ハイスクール 鬼と竜   作:謎の旅人

5 / 39
第2話

小学校に入学して3ヶ月。その間に友達ができました。クラスの皆とも仲良くしています。こんなに友達ができるなんて初めてです。いつもは三人で遊んだりしていたから。でも、プライベートまで遊ぶほどの友達は作れなかった。いや、作らなかった、かな。

 

まあ、親友くらいの仲になれば遊んでいたんでしょうが。ですが、その親友は引っ越してしまいました。言うにはどこか遠い所だと。私はショックで3日ほど寝込みました。学校へも行かずにご飯もあまり食べれなかった。だって、初めての友達で親友だったんですよ! それに別れのあいさつなしで別れたんですよ! 誰だってショックを受けますよ!

 

そんな私をお兄ちゃんは慰めてくれた。お兄ちゃんだってショックを受けているのに私のために……。それが申し訳なくて私は立ち直った。そして、今、私はお兄ちゃんに勉強を教えてもらっていた。

 

 

「ねえ、お兄ちゃん。これはどうやって解けばいいの?」

「これはまず一の位と十の位に分けて解けばいいんだよ。そうすれば時間はかかるけど簡単に解ける」

「わあ! 本当だ! ありがとう! 分かった私の頭撫でてください」

「ああ、分かった」

 

 

私の頭を撫でてくれる。お兄ちゃんは私が分からなかった問題が分かると頭を撫でてくれるのだ。私たちの仲も良好のままです。こうして仲良くなれて本当によかった。私はそのまま問題を解く。お兄ちゃんのおかげで結構分かった。そして、ふと時計を見ると時計の針は十時をちょっと過ぎたくらいを指していました。あ、もうこんな時間だ。

 

 

「お兄ちゃん、そろそろ寝よう? もう十時だよ」

「そうだな。寝ようか。ちょうどよかったし」

 

 

私たちはランドセルに解いた問題を入れて、寝る準備をした。ベッドはこの部屋に一つだけ。つまり一緒に寝ることになるがこれはいつものこと。今はまだ体が小さいので大丈夫ですが、大きくなったらどうしましょうか? 絶対に二人じゃ入らないよ。入ることができたとしても窮屈になりそうです。でも、私はずっと二人で寝ていたいです。一人は嫌ですから。もし入らなくなったら大きなベッドを買わないと。私たちはベッドに入る。

 

 

「ふふふ、温かいね」

「絢乃がいるからだろ」

「いいえ。二人でいるからです」

 

 

布団の中に入った私たちは互いの体温を感じていました。布団の中はすぐに私たちの体温で、温かくなる。でも、ちょっと私とお兄ちゃんの間に隙間があるのが気になる。

 

 

「もうちょっと近寄ってもいい?」

「ん? いいぞ。ほら」

 

 

許可をもらい近寄ります。これで私とお兄ちゃんの間には僅かな隙間しかありません。こうなって相手の体温がさらに感じられます。私たちは向かい合っている。すぐ近くにお兄ちゃんの顔があった。

 

 

「じゃあ、おやすみ。絢乃」

「お休みなさい。お兄ちゃん」

 

 

しばらくすると私の視界がぼやけていき、瞼が閉じられていきました。さらに一年という時間が過ぎた。私は小学二年生、お兄ちゃんは三年生です。体も少し大きくなりました。成績はいいほうです。成績を見ても苦手な教科はありません。テストはほとんど百点。いわゆる優秀という奴です。これも全部お兄ちゃんのおかげだ。

 

 

「絢乃はすごいな。毎回毎回全部百点なんて。苦手教科ないんだろう?」

「それはお兄ちゃんが教えてくれるからですよ。お兄ちゃんが教えてくれるから取れるんです」

「いや、それでもここまで分かるなんてすごいさ」

 

 

私の頭を撫でてくれます。私ががんばるのはお兄ちゃんに褒めてくれるからです。褒められるためにやってるようなものです。これがなかったらこんなにがんばっていません。

 

 

「これからもがんばります」

「がんばれよ。困ったときは言えよ」

「うん!」

 

 

私はこれからもいい成績を取り続けます。また、撫でてもらえるように。ただそれを目的にして。動機が不純かもしれませんけどね。

 

さらに二年が経ちます。私は四年生、お兄ちゃんは五年生です。私は今、非常にドキドキしています。私の目の前にはお兄ちゃんがいます。足は緊張で振るえ、両手を胸の前にして握っていました。

