あとEnter押したら勝手に投稿されるのどうにかなりませんかこれ。
「間違いです。私は悪ではない」
重々しい雰囲気の中、一人の少女が凛とした声を上げた。
ヒロだ。
彼女は毅然とした態度で、絶対的な自信を持ちながらそう言う。
そうだ、貴様は魔女ではない。ヒロ、やはりお前は正しくて優しい――
「この国に災厄をもたらす危険因子は、この子の方だ」
「……は?」
思わず声が漏れてしまう。
危険因子……? 誰が……?
ヒロの指が示した先を、見つめる。二度見、三度見をする。何度見ても、同じだ。そこには……。
「……っ」
明らかに動揺し、恐怖したエマの姿。エマは顔面を蒼白にし、呼吸が少し浅くなっている。
「えへへ……へーき、へーき……」
エマが強がってメルルにそう言った。
ヒロの瞳には、一切の慈悲がない。そこにあるのは、汚らわしい害虫を見るような、冷たい瞳。
思考が追い付かない。ヒロはエマを大切に想っていたはずだ。だというのに、危険因子? エマが? あんな、羽虫も殺せなさそうなエマが危険因子だと?
「はぁ~~……あの、頼みます……悪者を受け入れてください。私は残業したくないですし、みんな平和に楽しくがいいので……」
呆れた様子でそう言うゴクチョーを無視し、ヒロはつかつかと歩きはじめる。
「間違っている。私は悪じゃない……」
ヒロは暖炉脇に立てかけられた火かき棒を手に取り、両手で構える。
「この世界をただすことができるのは、私だけだ」
彼女の歩を進める先には、エマが居る。
おい、待て……ヒロ、貴様何をするつもりだ?
「私はこの悪を排す。まずは――」
彼女の視線がエマを穿つ。嫌っていただろうから、殺そうとするなんて。そんな飛躍した論理があっていいはずがない。
だが、ヒロは歩みを止めない。かつてのような姿はもうなく、ただ独善的な正義に憑りつかれた処刑人のような形相で、火かき棒を高く振りかぶり勢いよく床を蹴った。
「貴様だ、化け物!」
(まずい!)
わがはいはヒロを止めようと息を吸い込む。禁忌を犯す覚悟で、わがはいは叫ぼうとした。魔法を使ってでも、ヒロを止めなければならない。だが、その声が発せられるよりもヒロの方が早い。
ガンッ!!!
硬く、重い音がラウンジに響き渡る。
砕かれたのはエマの頭蓋ではなかった。目の前で、エマが腰を抜かして座り込んでいる。その頭は割れていない。血も流れていない。ただ、風圧に煽られた前髪が揺れているだけだ。
ヒロはエマの目の前を通り過ぎ、その火かき棒はエマの先に立っていた巨大な影、化け物のような「看守」に振り下ろされた。
「悪は死ね! 死ね、死ね、死ね、死ねッッ!!!」
ぐちゃっ、どごっ、ごしゃっ。
名状しがたい音がこの部屋に鳴り響き、血や肉が飛び散る。看守の身体が滅茶苦茶に崩れる。
ヒロは狂ったように火かき棒を振るう。普通なら一撃で死に至るほどの残虐な連撃が、何度も何度も振り下ろされていく。
ヒロの衣服が、美しい髪が、看守から飛び散ったナニカ汚れていくが、彼女は止まらない。その瞳は狂気に染まり、ただ「悪を滅する」という使命感に取り憑かれているようだ。
(……ヒロ?)
わがはいは呆然と立ち尽くす。
エマではなかった。彼女が殺そうとしたのは、エマではなかった。その事実に安堵しそうになるが、すぐに首を横にふるう。
(違う、あんなものはヒロではない……)
ヒロのあんな顔を、わがはいは知らない。凛として、頼もしくて、厳しくて、でも誰より優しくて強いヒロが……わがはいたちの頼れるヒロが、狂気に満ちた顔で火かき棒を何度も振り下ろしている。
あれがヒロ? あんなものが、本当にヒロなのか?
そうして呆然としていると、看守の身体がぴくりと動くのが分かった。
……まずい、反撃される!
「ヒロ! 【離れ――」
――ごとり。
わがはいが言葉を紡ぐ前に、何かが聞こえた。
何が、あった……? 今一瞬看守が動いて、鎌が振りかざされて……。
「「……え?」」
エマとわがはいの声がハモった。
今……何が落ちた……?
