洗脳少女ノ魔女裁判   作:大正エビフライ

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今回、雰囲気重視で行書体を使用しておりもしかしたらちょっと読みづらいかもしれません。

あとEnter押したら勝手に投稿されるのどうにかなりませんかこれ。


#1-2 喪失

「間違いです。私は悪ではない」

 

 重々しい雰囲気の中、一人の少女が凛とした声を上げた。

 

 ヒロだ。

 

 彼女は毅然とした態度で、絶対的な自信を持ちながらそう言う。

 そうだ、貴様は魔女ではない。ヒロ、やはりお前は正しくて優しい――

 

「この国に災厄をもたらす危険因子は、この子の方だ」

「……は?」

 

 思わず声が漏れてしまう。

 危険因子……? 誰が……?

 ヒロの指が示した先を、見つめる。二度見、三度見をする。何度見ても、同じだ。そこには……。

 

「……っ」

 

 明らかに動揺し、恐怖したエマの姿。エマは顔面を蒼白にし、呼吸が少し浅くなっている。

 

「えへへ……へーき、へーき……」

 

 エマが強がってメルルにそう言った。

 ヒロの瞳には、一切の慈悲がない。そこにあるのは、汚らわしい害虫を見るような、冷たい瞳。

 思考が追い付かない。ヒロはエマを大切に想っていたはずだ。だというのに、危険因子? エマが? あんな、羽虫も殺せなさそうなエマが危険因子だと?

 

「はぁ~~……あの、頼みます……悪者を受け入れてください。私は残業したくないですし、みんな平和に楽しくがいいので……」

 

 呆れた様子でそう言うゴクチョーを無視し、ヒロはつかつかと歩きはじめる。

 

「間違っている。私は悪じゃない……」

 

 ヒロは暖炉脇に立てかけられた火かき棒を手に取り、両手で構える。

 

「この世界をただすことができるのは、私だけだ」

 

 彼女の歩を進める先には、エマが居る。

 おい、待て……ヒロ、貴様何をするつもりだ?

 

「私はこの悪を排す。まずは――」

 

 彼女の視線がエマを穿つ。嫌っていただろうから、殺そうとするなんて。そんな飛躍した論理があっていいはずがない。

 だが、ヒロは歩みを止めない。かつてのような姿はもうなく、ただ独善的な正義に憑りつかれた処刑人のような形相で、火かき棒を高く振りかぶり勢いよく床を蹴った。

 

「貴様だ、化け物!」

(まずい!)

 

 わがはいはヒロを止めようと息を吸い込む。禁忌を犯す覚悟で、わがはいは叫ぼうとした。魔法を使ってでも、ヒロを止めなければならない。だが、その声が発せられるよりもヒロの方が早い。

 

 ガンッ!!!

 

 硬く、重い音がラウンジに響き渡る。

 砕かれたのはエマの頭蓋ではなかった。目の前で、エマが腰を抜かして座り込んでいる。その頭は割れていない。血も流れていない。ただ、風圧に煽られた前髪が揺れているだけだ。

 

 ヒロはエマの目の前を通り過ぎ、その火かき棒はエマの先に立っていた巨大な影、化け物のような「看守」に振り下ろされた。

 

「悪は死ね! 死ね、死ね、死ね、死ねッッ!!!」

 

 ぐちゃっ、どごっ、ごしゃっ。

 名状しがたい音がこの部屋に鳴り響き、血や肉が飛び散る。看守の身体が滅茶苦茶に崩れる。

 ヒロは狂ったように火かき棒を振るう。普通なら一撃で死に至るほどの残虐な連撃が、何度も何度も振り下ろされていく。

 ヒロの衣服が、美しい髪が、看守から飛び散ったナニカ汚れていくが、彼女は止まらない。その瞳は狂気に染まり、ただ「悪を滅する」という使命感に取り憑かれているようだ。

 

(……ヒロ?)

 

 わがはいは呆然と立ち尽くす。

 エマではなかった。彼女が殺そうとしたのは、エマではなかった。その事実に安堵しそうになるが、すぐに首を横にふるう。

 

(違う、あんなものはヒロではない……)

 

 ヒロのあんな顔を、わがはいは知らない。凛として、頼もしくて、厳しくて、でも誰より優しくて強いヒロが……わがはいたちの頼れるヒロが、狂気に満ちた顔で火かき棒を何度も振り下ろしている。

 あれがヒロ? あんなものが、本当にヒロなのか?

 

 そうして呆然としていると、看守の身体がぴくりと動くのが分かった。

 

 ……まずい、反撃される!