 

 

「に、兄さん!」

「どうしたんだ?いつもはお兄ちゃんと言っていたのに」

「だ、だってそろそろいい年じゃないですか。なのに、いつまでもお兄ちゃんって呼ぶのは、は、恥ずかしいです。だからこれからは兄さんと呼ぶことにしたんです」

「俺はいつものものでいいと思うんだがな」

「でも、恥ずかしいですよ! いつまでもお兄ちゃんなんて言っているのは、アニメくらいです!」

「う~ん、まあいいか。それより、分からないところがあるんだ。ちょっと教えてくれ」

「えっとそこですか? ここはこうしてこうするんです」

 

 

私は兄さんに勉強を教えています。こうなったのも兄さんに教えてもらっていて、もっと褒められたいと思ってがんばっていたからです。つまり、がんばりすぎたのです。結果、いつの間にか兄さんの習っている範囲を越し、中学生の勉強をしていた。それで兄さんに勉強を教えているんです。兄さんに勉強を教わるのではなく、教える側になって変わったことがあります。

 

それは、私が兄さんを頼るのではなく、兄さんが私を頼るようになったということ。私から頼ることは少なくなった。私は近所から出来のいい妹という評判になっている。そして兄さんはちょっと頼りない兄となっていた。でも、私にとっては頼りになる兄だ。私は兄がいないとダメなのだ。

 

兄さんがいないとやっていけない。お父さんとお母さんも心の拠り所だけど、一番は兄さんだった。それで勉強をがんばるという行為はもともと兄さんに褒められるためだったが、こうなっては褒めてくれる回数が少なくなるということになりそうだが、それはならなかった。

 

兄さんが私に頼って、その礼に褒めてもらい撫でてくれるのです。なので私は勉強をし続けるのです。ですが最初は兄さんにもう撫でてもらえないと思いました。いつの間にか分からない問題なんてなかった。私は困った。これでは兄さんに撫でてもらえるのはテストで百点を取ったときだけかと。でもそうはならずに兄さんに教えることで褒められた。

 

それで今も撫でられているのですが、人間はどんどん欲深くなっていく生き物なんです。つまり私は撫でられるという行為よりも上位のものをやってほしくなったのだ。だけどちょっとそれをお願いするのは恥ずかしいな。でも、ここで言わなかったら……。私は勇気を出す。

 

 

「に、兄さん」

「なんだ?」

「へ、変なことを言うわけではないのですが……」

「うん、それで?」

「撫でるだけじゃなく、だ、抱きしめてもらってもいいですか?」

「な、なにを言っているんだ?」

「べ、別に変な意味じゃないですよ? ただ、そ、その家族のスキンシップをして欲しいなと思って」

「まあ、いいけどさあ」

 

 

兄さんがさらに近づき、私の両肩に手を置いて引き寄せてきた。

 

 

「うにゃっ」

 

 

私はその勢いで兄さんの胸板にぶつかって変な声が出た。けどまあ兄さんに抱きしめてもらいました。あ、あれ? な、なんだか顔が熱いです。いえ、それだけでなく体も。それに鼓動が早くなっている。お、おかしいな。夜、寝るときはそんなことはなかったのに。それにもっと抱きしめてもらいたいって思ってる。な、なんでこんなに?

 

これに思い当たるものがある。漫画とかだとこれは恋と呼ばれるものだ。で、でも、私たちは兄妹です。そんなこと許されませんよ。確かに血はつながってません。でも、これが本当に恋だとしても、それを兄さんに告げたらいろんな物が崩れそう。

 

それは私には耐えられません。崩れることは私が一人になるということです。そうなれば、私の心も崩れるでしょう。私は兄さんがいないとダメなんですから。だからこの気持ちは気づかなかったことにする。そして、胸の奥にしまっておきます。しばらくは兄さんの顔は見れません。またこの思いが表れちゃいそうですから。

 

 

「これで満足した?」

「……はい」

「元気がないけど嫌だったか?」

「ち、違います。ちょっと考え事をしていただけです。すみません」

「謝るな。何かあったら言えよ」

「ありがとうございます」

 

 

私は再び抱きしめられます。やっぱり抱きしめられるのはいいです。少し癖になりそうです。気持ちを伝えるのはダメですけど、これは……いいですよね。でも、これで思いが表れたらどうしましょうか? あと何回かは表れても大丈夫だけど何度も表れたらもうその思いは歩き出してしまう。

