洗脳少女ノ魔女裁判   作:大正エビフライ

3 / 8
ちょっとだけ遅れました。
二次創作なので当然ですが、かなり自己解釈多めです。


#0-3 破滅

 学校が始まってすぐ、ユキはいじめられた。そのきっかけは不可解なものだ。彼女の周囲では、花が枯れ、教室には見たこともない蟲が湧き、彼女の通った後にはドブのような腐臭がして……まるで、世界から嫌われているかのように、しきりに不幸が起きたから。

 ……あれは、恐らくわがはいの魔法(のろい)と同じようなものなのだろう。

 

 だが、それでも人としての生活は幸せだった。ヒロがみんなの居場所を守ってくれたから。

 わがはい、エマ、ユキ、ヒロ。四人で支え合って過ごすこの生活が楽しかった。きっと、これからもこの時間が続いて行くのだろうって、そう思った。

 

 だが、この時間はそう長くは続かなかった。

 二年に上がる頃、ヒロの海外への長期留学が決まったからだ。

 

「すまないな、三人とも。私はしばらく日本を離れることになった」

「いつ、帰ってくるの……?」

「安心しろ、エマ。少なくとも三年になるまでには帰ってくるさ」

 

 ヒロが優しく微笑み、エマの頭を撫でる。……少し、羨ましいと感じてしまう。エマはこうしてヒロに撫でて貰え、ユキは彼女から万年筆を貰っているのに、わがはいだけ何もなくて少しだけ距離を感じてしまう。ヒロは、そんなわがはいの視線に気づいたのか少し離れた場所へとわがはいを手招きした。

 

「……アンアン、一つ頼みがある」

『なんだ?』

 

 二人きりの廊下で、ヒロは真剣な眼差しでわがはいを見据えた。

 

「エマとユキのことだ。先ほどエマにはユキを守るよう言ったが、彼女はいじめから人を守れるほどに強くはない。それにユキは、どこか危うい……」

 

 そうしてヒロは、わがはいの肩に手を置く。その手には、確かな信頼がこもっていた。

 

「アンアン、君は強い。君なら、二人を支えてあげられるはずだ。私がいない間、二人を守ってくれないか?」

 

 その言葉は、わがはいにとって何よりうれしいものだった。あのヒロが、わがはいを頼ってくれている。対等な友人として認めてくれている。

 そんな事実に胸が熱くなるのを感じながら、わがはいは新しいページに力強くペンを走らせて得意げにそれを掲げた。

 

『ああ、任せておけ。ヒロが帰るまで、二人には傷一つつけさせん』

 

 安心したかのようにヒロの表情が緩む。わがはいを信用してくれている事実が、嬉しかった。

 

 ――だが、これが終わりの始まりだったのだ。

 

***

 

 ヒロが居なくなった翌日、早速教室の空気が一変した。

 ヒロと言ういじめをせき止めるダムが居なくなった途端、こうして悪意が一気に押し寄せてくるのは当然のことだった。

 日を追うごとに彼女へのいじめの勢いは加速していく。

 ある時は体育着を切り裂かれ、ある時は机を落書きまみれにされ、ある時は上履きに画鋲を詰められ……。

 当然、わがはいは抵抗をしないユキの代わりにノートを取り出し、いじめっ子たちの前に立ちはだかった。

 

『下らぬことはやめろ。恥ずかしくないのか』

 

 必死に書きなぐった抗議の言葉。だが、それを向けられたいじめっ子は鼻で笑ってわがはいのノートを弾き飛ばす。

 

「あ? 喋れねぇ癖になんだよ、引っ込んでろよ障害者!」

 

 バチン。とノートが落ち、汚らわしい上履きがわがはいのノートを無惨に踏みにじり、ぐしゃぐしゃにする。

 

(……そうか、わがはいでは……)

 

 使い物にならないぐらいぐしゃぐしゃになったノートを見て、わがはいは悟った。声の乗らぬ抗議など、奴らには一切響かない。それどころか、彼女のように「気味の悪い存在」として、わがはいまで標的になっただけだ。

 普通ではないわがはいは、人間社会ではあまりにも無力だった。

 

 それでも、数か月の間とにかく策を立て、片っ端から実行して見せた。だが、どれも失敗に終わった。

 まずは教師に頼ろうとした。だが、奴らにどれだけ助けを求めても、どれだけ今が異常かをロジカルに筆談で説明しようと、全く動こうとする様子を見せなかった。

 ならば自分が動くしかないと、カメラや録音機をロッカーにこっそり設置して証拠を押さえようた。だが、データは全てノイズまみれで使い物にならない。何個新品を買おうが、結果は同じだった。

 

 気付けばエマは教室の隅で縮こまるようになり、青ざめた顔で震えるようになっていた。彼女の瞳には、友人を助けたいという感情と、それ以上に大きないじめに対する恐怖の感情が見て取れる。それはそうだ、エマは普通の女の子で、ヒロのような強い子ではない。だからこそ彼女を守れと、わがはいはヒロに託されたのだ。

 

『大丈夫だ、心配するな』

 

 精一杯の強がり。力強い筆跡でエマに見せる。エマは泣きそうな顔でそれを受け取り、首を横に振る。

 

