ハイスクール 鬼と竜   作:謎の旅人

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あらすじ
神様の依頼をこなす為に特典を貰い、とある世界へと転生した主人公。その世界では人間と異形の者たちが争っている世界だった。主人公はその世界で仲間を作り、なんやかんやあってこうなって依頼を完了したのだった。そして、ある日。主人公は一人寝ていると主人公を狙う勢力の魔法によって、記憶と身体の記憶を奪われたのだった。その後、なんかあって異世界へ飛ばされた。


第1話

私の最初の記憶。私が目を覚ましたとき、白い天井が見えた。そしてなにか独特的なニオイのする部屋だ。多分ニオイの正体はおそらく薬品だ。あまりいいものではなかった。なんでそんなニオイのする部屋に? あれ? 私は……

 

 

「母さん、どうやら目を覚ましたようだ」

「よかったわ」

 

 

何かを疑問に思う前に声がした。その声に反応し、上半身を起こしまわりを見ると、男性と女性の方が私が寝ているベッドの脇にある椅子に座っていた。二人は私の知らない人だった。多分、夫婦なのだろう。それを証明するように二人の左手薬指には結婚指輪がはめられていた。それに二人は寄り添うように座っている。

 

 

「なにかしゃべれるかい?」

「はい……」

「しゃべれるみたいだな。だが無理はしなくていい。君の名前は?」

 

 

名前。名前? 私は……私の名前は…………あれ? 私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は………………………………………………!!

 

 

「私は……誰?」

「記憶がないのか。困ったな。何か覚えていることはあるか?」

 

 

何か思い出そうとするが、なにもない。知識はあるけど記憶がない! ああ、とてももどかしい! 私には人生の記録とでもいうべき記憶があるはずなのにない! あったのにない! それがとてももどかしい。それとともに恐怖もある。

 

なにも分からないだけでなく、私の名前すらも分からない。それが怖いのだ。だが、私はそれを表情を出さなかった。それは弱みを見せたくないというプライドのせいなのか。

 

 

「……ありません。何も」

「そうか……。ひとまず君が今、どのような状況なのか説明しようか。君は私の家の庭で倒れていた。外傷はなかったが、一応のため病院へ連れて行き、この病室に寝かせてもらったんだ」

「それは……ありがとうございます」

 

 

そっか。ここは病院だったのか。よく見ればナースを呼ぶコールボタンもあった。ただここは共同部屋ではなく、個室のようだ。窓からは日の光が差し込んでいた。まだ朝になったばかりなのか、日は浅い。

 

 

「君はうちの子と同じくらいなのに礼儀がいいね」

「子どもがいるんですか?」

「ああ、君のと同じくらいの息子だ」

「十六歳くらいですか?」

「いや、五歳だよ」

 

 

五歳? 私自身は十六歳くらいの感じがしていた。だけど、私は五歳くらいということなんだ。どうなっているの? 額に手を当てる。混乱したせいか気分も悪くなった。私は再びベッドに横になった。

 

 

「君は記憶を失って混乱しているみたいだ。しばらく眠ってなさい。大丈夫。ここには誰も君を傷つける人なんていないから」

 

 

そう言われたのでその言葉に甘えて私は再び眠りについた。次に目を覚ましたとき、外は暗くなっており私のベッドの傍にいてくれた人たちはいなくなっていた。そのとき私はついに怖くなり泣いてしまった。

 

あの人たちはまだ会ったばかりとはいえ、優しい人たちだった。少しだけ言葉を交わしただけだけど分かる。だから私も安心できる人だと思っていた。それに私は記憶がない。今の私は五歳くらいだが赤ん坊といってもいい。安心できる環境でないと不安で仕方なかったのだ。だけど、あの優しい人たちがいないこの部屋は安心できる場所ではなかった。

 

病院に入院して八日目。私はどうなるのでしょうか? 私のような状況な子は孤児院が、決まっています。それが気になっていた。あのお二人と会ってから、あの方たちは毎日来てくれました。

 

