洗脳少女ノ魔女裁判   作:大正エビフライ

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お久しぶりです(土下座)
久しぶりの投稿にしては短い且つ進行が遅いですが……楽しんでいただけると幸いです。


#1-4 料理への冒涜

 妙にふかふかで、柔らかい感覚を背に目を覚ます。

 ……ここは、どこだ? 天国? いや、違う。薬品の臭いがする。病院か……?

 

「……~ん……ン……さ~ん?」

 

 ベッドも掛け布団もふかふか。そして、小さく聞こえる誰かがわがはいを呼ぶ声。

 

「……ンアン……~ん? アンア……さ~ん?」

 

 そして、瞼を上げるとドアップの橘シェリー……が……。

 

「……あ、やっと起きました?」

「~~~ッ!?」

 

 な、ち、近っ!? コイツ、パーソナルスペースとか知らないのか!?

 わがはいは跳び上がって全力で壁際に這う。

 

『イ可∪(二き十=!!!!!!!!』

「読めませんよ?」

 

 橘シェリーはそう言って表情を変えずに顔を引く。

 わがはいはうるさく鳴り響く鼓動を深呼吸でおさめ、彼女をキッと睨みつけた。

 

『乙女の寝顔をあんなに近くで凝視して、一体どういうつもりだ』

「可愛い寝顔でしたよ、アンアンさん!」

やかましい!!!!

 

 シェリーがサムズアップをしながらわがはいにウインクをして見せる。

 コイツ……いつか殺す……。

 

『それで、何の用だ? よもやただわがはいの寝顔を眺めに来たわけではあるまい』

「ええ、実は朝ご飯を食べた後にこの牢屋敷を探索しようと思いまして!」

『冗談じゃない、わがはいは頭が痛いのだ』

「えー、でもエマさんも来ますよ?」

『行く』

 

 わがはいの即答に、シェリーは満足げに頷いてわがはいの手を握った。……ちょ、力強っ

 

「では行きましょう! 食堂でエマさんたちが待っています!」

「え、ちょっ……」

 

 そのままシェリーはわがはいの手を引き、医務室を飛び出し勢いよく走り出した。

 抗議の声を上げようにも、片手が握られてスケッチブックが開けないので必死に彼女について行くしかない。

 全く。健康優良児に、わがはいのようなインドア派がかけっこでついて行けるはずもないというのに、少しは遠慮と言うものを覚えて……。

 

(……待てよ)

 

 わがはいの貧弱な身体ならば、本来あんな元気な奴の全力疾走に追いつくどころか並走なんて不可能なはずだが……。

 

(こいつ、わがはいに歩調を合わせている?)

 

 シェリーの横顔を見上げてみると、奴がちらちらと此方の様子をうかがっているのが見えた。

 握る力は少しばかり強いものの、不思議と振り回されるような感覚はない。絶妙に疲れすぎない程度の低速で、わがはいを脱落させぬよう加減しているのだろう。

 

(……ふん、そんなにこちらを気にするならもっと丁寧にエスコートすれば良かろうものを……)

 

 内心毒づきながらも、握られた手を振り払わずに食堂まで連れて行かれる。

 食堂に近づくにつれて独特な――食料から発せられてるとは到底思えない――匂いが漂ってきて、わがはいたちは食堂へと入り込んだ。

「とうちゃーく! エマさーん! アンアンさんを連れてきましたよ!」

 

 シェリーが大声を上げると、エマがぱぁっと表情を輝かせて此方に駆け寄ってきた。

 

「アンアンちゃんっ! おはよう、もう体調は大丈夫? 熱とか出てない?」

「……」

 

 ……返事をしようにも、シェリーに片手が握られていて返事が出来ない。

 わがはいは空いているもう片方の手で、がっちりとわがはいの手を握っているシェリーの手をぺしぺしと叩いた。

 

「ん? どうしましたアンアンさん?」

「えっと……アンアンちゃん、手を放してほしいんじゃないかな? ほら、筆談ができないし……」

「あ、それもそうですね! すみませんアンアンさん!」

 

 シェリーがようやく手を放す。……手がじんじんする。ガタイが良いわけでもなかろうに、一体どこからそんな力が……。

 