 

もう考えるのをやめましょう。抱きしめられたままこんなことを考えていたら、本当に表れそうです。私は兄さんから離れる。いえ、離れようとしましたが、兄さんの私を抱きしめてもらった腕が強くて離れられませんでした。な、なんでこんなときに強く抱きしめるんですか。

 

う~、これじゃ表れちゃいます! もういいです! このまま寝てやります! 表れる? そんなの関係ありません! これは兄さんが悪いんですから! 私は離れたかったんです。けど、放してくれなかったんです。

 

 

「に、兄さん! そろそろ寝ましょう!」

「ど、どうしたんだ?」

「いえ、もう時間だなと思って」

「それにしては、やけに張り切っているじゃないか。なにを企んでいるんだ?」

「た、企んでませんよ?」

「正直に言え」

 

 

兄さんに追い詰められる。こ、こうなったらちょっと嘘をつこう。

 

 

「……だ、抱きしめてもらいながら寝ようかと思って」

「はあ~」

「だめですか?」

「別にいいよ」

 

 

さっそくベッドの中に入った。私は兄さんに近寄り、兄さんは私を抱きしめた。いつもよりも温かい。どきどきはするけど心地よい。その日から私は抱きしめてもらいながら、寝るようになった。ただあの気持ちが毎回毎回頭を覗かせそうだったけど。

 

そしてちょっとだけ月日は経つ。今は冬だ。私にとって冬は季節の中では好きなほうだが、特別というわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

さらに一年が経ちます。私は5年生、兄さんは6年生です。

兄さんはもうすぐで中学生です。兄さんが中学生になればしばらく、1日の傍にいる時間

が少なくなります。

 

 

「イッセーももうすぐで中学生ね」

「早いものだ。ついこの間までまだ子供だったのになあ」

「高校になるのも早いんでしょうね」

「そして絢乃もだ」

 

 

リビングではお母さんたちも兄さんのことを話していました。やっぱり考えていることは同じですね。私はお菓子をリビングから持って、部屋に戻ります。部屋では兄さんがベッドを椅子にして漫画を読んでいます。私は小説派です。内容はラノベから探偵小説とさまざまです。

 

 

「兄さん、勉強しなくていいんですか?」

「あとでするさ」

「兄さん、それでは勉強が分からず、後悔しますよ」

「そのときは絢乃に教えてもらうよ。綾乃は教えるのがうまいしな」

「それはいいですけど、そうならないように日頃から勉強してくださいよ」

 

 

私は兄さんの横に座ります。そして、その体に寄りかかります。兄さんは気にした様子はなく、漫画を読み続けます。私は兄さんのぬくもりを感じながら、瞼を閉じゆっくりとしていました。

 

しかし、その心地よさが私を眠りへと誘い、いつの間にか意識は眠りについたのでした。

 

 

 

「絢乃、起きろ。そろそろ晩飯だぞ」

「う……ん。あと少し……」

「だめだ。起きろ」

「ふぁ~~い」

 

 

私は目を開けます。私は何かを枕にしています。その枕は兄さんの膝でした。つまり私は兄さんに膝枕をして貰っていたんです! これは何のイベントですか!?

 

 

「に、兄さん。この状態は?」

「なにって膝枕だよ。俺の方の肩を枕にすると、首が痛くなると思ってこれにしたんだ」

「あ、ありがとうございます」

「そろそろ一階に下りないと飯が冷める」

 

 

私の顔は少し熱いです。その顔を隠すために私は兄さんの後ろからついていきます。一階へ行き、リビングへ入るとすでに夕食の準備が整ったテーブルと椅子に座ったお父さんたちがいました。

 

 

「イッセー、もうすぐで中学生よ。成績はどうかしら?」

「まあ、いいほうだよ。これも絢乃のおかげだよ」

「はははは! イッセー、絢乃にあまり迷惑かけるなよ」

「お父さん、私は大丈夫です」

「そうですよ、お父さん。絢乃は好きでやっているんですから」

「ならいいが、綾乃の成績はどうだ?」

「問題ないです。私はちゃんと勉強してますので」

 

 

私たちはそんな話をしながら、夕食を食べました。

 

 

 

 

 

 