 

「ヒロ! 【離れ――」

 

――ごとり。

 

 わがはいが言葉を紡ぐ前に、何かが聞こえた。

 何が、あった……? 今一瞬看守が動いて、鎌が振りかざされて……。

 

「「……え?」」

 

 エマとわがはいの声がハモった。

 今……何が落ちた……? 

 わがはいの脳が、目の前の現実を理解することを拒絶する。

 だって、それは……ついさっきまで凛とした声で正義を語っていた、あの美しい顔は……。

 

「ヒロ、ちゃん……?」

 

 エマが呆然と手を伸ばし、血に濡れた頬に触れる。

 

「ウソ、だよね……ヒロちゃん……? やだ……やだ、やだ……」

 

 虚ろな目でそう呟くエマの姿は、あまりにも痛々しくて、見てられない。

 違う……こんなものは夢だ……エマとヒロが喧嘩をして、挙句エマとヒロが仲直り出来ずに、こんな形で引き裂かれるなんて……。

 

「うわ~……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ……」

 

 ゴクチョーは平然とそう言い、嫌そうに看守に掃除を命じる。

 

「ああでも、魔女はこんなことじゃ死なないので……彼女は魔女じゃないと証明されたことになりますね……やれやれ、良かったですね?

「は?」

 

 良かった、だと? ヒロが死んだんだぞ? それなのに、良かったわけがないだろう……!?

 

「ふざけるな……」

 

 顔が熱い。体の奥底から殺意が噴火した火山のように湧き出す。

 恐怖も、保身も、全てどうでもよくなるほどの殺意。

 

 殺してやる、殺してやる殺してやる! わがはいの魔法で、こいつらを!

 

 これから紡ぐ言葉は、ただの台詞ではない。絶対的な強制力を持った「呪い」だ。

 あのふざけたフクロウと化け物看守に、死の命令を下してやる!

 

「貴様――」

「お~っと! だめですよアンアンさん!」

 

 不意に、背後から柔らかい感触がわがはいの身体を包んだ。橘シェリーだ。

 コイツ、力強! っていうか苦しいっ!!

 

「全く、だめですよ~アンアンさん! 今飛び出したらあなたも殺されてしまいます!」

 

 彼女は楽しげに、でも少し寂しげにわがはいに語り掛ける。

 

「折角仲良くなれそうなんです。死んじゃったら寂しいじゃありませんか」

 

 橘シェリーの言葉に、沸騰していた頭が急速に冷えていく。

 死んだら寂しい……。そんな単純な一言が、わがはいの暴走を引き留めた。

 

(そうだ。ヒロが死んだ今、わがはいがエマを守らねば……)

 

 ヒロはもう居ない。あの頼もしかったヒロは、首と身体が泣き別れして二度と起き上がらない。

 なら、エマのためにもわがはいまで無駄死にするわけにはいかないのだ。今回も、エマを守り通さねば……。

 ふと、エマを見ると何かを大事そうに握り締めていた。

 

(あれは、万年筆か……? だが、あれは……)

「――あっ、そろそろいいですか? 最後に。みなさんに、もっとも大切なことを伝えておきます」

 

 そう思考を巡らせたタイミングで、ゴクチョーが言葉を紡ぐ。

 思考を遮られて少しイラつくが、今どうこうしたってどうしようもない。

 ……と言うか、橘シェリーに抱えられてるせいで何もできない。

 

「魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想に憑かれてしまいます。面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ」

「殺人事件!?」

 

 わがはいを抱きしめたまま、シェリーが声を弾ませる。

 ……本当になんなんだコイツ。

 

「そうなんですよ……毎度のことなんですが……さすがにそんな危険人物とは、一緒に生活できませんよねぇ……」

 

 白々しい……殺人事件が起こるのなら、全員隔離させてそんなことが起こらないようにすれば良かろうに……。

 

「というわけで、殺人事件が起こり次第【魔女裁判】を開廷します。魔女になった者は、その……処刑いたしますので……まぁ、詳しくは魔女図鑑をご覧ください……。では、私はこれにて……」 

 

 ゴクチョーは一方的に話を打ち切り、姿を消した。

 残されたのは、血の匂いと、絶望に沈む少女たち。

 

 

 

 殺人事件、魔女裁判。

 そんな脅威が溢れる中、エマを守らなければならないのか。

 

(……守って見せるさ)

 

 あの世で見ていろ、ヒロ。わがはいは守って見せるぞ。貴様が居らずとも、エマのことは絶対に守って見せる。




次回以降、毎日更新と言うのは厳しくなるかもしれません。
何せここからはキャラが増え、裁判パートと言う難しいパートが生まれ、書き溜めがないので……。
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