身体能力が凄いというチートだけで能力バトル世界に転生させられた 作:三幹七枝
「地下に隠れてて!」
ラトとアマネを地下室に押し込み、私は長刀を掴んで走り出した。
スラムの南西で上がった爆音。ついに来た。
◆
ある日突然、街にあった医療施設が襲われた。襲ったのは、能力者の集団。奴らは、自分たちのことを
この世界は魔法的なものと工業の入り乱れる世界で、街を見渡せばどこに繋がっているのかわからないパイプから煙が吹き出し、非常に大きい音を出しながらゴツいスクーターのようなものに乗った人が道路を通っていく。
私のいる世界をこの世界と言うのもおかしな話だが、実際他の世界、前世を知っている為仕方ない。
私はスチームパンク系の世界に生まれた。生まれた場所はスラムで、そこそこに生きるのには苦労した。まあそれは良いとして。
最初から前世の記憶があった訳でなく、前述した
ああ、これは前世でやっていたゲームの世界だ、と。
すると考えなくてはいけないのは私の今の状況。RPGであったこの世界は、まだストーリーが始まっていない。プロローグもまだだ。
…私はスラムに住んでいるんだが??
非常に不味い。どうにかしなければならない。
だが、幸いなことに私には転生チートというものがある。それは、並外れた身体能力と自然再生である。前世でプレイしたゲームと当てはめても、幹部クラス相手にもかなり良い勝負できそうなぐらいには強い。
…なので、私だけだったら恐らくスラム襲撃イベントも生き残れるだろう。私だけだったら…
「お姉ちゃんどうしたの?」
「最近、元気無い…」
スラムで彷徨っていた孤児二人、男の子と女の子を拾っていなければの話だが…!
「大丈夫だよ。二人はお姉ちゃんが守るからね」
二人は、既に起きたスラムの小規模な襲撃で親を失って泣いていた。まだその時私は前世の記憶が戻っていなかったため、ついつい保護してしまった。
この世界には能力者が時々いるのだが、この孤児二人もなんと能力者だった。男の子の名前はラト、能力は身体の液状化。女の子の名前はアマネ、人狼になれる。
だが、いくら能力者とはいえ、この子達は小学生低学年ほどの子供二人。大した戦闘能力も持っていない。恐らく確実にスラムの襲撃で死んでしまう、もしくは攫われてしまうだろう。
私はゲームをやっていたから知っているが、スラム襲撃の目的は戦力増強である。
ゲームではそこらへんの孤児を攫い戦闘技術を叩き込みのちのち兵士として運用していた。能力者の孤児である二人なんて格好の的だろう。
ラトとアマネを拾ってからもう数ヶ月は経っており、二人に愛着も湧いている。みすみす攫わせる訳にもいかない。
どうすれば良いかはもう決まってる。私がスラムに襲撃に来る奴らを全員叩きのめせば良いのだ。
雑兵を蹴散らせる力はある。戦闘経験はスラムに住んでいるうちに身についた。人を殺すことへの忌避感も、とっくに消え失せた。
だが問題は、スラム襲撃には
クレエダ・カマド。敵幹部の一人であり、幹部の中で悲しい過去がもっとも薄い男。
変な紹介になってしまったが、コイツのポイントはそこなのだ。
ただ街を破壊する
この世界の説明になるが、この世界の人々は苗字があるやつとないやつがいる。クレエダ・カマドはクレエダが苗字のため、持っているやつだ。
その違いは単純に居住区で普通の家庭に生まれたかどうか。生まれた奴は親の苗字を普通に引き継ぎ、親の名も顔も知らぬ孤児やスラムの住民は基本苗字はない。
私もそうだ。私の名前はカザギリ。苗字はない。ラトにもアマネにも苗字は無い…のだが。
ラトとアマネの二人は、私の名のカザギリが苗字っぽいため勝手にカザギリ・ラト、カザギリ・アマネと名乗り始めた。私のことを慕ってくれているようでなによりだ。
話を戻すと、要するに生まれが不幸な人間には苗字はほぼない。そうすると当然、世界を憎んでいる
だがクレエダ・カマドは普通に生きてきたため、苗字がある。
今までのほほんと生きてきたやつが急に入ってきた為、
幹部の中でも評判の悪いクレエダは功を焦り、もっと手柄をと、戦力増強の為にスラムを襲う──と言う訳である。
原作知識と現状を擦り合わせたところ、恐らくクレエダのスラム襲撃まで数日しかない。なので腹を決めた。
スラム襲撃を私一人で食い止める。
そもそもこの世界は元はRPG。ストーリーが進むほど敵は強くなっていく。つまり今が一番敵が弱いのだ。前世のゲーム上でも、敵味方共に戦力のインフレが進んでいた。私の力が通用するかどうか試すなら今だ。
一応
「ラト、アマネ、お話があります」
「?なあに?」
「どうしたの?」
今のうちに二人にはもしものときについて話しておくべきだろう。二人を呼んで話し始める。
「数日後、このあたりに悪い人たちが沢山やってくるかもしれません。私は、それを頑張って止めてみようと思います。あなたたちは、大きい物音がしたら、直ぐに家に入って、地下室に居なさい。いいですね?」
家、といっても、ここはスラム。あるのはほとんど廃棄物。そこらへんに転がっているパイプや鉄板を上手く私の超パワーで形を整えただけの小屋だ。だが、もしもに備え、地下を作ってある。無理やり掘って、鉄板でフタをしているだけだが。
「悪い人たちがくるの?お姉ちゃんは?」
「地下…暗くて寒い…」
二人が不安そうな眼でこちらを見てくる。だが襲撃はほぼ確実に既定路線。普通に私がボコボコにされて襲撃される確率の方が多いのでキツく言っておかなければいけない。
「私はきっと大丈夫です。ですが、あなたたちが心配なのです。ラト、暗くて寒いのは我慢しなさい。中にはある程度水と食料もあります。悪い人たちが帰ったら私が開けるので、それまで出ないように。返事は?」
「…わかった」
「お姉ちゃん、死なないでね」
涙目ながらも納得してくれたアマネの柔らかい頬を撫でつつ、心配してくれているラトの頭を撫でる。こんなに愛しい二人を、悲しませてなるものか!絶対に生き残ってやる。そしてこの二人のただいまを聴くのだ。
不安そうではあるものの、ちゃんと返事をしてくれた。今の私に残っているものはこの二人だけなのでもう思い残すことはない。
あとは私が全員ボコボコにすれば良いだけだ。
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