第五章 高速道路の戦車戦
ドドドドドッ!
ルクスの20mm機関砲が火を噴いた。
弾丸がセンチュリオンの前方を横切り、路面に跳ねる。
「撃ってきた!」
ジェレミーが叫ぶ。
「こっちも撃ち返します!」
砲手が照準を合わせる。
だが――。
「待て!」
ジェレミーが制止した。
ルクスのすぐ向こうには、QLRが走っている。
「外したら輸送車に当たる!」
「……了解!」
センチュリオンの主砲が止まる。
その隙を狙い、ルクスが一気に前へ出た。
「逃がすか!」
ジェレミーがアクセルを踏み込む。
センチュリオンが速度を上げる。
しかし、ルクスは軽い。
一号車が左へ。
二号車が右へ。
二両がQLRを挟むように動き始める。
「挟み撃ちにするつもりか!」
リチャードが叫ぶ。
「リチャード、右を頼む!」
「了解!」
クルセイダーが二号車のルクスを追う。
だが、ルクスは急旋回。
クルセイダーの照準から逃れる。
「ちょこまかと……!」
リチャードが歯を食いしばる。
そのとき――。
二号車の車内で、ジュンコがメイに尋ねた。
「メイさん」
「何でしょう?」
「さっきのニトロ、もう空なんじゃないの?」
メイは前を見たまま答えた。
「一度使ったボトルは空です」
「じゃあ、もう使えないじゃん」
「そのボトルは、です」
「……え?」
メイが車内の後方を指差す。
そこには、しっかりと固定されたボトルが並んでいた。
「予備を積んであります」
ジュンコが目を丸くする。
「何本あるのよ……」
「必要なだけです」
「いや、それが何本なのか聞いてるんだけど!」
イズミが笑いながら口を挟む。
「戦車にニトロを何本も積む人なんて、初めて見たよ!」
「そうでしょうか?」
メイは本気で不思議そうな顔をした。
「高速道路での作戦ですから。速度は重要です」
「それ、普通の戦車の考え方じゃないと思う……」
ジュンコが呆れる。
メイは構わず、一本のボトルを開ける。
「では、もう一度」
カチッ。
バルブが開く。
エンジンへ亜酸化窒素が送り込まれる。
「ニトロ、再使用!」
イズミが叫ぶ。
ルクスのエンジンが唸りを上げた。
――グォォォン!
車体が一気に加速する。
「なっ……!」
ジェレミーが驚く。
二号車との距離が急激に開いていく。
「また速くなった!?」
「何をしたんだ、あいつ!」
リチャードも驚きを隠せない。
ルクスは高速道路を駆け抜ける。
その速度は、もはや通常のルクスとは別物だった。
「これなら輸送車両まで一気に――」
イズミが叫ぶ。
「まだです」
メイが冷静に制止する。
「輸送車両には護衛が残っています」
前方にはQLR。
その後方にはセンチュリオンとクルセイダー。
さらに護衛車両も続いている。
「一気に近づいても、囲まれるだけです」
「じゃあ、どうするの?」
「まず一号車がクルセイダーを引きつけます」
メイが無線を入れる。
「ハルナさん、お願いします」
『分かりました』
一号車が進路を変えた。
クルセイダーの前を横切る。
「こいつ!」
リチャードが追う。
ルクスは急減速。
クルセイダーが追いつこうとした瞬間、再び加速。
「またか!」
リチャードがハンドルを切る。
その間に、二号車がQLRへ接近する。
「今度こそ行ける!」
ジュンコが20mm機関砲を構える。
だが、メイは撃たせなかった。
「撃つ必要はありません」
「え?」
「我々の目的はトラックを壊すことではありません」
メイはQLRを見つめる。
「ゴールドマグロを無傷で手に入れることです」
二号車がQLRの横へ並ぶ。
『輸送車両、右側!』
輸送車のモブの無線が飛び交う。
『敵車両接近!』
「絶対に近づけるな!」
ジェレミーがセンチュリオンをQLRとの間へ滑り込ませる。
「ジェレミー!」
「こいつを近づけさせるな!」
センチュリオンの車体がルクスの進路を塞ぐ。
ルクスは急旋回。
そのまま反対側へ逃げる。
「速い……!」
ジェレミーが照準を合わせる。
しかし、やはり撃てない。
QLRが近すぎる。
「くそっ!」
ジェレミーは砲塔を戻す。
「ならば、進路を塞ぐ!」
センチュリオンがルクスの前へ回り込む。
ルクスが左へ。
センチュリオンも左へ。
右へ。
センチュリオンも右へ。
「どうした! これ以上は行かせないぞ!」
ジェレミーが叫ぶ。
「……なるほど」
メイが呟く。
「正面から突破するのは難しいようですね」
「じゃあ、どうするの?」
ジュンコが尋ねる。
メイは少し考える。
そして――。
「上ではなく、下を見ましょう」
「下?」
「高速道路の分岐です」
前方に分岐が見えてきた。
メイは即座に判断する。
「一号車はそのままクルセイダーを引きつけてください」
『了解!』
「二号車は分岐へ」
イズミがハンドルを切る。
ルクスが分岐へ向かう。
「逃がすか!」
ジェレミーが追う。
しかし、その瞬間。
「今です!」
メイがニトロを再び噴射する。
――グォォォン!
二号車が一気に加速。
センチュリオンとの距離が開く。
「また使った!」
ジェレミーが叫ぶ。
「一体、何本積んでるんだ!?」
ルクスは分岐を抜け、高速道路をさらに先へ進む。
だが――。
「……ジェレミー」
リチャードから無線が入る。
「一号車は俺が押さえる。お前は二号車を追え」
「了解!」
センチュリオンが二号車を追って加速する。
ニトロの効果は長くない。
ルクスの速度が徐々に落ち始める。
「メイさん!」
イズミが叫ぶ。
「そろそろニトロが切れるよ!」
「分かっています」
メイは後方を見る。
センチュリオンが迫っている。
「ですが、それで十分です」
「何が?」
「ここまで来れば、もう逃げる必要はありません」
メイが20mm機関砲を見る。
「迎え撃ちます」
ジュンコが砲手席で身構えた。
ルクスが減速する。
センチュリオンも距離を詰める。
二両の戦車が、高速道路上で真正面から向き合った。
「今度こそ決着をつけるぞ!」
ジェレミーが叫ぶ。
メイは静かに笑った。
「ええ。戦車戦といきましょう」
20mm機関砲が旋回する。
センチュリオンの主砲も、ゆっくりと照準を合わせる。
高速道路に、緊張が走った。
そして――。
両者が同時に引き金を引いた。