちなみに沖のほうには小さな島が点々とあるみたいです。でも、そこへ行くことはあまりおすすめはしませんね」
「なんで?」
「海にはどちらにも属さない海竜という名の通り、竜がいるんですよ。竜は強大な力を持ち、その強大な力は私たちが集まっても太刀打ちできないほどの力なのです。竜は普段は大人しいのですが、私たちが船で海へ向かうと力を使って船を沈めちゃうんです」
なんて恐ろしいのだろうか。絶対に勝てないけど、私の仕事には影響はない。私の仕事は彼女たちと人間たちのバランスを取ることなのだから。
「なので人間たちとの戦争ではいつも陸を歩いて移動します」
「戦争、か。前にあった戦争はいつなの?」
「私が生まれる前です。約二十年前ですね」
「戦争は何回目?」
「さあ? それは分かりません。けど、両手足の指で数えられる程度の数ではないと聞きました。次はいつなんでしょうね」
そうだね。いつなんだろう。まだ時間があるのかな? 早く魔法を使えるようにならないと。それからも少女の説明は続く。おかげで基礎知識は大体は覚えた。話を聞くためにゆっくりと歩いていたので予定よりも遅く村に着いた。
村の周りには柵などの侵入者対策はなかった。なのでどこからもが入り口状態だった。村人たちは少女と同じ獣人であった。そして、みんな人に獣耳と尻尾が生えた姿だ。この村の村人を見るとどうやら元となる動物がばらばらのようだ。
判断は主に耳でできる。例えば畑仕事をしているあの獣人の女性は耳が長いのでウサギの獣人、あっちの重い丸太の木を肩に乗せて運んでいる男性は耳が丸いのでおそらく熊の獣人、とこのように判断できる。
みんな私が来てどうやら警戒しているらしく、チラチラと見ていた。やっぱり原因は私の外見のせいだろう。私は人間に近い姿をしているから。でも、今は人間じゃない。吸血鬼だもん。
「そういえばあなたの名前はなんですか?」
「ん、そういえば名乗ってなかったね。えっと、私の名前は……」
どうしようか。昔の名前は……使わない。その名前は昔の私だもん。今とはもう別人。人間ではなくて吸血鬼だしね。ならばこれからの私の名前は別の名前にしないと。でも、別人とはいえ昔の記憶はあるし、やっぱり未練などがある。ならば私のこれからの名前にはちょっと何か意味を込めた名前にしよう。
「? どうしたんですか? ま、まさか本当は名前も?」
「い、いや、違うよ! 覚えているから!」
「本当ですか? 無理しなくていいんですよ。まだ会ったばかりとはいえ、遠慮はいりませんから」
「分かっているよ。私の名前はね、ヴァラート。ただのヴァラートだよ」
意味は『裏切り』。私は親友に裏切られてこうなったから。だからそれをつらくても忘れないようにするため、自分の名前にした。
「ヴァラートですか。分かりました」
「それで君の名前は?」
「私の名前はリントゥイス・マックェレンです」
「リンティス・マッケレン?」
「違います! リントゥイス・マックェレンです!」
「な、なんか言いにくいね」
「失礼ですね!! でも、まあその気持ちは分からなくはないです。ですからみんなからはリンスと呼ばれています」
「そうなんだ。じゃあ、私もリンスって呼ぶね」
「ええ、ヴァラートさん」
私たちは互いの名前を知って、自然と握手した。ふふふ、なんだかやっと互いの名前を知れて一気に距離が近づいたような気がする。
「それにしてもやっぱりヴァラートさんは注目を浴びていますね」
「あう、やっぱりこの見た目だからかな」
「たぶん。でも心配いりませんよ。人間に近い見た目を持つ種族なんていますからね。だから差別されるなんてこともありません。ただちょっと珍しいから注目されているんです」
