洗脳少女ノ魔女裁判   作:大正エビフライ

4 / 8
少し長くなってしまいました。
ノアの喋り方って、こうであってますか……?(震え声)


1章 本編開始
#1-0 始まり


 翌日、ユキに言われた通りわがはいは学校を休んだ。

 不思議なことに、焦りや罪悪感は一切湧かなかった。なんだかふわふわとして、身体に力が入らない。身体が休息を求めているのか、大した力も入らない。無理をし過ぎたのだろうか……?

 

 部屋のベッドに寝転がり、わがはいは天井をぼんやりと見つめて自問自答を繰り返す。

 

「……あれで、良かったはずだ」

 

 魔法(せんのう)を使ってしまった。人として生きることはできなかったし、ユキに恐ろしい姿を見せてしまった。だが、ユキのことを助けられた。あのままではユキがどうなっていたか分からない、だからわがはいの行動は正しかったんだ。

 そうやって、何度も復唱する。わがはいは正しかった、わがはいはヒロに誇れることをした。最終的には守れたのだ。

 

「わがはいは、間違ってない……はずだ」

 

 自分に何度も言い聞かせる。そうでもしないと、不安に押しつぶされそうだったから。

 

 まぶたが重い。ユキの言葉が、わがはいの脳に染み渡る。

 そうだな、今日ばかりは休もう。明日、また学校へ行こう。いじめっ子たちはわがはいの復讐を恐れて手出しなどできないはずだ。ヒロが帰ってくるまで、わがはいが守るのだ。

 でも、今だけはユキの言う通り、休眠を……。

 

***

 

「……?」

 

 冷たい。背中に感じる感触がいつもと違い、空気もかなりひんやりしている。硬くて、寒くて、埃っぽい。

 わがはいは、重い瞼をゆっくりと上げた。

 

(……ここは?)

 

 視界に飛び込んできたのは見慣れぬ天井……いや、二段ベッドの裏、だろうか? そして壁を見れば汚らしい石造りの壁。反対を見ると……。……なにやら、髪や衣服がカラフルな少女。随分派手な格好だな、こいつ。

 

「あ、おはよー。よく寝てたね」

 

 話しかけてきた。さて、どう反応したものか。そう考え起き上がろうとすると、異変に気付く。

 

 ……なんだこの服装。

 

 まるでお姫様のような、ひらひらした格好。朝に着替えるのが面倒だからと、いつも制服で眠っていたはずだ、こんな服装で目が覚めるわけがない。それに、髪の方も……かつてヒロに「毛先が痛むほど放置するのは正しくない」しつこく言われて以降、髪はある程度の長さで切りそろえていたし、面倒臭いがちゃんと手入れはしていたはずだ。それなのに、今ではまた髪がずぼらに伸びているし、毛先がものすごく広がっている。

 

(一体、何がどうなっている……?)

 

「むぅー、無視はひどいんじゃないかな」

 

 思考を巡らせていたわがはいを、先ほど極彩色の少女が引き戻す。

 この状況でこれほど能天気に話しかけてくる神経が知れないが……まぁ、無視をしてしまうのも良くないか。相部屋の人間との仲が悪くなってしまうのは好ましくない……とは言え、スケッチブックやペンは今どこにも……。

 

 ……。

 

 あった。枕元に置いてある。どういうことだ? わがはいの素性が知れているのか? ……考えても仕方がない。

 わがはいはペンを握り締め、スケッチブックにさらさらとペンを走らせた。

 

『おはよう、それで、貴様は誰でここはどこだ?』

「ん? のあはのあだよ。城ケ崎ノア。ここがどこなのかはのあもわかんないな。きみはなんていう名前なのかな?」

 

 極彩色の少女……もとい、ノアも誘拐の被害者、といったところだろうか?