兄さんの卒業があと1ヶ月になります。

学校内でも卒業に向けて準備が行われています。それを見たり、準備をすると少し悲し

くなります。兄さんがしばらく傍にいられなくなると実感します。

 

たったの1年という時間は、私には長い時間です。家では確かに会えますが、学校で会え

ないのがいやなんです。私は兄さんの教室の前に来た。私はその教室の先輩に兄さんを呼んでもらう。

 

もう毎日のことなので、私が来るだけで読んできてくれる。しばらく待つと兄さんがやって来た。

 

 

「兄さん、一緒に帰りましょう」

「絢乃、少し待ってくれ」

「分かりました。私は先に昇降口で待っています。なるべく早く来てくださいよ」

「分かってる」

 

 

私は昇降口へ移動する。もう下校時刻だが、すでに結構な時間が経っていたためか、人はいなかった。まるでここは別世界で私以外は存在しないのではないかと錯覚してしまいそうだった。

 

早く兄さん、来ないかな。1人はいやだ。孤独はいやだ。そこに誰かが来た。知らない人だ。私はチラッと見ただけで、顔を合わせない。

 

 

「よう、君は兵藤絢乃だったかな? 今一人? なら一緒に帰ろう。あっ、ついでに一緒に遊ぼうよ。きっと楽しいよ」

 

 

一気に話された。私、何も言ってません。この人は人と会話するということが分かっているんでしょうか? これってナンパというやつですよね。このごろそういうのが多くなった。

 

 

「すみません。人を待っているんです。だからあなたとは無理です」

「確か、君の兄の兵藤一誠だったけ? 大丈夫だよ。先生がさっき呼んでいたから。しかも、よっぽどの用事らしいからあと1時間は来られない。だから遊ぼうよ」

「結構です。ちゃんと待ちますから」

「いいじゃん。遊ぼうよ」

 

 

私は壁に寄りかかっている。そこにその生徒が私の脇に片手をついた。その構図は口説く者と口説かれる者だった。それに気分が悪くなった。兄さんにされるならともかく、こんな男子にされたくはない。

 

こんなちゃらい男とは帰りたくも遊びたくもない。私は壁と男子生徒に挟まれるという構図から抜け出す。

 

 

「さっきから言っているように結構です! それでは!」

 

 

抜け出したが、先回りして私を逃がさない。男子生徒の顔は怒っているようにも見える。どうやらプライドを傷つけたようだ。

 

 

「こっちだってこの僕が、君に誠意を払って言っているんだ。君は喜んで一緒に来いよ!」

 

 

男子生徒は上から目線で言ってきた。あれ? よく見ると、女子の間で人気があるイケメンさんじゃないですか。だから上から目線なんですね。きっとたくさんの女子とデートしたりしているんでしょうね。

 

小学生なのにませてます。でも、それでも私はこの人とどこかへは行かない。兄さんとならいいですけどね。

 

相手は私の腕を掴んできた。それによりまた、いや、さらにひどく気分が悪くなった。この人は女性に対するマナーを知らないんでしょうか? きっとそのルックスでいつも簡単に成功して、マナーなんて必要なかったんでしょう。

 

私の気分の悪さが頂点を越えたとき、私の意識が一瞬なくなる。再び意識が戻ったとき、いつの間にか相手を床に組み伏せていました。どうやったんでしょうか? 分からないけど、よかった。

 

 

「勝手に私に触れないでください。それは女性に対するマナー違反です」

「見た目がいいからって調子にのり上がって!!」

 

 

あなただってそうでしょうに、とはいいません。これ以上しゃべりたくはないですから。それに調子に乗っているのはあなたです。私は周りから見れば容姿がいいみたいですけど、それを誇ったことはない……はずです。

 

 

「ふざけるなよ!」

 

 

相手が無理やり起きた。いくら組み伏せても、不完全だったのか簡単に私を床に押し倒した。

 

 

「今ここでやってしまってもいいだぞ!! 都合のいいことに周りに人はいないからな!!」

 

 

相手は曖昧に言ったが、それを理解していた。いやだ!! こんな男にされるなんていやだ!! 私は一生懸命抵抗する。殴ったりもする。だが、私は女で相手は男。力の差があるため、全く効果がない。

 

 

「叫ぶか? だがな、さっきから言っているように周りに人はいないんだ。さあて、君のような上物とヤることができるなんてな。全く運がいい」

 

 

