身体能力が凄いというチートだけで能力バトル世界に転生させられた 作:三幹七枝
「ふぅ…!強くなったね。三人とも」
ミラルが蓄えた音の塊を受け止め、身体が後ろに吹き飛ばされる。足に強く力をいれ踏ん張ったが、5メートルは後ろに弾かれた。合金なのにも関わらず深く抉れている足元を見れば、その威力もわかるというものだ。
ミカガミミラル、レゾナの能力は"音の収束と発散"。音と、その衝撃を蓄え自由に放出できる。ミラル、レゾナは足音を能力で消して不意打ちが出来るし、岩が粉砕される音を蓄えれば、発散した時には岩が粉砕された時の音と勢いが放出される。
そう、今発散させたのは今回の戦闘で蓄えた"音"。私がラトの投げた岩を粉砕した衝撃、ラトが頭から瓦礫に突っ込んだ時の衝撃が一まとめになって発散された。まあ、レゾナが消していた足音なども発散されたが、そちらは大した衝撃ではない。
音の発散、というと途轍もないような爆音が鳴るように思えるが、そこまで大きい音はならない。では、溜め込んだ音はどこに発散されるのかというと、喰らったものに対してだ。今回は私だな。
岩に撃てば岩を、人に撃てば人に、撃たれた対象の内部を溜め込んだ衝撃が破壊し尽くす、要は防御無視のクソ技だ。まあ、今回は大した音を溜め込んでいないので素の体力で防ぎきれたが。
私が手を挙げて降参のポーズをとる。まあ?別に?これ以上戦えないというわけではないが、訓練なので一度良いパンチを喰らった以上ここらで終わらせておくべきだろう。
「姉貴普通にワイヤーぶちぶち千切るんだから僕相性悪すぎるよ〜…」
瓦礫の山の中から這い出てきたラトが、私が三年前にプレゼントした柔軟性に長けた深緑色の上着についた埃を手で落としながらこちらに歩いてくる。
「今回一番活躍できてなったのは、ラトじゃないですか?これは私とマンツーマンで特訓ですかねぇ……」
「えぇ〜!?特注したものでも千切られたらどうしようもないんだけど!」
ラトが恨めしげにそう非難してくるが、実際ダメだろう、これでは。むしろワイヤーとかなんて、腕力で勝られている相手とかにも通用するジャイアントキリングしやすい武器だと思うが。
「そうは言うけどね、あんなに真っ向から仕掛けなくても足もとに仕掛けたり、少しでは千切られてしまうならその分束ねてみたり、やりようは幾らでもあるだろう?今回だと、あの細い鉄線はまあ良かったと思うよ」
「むう…流石は教官殿で」
ラトが皮肉を込めてそう呼んでくる。今の私は実際、新兵や志願してきた兵の特訓が役割だからだ。
まあそれはいいとして、ラトにそういう細かいことを細工する癖がつかない理由はわかる。ラトはすでに充分強い。基本、無双する側だからだ。ラトの力で硬い細いワイヤーを振り回しているだけで、広範囲をあっという間に殲滅できてしまうし、それが役に立ったおかげで短期に制圧できた襲撃も沢山ある。
だが、これからはそれだけではなくタイマン性能も必要になってくるのだ。ストーリーが始まれば、雑魚もどんどん強くなっていくだろうし、もしかしたら幹部と戦うことになるかもしれない。ステゴロももっと鍛えなくてはいけない。
「ミラルとレゾナの二人は、かなり良い動きができていたと思うよ。強いて言えば、もう少し二人同時に攻めても良いんじゃないか?」
「うーん、相手がカザギリさんだからってのもあると思うけど、私たちじゃ二人でかかっても案外すぐに跳ね除けられるから……だったら片方がもう片方のサポートの方がやりやすいと思うんだよね」
「ああ、ちゃんと考えた上での動きなら良いんだ。じゃあ、私の戦闘について何か改善点はあったかな?」
基本、新入りを扱いているだけだから良くないクセとかついているかもしれない。こういうお互いの情報の共有はかなり大事なのだ。