 

『わがはいは夏目アンアンである。よろしく頼む、ノア』

「うん、よろしくねアンアンちゃん!」

 

 彼女はにこりと笑顔を浮かべながらそう言う。かつて屋上で必死に友達を作ろうとした自分が馬鹿らしくなるほど、簡単に親しげに話しかけてくれなれた。

 案外、友達作りって簡単なものなのか……?

 

 その時、不意に聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

 

「ろ、牢屋……!? なんで!?」

 

 ……エマの声、か? どこから? 隣か? わがはいは鉄格子に張り付く。……向かいに部屋は見えない。だが声は近い。隣か?

 

「ねぇ! ここ、どこなのかな!?」

 

 その声を皮切りに、様々な少女の騒がしい声が聞こえてくる。

 ……だめだ、こんな状況でエマの場所の特定なんてできない。お嬢様じみた口調、不良じみた口調、その他諸々。兎に角個性的な少女たちが閉じ込められているのは分かった。だが、今はそんなことはどうでもいいのだ。

 いっそ大声でエマを呼んでしまおう。そう思って息を吸ったところで、ノアに呼び止められる。

 

「ねえねえ、アンアンちゃん」

『なんだ、わがはいは今忙しいのだが』

「今はそれより、あれを見た方がいいかも?」

 

 そう言い、壁に立てかけられたモニターを指さした。モニターに視線を向けると、その画面には、妙に不気味なフクロウ。

 

「あ……もしもし……映像って見えてます……? 何せ古くて故障が多いので……やれやれ」

 

 喋った……人形に声でも当てているのか?

 スピーカーから流れる声は、見た目に反して……いや、見た目通りに? 悪役的な声をしていて、そして事務的で軽薄な感じな喋り方だ。

 

『私、ゴクチョーと申します。詳しい説明がしたいのでラウンジに集合してください』

 

 状況が飲み込めん。誘拐にしては目的が不明だし、悪戯にしては手が込み過ぎだ。

 わがはいが混乱している中でも、ゴクチョーは淡々としゃべり続ける。

 

『監房の鍵を開けますので、看守のあとについてきてください。抵抗とかは自由なんですが……命とかなくなっちゃうので……はい……』

 

 命がなくなる、か。不快感や怒りが胸に広がるが、今は従うしかなさそうだ。

 ガチャン、と金属音が響いて鉄格子の鍵が開く。それと同時に、通路の奥から「化け物」が現れた。

 黒いフードを被り、仮面を着けた巨大な化け物。頭には様々なものが刺さっており、腹は何かに貫かれ、手には鎌を持っている。まさに「化け物」って感じだ。

 

「わあ、おっきいねえ」

 

 隣でノアが間の抜けた声を上げる。この状況で一切恐怖を感じていないのか、こいつは。

 死神のような看守が、先導するように歩き出す。

 

(抵抗すれば命はない、か……)

 

 不安も大きいが、ここには少なくともエマが一緒に閉じ込められている。彼女に無用な心配や気苦労をかけさせるわけにはいかない。

 わがはいはスケッチブックを抱え、ノアに続いて廊下へ足を踏み出した。

 

 そこは、石造りの冷たい通路で、コケが生えた若干汚らしい通路だった。空気は澱み、鉄錆や湿気の臭いが鼻をつく。やはり、どう考えてもまともな場所ではない。

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 ……そんな状況だというのに、ノアはどこ吹く風とばかりに鼻歌交じりに歩いている。肝が据わっているのか、感情が欠落しているのか、馬鹿なのか……。

 わがはいは、呆れながらも周囲に気を配りながら歩く。どこかでエマの声が聞こえたはずだ。どこかに居るはず……。

 

「あの、あのね。色々あったけど、ヒロちゃんにまた会えてよかった……」

 

 心臓が跳ね上がる。エマだ。しかも、ヒロと一緒に部屋から出てきた。ヒロが居るなら心強い。胸の奥で安堵が広がり、思わず足が速まる。

 

「あ、待ってよアンアンちゃん!」

 