二人がいないこの病室はただ怖かったけど、二人がいてくれるこの病室は幸せだった。今日もいつものように引き戸が開けられ、男性のほうが入ってきた。

 

 

「やあ、こんにちは」

「兵藤さん、こんにちは」

 

 

毎日来てくれる方の苗字は『兵藤』である。

 

 

「今日は一人だ。それで話がある」

 

 

いつもはこうじゃない。もうちょっと明るい。けど、今日はなんだか暗く真剣な表情だ。なんだか聞きたくないな。だけど、聞かなくては。

 

 

「なんですか?」

「君が孤児院に行くことが決まったんだ」

「!! もう……会えなくなるんですね」

 

 

私は今にも泣き出しそうになった。だって兵藤さんたちは私を救ってくれたのだ。その人と会えなくなるなんて……。

 

 

「だけど、もう一つあるんだ。私たちの家族にならないかい?」

「家族に?」

「そうだよ。孤児院ではなく私たちの家だ。どうかな?」

 

 

それは私にとってとてもうれしいことでした。二人といることができる。ずっと、心が温かいままでいられる。それは幸せと呼ぶものです。私の答えはすでに決まっていました。

 

 

「私を兵藤さんの家族にしてください」

「分かった」

「うぅ……うぐ……うわああああああん!! えええええええん!!」

「ど、どうしたんだい!?」

「えぐ、ううう、ひぐ、うれしくて、涙が、でたんです」

 

 

私は声をあげ、泣き出した。自分は最初16歳くらいと思っていましたが、私は四歳のようです。だからこれくらい、いいですよね。子供みたいに思いっきり泣いたって。四歳だから仕方ないよ。

 

兵藤さんは私が泣いている間、私の体を抱きしめてくれていました。泣き終えたのはそれから数分後でした。兵藤さんの服は私の涙で少し湿っています。ちょっと悪いことをしたな。

 

 

「君には名前がなかったね。だから、私と妻で考えた。君の名前は綾乃(あやの)だ。どうだ?」

「絢乃、これが私の名前」

「そう。そして兵藤家の新たな家族だ。私のことは好きなように呼びなさい」

「はい! これからよろしくお願いします、お父さん!」

「ああ、よろしく、絢乃」

 

 

私はニコリと微笑みます。こうして、私は兵藤家の家族になり、私の名前は絢乃になりました。これからが楽しみだ。これからはお父さんといられる。それがうれしくてたまらなかった。でも今日からいきなり家へは向かわない。まだ色々と手続きなどがあるからだ。

 

その数日後、私は病院を退院しました。そして、お父さんに連れられて家に向かいます。向かう途中、周りを見るがやっぱり建物が大きく感じる。どうもおかしいけどいつもこれだ。病院内を歩いたときも感じた。最初に自分の年齢を勘違いしたことといい、この周りの建物の大きさの感じ方といい、いろいろとずれているような気がする。

 

なんでこんな風に感じるのだろうか。まさかとは思うけど魔法で体が小さくなったせいだったりして。くすっ、さすがにこれはないか。そう考えちゃうなんて私も浮かれているみたいですね。ようやくこの建物の大きさの感じ方に慣れた頃、目的の家に着いた。

 

家の前で出迎えたのは、お、お母さんとその息子です。息子のほうは私を睨むようにして見ていました。その鋭い目に思わずお父さんの後ろに隠れてしまう。こ、怖い。な、なんでそんな目で見るの?

 

 

「ふふ、おかえりなさい、絢乃」

「た、ただいま……お」

「お? なにかしら? ほらがんばって」

「お、お母さん」

「よくできました! いい子ね。さあ、こっちはあなたのお兄ちゃんのイッセーよ。ほら挨拶しなさい、イッセー」

「……一誠」

「こら! もっと愛想よくしなさい!」

「俺は認めない! 新しい家族なんて!」

 

 

そう言って家の中に勢いよく入って行った。扉が乱暴に閉められる。いきなり嫌われました。私はショックを隠しきれずに泣きそうになる。

 

 

