第六章 守られたゴールドマグロ
高速道路上。
センチュリオンとルクス。
二両の戦車が、互いに砲を向けていた。
先に動いたのはジェレミーだった。
「撃て!」
ドンッ!
センチュリオンの主砲が火を噴く。
砲弾がルクスのすぐ横を通過し、路面に着弾した。
「右!」
イズミがハンドルを切る。
ルクスが急旋回。
しかし――。
「そこだ!」
ジェレミーが叫ぶ。
センチュリオンが旋回し、再び砲口を向ける。
「今度は外さない!」
ドンッ!
砲弾がルクスの車体前方に命中。
車体が大きく跳ねる。
「うわっ!」
イズミが叫ぶ。
エンジンから異音が響いた。
「やられた!」
「まだ動けます!」
イズミが操縦桿を操作する。
ルクスはなんとか走り続ける。
「ジュンコ!」
「分かってる!」
20mm機関砲が火を噴く。
ドドドドドッ!
センチュリオンの装甲に弾丸が跳ね返る。
「効かない!」
ジュンコが叫ぶ。
「やっぱり正面からじゃ無理!」
「なら、側面へ!」
メイが指示する。
ルクスが大きく旋回する。
だが――。
その動きを待っていたかのように、センチュリオンも旋回した。
「逃がさない!」
ドンッ!
砲弾がルクスの側面近くに着弾する。
衝撃でルクスが大きく揺れた。
「きゃっ!」
ジュンコが砲塔内で身体を支える。
「メイさん!」
「……ここまでですね」
メイは冷静だった。
「エンジンも足回りも限界です」
「でも、まだ動くよ!」
「ええ」
メイは前を見る。
その先には、ゴールドマグロを積んだQLR。
そして、その周囲を守る護衛車両。
「ですが、これ以上続ければ輸送車両を巻き込む可能性があります」
メイは無線を取った。
「ハルナさん、イズミさん。撤退しましょう」
「えっ!?」
ジュンコが驚く。
「ゴールドマグロは?」
「今回は諦めます」
メイはあっさりと言った。
「次の機会があります」
「……分かった」
イズミがルクスを反転させる。
しかし、その前に――。
「止まれ!」
ジェレミーの声が響いた。
センチュリオンの砲がルクスを捉えている。
「これ以上は逃がさない!」
メイは両手を上げた。
「降参です」
「え?」
ジュンコが振り返る。
「本当に?」
「ええ」
メイは穏やかに答えた。
「今回は我々の負けです」
二両のルクスが停止する。
少し遅れて、一号車を追っていたクルセイダーも戻ってきた。
リチャードが車体から身を乗り出す。
「終わったの?」
「ああ。終わった」
ジェレミーが答える。
「ゴールドマグロは無事だ」
その言葉を聞いて、護衛部隊から安堵の声が上がった。
「やった……!」
「守り切ったぞ!」
「ゴールドマグロは無事です!」
無線が一斉に騒がしくなる。
その中で、ヒフミもほっと息を吐いた。
「よかったです……」
アズサが隣で答える。
「まだ任務は終わってない。施設まで届けるまでが護衛」
「そうでした!」
ヒフミが気を引き締める。
そして――。
QLRは再び走り始めた。
ジェレミーたちも護衛位置につく。
戦闘で傷ついた車両を残しながらも、輸送隊は前へ進んでいく。
やがて高速道路を抜け、目的地である研究施設へ到着した。
「到着しました!」
輸送車両の運転手が報告する。
施設の職員が駆け寄ってくる。
「生命維持ユニットを確認します!」
QLRの荷台が開かれる。
護衛部隊の全員が見守る中、生命維持ユニットが慎重に運び出される。
「ゴールドマグロは?」
ジェレミーが尋ねる。
職員は笑顔で答えた。
「問題ありません」
「よかった……」
ジェレミーは大きく息を吐いた。
リチャードも笑う。
「いやあ、長かったな」
「本当に」
ヒフミが頷く。
「でも、これでゴールドマグロを守れました!」
アズサが周囲を見る。
「……そうだね」
その頃――。
施設から遠く離れた空。
一機のヘリコプターが飛んでいた。
ローター音を響かせながら、静かに目的地へ向かっている。
その機内には――。
もう一つの生命維持ユニットがあった。
そして、その中には。
ゴールドマグロ。
「こちら輸送ヘリ」
無線が入る。
「目的地まであと十分」
操縦士の隣には、作戦責任者が座っている。
「了解」
「地上部隊から連絡は?」
「ありません」
「そうか」
作戦責任者は窓の外を見る。
「予定通りだ」
実は――。
今回のQLR輸送は、囮だった。
ゲヘナ学園・美食研究会が狙うことを想定し、あえてゴールドマグロの生命維持ユニットを搭載したQLRを走らせた。
そして、本物のゴールドマグロは別ルート。
空から、すでに安全な場所へ向かっていた。
この計画を知っていたのは、ごく一部だけだった。
正義実現委員会の上層部。
ティーパーティーの上層部。
そして――。
今回の計画を立案したプロデューサー、ウィルマン。
その三者だけだった。
地上の護衛部隊には、本当の作戦は知らされていなかった。
もちろん、ジェレミーもジェームズも。
リチャードも。
ヒフミも。
アズサも。
「……それにしても」
ヘリの操縦士が笑う。
「地上は相当派手にやったみたいですね」
作戦責任者が無線記録を見る。
そこには、高速道路上で繰り広げられた激しい戦闘の記録が残されていた。
「彼らは本気で守ったんだ」
「ええ」
作戦責任者は静かに答えた。
「だからこそ、作戦は成功した」
一方その頃。
研究施設では――。
ジェレミーたちが達成感に包まれていた。
「今回の任務、無事完了!」
誰かが叫ぶ。
「お疲れ様でした!」
ヒフミも笑顔になる。
その横でアズサが小さく頷く。
「……任務完了」
ジェレミーは空を見上げた。
「終わったな」
リチャードが笑う。
「いや、まだ始まったばかりかもしれないぞ」
「どういう意味だ?」
「美食研究会が、このまま諦めると思うか?」
ジェレミーは苦笑する。
「……それもそうだな」
その頃。
別の場所では――。
停止したルクスの前で、メイが車体を眺めていた。
「見事に壊れましたね」
ジュンコが呆れる。
「誰のせいよ……」
「改良には失敗がつきものです」
「ニトロまで使って?」
「ええ」
メイは空になったボトルを手に取る。
「しかし、良いデータが取れました」
ハルナが微笑む。
「次はもっと速くできますね」
「その前に、修理費を考えてください!」
ジュンコが叫ぶ。
イズミが笑う。
「それより、ゴールドマグロ食べたかったなぁ……」
みんなが黙る。
メイも少し考える。
「……私もです」
「そこは同意するんだ!?」
高速道路で始まった、ゴールドマグロ輸送作戦。
激しい戦闘の末、護衛部隊はQLRを守り抜いた。
しかし――。
彼らが守っていたものは、最初から囮だった。
本物のゴールドマグロは、誰にも知られることなく空を飛び、すでに安全な場所へ向かっていた。
そしてこの秘密を知る者は、まだほんの一握り。
ゴールドマグロ輸送作戦――地上戦、完。