第三章 ルクス、疾走
砲声が轟いた。
輸送道路の両側で土煙が舞い上がる。
センチュリオンの砲弾が地面をえぐり、改造クルセイダーの砲撃が美食研究会の進路を塞ぐ。
しかし――
「ハルナさん、右!」
アカリが叫ぶ。
「分かっていますわ」
ルクス1号車が急旋回した。
車体が大きく傾く。
それでも速度は落ちない。
「速い!」
リチャードが叫んだ。
「ルクスか!」
小型の車体が、まるで道路を滑るように走っていく。
ハルナは正面にいる輸送トラックを見据えた。
「アカリさん」
「はい!」
「トラックを狙いますわ」
アカリが20mm砲の照準を合わせる。
「撃ちます?」
「まだです」
ハルナは冷静に答えた。
「商品を傷つけてしまっては、美食の意味がありませんもの」
「なるほど!」
ルクスはそのままトラックの側面へ回り込もうとする。
一方、2号車。
「イズミ、もっと右!」
車長席からジェームズ・メイが指示を飛ばす。
「分かった!」
イズミが操縦桿を切る。
「ジュンコ、準備!」
「任せて!」
ジュンコが20mm砲を構える。
「……あいつら、速いな」
リチャードが舌打ちする。
クルセイダーでは追いつけない。
センチュリオンなら速度差はさらに大きい。
美食研究会は、それを理解している。
「ジェレミー!」
「分かっている」
センチュリオンの車内。
ジェレミーは敵の動きを見ていた。
「奴らは戦車を倒しに来ているんじゃない」
「じゃあ何を?」
「無傷でトラックを奪うことだ。
おそらくジェームズがトラックを運転するつもりだろ…」
その瞬間。
「まずい!」
正義実現委員会の生徒が叫んだ。
「敵が輸送車へ接近しています!」
トラックの左右から、二両のルクスが迫る。
ゴールドマグロを積んだトレーラーは、急に進路を変えることができない。
そのままでは――
「ヒフミ!」
リチャードが叫ぶ。
「はい!」
「右のルクスを止められるか!」
「やってみます!」
ヒフミはアクセルを踏み込んだ。
クルセイダーが加速する。
「アズサちゃん!」
「分かっている」
砲塔が右へ向く。
ルクス2号車がこちらへ向かっている。
「距離、近い!」
ヒフミが叫ぶ。
「まだ撃つな」
「え?」
「トラックが近すぎる」
アズサは照準を調整する。
「外せば輸送車に当たる」
「……はい!」
クルセイダーがさらに接近する。
ルクスも速度を上げる。
互いの距離が縮まっていく。
「来るぞ!」
メイが叫ぶ。
「ジュンコ!」
「分かってる!」
20mm砲がクルセイダーへ向く。
「撃っていい?」
「まだだ!」
メイは周囲を見た。
正面には輸送トラック。
左にはセンチュリオン。
右には改造クルセイダー。
そして後方から、もう一両のクルセイダー。
「……なるほど」
メイが静かに笑った。
「なら、こちらも分かれる」
「どうするんですか?」
イズミが尋ねる。
「ジュンコ、正面のクルセイダーを牽制」
「了解!」
「イズミ、トラックへ接近」
「分かった!」
「私が指示する」
2号車が急旋回した。
ヒフミのクルセイダーの前を横切る。
「うわっ!」
ヒフミが操縦桿を切る。
ルクスが目の前を高速で通過した。
「速い!」
アズサが叫ぶ。
「ヒフミ!」
「はい!」
「追って!」
「はい!」
クルセイダーがルクスを追う。
その時だった。
右側から別のエンジン音。
ライアンが気づいた。
「ヒュー!」
「見えてる!」
CV33の前方を、ルクス1号車が横切る。
「ハルナさんだ!」
ヒューが照準器を覗く。
「撃つか?」
「いや」
ライアンはアクセルを踏み込んだ。
「俺たちは追い込む」
「了解」
CV33がルクスの後ろへつく。
「ヒュー、トラックには当てるなよ」
「分かってる」
ヒューは20mm砲を構えた。
「でも、あのルクスを止めるくらいならできる」
照準器の中に、ルクス1号車が入った。
ヒューが息を止める。
しかし――
「……待て」
ライアンが突然言った。
「どうした?」
「前を見ろ」
CV33の先。
ルクス1号車のさらに先に、輸送トラックがいる。
その距離は近い。
あまりにも近い。
「撃てないな」
「ああ」
ヒューが砲を下げた。
「撃ったらトラックまで巻き込む」
ライアンが笑う。
「じゃあ、運転で勝負だ」
アクセルを踏み込む。
CV33が加速する。
「来るぞ!」
ヒューが叫ぶ。
ルクス1号車の横へ、CV33が並んだ。
「ライアン!」
「任せろ!」
小さな二両が並走する。
20mm砲を持つルクス。
そして20mm砲を持つCV33。
しかし、お互いに撃てない。
その先には――
ゴールドマグロを積んだトラックがいる。
「……面白いな」
ヒューが笑った。
「戦車戦なのに、撃ったら負けだ」
「同感だ」
ライアンも笑う。
その瞬間。
前方から無線が入った。
『こちら輸送本部! この先、高速道路への分岐があります!』
ジェレミーが叫ぶ。
「まずい!」
リチャードも気づいた。
「高速道路に入られたら追いつけなくなる!」
ヒフミがルクスを追う。
「アズサちゃん!」
「ああ」
アズサが照準器を覗いた。
「ヒフミ」
「はい!」
「次の一発で、あのルクスの進路を変える」
「分かりました!」
ヒフミがアクセルを踏み込む。
クルセイダーが唸りを上げる。
前方には高速道路への分岐。
その手前を、輸送トラックが走っている。
そして左右から迫る美食研究会のルクス。
残された時間は、もうほとんどない。
アズサが静かに照準を合わせた。
「……今だ」
砲手席に緊張が走る。
ヒフミは前だけを見た。
「撃ちます!」
2ポンド砲が轟音を響かせた。
砲弾は――
ルクスのすぐ前方へ着弾した。
土煙が道路を覆う。
「うわっ!」
イズミが叫ぶ。
ルクス2号車が急旋回する。
「ジュンコ!」
「分かってる!」
メイが叫ぶ。
「高速道路へ入るぞ!」
ルクス2号車が煙の向こうへ飛び込んでいく。
その後ろから、ルクス1号車も続く。
そして――
輸送トラックも分岐へ入ろうとしていた。
「逃がすな!」
リチャードが叫ぶ。
戦車たちが一斉に加速する。
ゴールドマグロ輸送作戦は、
ただの戦車戦から――
高速道路を舞台にした追撃戦へと変わろうとしていた。