「ごめんね。多分、イッセーは自分よりも綾乃のほうが大事とか思ったみたい」

「私、どうしたら?」

「ふふふ、大丈夫。ゆっくりでいいからお話でもして仲良くなりなさい」

「……私、がんばって仲良くなります」

「困ったら言いなさい。手伝ってあげるから」

「ありがとうございます」

 

 

私はお父さんとお母さんの間に手を繋がれて短い距離だが歩き、家の中へと入っていった。私の部屋はお兄ちゃんと同じ部屋になる。私はさっそく荷物、といって片手に持つくらいですが、それを部屋に運んでいた。つまり、今戻ると不機嫌になっているお兄ちゃんに会うということです。

 

でも、入らないと荷物を置けない。私は決心して部屋に入るとベッドで寝ていたお兄ちゃんが私をチラッと見てきました。けど、すぐに目を瞑り寝始めます。いえ、ただ目を瞑っただけだ。私は恐る恐るベッドの前に来る。ベッドは大きく明らかに一人用ではないことから二人で一緒に寝るものだと分かる。

 

うう、こんな状態で同じベッドで寝て大丈夫かな? さっきみたいに睨まないかな? と、とりあえず仲良くするために改めて挨拶を。

 

 

「し、失礼します」

「……」

「こ、これからよろしくお願いします」

「…………」

「………………」

 

 

気まずい空気です。私はお兄ちゃんと、もっと仲良くしたいです。どうやったら仲良くなれるでしょうか? お母さんは手伝ってくれると言ったけど、さすがにすぐに根をあげない。もうちょっと自分の力でがんばる。

 

結局、お母さんたちに呼ばれるまで私はベッドの前で正座をしていた。あ、足が痺れた。とにかく今日一日はそのことで頭がいっぱいでした。どうやって仲良くなればいいのかとずっと考えていた。

 

夜、私はベッドで寝ます。一つのベッドで二人で寝ることになっているのでさらに空気が重い。お兄ちゃんは私に背を向けて寝ていた。私はその背を見て寝ます。やっぱり私のこと嫌いなのかな?

 

 

「お、お兄ちゃん、おやすみなさい」

「……………………」

 

 

家族になって1ヶ月になりました。お兄ちゃんはお父さんとお母さんには普通に話しますが、私には少ない口数で話します。ですが、最初と比べればよくなったほうです。だって最初は何も言ってくれなかったんだもん。

 

それが今では私がおはようと言えば「……おはよう」と言ってくれる様になりました。これは大きな一歩です。今はそれだけですが、いつかは楽しく話せるようになりたいです。

 

ある日、私とお兄ちゃんが朝食を食べていると、

 

 

「二人とも、今度旅行に行くわよ」

「そうだぞ。二泊三日だ」

 

 

お母さんたちがそう言ってきた。へえ、旅行ですか。これはチャンスなのでは? こういうのはイベントというのでしょう。つまり好感度を上げるものです。うまくいけばお兄ちゃんと仲良くできるということ。

 

最低でも普通の会話ができるようになりたい。最高はない。仲良くなれるならどれだけでも。それが今の目標です。

 

 

「イッセーは行ったことがある場所だ。よく父さんと虫取りしたとこだぞ」

「イッセーは虫を怖がっていたけどね」

 

 

二人はくすくすと笑う。お兄ちゃんはそれに恥ずかしそうにする。私は思い出があるっていいなとその会話を聞いていた。私もお兄ちゃんとそんな思い出が欲しい。旅行で思い出を作らないと。そして、仲のいい兄妹になりたい。

 

そしてようやくそのときが来た。電車に揺られてその目的地に向かう。私とお兄ちゃんの荷物はほとんどない。全部片手で持てる程度。中身は下着などだ。服はお父さんたちの荷物に入っている。

 

私たちの体がまだ未熟だということもあってそれほど苦にはなっていないようだ。目的地の駅に着くと次は歩きとなる。私は結構長く歩いたがなぜか不思議と疲れなかった。お兄ちゃんは疲れているようだった。

 