「ううん……ボクが、勇気を出せれば……やめてって、言えれば……」

『馬鹿を言うな、そんなことをしてはエマまで標的にされてしまう。わがはいがなんとかするから、そうして目立たないようにしておけ』

 

 嘘だ。本当は寄り添ってほしい。本当はエマに縋りたい。けれど、今彼女に縋ればエマもいじめの対象になるから遠ざけることしかできない。

 こういう時、ヒロならどうしただろう。そう考えて、すぐに首を横に振る。わがはいはヒロではない。ヒロと同じ方法では答えに辿り着けないのだ。

 

(……なんとかする、とは言ったものの……)

 

 実際、魔法を使えばなんとかすることは出来よう。一言「いじめをやめろ」と言えばピタリと収まる。だが、それはわがはいにとって禁忌に等しい。だって、魔女としてのわがはいを二人に見られたくないから。

 

 そうしているうちに時間だけが過ぎていく。こうしているうちにユキの心も、エマの心もどんどんすり減り、壊れていってしまう。

 

(守る、と……約束したのに……)

 

 ギリ、と奥歯を強く噛み締める。何もできない。わがはいの焦りはどんどん加速していく。何をしようにもすべてが空回りして、ユキとエマがどんどん傷ついて行く。

 

 ある日の放課後、いつの間にかユキの姿が消えていた。嫌な予感がした。取り返しがつかなくなるかもしれない。そんな予感。

 わがはいは必死に校舎内を駆け回った。屋上、トイレ、体育館裏。どこにも居ない。頼む、頼む! 何も起こっていないでくれ! そう心の中で叫ぶうちに、段々下卑た笑い声や水の音が聞こえた。どこから? あの教室だ。頼む、勘違いであってくれ、他人であってくれ、予想は外れていてくれ!

 心の中で叫びながら、わがはいは勢いよく空き教室のドアを開け放った。

 

 そこは、地獄だった。

 

 教室の隅に数人の生徒。そして、彼らが取り囲む中のその足元には……。

 

「ユ……キ……?」

 

 ユキが倒れていた。真っ白で綺麗な髪は泥水で汚れ、制服はチョークの粉や汚水で汚らしく染められている。

 

「あ? 何だよお前」

「また来たのかよ障害女」

 

 いじめっ子たちが嘲るような笑みを浮かべて振り返る。

 その足元で、ユキが力なくこちらを見た。逃げろと言いたいのだろうか、余計なことをするなと言いたいのだろうか。

 

(……もう、限界だ)

 

 だが、もう我慢ならない。人として振る舞うのも、普通の生活を守るのも、やめだ。

 そんなものに縋ったから、わがはいはユキをここまで傷つけてしまったのだ。ヒロの期待を裏切ることになったのだ。

 魔女としての自分を見られたくない? そんなくだらない感情の為に保身に走っていた自分が馬鹿馬鹿しい。

 

 すぅ、と肺に空気を取り込む。心臓がドクドクと脈打つ。緊張。ユキに嫌われないか、怖がられないか……まだ、そんなことを気にする自分が嫌になる。

 奴らが近づいてくる。わがはいを痛めつけようと、一歩一歩、確実にわがはいに近づいてくる。ユキがわがはいの方に手を伸ばしたのが見えた。心配してくれているのだろうか? 大丈夫だ、ユキ。わがはいは傷つかない。だってわがはいは――

 

 

 

「そこで……【止まれ】ッ!」

 

 

 

 ――魔女、だから。

 

 

 

 ピタリ、と。いじめっ子たちの脚が止まる。体だけが、一時停止ボタンを押したみたいに制止する。奴らが困惑した表情を浮かべているのが見え、スカっとした気持ちになる。

 

「え? 体が、動かない……?」

「なんで……おい、なんでだよ!」

 

 そんなパニックを起こしたいじめっ子の声が聞こえる中、ユキが息を呑む音がはっきり聞き取れた。どう思われただろう。不気味に思われただろうか、怖がられただろうか。でも、関係ない。見られてしまったのだから、もう止まれない。わがはいは続けて口を開く。

 

「……そのまま、家に【帰れ】

 

 その瞬間、奴らは帰っていった。勝手に動く身体にパニックを起こして「助けて」だのなんだの、情けなく喚きながら。

 

 教室には、わがはいと、倒れ伏したユキだけが残された。

 

(……やってしまった、な……)

 

 一年は耐えたのだ。まぁ、わがはいにしては耐えた方だろう。……だが、まだ逃げるわけにはいかない。ヒロが帰ってくるまでは、彼女たちを守る防波堤であり続けなければ。

 

「……アンアン」

 

 ユキが口を開く。どんな言葉をかけられるのだろう。拒絶の言葉だろうか、軽蔑の言葉だろうか。その先の言葉に怯えているうちに、次の言葉が紡がれた。

 

「少しの間、学校を【休んでください】

 

 それは優しい、わがはいの欲しかった、甘美な一言。

 ……そうだな、こうして追い払ったのだ。それに、もう少しすればヒロだって帰ってくるはずだ、そろそろ少し位休んでもいいだろう……。

 

「……ああ、ありがとう、ユキ」

 

 もう、疲れた。みんなとどう接すればいいのか分からない。でも、今はとにかく休みたい……。

 そう考えわがはいは、虚ろになりながらよろよろと帰路に就く。




ちょっと次回以降も投稿が遅くなっていくかもしれません。
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