そう言われて私は少し安心した。よかった。嫌われたりしていなかったんだ。裏切られたりいじめられたりしていたから、そういうことに一倍気を使っていた。そのため私はリンスの横で身を縮めながら歩いていた。
エイナは私の腕の中で顔を覗かせ、珍しそうに辺りを見回していた。そっか。エイナはもともと野生の生き物だもんね。家などの人工物は見たことがないから興味があるのだろう。しかし、私の腕からは出て行こうとはしなかった。
そして、注目を浴びながら村の中を歩き、リンスの足が止まった。止まった場所はある木でできた平屋の一軒家の前だった。
「ここが目的地?」
「はい、私の家です。両親たちへ事情を伝えるのでここで待っていてください」
「ん、分かった」
リンスは家の中へ入る。一人になった私はリンスの家の壁に寄りかかり、エイナの体を撫でたりしながらその時間を潰す。はあ~、なんでこんなにさらさらとした毛なんだろう。エイナは野生で育ったはずなのに誰かに毛の手入れをされてきたみたい。
思わずエイナの小さな体に顔を埋めた。ちょっと獣のにおいが気になるが、それでもそこまできついものではなかった。私はエイナを自分の顔の前に持ってくる。エイナは舌を出して私を見る。こんな仕草をされるとどうしても犬だと思ってしまう。
「ペロッ」
「きゃうっ」
エイナがいきなり私の顔を舐めてきた。
「こらっ。いきなり舐めないでよ。くすぐったいんだから」
一応叱っておく。
「わうっ? わん!」
やっぱり通じていないから反省の色が見えない。エイナは吼えたり私の顔を舐めたりばかりでいた。はあ……仕方ないや。まだエイナは子どもだしね。もうちょっと大きくなるまでは甘えさせてあげよう。
なんだかこうしていると私、エイナのお母さんになったみたいだな。なら本当にこの子の母親になって立派に育ててみようか。私はそう決心する。
「よし! いい、エイナ。今から私がお母さんでもあるからね!」
「わん」
「ん~分かっているのかな? まあ、分かっていなくてもいいや」
エイナはこれからも私といて、ずっと家族なんだから。だから分かっていなくても結局は私がエイナの食料を確保したりするので、母親とあまり変わらないのだ。それにしても遅いな。何をしているのだろう。私は再びエイナを撫で始めた。エイナは撫でられてうれしいのか、翼をぴくぴくと動かす。
そういえば昔は手羽先が好物だったことを思い出す。そう考えた瞬間、エイナの体がびくっと震えた。そして私の腕の中から抜け出そうとする。どうやらそう思ったせいで危機を感じたらしい。
「あはは、大丈夫。エイナの翼なんて食べないよ」
「ぐる?」
「本当本当。だから逃げなくていいよ」
エイナは大人しくなる。また暇になり、ちょっと待っているとようやく扉が開きリンスが出てきた。
「すみません。ちょっと準備に時間がかかりました」
「そう。私のことは?」
「大丈夫です。ちゃんと説明しました。問題ないです」
「どこまで?」
「私に服を脱ぐように言ったこと以外はあらかた全部」
「そ、そう、あ、ありがとう」
「ではどうぞ」
私はリンスの後について行く。家の中に入ると玄関はなく、まずリビングのような部屋に出る。そこには二人の獣人がいた。見た目から言ってリンスの両親だ。女性のほうは茶色の髪の獣人。耳と尻尾は狐や犬などの動物のものだ。細かくは判別できない。スタイルがよく子持ちには見えない。
男性のほうはリンスと同じ赤髪だった。耳と尻尾は熊だ。うん、この丸っこい耳は熊だね。体のほうはがっしりとしていて、胸板や腕、直接肌が見える部分からは筋肉の盛り上がりが分かった。