『体調に関しては問題ない。むしろ、長く眠ったおかげで快調だ』

「そっか……うん、それなら良かったよ!」

『強いて言えば、何も食さず床についたせいで空きっ腹だ』

「そっか、じゃあ一緒にご飯食べよう。アンアンちゃんの分もよそっておいたんだ! ……見た目はアレだけど」

 

 エマに促されて席に着くと、恐ろしい光景が広がっていた。

 その皿の上に鎮座していたのは、おおよそこの世に存在する食材から生成されたとは思えぬ冒涜的なナニカであった。

 ソレが放つ色彩は主に二つ。濁った紫と、一切の光を吸収する黒。それを乱雑に混ぜ、捏ねたかのような泥濘の塊。

 表面には玉虫色の油の膜が不気味に蠢き、視覚情報だけでも本能的に拒絶したくなってしまう。

 

(こんなもの、料理への冒涜だ……)

 

 わがはいは息を詰まらせ、恐怖を孕んだ瞳でエマのことを見つめる。

 

「……アンアンちゃん?」

『エマ、もしやわがはいのこと嫌いなのか?』

「ち、違うよ! その、ここの料理は全部こういう感じで……!」

 

 エマが両手をぶんぶんと振りながら必死に弁明する。他の者の料理を見てみれば、大体同じような地獄の具現化ばかり。どうやらわがはいが嫌われているわけではなさそうだ。

 

(良かった、わがはいが嫌われたわけではないのか……)

 

 そう内心で安堵しながら、スプーンで地獄の具現化(たべもの)を掬って一口流し込み、咀嚼する。

 

 ――じゃり、ぬりゅっ、ぐにっ

 

(……。……砂とゴムとスクイーズのごった煮か何かか、これは)

「……アンアンさん、こんなまずいもん咀嚼しねぇ方がいいですわよ。味わおうとしたら心が折れますわ。丸呑みしなさい」

 

 正面を座るハンナが涙目でアドバイスをくれた。

 

(……呑み込むのか、これを?)

 

 嫌だ。呑み込みたくない。だが呑まねば飢えて死ぬ。背に腹だ。その忠告通りに塊をゴクリと呑み込んだ。

 ……まずい。胃が拒絶している。だが耐えねばならない。わがはいは必死に表情を押し殺し、紅茶……と思しき茶色の液体を流し込む。

 ……紅茶にも玉虫色の油が浮いていた気がするが、きっと気のせいだ。

 

「あ、そうだアンアンさん! アンアンさんってどのような魔法を持っているのですか?」

 

 いきなりのシェリーの問いに少し心臓が跳ねる。

 そういえば、ゴクチョーによればここにいる全員は魔法を使える魔女候補なのだからそう考えればこの質問は必然か……。

 さて、手札はなるべくギリギリになるまで伏せておきたいが……どう誤魔化そうか……。

 

『なら、先に貴様らのものを教えてもらおう。貴様らだけわがはいの魔法を知っていて、わがはいが貴様らのものを知らぬのは不公平だ』

「それもそうですね! では私から話しちゃいましょう!」

 

 よし、納得してくれた。今のうちに適当な誤魔化し方を考えなくては。

 

「私の魔法はずばり、怪力です! まぁ、それが魔法って知ったのはつい昨日のことなんですけどね~!」

「わたくしは浮遊ですわ! 空を飛べるんですのよ!」

「高さ数センチ程度且つ一分しか飛べませんけどね!」

「うっさい!」

 

 そんな喧噪をよそに思考を巡らせる。

 怪力と浮遊。で、メルルが治癒……。特に魔法に特徴とかはなさそうだ。案外、適当に言ってしまってもバレない気がしてきた。

 

『成程。ところでエマの魔法は?』

「えっ? ぼ、ボクの魔法?」

 

 ずっと黙っていたエマにわがはいは質問を投げかけると、エマは少し目を泳がせたのち、困ったように眉を下げた。

 

「その……ボクはわかんないんだ……。不思議な力とかは使えないし、アンアンちゃんの知ってる通り、特別なことなんて何も……」

 

 ……自覚なし、か? それともわがはいのように強大だから隠しているのか……いずれにしても、問い詰めたところで答えは出なさそうだ。

 

