洗脳少女ノ魔女裁判   作:大正エビフライ

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ゆっくりと更新をする予定でしたが、なんか気づいたら物凄い伸びていたので急遽投稿致します。
あ、あとレイアファンの方に先に謝っておきます……。活躍とかいいところは別の時にたくさん出すので、その時を楽しみにしてください……。


#1-3 頭痛

 血に染まったラウンジの中、少女たちは皆恐慌状態に陥っていた。

 ……エマを除いて。

 ヒロが死んでからというもの、エマが少し変だ。「え?」と小さく声を漏らし、きょろきょろと辺りを見回していたり、小さくため息を吐いたり……。

 

(なんだ、何か聞こえたのか?)

 

 そう思い、問い詰めようとしたが、状況がそれを許さなかった。

 

「くっ!」

 

 一人の少女が部屋から逃げようと駆け出した。柴藤アリサだ。

 そして、案の定看守がその気配を察知し、人智を超えた速度でアリサを追う。

 これで奴が死ねば、少女たちのストレスがさらに増す。そうなれば魔女化、殺人事件が平気で起こる環境が完成してしまうだろう。そうなれば、エマへの危険が増える。

 

(仕方ない……)

 

 背に腹は代えられない。わがはいは息を吸い込み、看守を睨む。命令は単純に、「止まれ」だ。

 

「【と――」

「待ちたまえ! 彼女に手を出すな!」

 

 わがはいが命令を下す直前に金属音と、凛とした声が響き渡った。

 蓮見レイアが、腰のレイピアで看守の鎌をはじいたのだ。

 ……驚いた。ただの演劇かぶれかと思っていたが、あの細腕とレイピアで化け物と渡り合うとは。

 

「これ以上の悲劇は起こさせない」

 

 レイアは看守と対峙したまま、毅然とそう言い放つ。

 その姿は、正にお姫様(プリンセス)を守る騎士(ナイト)。恐怖に支配されていた少女たちの視線が、一斉に彼女へと吸い寄せられているのが分かる。

 

「彼女はルールを破っていない。切り捨てる理由はないはずだ」

 

 レイアの言葉に、看守は一瞬動きを止め、鎌を収めた。どうやら、これ以上の追撃はないらしい。

 

(コイツ……)

 

 少女たちが胸をなでおろす中、わがはいだけは背筋に冷たいものが走っていた。

 看守を止める強さを持っていることや、腰に提げた本物のレイピアにじゃない。彼女がたった今、他者を扇動できるリーダー性を手に入れてしまったことだ。

 

「みんな、聞いてくれ! 私たちはどうやら、ここでの共同生活を強いられることになる。それがいつまで続くのかはわからないが……今は大人しく従おう」

 

 すぐに始まった、レイアの演説。その声はよく通り、パニックに陥っていた少女たちの心を鎮めていく。

 恐怖に震えていた少女たちの目線が、レイアから離れない。

 

「知り合ったばかりではあるが、私はキミたちをできる限り守りたい。だから、先ほどのヒロくんのような振る舞いは――」

 

 その言葉が、わがはいの表情を歪ませる。

 ヒロのような振る舞いが、なんだって?

 その言葉は正論だ。リーダーとして、集団を統率するための言葉としては間違っていない。だが、今のわがはいには、それがヒロの死を「悪い見本」として利用しているようにしか聞こえなかった。

 

(……気に入らんな)

 

 要するに奴の言っていることは、皆で規則を守って暮らそうというだけ。大したことも言っていない、この状況ならば当然のことだ。

 そこにヒロやアリサを引き合いにする必要性など微塵もない。

 わがはいが顔をしかめていると、レイアの言葉を遮るように荒っぽい声が響いた。

 

「魔女とか囚人とか知るかよ! 一秒だってこんなとこ居たくねぇ、ウチはここを出るからな!

「反抗的な態度を見せたら、また看守に何をされるか分からないよ?」

「おめえには関係ねえだろ、ほっとけよ!」

 

 アリサはそう吐き捨てると、踵を返して出口へと向かってしまった。

 

「やれやれ、困ったな……でも、他の皆は協力して――」

「ボクも嫌だ」

 

 調和を破る、芯の通った声が響く。エマだ。

 

「ヒロちゃんを殺したあいつらに従うなんて、嫌だ!」

 

 エマの声は震えていたが、そこには確かな強い意志が込められていた。

 

(そうか。そうだな、エマ……)

 

 エマはヒロの親友だったのだ。ヒロが死のうと、おかしくなろうと、そうだった事実は揺るがない。わがはいは急いでペンを走らせた。

 

「そうかい……従うつもりがないのは分かったよ。強制はしない。ただ、危険因子と共に行動することは――」

 

 わがはいはその言葉を遮り、ダンッ! と、スケッチブックをテーブルに叩きつける。

 

『わがはいも貴様には従わん。ヒロとは友人関係だったものでな』

 

 わがはいはレイアを睨みつける。黙って聞いていればわがはいの友を危険因子呼ばわりだの悪い見本扱いだの好き放題しおって……。

 