結構歩いて私たちは旅館に着いた。旅館は見た目からしても年季が入っていた。けれど、しっかりと手入れをされているようで、中には気になる壁の染みやひびなどはなかった。きれいな旅館だな。ちょっと気に入った。

 

お父さんが受付をして部屋に案内される。その途中、お母さんとお父さんが小さな声で言う。

 

 

「絢乃、この旅行でしっかりやるのよ」

「そうだ。無理なときは押し倒せ。そしてお前の魅力でメロメロにしろ」

「お父さん、絢乃にはまだ無理ですよ。あと数年待たないと」

「お父さんもお母さんもひどいです。その気になれば、簡単です」

「ははは、ならこの旅行の間でイッセーとの仲を深めてくれ」

 

 

お父さんに笑われます。こうなったら意地でも仲良くなります! 部屋に案内され荷物も置いた私たちはさっそく旅館を出て町を見て回った。私に対するお兄ちゃんの対応はは相変わらずですが、私としては楽しいのもでした。この町はちょっとした観光地になっているのでほぼ毎日、人で混んでいる。ちょっとでも離れると迷子になってしまいそう。

 

 

「ほら、イッセー、絢乃。手を繋げ。迷子になるぞ?」

「そうよ。迷子になったら見つけられないわよ」

 

 

お母さんたちは何か企みのあるような顔でそう言ってきた。多分、これで仲良くさせるためだ。

 

 

「は、はい」

「……うん」

 

 

お兄ちゃんと手を繋ぎます。うう、結構緊張します。手にも汗が……。お兄ちゃんの顔を見ますが、ただ前を向いています。その表情を見るにいつもの顔でした。私はそれに対しむっとする。もうちょっと私を見てくれてもいいじゃないですか!

 

緊張している私がバカみたいじゃないですか! 私だって女の子なのに。もうちょっと何か反応してくれてもいいじゃない! ん? あれ? なんか別の方向に思考が進んでいるような……。そうじゃなくて、仲良くなるんです。

 

途端に私とお兄ちゃんが繋いでいる手に痛みを感じた。お兄ちゃんが私の手を強く握ったのです。私たちが子どもということで私たちの力は大して変わらなかったのでそこまで痛くはなかった。

 

 

 

「お兄ちゃん、ちょっと痛いです」

「っ! ……ごめん」

 

 

手の力が緩められて痛みはすぐになくなった。その後はずっと手を繋いだまま店を見てまわり、欲しいものがあったときは許可をもらって買った。お兄ちゃんが欲しいものを見つけたときの反応は私が隣にいるにも関わらず、お父さんとお母さんに見せるときの笑顔があった。うう~それって私がおもちゃ以下ってことなのかな。

 

私に関係することで笑顔になってほしかった。色々と買って時間が経ち、日が暮れる。もう十分だということで旅館へと帰った。

 

 

「絢乃、風呂に入りましょう。まだ少し明るいから、露天風呂に入ればきれいな景色が

見られるわよ」

「うん、入る」

 

 

この旅館には露天風呂がある。この露天風呂から見える景色は美しいということで有名らしい。とくに今の時間帯が一番だとか。

 

 

「イッセー、父さんたちも入るぞ」

「分かった」

 

 

私たちは男女それぞれで分かれる。風呂に入ると他にも客がたくさんいて、私くらいの子もいた。やっぱり観光地とあって若い人も多い。さて、まずは体を洗わないと。私は風呂椅子に座る。隣にはお母さんが座って、私の頭や体を洗ってくれた。

 

「やっぱり絢乃の肌はきれいね。すべすべよ」

「お、お母さん、くすぐったいです」

「こら、逃げない。洗えないでしょう」

「だって~」

 

 

だって他人に洗われるとくすぐったいんです。だからこうやって抵抗しても仕方ないと思う。体を洗い終わった後、浴槽に入ります。そして、思いっきり伸びをする。家の小さな浴槽では思いっきりこうやって伸びはできないけど、ここの大きな浴槽だからできることだ。気持ちよくて寝てしまいたいくらいです。