わがはいの脳が、目の前の現実を理解することを拒絶する。
だって、それは……ついさっきまで凛とした声で正義を語っていた、あの美しい顔は……。
「ヒロ、ちゃん……?」
エマが呆然と手を伸ばし、血に濡れた頬に触れる。
「ウソ、だよね……ヒロちゃん……? やだ……やだ、やだ……」
虚ろな目でそう呟くエマの姿は、あまりにも痛々しくて、見てられない。
違う……こんなものは夢だ……エマとヒロが喧嘩をして、挙句エマとヒロが仲直り出来ずに、こんな形で引き裂かれるなんて……。
「うわ~……死んじゃいましたね……掃除しなきゃ……」
ゴクチョーは平然とそう言い、嫌そうに看守に掃除を命じる。
「ああでも、魔女はこんなことじゃ死なないので……彼女は魔女じゃないと証明されたことになりますね……やれやれ、良かったですね?」
「は?」
良かった、だと? ヒロが死んだんだぞ? それなのに、良かったわけがないだろう……!?
「ふざけるな……」
顔が熱い。体の奥底から殺意が噴火した火山のように湧き出す。
恐怖も、保身も、全てどうでもよくなるほどの殺意。
殺してやる、殺してやる殺してやる! わがはいの魔法で、こいつらを!
これから紡ぐ言葉は、ただの台詞ではない。絶対的な強制力を持った「呪い」だ。
あのふざけたフクロウと化け物看守に、死の命令を下してやる!
「貴様――」
「お~っと! だめですよアンアンさん!」
不意に、背後から柔らかい感触がわがはいの身体を包んだ。橘シェリーだ。
コイツ、力強! っていうか苦しいっ!!
「全く、だめですよ~アンアンさん! 今飛び出したらあなたも殺されてしまいます!」
彼女は楽しげに、でも少し寂しげにわがはいに語り掛ける。
「折角仲良くなれそうなんです。死んじゃったら寂しいじゃありませんか」
橘シェリーの言葉に、沸騰していた頭が急速に冷えていく。
死んだら寂しい……。そんな単純な一言が、わがはいの暴走を引き留めた。
(そうだ。ヒロが死んだ今、わがはいがエマを守らねば……)
ヒロはもう居ない。あの頼もしかったヒロは、首と身体が泣き別れして二度と起き上がらない。
なら、エマのためにもわがはいまで無駄死にするわけにはいかないのだ。今回も、エマを守り通さねば……。
ふと、エマを見ると何かを大事そうに握り締めていた。
(あれは、万年筆か……? だが、あれは……)
「――あっ、そろそろいいですか? 最後に。みなさんに、もっとも大切なことを伝えておきます」
そう思考を巡らせたタイミングで、ゴクチョーが言葉を紡ぐ。
思考を遮られて少しイラつくが、今どうこうしたってどうしようもない。
……と言うか、橘シェリーに抱えられてるせいで何もできない。
「魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想に憑かれてしまいます。面倒なことに、いずれ囚人間で殺人事件が起こるんですよ」
「殺人事件!?」
わがはいを抱きしめたまま、シェリーが声を弾ませる。
……本当になんなんだコイツ。
「そうなんですよ……毎度のことなんですが……さすがにそんな危険人物とは、一緒に生活できませんよねぇ……」
白々しい……殺人事件が起こるのなら、全員隔離させてそんなことが起こらないようにすれば良かろうに……。
「というわけで、殺人事件が起こり次第【魔女裁判】を開廷します。魔女になった者は、その……処刑いたしますので……まぁ、詳しくは魔女図鑑をご覧ください……。では、私はこれにて……」
ゴクチョーは一方的に話を打ち切り、姿を消した。
残されたのは、血の匂いと、絶望に沈む少女たち。
殺人事件、魔女裁判。
そんな脅威が溢れる中、エマを守らなければならないのか。
(……守って見せるさ)
あの世で見ていろ、ヒロ。わがはいは守って見せるぞ。貴様が居らずとも、エマのことは絶対に守って見せる。
次回以降、毎日更新と言うのは厳しくなるかもしれません。
何せここからはキャラが増え、裁判パートと言う難しいパートが生まれ、書き溜めがないので……。