第二章 遅れてきた援軍
ゴールドマグロ輸送車列。
その前方に、ゲヘナ学園・美食研究会の車両が姿を現していた。
まだ距離はある。
だが、敵は確実にこちらへ向かっている。
リチャードは改造クルセイダーの操縦桿を握った。
「……ジェレミー」
「ああ」
「数が多いな」
センチュリオンの車内。
ジェレミーは双眼鏡を下ろした。
「美食研究会だ。こちらが輸送隊だと分かっていて来ている」
「つまり、交渉する気はないってことか」
「最初からな」
無線に正義実現委員会の声が入る。
『各車、戦闘準備。敵車列との距離、縮まっています』
車内の空気が変わった。
砲手が砲尾を確認する。
装填手が弾薬を確認する。
エンジン音だけが、車内に低く響いている。
その時だった。
『こちら正義実現委員会輸送本部。後方から友軍車両が接近しています』
リチャードが眉をひそめた。
「友軍?」
『トリニティからの応援です』
「今?」
ジェレミーが振り返る。
「間に合うのか?」
『現在、こちらへ向かっています』
リチャードは一瞬だけ後方を見た。
「……急いでもらおう」
その直後。
遠くから、エンジン音が聞こえてきた。
最初は小さかった。
だが、次第に大きくなる。
砂煙が上がった。
「来た!」
正義実現委員会の生徒が叫ぶ。
丘の向こうから、一両のクルセイダーが姿を現した。
2ポンド砲仕様。
車体は激しく揺れながら、輸送車列へ向かって疾走してくる。
「速い……!」
リチャードが呟く。
クルセイダーは減速しながら車列の後方へ滑り込んだ。
ハッチが開く。
「す、すみません!」
飛び出してきたのは、阿慈谷ヒフミだった。
続いて、アズサが姿を現す。
「白洲アズサ。支援に来た」
リチャードが叫ぶ。
「遅いぞ!」
「すみません!」
ヒフミは深々と頭を下げた。
「実は……」
「今は言い訳を聞いてる場合じゃ…」
「ペロログッズを買ってました」
「…………」
一瞬、車内が静まり返った。
ジェレミーが無線越しに尋ねる。
「何?」
アズサが淡々と答えた。
「ヒフミが限定品を買うために寄り道した」
「アズサちゃん!?」
「事実だ」
「だって限定販売だったんですよ!」
ヒフミが必死に説明する。
「今日を逃したら二度と買えないかもしれなくて……!」
リチャードは頭を抱えた。
「……今、敵が来てるんだぞ」
「はい!」
ヒフミの表情が変わった。
「だから、ちゃんと間に合わせました!」
その瞬間。
遠くで――
ドンッ!
低い爆発音が響いた。
全員が黙った。
丘の向こう。
土煙が上がってるのが見えた。
美食研究会だった。
「……警告射撃か?」
ジェレミーが双眼鏡を構える。
違う。
敵車両が、こちらへ向かっている。
速度を上げている。
「距離、縮まっています!」
正義実現委員会の生徒が叫ぶ。
ヒフミも敵を見つめた。
さっきまでの柔らかな表情が消える。
「……あれが」
「美食研究会……」
アズサが答える。
彼女は砲塔へ戻った。
「ヒフミ」
「はい」
「私たちは何をしに来た?」
「ゴールドマグロの護衛です」
「それと?」
ヒフミは一瞬だけ考えた。
「……ゲヘナカップの練習です」
「そうだ」
アズサが照準器を確認する。
「なら、練習だと思って手を抜くな」
「はい!」
ヒフミも操縦席へ戻る。
ハッチが閉じられた。
車内は再び静かになった。
エンジンの振動。
砲塔の旋回音。
そして、遠くから近づいてくる敵車両の音。
ヒフミは操縦桿を握りしめる。
「……アズサちゃん」
「何?」
「ちょっと緊張します」
「私もだ」
「えっ」
「だから、問題ない」
アズサは淡々と言った。
「緊張しているなら、周囲をよく見ろ。見落とさなければいい」
「……はい!」
その頃
CV33
ライアンは敵車列を見つめていた。
「ヒュー」
「何だ?」
「敵が現れた」
ヒューは20mm砲の照準器から目を離さない。
「こっちも増えただろ」
「確かに」
ライアンがクルセイダーの横へCV33を寄せる。
「俺たちは右側面を守る」
「了解」
ヒューが砲身を動かす。
小さなCV33の20mm砲が、敵へ向けられた。
「……来るぞ」
ヒューが呟いた。
前方。
美食研究会の車列が、丘を越えた。
今度ははっきり見える。
複数の車両。
その先頭に立つのは――
ジェームズ・メイ。
彼は無線機を手に取った。
「こちらは美食研究会」
輸送隊に通信が入る。
「そのゴールドマグロを渡してもらいたい」
ジェレミーが返す。
「断る」
「そうか」
メイの声に、怒気はない。
むしろ異様なほど冷静だった。
「では、仕方ない」
リチャードが砲塔を敵へ向ける。
「全車、戦闘態勢!」
正義実現委員会の生徒たちが一斉に動く。
センチュリオン。
改造クルセイダー。
CV33。
そしてヒフミとアズサのクルセイダー。
それぞれの砲身が、ゆっくりと敵へ向けられていく。
輸送トレーラーは、その中央にいる。
逃げ場はない。
ヒフミが息を呑む。
「……来ます」
アズサは照準器を覗いた。
「距離、確認」
「敵、接近!」
「まだ撃つな」
「はい!」
敵との距離が縮まる。
さらに縮まる。
ジェームズ・メイが手を上げた。
美食研究会の車両が、一斉に速度を落とす。
静寂。
次の瞬間。
メイの手が振り下ろされた。
「行け」
敵車両が一斉に加速する。
「来た!」
リチャードが叫ぶ。
「全車――」
その声が無線網に響き渡る。
「撃て!」
轟音。
大地が震えた。
センチュリオンの砲声。
クルセイダーの砲声。
そして――
CV33の20mm砲が、猛烈な連射音を響かせる。
ヒフミは操縦桿を握りしめた。
「行きます!」
クルセイダーが前へ飛び出す。
アズサが照準を合わせる。
「敵、正面!」
ゴールドマグロ輸送作戦。
その護衛戦闘が、ついに始まった。