 

風呂で温まった次は露天風呂へと移動。うん、こっちのほうが人が多い。だけど浴槽は大きいのでまだ余裕があった。で、早速噂の景色を見てみた。子どもであった私にはまだ深くは理解できなかったけど、とにかくきれいだということは理解できた。私が大人になればもっと理解できるようになるだろう。

 

露天風呂を十分に満足した私たちは風呂から上がる。ここは旅館なので浴衣が用意されていた。体を拭いた後は浴衣を着た。なんだか違和感がある。部屋に戻ると、お父さん、お兄ちゃんはすでに戻っていました。二人も浴衣を着ている。

 

 

「絢乃、風呂はどうだった?」

「気持ちよかったです。それに景色もきれいだった!」

「そうか。来たかいがあったな」

「はい!」

 

 

父さんの問いに答えます。私はお父さんの隣にいた、お兄ちゃんにお父さんと同じように聞きました。

 

 

「お、お兄ちゃんはどうだった?」

「……よかった」

「そ、そうなんだ」

 

 

ただ一言だけだった。もうちょっと何か言ってほしかった。その後、ここの食堂で夕食を食べた。うん、美味しかった。満足。

 

 

「イッセー、絢乃。そろそろ寝ないとだめよ」

 

 

今は九時です。子供はもう寝る時間です。この旅館の客室には寝室と居間のような部屋がある。計二部屋もちろん寝室でみんなで布団を並べる。並べ終わったらすぐに布団に付いた。並びはお父さんとお母さんの間に私たちだ。明日はなにをするんでしょう。それを楽しみにして私は眠りについた。

 

翌朝、私は起きる。お父さんとお母さんは布団にはいなかった。どうやら居間のほうにいるらしい。隣にいるお兄ちゃんはまだ寝ている。私はいつものように私とお兄ちゃんとの距離をゼロにする。

 

こうやって密着するのはお兄ちゃんに甘えるためだ。いつも起きているときはそうさせてくれないからね。だから寝ているときはいつもこうしている。そして、このままお兄ちゃんが起きるまでこうしている。もちろん私は二度寝か寝たふりをしている。

 

最初のころはお兄ちゃんは面白いくらい驚いていた。それが何日も続いてやっと慣れてきたのか驚かなくなっていた。そして、偶然知ってしまったこともある。それは二度寝をしなかった日。

 

いつものようにお兄ちゃんよりも早く起きて今のように密着していた。いつものように寝たふりをしているとお兄ちゃんは起きた。起きて少し私に気づいたが、驚かない。まあ、脅かすことが目的ではないので驚かないことに何も思わない。

 

さて、いつものように起きようかなと思ったそのとき、お兄ちゃんが私の頭を撫でたのだ。それはたまたまではない。たまたま手が頭を撫でたとかじゃない。何度も何度も撫でていたのだ。そうなればもう意図的だ。

 

ありえないと思った。撫でるという行為の前にお兄ちゃんのほうから触ってくるなんてなかったし、いつも触れるときは私のほうからだったから。そんなお兄ちゃんが優しく私を撫でた。もう奇行だ。

 

だけどお兄ちゃんの奇行はそれだけでは終わらなかった。なんと私を抱きしめたのだ。ぎゅって強く、だけど優しく。そのときの私はお兄ちゃんのありえない行動に夢でも見ているのかと思ってしまった。だけどそのぬくもりは本物だった。

 

夢じゃなく現実だった。なんであんなに私を嫌っていたお兄ちゃんが私にこうしているのかは分からなかったけど、こうされてとてもうれしかった。うれしくて思わず寝たふりをしているとバレそうになった。

 

そして、しばらく私を抱きしめた後、いつものように何事もなかったように私を起こしていた。この日からお兄ちゃんの奇行は始まったのだった。私が早く起きて密着して、後からお兄ちゃんが起きて私の頭を撫で、抱きしめるという日々が。

 

今日も家みたいにするのだろうか? 無意識に私はお兄ちゃんの浴衣を掴んでいた。しばらくしてお兄ちゃんが起きた。

 

 

「ん、やっぱりまたか。なんでいつもこんなにくっついているんだ? まあいいや」

 

 

お兄ちゃんはいつものように頭を撫でて抱きしめた。あうう、なんでいつもはあんなに冷たいのに朝はこんなに優しいんだろう。これはいつも思っていることだ。こんな風にしてくれるのならずっと優しくしてほしい。なんで私が寝ているときだけ優しくするの?