「うーん…あっ、そうだ。ちょっと様子見すぎかな?」
「あーわかる。私たちの行動を確認してから対処しようとしてるというか」
「それでいて真っ向から捻じ伏せてくるから鬼教官なんだけどねぇ…」
ああ、確かにそれはあるかもしれない。ミラルの愚痴は無視するとして、アマネとラトの意見には耳が痛い。確かに、新兵たちを鍛える都合上、先手を譲らせてからのカウンターが多いかもしれない。そして、それは初見殺しが大いにありうるこの能力バトル世界では大きな隙となる。
「確かにそうかもしれない。そこは私も今後、気をつけなくてはいけないな」
「ふぅ…じゃあ、そういうことで…」
ラトがため息をついて伸びをして、出口の方へと歩いて行く……ん?何か勘違いしているのだろうか。ラトの肩を掴み、告げる。
「どこへ行くというんだい?マンツーマンで特訓だと言ったろう?まだまだ時間は残っているよ…ラト」
「ヒィッ!」
途端に逃げ回り始めるラト……まあ、追いかけっこでもスタミナはつくだろう。遊びに乗って、必死に逃げるラトの少し後ろをしっかりキープ。そんな私たちの様子をやれやれと見ているミラルとレゾナの二人。
ラトは、サボり癖が強くていけないなあ
◆
「つ…疲れたぁ…」
演習場に入った時に比べて随分とボロボロになったラトを先頭に、時間が来た為演習場を後にする。全員汗をかいてしまったので、それぞれ分かれてシャワーを浴びることになった。男子であるラトとミラルと別れ、レゾナと一緒にシャワー室に入る。
仕切りで区切られた十数個の小部屋にはいり、立てかけられたシャワーからお湯を浴びる。隣にはレゾナが入っていて、シャワーのが肌に当たり地面に落ちる音が鮮明に聞こえてくる。
「…カザギリさん、実は私、ラトくんから来週遊びに行かないかって誘われてるんですよ」
頭を洗っていると、急にレゾナがそんなことを話してきた。
…そうかぁ、ラトが遊びに誘ったのかあ。あの子は奥手だから、随分勇気を出したんだろうなあ。
「…そうか。それは初耳だけど、行ってやってくれると嬉しいな」
「勿論OKしましたよ?でも…これって、デート、ですかね?」
シャワーの音がやけに大きく聞こえる。レゾナから尋ねられたこと…正直言って、わからない。ただ単純に親愛が理由で誘ったのかもしれないし、恋愛的に好きなのかもしれない。ただ、一つわかるのは…
「私は、そういう体験は今までめっぽう無いからわからないけど…少なくともレゾナちゃんにとってはそうなんじゃない?」
「…!」
レゾナちゃんは、ラトのことを好意的に思ってくれている。それは事実だ。それが親愛的にか恋愛的にはわからないが、常日頃からのラトとの接触を見ていれば、そういうものに疎い私でも嫌でもわかる。
自らラトの指導役に立候補して、特訓とかも最初の頃はずっと二人きりでしていて…この頃は特に恋愛的には好きじゃなかったのかもしれないけど、最近はレゾナちゃん、オシャレにも気を使うようになったし、この世界にもあったバレンタイン的イベントでも、いろんな職員に渡しているがラトにだけ気合いの入り用が違ったし、なんなら手渡すようの料理作りを私に協力してほしいと頼んできたほどだ。
…思い返してみると、随分とわかりやすいな。恋バナになった途端、顔を赤らめて私にはそういう人はいないよ!?って大きく否定したり最近だとラトが任務で左手の骨にヒビが入った時はボロボロと泣いて私がラトくんの身の回りのお世話する!と豪語したぐらいだ。流石に本人の目の前では無いが。
「ラトは寂しがりだから、色々とサポートしてやってくれると嬉しいな」
「…はいっ!」
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