番外編 ミレニアムの小さな戦車
ミレニアムサイエンススクール。
とある研究施設の車両整備区画に、一台の小さな装甲車両が置かれていた。
低い車体。
小さな履帯。
そして、車体前方に搭載された20mm機関砲。
その前に、一人のミレニアム一般生徒がしゃがみ込んでいた。
「……あと少し」
少女は工具を手に、エンジン周辺を確認する。
「冷却系、問題なし。駆動系も大丈夫。通信装置も交換完了……」
タブレットにデータを入力していく。
「よし」
彼女が見上げたのは、第二次大戦期の小型戦闘車両――CV33だった。
ただし、この車両は通常のCV33ではない。
彼女が入手してレストアしていたのは、もともと20mm機関砲を搭載した型だった。
「やっぱり、この子はこの姿が一番いいなぁ……」
少女は満足そうに車体を眺める。
ミレニアムの技術によって、通信装置や観測機器などは現代的なものに交換されている。
しかし、車体そのものと20mm機関砲は、可能な限り当時の姿を残していた。
「無理に新しい武装を付ける必要なんてないもんね」
これは単なる戦闘車両ではない。
古い機械を蘇らせ、その構造を実際に調べる。
それが、この研究の目的だった。
少女にとっては、研究対象であると同時に――大切な一台でもあった。
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「……困ったなぁ」
少女は研究室のカレンダーを見る。
そこには二つの予定が書かれていた。
ゲヘナカップ予選。
そして、
ミレニアム学会発表。
日付は――同じ。
「完全に重なってる……」
彼女は机に突っ伏した。
本当なら、ゲヘナカップ予選にCV33を持ち込み、走行データを取る予定だった。
しかし、自分自身が学会で発表する以上、欠席するわけにはいかない。
「せっかくレストアしたのに……」
どうしようかと悩んでいると、研究室のモニターに来客情報が表示された。
『本日、ミレニアムを訪問予定のゲスト――』
少女は顔を上げる。
そこに表示された名前を見た瞬間――。
「……え?」
ライアン・レイノルズ。
そして、ヒュー・ジャックマン。
少女は画面を凝視した。
「ライアン・レイノルズ……」
そして――。
「ヒュー・ジャックマン……」
数秒後。
「……Top Gear」
少女の目が輝いた。
「Top Gearにゲスト出演した二人……!」
普段は大人しい少女の声が、少し大きくなる。
「そうだ……!」
勢いよく立ち上がった。
「この二人なら……!」
近くの生徒が振り返る。
「何が?」
「このCV33を託せるかもしれない!」
「……え?」
「だってTop Gearに出た二人だよ!?」
「いや、俳優さんだけど……」
「でもTop Gear!」
「そこ重要?」
「重要だよ!」
少女は珍しく力説した。
「車に乗ることを楽しんでくれる人だし、こういう変わった車両にも興味を持ってくれそう!」
「まあ……確かに」
少女はCV33を見る。
「それに、この子を預けるなら……大切にしてくれる人がいい」
少しだけ考える。
そして――。
「……お願いしてみよう」
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その日の午後。
ミレニアムの施設内。
ライアンとヒューは、案内された車両整備区画で足を止めていた。
「……これは?」
ライアンがCV33を見つめる。
「CV33です」
少女が答えた。
「私がレストアしている車両です」
ヒューが車体を眺める。
「ずいぶん小さいな」
「はい。でも、ちゃんと走ります」
少女はタブレットを操作する。
「エンジン、駆動系、電装系を修復して、通信装置と観測機器を現代のものに交換しています」
ライアンが20mm機関砲を見る。
「この大砲は?」
「20mm機関砲です」
「後から付けたのか?」
「いいえ」
少女は首を横に振る。
「もともと20mm機関砲を搭載していた型です」
「へえ」
ライアンがさらに近づく。
「じゃあ、オリジナル?」
「できるだけ当時の仕様を残しています」
少女は少し誇らしそうに答えた。
「この車両の一番好きなところなんです」
ヒューも砲身を眺める。
「なるほど。現代技術で蘇らせながら、元の姿は残しているわけか」
「はい!」
少女の表情が明るくなる。
「分かってもらえて嬉しいです!」
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少女は少し緊張しながら、本題を切り出した。
「実は……お願いがあります」
「お願い?」