一通り見て、リンスは基本は母親似で、毛の色は父親似のようだ。父親のほうは体だけを見れば怖いように思えるが、そんなことはなく顔や雰囲気を見れば優しい人だと分かる。
「あらあら、あなたがヴァラートちゃんなのね?」
「え! あ、はい! ヴァラートです!」
「話はリンスから聞いているわ。だからそんなに緊張しなくていいのよ」
私は緊張していた。やっぱり年上が相手だったりするとそうなってしまう。
「わ、分かりました」
「それで私の名前はヴェラ・マックェレンよ。普通にヴェラでいいわ。よろしくね、ヴァラートちゃん」
「は、はい! ヴェラさん」
そういうとヴェラさんはにっこりと微笑む。ヴェラさんとの自己紹介が終わると次は父親のほうだ。私は父親のほうを向く。
「オレの名前はラヴロフ・マックェレンだ。よろしく、ヴァラート!」
がっしりとした大きな手が私の前に差し出される。思わずびくっとなってしまった。私はゆっくりとその手に私の手を出して、握手をする。
「よ、よろしくお願いします、ヴァラートです」
「ははは、緊張するな。これからしばらく一緒に暮らすんだから」
「え!?」
「ん? どうした」
い、今なんて言った!? わ、私の聞き間違いじゃなきゃ……
「い、一緒に暮らす?」
「ああ、そうだがリンスに聞いていなかったか?」
聞いていないよ!! 初耳だし!! 私はぶんぶんと首を横に振る。
「リンス、説明しなかったのか」
「う、うん。あとで説明しようって思って」
リンスは私のときと違って砕けた口調で言う。
「もう、ちゃんと言っておきなさいと言ったでしょう」
「ごめんなさい、ママ」
「今度からは気を付けなさい」
「うん」
リンスは叱られてしゅんとなる。それは雰囲気だけではなく、耳や尻尾を見ても分かる。どちらも地面に向かっていた。
「まあ、とにかくね、ヴァラートちゃんの事情はもう知っているわ。記憶がないんでしょう? だからせめて一人立ちできる頃までは引き取ろうということになったのよ。どうかしら? 私たちと一緒に暮らさない? 私たちとしては一緒に暮らしていいのよ。いえ、一緒に暮らしたいわ!」
ヴェラさんは目をきらきらと輝かせて言った。そこにはただ純粋に喜びだけがあった。この人は心からそう思ってくれているのだ。純粋なものだった。それを感じ取った私はうれしく思う。私は人と接することが怖いのだが、こういう優しい人に対してはそうは感じなかった。
それは前世の両親と同じような感覚だ。そういうのがあったから怖いとは感じなかったのだろう。私はいつの間にかヴェラさんの申し出に頷いていた。
「よかったわ。ヴァラートちゃん、今日からここがあなたのお家よ。ちょっと複雑かもしれないけど私たちのことをお母さんやお父さんと思ってもいいのよ。だから甘えてもいいわ」
「ははは、そうだぞ。そう思ってくれ」
二人はそう言ってくれた。
「ありがとうございます。そして……よ、よろしくお願いします」
私は頭を下げた。ヴェラさんはリンスに向き直る。
「リンス、ヴァラートちゃんと一緒の部屋になるけどいい?」
「うん、いいけどベッドは?」
「うふふふ、決まっているわ。一緒のベッドよ」
「「えっ!?」」
ヴェラさんのその言葉にそれを聞いていた私も反応した。
「ママ、待って!! 確かに私のベッドはでかいけど、ふ、二人一緒なんて!!」
「もう、何を言っているのかしら。別に男の子と寝るわけじゃないのよ。女の子同士でしょう。問題ないわ」
リンスが私を見る。その目には問題あると訴えていた。当たり前か。だって出会いがあれだもんね。私と寝ることに危機感を感じているのだろう。
ドコオオオオン!!