 ノアが後ろで呼びかけるのを無視し、ヒロの方へ一直線に向かう。

 ヒロは留学していたはずだ。何故ここに居るのかは分からない……。だが、ヒロが居るなら百人力だ。彼女がいれば、こんな場所できっとわがはいたちを導いてくれる。

 そうだ、報告しなくては。わがはいは、約束通りユキを守ったのだと。傷一つとはいかなかったが、あれ以上彼女が傷つくことはない。それに、見ての通りエマだって無事だ。きっと、ヒロなら「よくやった」と褒めてくれるはずだ。

 

「ボク、変わったんだよ。もう前のボクじゃない。ヒロちゃんと友だちになりたいんだ」

 

 足がぴたりと止まる。

 

 ……友だちに、なりたい……?

 

 どういうことだ? 目の前に居るエマは、ヒロに無視をされている。

 エマの懇願するような声が響く。

 何を言っている? お前たちは友達だっただろう? エマ、ヒロ、ユキ、わがはい。この四人は、互いに何者にも代えがたい存在のはずだ。

 

「ボ、ボク諦めないから!」

 

 エマが縋るように声を上げる。すると、ヒロが立ち止まりゆっくりと振り返る。

 

 ……冷たい。あまりに冷酷な瞳。かつて、屋上で四人で話していた頃、わがはいに二人を託してくれた時のような温かさは、どこにもない。

 喧嘩でもしたのか……? いや、だとしてもおかしい……。

 そう考えているうちに、ヒロはエマに手を伸ばし――

 

 

 

 ――思い切り、エマを突き飛ばした。

 

 

 

「……は?」

 

 エマが床に倒れる。膝を擦りむいている。エマを、突き飛ばした……? ヒロが? なんでそんなこと……。

 

「アンアンちゃん? どうしたの?」

 

 ノアの声に、わがはいは返事をすることができなかった。スケッチブックにペンを走らせることすら忘れ、ただ呆然と目の前の光景を見つめる。

 

「君が変わったとして、そのことが、私になんの意味が?」

 

 ヒロの声が、冷たい。わがはいの知る、温かい響きなどではなく、明確な拒絶と、軽蔑が詰まっている。

 何故……いじめっ子ではなく、エマに対してそんな声をかける……?

 

「私が君を嫌いなことは変わらない。この先、永遠に」

 

 ぱさり。とペンとスケッチブックが手から滑り落ちる。

 

(なぜ……だ……?)

 

 思考が真っ白になる。エマが変わった? 違う、変わったのはヒロの方だ。ヒロはエマを大切にしていたはずだ。

 これは夢か? いや、夢であるに違いない。でなければ、ヒロがあんなことをするわけがない。あんな、正しくないことを……。

 

「アンアンちゃん? 顔色が悪いけど、大丈夫かな?」

 

 ノアが心配そうに顔を覗き込んでくる。……大丈夫なわけがあるか。そう返したいのを必死に抑え、床に落ちたスケッチブックとペンを拾い上げた。

 

 ……何も分からない。二人の間で何があったのかも、何故わがはいたちがこんなところにいるのかも。

 ヒロを問い詰めたいし、エマを慰めたいが、今ここで立ち止まって考え込むわけにもいかない。看守がこっちを見ている。ずっとここに留まっていては奴に殺されるかもしれない。

 

(……今は、その時ではないか)

 

 わがはいは唇を強く噛み締め、再び歩き始めた。あのフクロウ……ゴクチョーと言ったか。あいつが「詳しい説明をする」と言っていた。ならば、そこに行けば何かが分かるはずだ。

 

『大丈夫だ。事情は後で説明する。行くぞ、ノア』

「うん! 分かった!」

 

 胸の中で渦巻く感情を抑えながら、わがはいは看守について行った。




ということで、やっと本編入りです。
説明不足な部分は後々解説されるので、気長に読んでくれると助かります。
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