 

なんで私が起きているときにこうやって抱きしめれくれないの? それだけが頭を駆け巡る。うれしいけど悲しい。しばらくしてお兄ちゃんが離れ、私の体を軽く叩きながら、

 

 

「起きろ」

 

 

さっきと違って冷たい一言だった。泣きそう。私は怪しまれないようにゆっくりと起きる。

 

 

「おはようです」

「…………おはよう」

 

 

それだけだった。起きた私たちはお父さんたちがいる居間へと移動する。二人はテレビを見ていた。

 

 

「あら、二人とも起きたのね。じゃあ、朝ごはんにしましょうか。実はこの旅館はここで食べることと食堂でのバイキングができるのよ。どっちがいい?」

「私はお兄ちゃんの好きなほうで」

「そういうことだからイッセーが決めなさい」

「分かった。じゃあここで食べる」

 

 

そういうわけでこの部屋で食べることになった。朝食を頼むにはこの部屋に置いてある電話を使う。そして料理はこの部屋にあるメニューに書いてある。私たちは好きなものを選んでそれを頼んだ。頼んだ料理はすぐに来た。その料理が食べ終わると私たちは外へ行く準備をする。

 

 

「絢乃、イッセー。今日は二人で遊んできなさい。ここは自然がいっぱいだ。イッセーもここで遊ぶのは久しぶりだろう。絢乃と一緒に行きなさい」

「はい」

「分かったよ」

 

 

お父さんと目が合うと、お父さんがウインクをしました。ああ、なるほど。つまり仲良くなれるようにそのきっかけを用意したと。ありがとう、お父さん。私、がんばるよ。私とお兄ちゃんは旅館の前で分かれる。今から行く場所は自然溢れる場所だそうです。私たちが行く場所なので危険なところはないそうです。私はちょっと心配だけど。

 

 

「お兄ちゃん、早く行こ」

「……離れるなよ」

「うん!」

 

 

離れるなよ、ですか。心配してくれているのでしょうか。そうだとうれしい。私はここら辺の地理は分からないので、お兄ちゃんに引っ張られる形で目的地へ向かう。目的地は森の中。

 

森の近くには浅い川があった。私はその川で遊んでいた。お兄ちゃんはすぐ近くの草むらで虫やらを取っているようです。私は虫が嫌いなので見たくも触りたくもありません。なんで男の子って虫が好きなんでしょう。

 

ああでもどうしよう。このままだと仲良くできません。別の場所で考えをまとめましょうか。うん、そうしましょう。

 

 

「お兄ちゃん、ちょっと森にいるからね」

「……分かった」

 

 

森の中は川の水の音がなく、代わりに虫や鳥の鳴き声がする。こういうのもいいですね。街だとこういうのはありません。あるのは車の音と人の声。それに空気が汚いです。でもここは静かで空気も澄んでいる。

 

それにしても森の中だと少し歩きにくいです。あまり整備されてません。当たり前ですよね。ここは人が通るような場所ではないのですから。そんな道? 場所? を歩いてるのです。所々小さな崖のような場所があるので、ちゃんとよく見て歩かないと。

 

ここで落ちたら冗談じゃすみません。落ちたら大怪我をする。もうちょっと体が大きくなれば大した怪我はしないけど、子どもである私には大怪我するのだ。私はふらふらと歩く。そして気づいた。

 

 

「あれ? ここは……どこ?」

 

 

考えごとをして歩いていたら、本当に迷いました。本当に冗談じゃありません。このままじゃ独りになって見つけられず死んじゃうかも。と、とにかく、人がいるところへ向かわないと! 私は走り出す。思えば私はバカだった。ここは整備のされていない、道とも呼べないものだ。