近くで爆発音がします。本当に転生したんだなという実感が湧きます。
私はこの世界のバランスを取ります。
とりあえず、向かいましょう。戦闘が起きているはずです。それを止め、私が仲介に入れば話し合いになるでしょう。
私はどこにも所属していません。私なら問題ないでしょう。
やっぱり戦闘が起きています。見てどちらが人間か分かります。もう片方のほうはあきらかに姿が異形です。
私は空中へ行き、最前線の真上に行きます。なぜか魔法の使い方が分かります。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック』」
個人的にこの始動キーが気に入っているので、これを使わせてもらいます。
「『百重千重と 重なりて 走れよ稲妻 千の雷!!』」
私は空中に向け魔法を放ちます。結構な威力の魔法です。
皆が戦闘を止め、私を見ます。
「双方、戦闘を止めてください!!私はこの双方の争いを止めに来ました!!」
これでおさまるはずです。そう思っていました。ですが、戦闘中にそんなことを言われたって、敵の罠と思い
従わずに続けるということを、私は考えていませんでした。
皆が私に向け魔法を放ちました。
「きゃっ!!『氷盾!!』」
いきなりでびっくりしました。
すべての魔法をはね返します。跳ね返った魔法は使った者には当たらずに地面に当たります。
「私は双方の争いを止めに来たんです!!一旦休戦してください!!」
「奴を倒せ!!奴は危険だ!!」
「あれは人間だ!!罠だ!!奴は危険だ!!倒せ!!」
お、おかしいですね。私は休戦を求めたのに、私を倒そうとしてます。そんなに戦いたいんでしょうか?
私は殺したくないです。
「お願いです!!休戦してください!!私はそのために来たんです!!」
「放て!!」
「やれ!!」
再び魔法が放たれました。
「えっ!?『リク・ラク ラ・ラック ライラック 契約により我に従え 高殿の王 解放・固定!! 千の雷!! 掌握!! 術式兵装 「雷天大壮」!!』」
私は雷化し、すべての魔法を避けます。
「お願いだから休戦して!!聞こえているでしょ!!私はどちらの敵でもない!!」
そう言っていますが、全く攻撃を緩めてくれません。私に攻撃しつつ、相手にも攻撃をしています。
このままではダメです。私がやられます。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!!』」
150フェーと四方の空間が凍りつきます。
「『全てのものを 妙なる氷牢に 閉じよ“こおるせかい”』」
150フィート四方内にいる者がすべて氷柱にに閉じ込められました。
殺してはいません。
「殺してはいません!!お願いです!!休戦してください!!」
この魔法を見て、多くの者が攻撃しなくなりました。
双方から何人かが出てきます。私は武装解除して待ちます。
「私たちは人間側の代表だ」
「俺たちゃ、妖怪たちの代表だ。で、あんたは?」
人間側はまさに魔法使いという服装で、妖怪側は獣のような姿です。
「えーと、私は・・・・」
そういえば、私には名前がありませんでした。ひとまず
「バランスをとる者、です」
にしときます。あながち間違っていませんよね。私は争いを止め、バランスをとるのですから。
「バランスねえ。それは私たちの戦争を止める理由か?」
「はい。どちらかがいなくなったりすると、色々と問題があるんです。なので、私が止めに来ました」
「けっ、俺は信じられねえな。根拠はあるのかよ」
うっ、痛いとこをつかれました。私が神様から聞いたなんて言っても信じてもらえませんよ。
でも、何とかしないと、いけません。
「やっぱり嘘だな。てことで、戦闘再開だな。まずはお前からだ!!」
ドスッ!!
「うっ!!」
獣のような毛むくじゃらの腕が私の体に、突き刺さります。私の口と傷から鮮血が溢れます。
・・・・痛い、超痛いです。本当に泣きそうです。というか、これ死にましたね。
はは、転生して数十分しか経ってないのに、何もできずに死ぬなんて笑えませんよ。
刺さった手が私の体から抜き取られ、私はその場に倒れこみます。
意識が飛びそうです。
「なんということを!!くそっ!!全員戦闘開始!!」
「野郎ども!!戦え!!」
戦闘が始まってしまいました。なんでしょうか?それと同時に体の奥から感情が湧き出てきました。
殺そう。すべてを殺そう。無にしよう。破壊はすべてだ。それは楽しみだ。それは快楽だ。
ふふ、それもいいですね。破壊しましょう。何もかも。それで解決です。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 契約に従い 我に従え 氷の女王 疾く来れ 静謐なる 千年氷原王国 咲き誇れ 終焉の白薔薇 千年氷華 固定 掌握 術式兵装「氷の女王」』」
この戦場すべてが凍りつきました。
さあ、始めましょう。楽しいゲームの始まりです。
「『闇の吹雪×20』」
人間や妖怪たちが次々に吹き飛びます。
「バカな!!あの女は死んだはずだ!!なのになぜ傷がないんだ!!」
うるさいです。私はそいつの足元から鋭い氷をだし、串刺しにします。
静かになりました。でもまだいます。ああ、本当にうるさい。
「奴を倒せ!!でないと全滅するぞ!!」
私の方に攻撃が集中してきました。私は氷柱を出し、それを盾にすることで防ぎます。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 光の精霊1000柱 集い来たりて 敵を射て 魔法の射手 連弾・光の1000矢』」
1000本の光の矢が人間や妖怪たちを殺してきます。あぁ、なんてすばらしいのでしょうか。
体の奥からゾクゾクします。さあ、もっともっと私を楽しませてください!