その手が私の服へ伸びようとしていた。視界がぼやける。どうやら私は涙を流しているらしい。だって、こんなところで好きでもない人に私の純潔を奪われようとしているから。

 

 

「た、助けて!! 兄さん!! 兄さん!!」

 

 

私は兄さんを呼ぶ。この人が言うには兄さんは職員室いる。きっとここからでは届かない。

 

 

「さっきも言っただろう。誰も来な―――――ぐはっ!」

 

 

いきなり相手が吹っ飛んだ。どうやら殴られたようだ。殴ったのは私が今、もっとも来て欲しかった人だった。

 

 

「おい、てめえ! 俺の妹になにしようとした!」

「兄さん!」

 

 

私は起き上がり、兄さんのもとへ行く。

 

 

「き、貴様よくも殴ったな!」

「殴られて当然だ! てめえは嫌がる妹に手を出そうとしたんだからな!」

「はっ! このシスコンが!」

「シスコンで結構!」

「おらっ!!」

「ぐっ!」

 

 

相手が兄さんに殴り、兄さんはそれをくらう。兄さんがそれに呻いた。相手の拳は何度も兄さんの体に食い込んだ。だが、兄さんはそれでも一度も倒れなかった。私はそれを見るしかない。

 

 

「貴様! なぜ倒れない! 普通あれだけ殴れば倒れるだろ!」

「へっ! てめえのへっぽこパンチが今の俺の効くか!」

「こうなったら倒れるまで殴ってやる!」

 

 

再び相手が殴る。それは兄さんの顔だ。

 

 

「そろそろいいよな。てめえの拳をあえて受けてやったんだ。一発だ。てめえにやってやるのは一発でいい」

 

 

拳が兄さんの顔に当たる直前、兄さんはそれを避けた。そして、懐に入り、そこから相手の顎に兄さんが拳を放った。詳しくは知らないけど、アッパーという技だった。それは見事に決まった。

 

 

「がっ!」

 

 

相手の体は床から浮き、そのまま倒れた。相手は動かない。どうやら気絶したようです。

 

 

「兄さん!!」

 

 

私は兄さんの胸に飛び込んだ。兄さんは抱きとめます。

 

 

「絢乃、大丈夫だったか?」

「私より兄さんです! 兄さんは大丈夫ですか!?」

「ハハ、殴られたとこが少し痛むけど、大丈夫だよ」

「ぐす……兄さん、すみません。私のために」

 

 

私は兄さんを見上げる。兄さんは私の頭に手を置いて撫でてくれた。

 

 

「謝るな。綾乃が無事ならそれでいい。けど、ちょっと支えてくれ。やっぱり大丈夫

じゃない」

「はい!」

 

 

私は傷ついた兄さんの体を支えながら家に帰った。気絶したあの生徒をそのままにして。家に帰ると、お母さんたちが傷ついた兄さんに驚いていた。

 

 

「い、イッセー、どうしたの!?」

「一体なにがあったんだ!?」

 

 

お母さんとお父さんが一斉に言う。

 

 

「ハ、ハハ、ちょっと転んで……」

 

 

兄さんはなぜか誤魔化した。だけど、どう見ても転んでできたものではないと分かる。お父さんの目は睨むように鋭い。それは兄さんの嘘を見抜いた顔だった。

 

 

「嘘はいい。父さんたちにはその傷が転んで、できたものじゃないくらい分かる」

「お父さん、それは私が説明します」

 

 

兄さんより私のほうが詳しく話せる。それに兄さんは殴られている。兄さんには安静にしてもらいたい。私は父さんたちに話す。

 

 

「そうか、よく分かった。まず、イッセー。よく絢乃を守った。だがな……」

 

 

父さんが兄さんに近づく。そして、なぜか拳を固め、兄さんの頭に振り下ろした。もちろん軽くだけど。

 

 

「殴られすぎだ。絢乃が悲しむ。守るなら自分も守れ」

「分かったよ、父さん」

「最後に絢乃。無事でよかった」

 

 

お父さんとお母さんが私と兄さんを抱きしめます。数分間その状態でいました。その後はみんな椅子に座り、このことについて話し合う。

 

 

「二人とも、その生徒のことはどうするんだ? これは犯罪につながる。正直に答えて

いい。先生に言ってもいいし、警察に言ってもいい。もちろんそういうことは父さんたちが言う」

「俺は……綾乃に任すよ」

 

 

私に任されました。どうしましょうか? そうですね。私をあんなことをしようとしたんです。あれはとても怖かった。それ相応の罰を与えます! もう二度とナンパなんてさせないように!!