 

だから、どうなるかは分かりきっている。走っているといきなり足が地面に付いたという感触がなくなった。私は浮遊感とともに景色が勢いよく動くのを感じた。それで私は自分が崖のようなところから落ちたんだと理解しました。そういえば、ここら辺には崖があったんだった。

 

 

「きゃあああああああああ!!」

 

 

私の体は崖にぶつかりながら落ちていった。そのとき背中を打ったときバキッなど、なんだかやばい音を聞いた気がする。落ちた結果、身体に打ち身や擦り傷、足をくじきました。幸いそれ以外に傷はなかった。打ち身のせいか歩こうとしますが、そのたびに足と背中が痛みます。いえ、それどころかどうも足の感覚がないし、動かない。

 

あれ? なんだかやばい? 足の感覚がなくなり動かせない今、私にできることは声をあげて助けを呼ぶだけ。それしかないと思い、私は叫ぶ。

 

 

「だ、誰か!! 助けて!!」

 

 

ここは森の中。しかも人は通らない場所なので誰かが来ることは少ない。誰にも聞こえていないだろう。しかし、だからといってただじっと待つなんて幼い私にはできなかった。恐怖でできなかった。

 

叫ぶが何かが帰ってくることはなかった。聞こえるのは鳥の声と風によってざわめく木々の葉の音だけ。やっぱり人がいない場所です。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。それに、ここで誰も来ずに、死ぬと思うと泣きそうです。いえ、もう泣いていました。頬を温かな涙が伝う。

 

 

「うう……うぐ……あぐ……うええぇぇぇぇん!! たすけてよ!! まだ死にたくないよ!! うわああああああん!! おにいちゃん!! 助けに来てよ!! 怖いよ!!」

 

 

声を上げて泣き出した。四歳の私はそれしかできなかった。まだ生まれて、四年と少ししか経っていないのにここで死ぬなんて嫌です。まだやりたいことがたくさんある。その中で一番やりたかったのは、お兄ちゃんと仲良くすることだった。仲良くなってお兄ちゃんに妹として扱ってほしかった。一緒に遊びたかった。それが心残りです。

 

私の顔は涙によってびしょびしょになっていた。地面を触った手で涙をぬぐっていたので、顔や手には泥がついていました。だが気にせずに何度も何度も涙をぬぐった。

 

 

「うるさい。静かにしろ。だけど……もう大丈夫だ」

 

 

幻と幻聴でしょうか? いるはずのない人の声が聞こえた。私はゆっくりとその声のしたほうを向いた。そこには私と同じくらいの男の子、私のお兄ちゃんがいました。ありえない。

 

私の最後の望みがこれを見せているのでしょうか? その人は私が見たことがない優しい表情をしていた。私は動かない足を引きずり這って向かった。

 

 

「お、にい、ちゃん?」

「そうだ」

「本当、に?夢じゃないよね?」

「夢じゃない。本物。現実」

「えぐ……うわあああああん!! お兄ちゃん!!」

 

 

どうにか体を起こしてゆっくりとその体に触れ、それが現実だと分かると思いっきりお兄ちゃんの腰に抱きついた。

 

 

「怖かった……怖かったよう!!」

「もう大丈夫。俺がいるよ」

 

 

こんな優しいお兄ちゃんは見たことがない。本当にお兄ちゃん? 実は別の誰かが乗っ取っているんじゃないの? そう思ってしまうほど。そして、この優しいお兄ちゃんはいつか仲良くなれたときに期待していたときのものだった。私がずっと期待していた……。

 

 

「歩けるか?」

「ぐすっ歩けない。足の感覚がないの」

「そっか。じゃあ、俺が運ぶ」

「だ、大丈夫なの? 私、お兄ちゃんよりは軽いけどそれなりに重いよ?」

「大丈夫。問題ない。ほら、おんぶするから後ろに」

「……うん」

 

 