「殲滅魔法を使え!全員でだ!妖怪側もだ!!今は協力しよう!!でないと互いにやられる!!」
「ちっ。今だけだ!!全員、協力しろ!!あいつだけを攻撃しろ!!」
強力な魔法攻撃が私に向かってきます。私は凍った地面から多くの巨大な氷柱を出します。
魔法攻撃は氷柱を破壊していきます。このままでは氷柱がすべて破壊され、私が的になるでしょう。
「『リク・ラク ラ・ラック ライラック 契約により我に従え 高殿の王 解放・固定 千の雷 掌握 術式兵装 「雷天大壮」』」
氷柱がすべて壊れた瞬間、その場から一気に離れます。秒速150kmなのですべてかわし、離れることができます。
「や、やったか?」
「やっただろう。あれだけ喰らえば、どんな敵でも跡形もなく消し飛ぶ」
「残念だけど私は生きてるよ」
「「「「!!」」」」
「もう終わらせてもらうね。『リク・ラク ラ・ラック ライラック 契約に従い 我に従え 氷の女王
来れ とこしえの やみ えいえんのひょうが』」
再び140フィート四方が凍りつきます。その範囲にいた者も凍ります。
「『全ての 命ある者に 等しき死を 其は 安らぎ也“おわるせかい”』」
パキャアアアアアアン!!
凍ったものが粉砕します。これにより凍った者は完全に死にました。
「て、撤退だ!!撤退しろ!」
「くそっ!!こっちも撤退だ!!」
あー、おもしろかった。あれ?ちょっと疲れたかな。
私はその場に倒れこみ、寝てしまいました。
私が目を覚ましたとき、戦闘が終わっていました。確か、妖怪側の代表者に体を突き刺されたところまで覚えて
いますが、それ以降の記憶がありません。傷は治っています。神様が能力をあの二人のものにする、といっていましたが、これはエヴァの力でしょう。あれ?つまり簡単に死ねないということじゃないですか!
でも、おかげで転生して数十分で死ぬという、無様なことにならずにすみました。
早くバランスを取りにいきましょう。何とかして、話し合いに持っていかないと。
まずは人間側のほうへ行きましょう。妖怪のほうへ行くには、まだ心の準備ができてませんから。
私は人間側の足跡を追って人間側の街へ行きます。
野宿ばかりの生活です。幸いだったのは、雨が降らなかったということと、食料が豊富だったということでしょう。
途中で湖を見つけました。そこで体の汗を流しました。野宿などのせいで泥だらけでしたから、ちょうどよかったです。
街に着きました。いえ、正確には街の門のまえに着きました。おそらく妖怪や怪物対策でしょう。
門の前には警備兵みたいな人がいます。数は数十人くらいです。全員が魔法を放てる体勢です。
「す、すみませんが、中に入れてくれませんか?」
「貴様、人間か?」
「え?は、はい! 人間です!」
思わず人間と答えましたけど、吸血鬼といったほうがいいのでしょうか?
でも、中に入らないといけません。これくらいの嘘はいいですよね?