「ゲヘナカップ予選の日と、私の学会発表の日が重なってしまったんです」
ライアンが頷く。
「それは困ったな」
「本当なら、この子を予選に持っていって走行データを取る予定でした」
少女はCV33を見る。
「でも、私は学会を欠席できません」
「それで?」
少女は一度だけ息を吸った。
「……お二人に、この子を託したいんです」
ヒューが目を瞬かせる。
「私たちに?」
「はい」
「なぜ?」
少女は少し恥ずかしそうに答える。
「……Top Gearに出演されたことがあるからです」
ライアンとヒューが顔を見合わせる。
「なるほど」
ライアンが笑った。
「つまり俺たちは、信頼できるドライバーってことだな?」
「そこだけ聞くと、かなり嬉しい話だな」
ヒューも笑う。
少女は慌てて付け加えた。
「もちろん、それだけじゃありません!」
「ほう?」
「お二人なら、この子を楽しんでくれると思ったんです」
少女はCV33の車体に手を置く。
「私は、この子が大好きなんです」
その言葉を聞いて、二人の表情が少し変わった。
ライアンはCV33を眺める。
「……分かった」
「ライアン?」
「俺たちが預かるよ」
少女の顔が明るくなる。
「本当ですか?」
「もちろん」
ヒューも頷く。
「私も構わない」
「ありがとうございます!」
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少女はCV33を見る。
自分が長い時間をかけてレストアしてきた車両。
それを預けるのは、少し不安だった。
「……でも」
少女は顔を上げる。
「もし、壊れてしまったら……」
ヒューはCV33を見つめた。
そして、静かに答える。
「その場合も、必ず返す」
「え?」
「これは君が大切にしている車両なんだろう?」
「……はい」
「なら、我々が勝手に自分のものにする理由はない」
ヒューははっきりと言った。
「予選が終わったら返す。もし壊してしまったとしても、修理してから返す」
少女は少し驚いたようにヒューを見る。
ライアンも頷いた。
「そういうことだな」
「……はい」
少女の表情が少し和らいだ。
「それなら……お願いします」
「任せてくれ」
ライアンが笑う。
ヒューも頷いた。
「大切に預かろう」
こうして、CV33は二人の手に渡った。
それは譲渡ではない。
あくまで――一時的な預かりだった。
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数日後。
ゴールドマグロ輸送作戦への参加が決まった。
ライアンは格納庫でCV33を眺めていた。
「まさか、こいつを本当に戦闘に使うことになるとはな」
ヒューは20mm機関砲を確認する。
「私も予想していなかった」
「でも、預かった以上は使い切るしかないだろ?」
「……いや」
ヒューは首を横に振った。
「生きて帰ることも仕事だ」
ライアンが笑う。
「分かったよ。壊さないようにしよう」
ヒューはCV33の車体を軽く叩いた。
「約束したからな」
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そして、戦いが終わった。
ゲヘナカップ後、
CV33にはいくつもの傷が残っていた。
しかし、走行不能になることもなく、無事にミレニアムへ戻ってきた。
整備区画。
CV33の姿を見た少女は、駆け寄った。
「おかえり……!」
少女は車体を確認する。
砲塔周辺。
履帯。
車体側面。
いくつかの新しい傷。
「……結構、派手にやりましたね」
ライアンが苦笑する。
「まあ、ちょっとな」
ヒューは申し訳なさそうに車体を見る。
「すまない」
少女は首を横に振った。
「でも……ちゃんと戻ってきました」
「約束したからな」
ヒューはそう答えた。
少女はCV33の車体を撫でる。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
ヒューが答える。
「貴重な車両を預けてくれてありがとう」
「……はい」
ライアンが最後にCV33を振り返る。
「また乗りたくなったら?」
少女が笑う。
「そのときは、ちゃんと申請してください」
「了解!」
ヒューは笑いながらライアンを見る。
「次は戦闘ではなく、普通に乗ることにしよう」
「それもいいな」
こうしてCV33は、無事に本来の持ち主であるミレニアムの生徒のもとへ帰った。
それは、ただの小さな戦車ではない。
一人の生徒が大切にレストアし、二人のゲストが責任を持って預かり、そして必ず返した――
そんな小さな約束の証だった。