私は這ってから後ろへ回り、おんぶをしてもらい運ばれる。こんなに近くなんて寝ているとき以外はありませんでした。寝たふりをしていたときは寝たふりなので目を瞑りほとんど見ることはなかった。い、今ならどんな話をしてもいいですよね? こんな状態ですが聞きたかったので決意しました。

 

 

「ねえ、どうやって見つけたの? 結構はなれてるから、あの場所から聞こえないはずだよ」

「…………妹を一人にする兄はいない。こっそり後を追いかけた。でも、降りれる場所がなかったから少し遅れた。ごめんな」

「ううん。ありがとう。それで、わ、私はお兄ちゃんの家族?」

「もちろん」

「ならなんで、私と話ししてくれなかったの? なんで冷たくしていたの?」

「最初はお前が嫌いだった。だけど、お前は俺と関わろうとしてきた。だから、認めたんだ」

「ならなんでそのままだったの?」

「……避けてきたのに仲良くするのが恥ずかしかったからだよ」

「じゃあ、これからはちゃんと話してくれる?」

「ちゃんとするよ、絢乃」

「!! うん! お兄ちゃん!」

 

 

初めて私の名前を読んでくれました。私の顔は笑顔で満ちていました。私のその嬉しさに胸を一杯にし、お兄ちゃんの背中に揺られていました。ああ、ようやく……ようやくお兄ちゃんと仲良くできた。こんな形だけどよかった。これからは寝ているときなんて限定的な時間じゃなくいつでもこうできる。

 

どんな理由があろうと長く冷たくされたんだ。その分だけ甘えさせてもらう。私はちょっとだけお兄ちゃんを掴む手に力を込めた。背負られて数十分。ようやく旅館が見えてきました。そこでお母さんたちと会いました。私たちの姿を見たお母さんたちは、すぐに私たちに駆け寄ってきます。

 

 

「ど、どうしたんだ!?」

「絢乃が怪我した」

「!! どこだ?」

「どうやら足が動かないらしい」

「そうか。イッセー、よくここまで運んだ。後は父さんたちに任せなさい」

「分かった」

 

 

次はお父さんに抱きかかえられます。こっちは姫抱きです。ああ、お兄ちゃんにもお父さんみたいにこんな風にたくましくなってほしいな。そして、こんな風に抱きかかえてもらいたい。私はお兄ちゃんを王子様みたいに考えていた。

 

その後は病院へ行き、足の手当てをしてもらいました。ただの捻挫のようです。あの時は足の感覚もなくなり、動かなくなったけどいつの間にか動くようにもなっていた。ちょっと不思議だった。病院で手当をした後は再び旅館に戻る。

 

 

「絢乃、足は大丈夫?」

「うん。大丈夫。軽い捻挫だって。ちょっとすれば治るって言っていた」

「そう。よかったわ。ところで、イッセーとはどうかしら? 仲よさそうに見えたんだけど」

「うん、仲良くなった」

「よかったわね。これからは思いっきり甘えなさい。絢乃にはそのくらいの権利があるわ」

「分かってる。思いっきり甘えるもん」

 

 

今日は足の怪我のせいで、風呂には入れなかった。今日は二日目で明日は家へ帰るからちょっと残念です。でも、お兄ちゃんとのことを考えれば、大したことじゃありません。

 

旅行が終わったあとはお兄ちゃんと遊ぶようになった。もちろん怪我があるので室内のですが。それが数週間。治ったあとは外でよく遊びました。遊びの内容は男の子がやるような遊びばかり。私は特に外で遊ぶことに不満はなかった。

 

遊んだのは私たち以外にもう一人いました。その子はお兄ちゃんと同じ歳の女の子です。男の子みたいな格好でしたけど、すぐに分かりました。お兄ちゃんが気づいているかは、知りませんが。でも私にとって初めての友達です。そして、親友です。私はお兄ちゃんとその子で三人で遊んだ。とてもすばらしい時間だった。

 

そして時が過ぎ、私が小学校に入学しました。お兄ちゃんは小学校2年です。これから私の学校生活が始まります。

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