「少し待て。本当に人間かどうか確かめる。最近は人間に化ける奴が出てきたからな。おい! 例の物を!」
「はっ! すぐに持ってきます!」
そして、持ってこられた物は、ナイフです。
なんでナイフ? というか、警備兵なら最初から持っているでしょう。なのにわざわざ持ってこさせるなんて。
「これは幻術や肉体操作の魔法を打ち破る魔法がかけられているナイフだ。これを軽く血が出る程度刺せばいい。そうすれば、すべてが分かる。では、やるぞ」
チク タラーー
ただ血が出ただけでした。何も起こりません。これで入れますね。
「問題ないようだな。治癒魔法で治そう」
警備の人が傷口に手をかざすと傷が治っていきます。
「街へ入ることへの許可をします。どうぞ」
門が開きました。私は中へ入っていきます。文明は中世くらいです。おそらく、魔法がある影響でしょう。
魔法があるため、科学が進歩していないといったところですかね。
まずはこの場所の一番偉い人の元へ行きましょう。
「すみません。一番偉い人はどこにいますか?」
「あんた変なこというねえ。まあ、いいわ。ここから2ヶ月ほど行ったとこだよ」
に、2ヶ月ですか。結構な道のりです。もうくじけそうです。
「なに落胆してんだい? まさかと思うけど、ギャラビリー・ゲートを知らないのかい?」
「ギャラ?」
「ギャラビリー・ゲートだよ。いわゆる転移ゲート。本当に知らないみたいだね。ちなみに通行料は銀貨3枚だよ」
「……銀貨3枚」
「ないのかい?なら、働きな。銀貨3枚程度なら1週間働けば、簡単に稼げるよ」
「紹介してください!」
「じゃあ、うちで働かないかい?うちはレストランをやっているんだけど、人手がたりなくてねえ。そこでウエイトレス
をやって欲しいんだよ。もちろん、宿付だよ」
「はい! やります!」
ということで、今日から働くことになりました。働く期間は1週間です。
ウエイトレスの服を着て、働きます。働くなんて初めてです。き、緊張します。
「12番テーブルだよ!!」
「は、はい!!」
「ご、ご注文は」
「か、かしこまりました」
「ご注文の料理です。ど、どうぞ」
「い、今運びます!」
「ありがとうございました」
「い、いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
と、このようにがんばりました。つ、疲れました。これが仕事ですか。大人はすごいです。こんなきつい仕事を
毎日するんですから。
「いや~、よくがんばったね。今日は大繁盛だったよ。あと6日間よろしくね」
褒められました。結構うれしかったです。それに失敗もしませんでした。
それから6日間働きました。結果15銀貨です。こんなにあるのは、私が働いた1週間は大繁盛だったからです。
「こんなにいいんですか?」
「銀貨3枚は通行料。金がないんだろう?何か買いたいものがあったときに使いな」
「ありがとうございます!」
転移ゲートを使い、偉い人がいる場所へ行きます。
その場所には城がありました。ここにいるって聞いたので、その人はあの城の中にいるのでしょう。
でもどうすれば会えるんでしょうか?正面から堂々と行ってみましょう。
案外入れてくれるかもしれません。
「すみません。一番偉い人に会いたいんですけど」
「ダメだ。庶民を入れるわけにはいかないんだ。帰った帰った」
「お願いします。急がないといけないんです!」
「無理だ。そう言ったって無駄だ。あきらめろ」
これ以上、この人に言っても意味がないですね。
「なら、あなたより偉い人を呼んでください!」
「ダメだといっているだろう!」
「どうしたんだ」
「し、将軍!」
「何かあったのかね?」
「実はこの方が王に会いたいと」
「ほう、お嬢さん。どうして会いたいのかね?」
あきらかに雰囲気が違います。歴戦の英雄という感じです。
この人なら話が通じるかもしれません。
「私は、妖怪や怪物と人間の争いを止めに来たんです」
「・・・・なぜだい?あいつらは私たち人間の天敵だぞ」
「そうかも知れませんが、どちらも全滅してはいけないんです。どちらかがいなくなると、残ったほうも全滅するんです」