「はいは~い! 私もエマさんとアンアンさんについて行きますよぉ~っ!」

「わたくしもあなたたちの側につきますわ。わたくし、偉そうに仕切るヤツが嫌いなんですの」

 

 わがはいがスケッチブックを叩きつけたすぐ後に、シェリーとハンナまでもがエマの方へ来た。

 そうなると、エマ派はエマ、わがはい、シェリー、ハンナ……あと何故かエマの腕にくっついて離れないメルルの五名と言ったところか。

 

「あれれ~? グループがに分割しちゃいましたね?」

 シェリーが面白がるように声を上げる。ふふ、良いぞシェリー、もっと言え。

 

「どうやらそのようだね……みんなで協力し合うに越したことはないけれど、意見が合わないなら仕方ない」

 

 レイアは残念そうに眉を下げたが、すぐに表情を引き締めて頷いた。

 彼女は切り替えが早いのか、もしくは自分に従わないから切り捨てたのか……。

 

「私たちは一度房に戻るよ。ルールによれば、地下官房に居なければいけない時間だ」

 

 レイアは残ったメンバーを引き連れ、ラウンジを出ていった。

 ……さて、ここからどうしたものか。

 

「で? で? 私たちはどうします? みんなで協力して看守をぶっ殺します?」

「そ、そんなことできないよ……! ヒロちゃんみたいに殺されちゃう!」

 

 シェリーの提案をエマが咄嗟に否定する。こっち側のメンバーは頭おかしいのばかりかと考えると頭が痛い。

 

「……でも、大人しくしているつもりなんてない。絶対、ヒロちゃんを殺したことは許せないから……」

 

 エマの瞳には涙がたまっていたが、その奥には確かな怒りが灯っている。

 皮肉にも、ヒロの死が彼女を強くしてしまったのだろう。

 

『一先ず、わがはいたちも独房に戻ろう。ヒロを殺したことは実際許せないが、今は自分の安全確保が先決だ』

「うん、分かった……」

 

 重い足取りでラウンジを出て、わがはいたちは地下へと続く階段を降りていった。

 

***

 

「……何か、すっげー臭いませんこと?」

 

 ハンナが鼻を摘まみながら顔を(しか)めた。

 

『やはり、気のせいではないのか』

 

 監房の廊下を進むにつれ、段々妙に鼻を突く匂いが強くなってくる。

 鉄さびやカビとは違う。もっと人工的で、頭に直接響くような……シンナーか?

 

「全く、奥に行くにつれて臭くなっていきますわね……部屋が一番手前のシェリーさんが羨ましいですわ?」

「ハンナちゃんの部屋、奥の方だもんね……」

「も、もしかして、誰かが毒を仕掛けたのでしょうか……」

『いや、流石に毒を持ち込ませたりはしないだろう。多分

 

 なんて、最初に監房に入っていったシェリー以外のエマ派四人で軽口をたたいているが、やはり皆の表情には不安の色が浮かんでいる。当然、わがはいの表情にもそれが現れているだろう。

 この臭いの出所はどこだ? まさか、もう何か仕掛けられているのか?

 

 そうして警戒しながらわがはいの部屋の前に辿り着いた時だった。

 

「うわぁっ!?」

 

 エマが小さく悲鳴を上げてわがはいの部屋を凝視する。

 そんなエマの反応に慌てて鉄格子の中を覗き込む。

 

 ――そこには……

 

「ふんふ~ん♪ ……あれ、みんな揃ってどうしたのかな?」

 

 そこでは、城ケ崎ノアがスプレー缶をまき散らして様々な絵を描いていた。

 しかも、絵が動いている。

 

『何をしている?』

「何って、お絵描きだよ?」

 

 奴は当然のことかのように平然と言ってのける。

 ……この激臭のスプレーを、わがはいの居ぬ間にこんなになるまで撒き散らして……しかも、魔法か何かでその臭いのもとが勝手に絵が動き出すだと……?

 

「あなた、状況分かってますの? グループが分裂したのに、何を呑気に……」

「んー? でも、のあはそんなこと興味ないから」

 

 ノアは鼻歌を歌いながら、さらに塗料を壁へとぶちまけていく。魔法の影響か、描かれた奇怪な生き物たちが壁面を這い回っていた。

 

 部屋内に充満する、気絶しそうなほど強いシンナー臭、そこらを這いずり回る謎の落書き生物、わがはいのベッドにまで侵食しそうな勢いの落書き。

 ヒロを失い、グループは割れ、挙句の果てに安息の地になるはずだった寝床は、一瞬にしてノアのキャンバスへと変貌してしまった。

 ただでさえ前者二つで精神を削られているのに、追い打ちのようなこの惨状。そして脳に直接響くこの強烈な刺激臭……。

 

(わがはいの……静寂が……)

「きゅう……」

「アンアンちゃん!?」

 

 激しい眩暈に耐えきれず、わがはいは頭を両手で抱え込むと、そのままなす術なく床へと崩れ落ちたのだった。

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