 

 

「わ、私は……別に何もしなくていいです」

 

 

い、言えませんでした。わ、私は優しいですからね。べ、別に言う勇気がなかったわけ

じゃないですよ。ほ、本当ですよ。

 

 

「そうか。絢乃がそうならそれでいい」

 

 

そうして話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜はいつも通り兄さんと一緒に寝ます。世間では年頃の男女が一緒のベッドで

寝るのは不健全といいますが、私は別にいいです。お母さんたちからもそろそろ別々の部屋のほうがいいと言いましたが、もちろん断りました。

 

私は兄さんと向き合う形で寝ていた。兄さんの温かいむくもりが伝わる。やっぱり兄さんがいいです。ほとんど体と体の隙間がないのに、気分が悪くならない。むしろ心地いい。

 

 

「兄さん、今日はありがとうございます」

「いいって、謝るな」

「に、にいさんが……うぐ……来なかったら……えぐ……とおもうと……う……うわああああああん!! 怖かったです!! 本当に!!」

 

 

私は兄さんの胸元に顔を埋めて泣いた。兄さんは抱きしめてくれる。それに甘えた。今はただあの記憶を消したくて。

 

 

「もう思い出さなくていい」

「……今日はずっと抱きしめててください」

「ああ、分かったよ」

 

 

兄さんは私をさらに強く抱きしめてくれた。そして、私の願い通り兄さんは、ずっと抱きしめてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、今日も何事もなく一日が終わるはずでした。ですが今日は違いました。兄さんと帰ろうしたが、教室にはいない。いつも私が来るまで教室にいるんですが……。私は教室を出ようとしていた先輩を呼び止めた。

 

 

「すみません、兵藤一誠はどこに行きましたか?」

「兵藤? ああ、あいつなら誰かと一緒に帰っていたよ」

「誰でした?」

「さあ? よく分からなかったよ。そういえば、兵藤の顔が妙に強張っていたな」

「!! あ、ありがとうございます!」

 

 

私はすぐに学校を出た。私になにも言わず帰り、そのときの顔は強張っていた。ならなにかあったに違いない。私はあてもなく探します。どこに行ったのかなんて分かりません。ただ探します。

 

もうどれだけ経ったのか分からない。あたりは暗くなり始めていた。今日は満月。きれいな月明かりが照らす。一応公衆電話から家に電話をかけて、兄さんが帰ってきたのか確認した。でも、帰ってなかった。

 

どこに行ったんですか? まだ無事ですよね? 私の頭には不安なことばかりしか思い浮かばない。どこかで遊んで今日はたまたま遅れているという発想はできなかった。私はちょっと人通りの少ない道を歩いた。

 

そこにちょっと柄の悪い男の人が立ちふさがった。どこかのチンピラみたい。こう楽観的に思っているけど、本当は怖かった。私は小学生、相手は高校生くらい。体の大きさの違いが私を恐怖させる。

 

 

「君が兵藤絢乃ちゃん?」

 

 

男がニヤニヤ顔で言ってきた。男と私はなにも接点はなかった。なのに、私の名前を知っていた。

 

 

「誰です?」

 

 

私が男を恐れていると悟らせないようにする。声も普通に。相手に弱みを見せたくない。

 

 

「俺? 別に怪しいやつじゃないさ。ただ、君と遊ぶように言われただけさ。ああ、もちろんデートとかの遊ぶじゃないよ。大人の、だ。正直、高校生の俺からしてみれば、

小学生はいやだったんだけど、君を見て気が変わったよ」

 

 

男の視線が私の体を隅々まで行き渡る。その心地悪さと恐怖から逃げようとする。そのために振り返ったが、後ろには複数の男たちがいた。逃げられない。私のこの小さな体では。

 

 

「逃げられるわけないじゃん。もしかして、俺一人だと思った? 残念。君を複数で遊ぶんだよ」

 

 

私と男たちの距離が少しずつなくなる。男たちは確実に私の体を辱めるだろう。それも数人で。そのこれからの残酷な未来に私はさらなる恐怖を覚えた。体が震えその場に座り込みそうになる。

 