「興味深い話だな。だが、この戦いを止めるわけにはいかない。その話は信憑性にかける」
「なら、どうやったら争いを止めてもらいます?」
「そうだな。話し合えるような状況になれば、どうにかしてやめることはできる」
「本当ですか?」
「だが、お嬢さんの話が必要になる。私個人としても争うは好きじゃない。だが、私は将軍だ。それはなぜか。
自分の家族を守るために戦ってきたからだ。戦い続けていつの間にか将軍になっていた。私は家族が守れればいいのだよ」
「分かりました!じゃあ、今からあちら側に行きます!」
「ちょっと待ちたまえ。お嬢さん一人で行くのか?それは危険だ」
「大丈夫です。私は強いですから」
「・・・・・・本当に必要ないんだな?」
「はい」
「分かった。場所はあちら側と決めよう。王には私が言っておく」
2ヵ月後
私はあちら側にも話を付けました。結構時間がかかりました。
そして、話し合いをすることができました。
「―――――というのが、私が争いを止める理由です。なので、互いに争わないでください」
「確かに片方がいなくなったがいいが、我々人間側も全滅しては意味がないな」
「俺たちも同じ意見だ。こっちも全滅するのは意味がない」
「じゃあ、争いを止めてくれます?」
「そういう話になると、別だな」
「そうだ。俺たちはずっと争ってきたんだ。いきなり止めろと言っても無理だ」
やっぱり和平には時間がかかります。
「和平を結んでもいずれ、どちらかの限界が来る。そのときは、また争いだぞ」
「そうだ。たとえ、うまくいったって限界が来て争う。そうなれば、もう二度と和平なんて結べない。
おそらく、どちらかを全滅させるだろう。そして、君が言った話しのとおりになる」
「なら、その限界が来たとき、私が止めます!!」
「君一人でか?そんなのは無理だ」
「私なら多分止められます」
「その自身はどこから来るんだ?」
「事実ですから」
「ならばその実力を見せてもらおうか!!」
皆が離れ、私と相手だけになりました。
「喰らえ!!」
相手から魔法が放たれます。雷撃系の魔法です。
「あれは上級クラスの魔法!!」
「あんな短時間で放つなんて」
結構な威力を持った魔法のようですが、私から見ればそこまでないです。
「『氷盾!!』」
その魔法を跳ね返します。
「跳ね返した!?」
しかし、放った相手には当たりませんでした。私は瞬動で相手の目の前に行き、近接から無詠唱で「魔法の射手」を
放ちます。
「ぐはっ!」
「『リク・ラク ラ・ラック ライ・ラック 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え! 雷の斧!!』」
「ぐあああああっ!!」
さらに追撃します。一応手加減しました。本気でやると、相手が死んでしまいます。
「あ、あの詠唱を必要とする魔法。ま、まさか!!」
「心当たりがあるのか?」
「はい。2ヶ月ほど前の戦いがありましたよね」
「ああ、謎の乱入者により互いに大きな損害を受けたあの戦いか」
「その乱入者が使っていた魔法が詠唱を必要とするものでした」
「まさか、奴が?」
「ええ、だとすれば、止めるというものも嘘ではなく事実かと」
もういいでしょうか?これで勝負がついたはずです。
「やるじゃねえか。これでも軍のなかじゃ、強いんだがな」
「私の方が強かった。それだけですよ」
「まいった。さっきの手加減しただろう。それであれだ。完璧に負けだよ。いいだろう。和平を結ぼう。
もし、争いが起きたとき遠慮なく頼ろう」
やった!妖怪、怪物側が和平を認めました!あとは人間側です。
「えーと、人間側はどうします?」
「一つ聞きたい。あなたはどちら側のものかな?」
「私はどちら側にもつきません。ただの中立です」
「そうか。決めました。私たち人間側も和平を結びます」
こうして転生してわずか2ヶ月でバランス(第一段階)をとることに成功しました。
それから数百年。
和平は保ったままです。この間に和平に反対するものや、争いがありました。そのたびに私は止めました。
