守れ自然を ゴールドマグロ輸送作戦   作:ガチタン雷電

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エピローグ2

後日談 美食研究会の反省会

 

数日後――。

 

ゲヘナ学園、美食研究会の部室。

 

机の上には、今回の作戦で撮影された写真や、修理を終えたばかりのルクスの整備記録。

その横には、見慣れない大量の請求書が積み上げられていた。

 

ジュンコは一枚の請求書を手に取る。

 

「……ちょっと待ってください、メイさん。この『ニトロボトル代』って何ですか?」

 

「今回の作戦で使用したものです」

 

「それは分かりますよ! でも一本十万円って、二本で二十万円じゃないですか!」

 

ジュンコが机を叩く。

 

「必要経費です」

 

メイは何事もなかったかのように答えた。

 

「必要経費って……!」

 

「ジュンコ」

 

ハルナが静かに口を挟む。

 

「メイさんが必要だと判断したのでしょう? なら、まずは作戦そのものを振り返るべきですわ」

 

「……うぅ。分かりましたよ……」

 

ジュンコは渋々、請求書を机に戻した。

 

ハルナはルクスの写真に目を向ける。

 

「ニトロがなければ、あのディンゴを捕まえるのは難しかったでしょうね」

 

「そうですね」

 

アカリも写真を覗き込む。

 

「かなり速かったもんねー」

 

「通常のルクスでは追いつけませんでした。だからこそ、あの改造には意味があったのです」

 

「……でも二十万円」

 

「ジュンコ」

 

「はい……」

 

そのとき、イズミが机の端に置かれていた一冊のファイルを手に取った。

 

「ところで、これは?」

 

「ウィルマンから頂いた資料です」

 

「……頂いた?」

 

「正確には、作戦終了後に私たちで回収したものです」

 

「ぶんどったんだね」

 

アカリが笑う。

 

「そうとも言います」

 

メイは否定しなかった。

 

ファイルには、今回のゴールドマグロ輸送作戦についての資料がまとめられていた。

 

輸送計画。

研究目的。

複数の輸送ルート。

そして、途中から伏せられていた本来の搬送先。

 

ハルナがページをめくる。

 

「……これによると、私たちが追っていたベッドフォードQLRは……」

 

「囮だった、ということですね」

 

メイが答える。

 

「本物のゴールドマグロは、別ルートで運ばれていた」

 

「はぁ!?」

 

ジュンコが勢いよく立ち上がる。

 

「じゃあ、あたしたちが追いかけてたのは何だったんですか!」

 

「囮です」

 

「はあ…」

 

ハルナがため息をつく。

 

「ジュンコ、落ち着きなさい」

 

「……はい」

 

メイは資料を一枚取り出した。

 

「そして、ここからが問題です」

 

そこには、本物のゴールドマグロが最終的に移送された研究機関についての情報が記されていた。

 

温暖な海域。

大型回遊魚の研究。

マグロの養殖技術。

海洋資源の研究。

 

さらに――。

 

「魚を生で食べる文化……?」

 

イズミが読み上げる。

 

「刺身、寿司、丼……」

 

アカリの目が輝いた。

 

「なんだか急に魅力的な資料になりましたね」

 

「アカリ、目的を忘れないでください」

 

ハルナがたしなめる。

 

「はーい」

 

メイは資料を眺め、静かに結論を出した。

 

「この研究機関がある場所は……日本でしょう」

 

「日本……!」

 

ジュンコが驚く。

 

「よりによって日本ですか!?」

 

「マグロとカニを非常に好む国です」

 

メイは頷いた。

 

「つまり……」

 

イズミが資料を見る。

 

「向こうがゴールドマグロの飼育方法を研究してしまえば……」

 

「生態だけではありません」

 

メイが続ける。

 

「成長段階ごとの給餌、脂質管理、肉質、養殖環境。そして、最も重要なのは――」

 

メイが資料を閉じた。

 

「どうすれば美味しく食べられるのか、という研究です」

 

一同が沈黙する。

 

「……それは困りますね」

 

ハルナが真剣な表情になる。

 

「日本人に先を越される可能性があります」

 

「寿司……」

 

アカリが呟く。

 

「刺身……」

 

イズミも続く。

 

「炙り……」

 

ジュンコが続ける。

 

「丼……」

 

四人の視線が交差した。

 

「これは……監視が必要ですね」

 

メイが静かに宣言した。

 

「はい!」

 

四人が同時に答えた。

 

だが、ジュンコがふと思い出したように口を開く。

 

「……そういえば、なんであのとき途中で追撃をやめたんですか?」

 

部屋の空気が少し変わった。

 

「私たち、美食研究会ですよね? 狙ったものは、完全に捕まえるまで追う。そういうことでしょう?」

 

「ええ」

 

ハルナが頷く。

 

「私たちは『今』を大切にします。だから、目の前に欲しいものがあるなら、捕まえられない限り追いかける」

 

アカリとイズミも頷いた。

 

「それが私たちです」

 

「では、なぜ……?」

 

ジュンコの問いに、ハルナがメイを見る。

 

「作戦前に、メイさんと約束していたのです」

 

「約束?」

 

「ええ。メイさんが『作戦を中止する』と命じた場合、その理由はただ一つ――誰かの命が危険にさらされた場合です」

 

部屋が静まり返る。

 

キヴォトスにおいて、殺人は禁忌中の禁忌。

 

どれほど悪名高い者であろうと、どれほど激しい争いになろうと、人を殺すことだけは決して許されない。

 

だからこそ――。

 

「私たちは、その約束を守りました」

 

ハルナが言う。

 

「メイさんが撤退を命じたのなら、それは人の命を守るためですもの」

 

「……なるほど」

 

ジュンコは納得したように頷いた。

 

「だから、あのときは追わなかったんですね」

 

「ええ」

 

メイが答える。

 

「私たちは『今』を大切にします。だからこそ、仲間の命も大切にするのです」

 

「……死んじゃったら、食べられないもんね」

 

アカリがぽつりと言った。

 

「アカリさん……」

 

ハルナが呆れたように見る。

 

しかし――。

 

「ふふっ」

 

「ははは……」

 

やがて、部屋に笑い声が広がった。

 

そして再び、机の上の日本の資料へ視線が集まる。

 

ゴールドマグロは、まだ彼女たちの手には入っていない。

 

だが――。

 

「日本で、どんな研究が行われるのか」

 

メイが資料を閉じる。

 

「しっかり見届けましょう」

 

美食研究会の次なる標的は――。

 

まだ遠い日本だった。

 

――To Be Continued……

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