それを恐怖の海のなかにある僅かなプライドで阻止した。その僅かなプライドももう少しで消える。これは夢だと思いたかった。眠りから覚めればいつもの風景。兄さんも隣にいる。そんな風景をと思う。

 

だけど、それのほうが夢だ。現実はこっち。どう考えてもそれは変わらない。

 

そこで突然、私の意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふふ、ああ、久しぶりです。()がまた出られたんですから。でも、全くこの()は、なんてバカな子なんでしょうか? 私が出てくることができたことには感謝しますが、これくらい一人で解決してほしいです。

 

まあ、変なあの男に言い寄られそうになったときに、ちょっとだけ力は貸しましたけどね。それにしてもこの体。とても動きにくい。まだ幼いからか。

 

 

「うん? どうしたんだ? 逃げないのか?」

 

 

ああ、うるさい。この子に触れようとした虫どもが。この子を怖がらせた罪は重い。

 

 

「なあ、早くここより人気のない場所へ連れ込もうぜ」

 

 

そう言って私の体を触ろうとする。ですが、その前に私は合気道で投げた。触れようとした男は宙を舞い、地面に叩きつけられた。その男を私は鋭く睨む。

 

 

「気安く私に触るな」

 

 

鋭い目のままで言った。だが、色々とこの体が未熟なせいか効果がなかったようだ。

 

 

「いってーな! 調子にのるなよ!」

「体に傷をつけない程度にやれよ」

 

 

それを合図に一斉にかかってくる。私はそれを紙一重で避ける。ふふふ、少し物足りませんが、これで満足してあげます。それにこの体ではあまり負担をかけられない。

 

 

「くそ! なんで当たらないんだ!」

「すばしっこいな!」

 

 

もうこれは正当防衛してもいいですよね。というか、この幼いこの子が男たちに囲まれた時点で正当防衛だろう。もちろん私の感覚で、ですけど。私は魔力で身体能力を強化し、一瞬で距離を詰め一人を殴った。

 

殴られた男は壁まで飛ばされます。その男は気絶した。手は……痛めてないようです。よかった。この体ではすぐに治らないから。それを見た仲間たちの目が変わる。

 

 

「て、てめえ! よくも!」

 

 

その男の腹に掌底打ちをします。さらに横にいる男の腹にも拳を打ち込んだ。後ろからも来ますが、私は振り向かずに肘を使います。その一撃一撃は男たちを気絶させた。

 

さすがに面倒になりました。この戦いと呼べないものに時間はかけられません。あ~あ、楽しみたかったのにな。でも、仕方ない。こんな雑魚相手に私の欲を満たすことはできない。

 

それにこの子は兄を探しているんですから。きっと急いだほうがいい。私は瞬動を使いそれぞれに拳を放った。

 

 

「ぐっ!」「げはっ!」「げっ!」

 

 

全員倒しました。さて、この子の変わりに探してあげますか。私は宙に浮き、上空から探します。この子が必死になって探した。だから、あとは探してない人通りの少ない場所を探せばいい。

 

それにしても全く、こんな体の子を襲うなんてあいつらは変態ですね。胸だってほらちょっとしかない。こんな私を襲ってなにが楽しいのだか。そうさっきの連中にあきれながら、私は探した。

 

ああ、いました。そこはやっぱり人通りの少ないちょっとした広場。でもきっと、それは夜だから。昼は子どもたちが遊んでそうだった。よかった。どこかの廃倉庫みたいなとこだったら見つからなかった。

 

さっき以上の数の人達が、この子の兄を囲んでいます。この子の兄はすでにボロボロです。口からも血を流していた。歯は折れていないようだ。けど、けっこう外傷も目立つし、色々と腫れていた。

 

私は地面に降ります。もちろん少し離れたところです。降りたあとは、走って向かいます。私が来たことに男たちが気付く。

 

 

「その人から離れて」

 

 

そう言うと一人が私の前に出てきた。どうやらここでのリーダーみたい。

 

 

「なんだ、君は? 邪魔をするな」

「その人をそれ以上傷つけはさせない」

「へ~、言うねえ。君はこいつの彼女か? 小学生のくせにませてるな。でも、君、可愛いね。どうだい? 俺の女にならないか?」

 

 

私に触れようとする。私をそれを手ではらった。

 

 

「結構。それよりその人から離れて」

「くくく、なるほどな。こいつの彼女だもんな。こうなったら今すぐ君をヤってこいつのことを忘れさせるよ。おい、そいつはいい。それよりこの子だ。男相手なんておもしろくねえだろ」