最近は最初に比べると少なくなりました。そして、和平に賛成する互いの者たちが、争いが起きたときの対策
組織を作りました。それは人間と妖怪、怪物たちの協同組織です。その反対に反和平派があります。
反和平派には人間側と妖怪、怪物側の二つのグループがありますが、互いに敵対しています。
和平により互いの交流もするようになりました。仲も良好です。
私の目的はほとんど達成しました。あとは、これを保つだけです。
???side
「本当にやるんですか?」
「ああ、上からの命令だからな。和平なんてあいつがいるから保っていられるんだ。なら、あいつがいなければ
和平は崩れる。それが上の判断だ」
「それで、記憶をすべて消すあの禁断魔法ですか」
「そうだ。そして、あいつを俺たち側にするんだ」
「ですがあれを使うと、肉体にまで影響を及ぼします」
「そう。子供の姿になる。ならば、さらに好都合だろう。家族の絆は強い。俺たちが親となれば、裏切る可能性は
低くなる」
二人の男は蝋燭が1本灯った薄暗い部屋で話す。
ここは、反和平の組織の一室。つまり、「あいつ」とはあの数百年を生きている少女のことだ。
「しかし、あの魔法は並大抵の魔力では成功しません」
「作戦には二百人でやる。そこは問題ないだろう」
「・・・・成功するでしょうか?」
「おそらくな」
二百人がある家を囲っている。そして、その家を囲うように巨大な魔方陣が描かれている。
この家は少女のだ。そして、少女は今この家の中で寝ている。
「さあ、魔力をこめよ」
この世界の魔法は、魔方陣に魔力を注ぎ込むことで発動、もしくは、魔法をイメージし、魔力をそのイメージに
発動するという魔法。
魔方陣は複雑だが、効果は絶大だ。だが、イメージのほうはあやふやなせいか、効果の低い魔法が多い。
だが、イメージをあやふやから少しずつ固めることで、効果を高めることができる。
多くのものが魔方陣に魔力が注ぎ込まれる。少しずつ魔方陣が輝き発動し始める。
本来なら少女は気づいただろう。しかし、少女は気づかなかった。なぜかは分からない。
食べ物に睡眠薬を入れられたのだろうか?長年の疲労なのだろうか?ただ、単純に気づかなかっただけなのだろうか?
とにかく気づかなかったのだ。魔方陣はあと少しで発動する。発動は少女の記憶の消滅と肉体の変化を表す。
ここら一帯に人は住んでいない。つまりだれにも気づかれない。
「あと少しだ!踏ん張れ!」
そして、ついに発動した。
「ハハハ!!ついにやったぞ!!ククク、よし、確認しろ!!」
男たちが入って行く。
しばらくすると、3歳くらいの女の子を抱きかかえた男が出てくる。
「見つけました!!」
「ククク、俺に渡せ」
「はい!!とでもいうと思ったか?残念だが俺は反和平派ではない。ただのスパイだ」
「スパイだと!?いつの間に!そいつをどうするんだ?」
「この子は長年、よくやってくれた。この子には幸せな人生を送ってもらいたい。だから、この世界から別の世界で幸せになってもらう」
「なにを言っているんだ?別の世界?あるわけがないだろう」
「それがあるんだよ。君たちに説明はしない。俺が知っとけばいいものだからな」
「だが、どうやって和平を保つんだ?」
「俺がこの子の代わりをする。俺はこの世界で二番目に強い。一番はこの子だ。そして、俺は不老不死だ。
代わりには十分だろう。まずは君たちを倒そう」
「くそっ!やれ!」
他の者が魔法を放とうとしたが、さっきの魔方陣のせいで魔法が使えない。
「魔力切れのようだな。くらえ」
魔力の弾が放たれた。魔法の基本。だが、込める魔力によって威力は上がる。つまり、術者の魔力次第だ。
込めた魔力は高いそれが数十発。半径3mを吹き飛ばすものだ。
それにより全員が吹き飛ばされ、気絶した。
「終わったか」
その者は魔方陣を描く。そしてその中心に彼女を寝かせる。
その者は魔力を込める。数秒後に魔方陣が発動した。魔方陣が光った。それは暗闇を昼間に変えるほどの
光だった。光がおさまった後には彼女の姿はなかった。
「幸せになれよ」