 

 

この子の兄を囲んでいた男たちが私を囲んだ。()()()女の子なら恐怖に怯える。だけど私は普通の女の子ではない。思わず笑みがこぼれそうになる。危ない危ない。この感情にまかせたらみんな、殺してしまうところだった。

 

今はこの子の兄を助けることが先。私は手を振り上げ、振り下ろした。はたから見たら何をしているか分からない。実際、男たちは疑問の顔だった。

 

 

「なにがしたいんだ? まあいい、ヤれ」

「む、無理……。か、体が動かねえ」

「ど、どうなっているんだ?」

「はあ? なにを言っているんだ? 動け――――ない!?」

 

 

男たちは必死に体を動かそうとするが全く動かない。人形使いの能力。相手の体の四肢を糸により固定した。私が振り下ろした手をどうにかしない限り、動けません。

 

 

「ここからいなくなると約束するなら、動けるようにします。どうします?」

「ま、まさか、君が! ふざけるな!! なんで従わないといけないんだ!!」

 

 

リーダーの男が私を睨む。私はそれに対し、リーダーの男の糸をきつくした。それに男は苦痛の声を漏らす。私はもう一度言う。

 

 

「ここからいなくなると約束するなら、動けるようにします。どうします?」

「くうう……わ、分かった。もう止めてくれ!!」

 

 

だけど、まだ緩めないまだ聞きたいことがあるから。

 

 

「いいでしょう。でもその前に、あなた方にその人を襲うように言ったのは誰ですか? それを言ってくれたらちゃんと解放します」

「……どっかの小学生だ。小学生のくせに結構な大金を持ってきて、襲うように

言ったんだ」

「ありがとうございます」

 

 

私の指や腕に絡む糸が切れた。みんなそれぞれに糸に固定されていた部分を調べ、ここから去った。私はこの子の兄に近づく。外傷からの傷からの血はまだ出ていた。私はその血を飲みたくなる。それは本能的なものだった。

 

とても美味しそう。この子には悪いけど、飲ませてもらう。私は飲みやすい場所にある、腕の傷に口を近づけた。だけど、もう傷は固まりかけているのか、血が出ない。それに少しむかつき、歯で傷口を抉った。傷口から血が出る。

 

 

「ん……んく……んく……んく……ごくり」

 

 

私は口を離す。ああ、美味しい。この体が人間でもその本質は吸血鬼。薄っすらとだが、吸血欲はある。あの子も血を見たらなにか感じるはず。ただ私のほうがちょっと大きいだけ。

 

今日は満月。ちょうど魔力が一時的にちょっとだけ回復していた。おかげで吸血鬼の身体能力も回復した。まあ、そのせいで魔力はなくなったけど。でも血を飲んでまたちょっとだけ魔力が回復した。

 

なんだか、体が熱くなってきました。もう少し、いえ、もっと飲みたい。私はゆっくりと首元へ顔を近づけます。そして、私の歯をその首に突き立――――

 

 

「だ、だれだ……?」

「心配しないで。もう大丈夫。しばらくそうしてなさい」

 

 

私の声に従い、眠りについていた。もう少しでいいとこだったのに! 起きてしまうなんて! 私は怒りながら、この子の兄を肩に担いだ。そして、家へ運ぶ。ベッドに寝かせた後、手当てをした。

 

私が抉った傷は私の唾液により、かすり傷程度になっていた。ちょっと大きい傷も舐めて小さな傷にした。

 

ふわああ~、なんだか眠くなりました。今日は動きすぎた。でもその前にやることがある。私は一階にいる両親たちのもとへ行った。

 

 

「絢乃!! どこへ行っていたの!? イッセーは!?」

 

 

この子のお母さんが私の肩を掴んで言う。隣にはお父さん。私は掴まれている手を丁寧に剥がし、2人と向き合った。

 

 

「『私と兄さんはいつも通りに帰ってきて、いつも通りに過ごした。私と兄さんにはなにもなかった。分かった?』」

「「……はい、分かりました」」

 

 

言霊と呼ばれるもの。言葉に魔力を込めることによって、相手を催眠状態にする。おかげで魔力がほとんどなくなった。私は部屋へ戻る。そして、ベッドに倒れこむようにこの子の兄の隣で寝た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。