「さあ、アンアンさん! 次はアンアンさんの番ですよ!」

 

 考えているうちにわがはいの番が回ってきてしまった。

 どうしたものか、無難で証明が求められづらい魔法……。

 

『音波攻撃』

 

 少し考え込んだのち、わがはいはすらすらとペンを走らせ、その文字を四人に見せる。

 

「「「「音波攻撃……?」」」」

 

 四人の声がハモる。仲良いな貴様ら。

 

『正確には音に質量を乗せることができる。だがわがはい自信上手く制御できなくてな、たまに建物の壁をも貫いてしまうのだ』

 

 うむ、我ながら完璧だ。殺傷力があるから誰も事実確認ができない。そしてこれはわがはいが筆談している理由にもなる。

 

「そうなんですの……? そんな、まるで悲劇のヒロインのような……」

「可哀想です、アンアンさん……!」

 

 ハンナとメルルが同情的にそう言う。

 よし、どうやら即席の嘘で無事に彼女たちを欺けたようだ。そうして安心して顔を上げると……。

 

 エマとシェリーが首を傾げていた。

 

(……しまった……!)

 

 背筋が冷たくなるのを感じた。

 わがはいは昨日、ヒロが殺された際に声を発していた。それも、かなり堂々と。なのに、あの時は壁に穴が開くどころか誰も傷ついてはいなかったのだから、疑問を抱くのは当然だ。と言うか、むしろハンナとメルルが気づかない方がおかしいレベルだが、おそらく彼女たちは騙されやすいのだろう。

 

(まずいな、ウソだとバレたか……?)

 

 鼓動が早くなる。ここでシェリーやエマに指摘されればわがはいが魔法を明かさざるを得なくなる。こんな便利な能力、皆に知れ渡れば殺人事件が起きた際に"あいつに命令された"と言い逃れの材料にされたり、アイツが怪しいと疑われたり、厄介なことになるだろう。

 

(それに、このような力を持っているなんて、エマにバレたくない……)

 

 どうにか別の言い訳を考えようとしたその時だった。

 

「そっか、だから筆談だったんだ」

 

 エマがぽつりとそう言う。

 彼女は優しい微笑みを浮かべ、わがはいを見つめている。

 

「なるほどなるほど、その魔法が暴発しないように筆談を!」

 

 エマの言葉に便乗し、シェリーもぽんと手を叩く。

 二人の表情からは先ほどまでの疑念は消えて……いや、隠されていた。

 エマはわがはいに気を遣って誤魔化したのだろうが、シェリーについては何を考えているかがまるで分からない。先ほどの並走と言い、これと言い、もしやシェリーは案外良い奴なのか……?

 ……一先ず、この話は早めに逸らすに限るだろう。

 

『というわけで、一先ず腹は膨れたしそろそろ探索に行かないか?』

「そうですね! では行きましょうかエマさん、アンアンさん!」

「うんっ! じゃあ後でね、メルルちゃん、ハンナちゃん!」

 

 席を立ち、探索へ向かおうとしたその時だった。

 

「あ、アンアンちゃん」

 

 袖を何者かに掴まれる。ふと振り返ると、そこにはノアが居た。

 申し訳なさそうに眉を下げ、きゅっとわがはいの袖を握っている。

 

「えっと……昨日は、ごめんね? のあ、たのしくなっちゃって……お詫びしたいんだけど……だめ、かな?」

 

 ノアは上目遣いでわがはいのことを見つめている。

 ……本来、こいつのことを許す筋合いはないのだが……こんな態度を取られては仕方ない。

 わがはいは溜息を吐いてエマとシェリーの方に向き直り、ノートを見せる。

 

『すまない二人とも、急用ができた。あとで合流するから先に探索に行っておいてくれ』

「えっ? あ、うん。わかったよアンアンちゃん!」

「了解しました~! では、適当にぶらついていますね!」

 

 そう言い、エマとシェリーは食堂を後にした。

 遠ざかる二人の背中を見送り、わがはいは改めてノアに向き直る。

 

『それで? 詫びと言うのはなんだ?』

 

 偉そうに片手でスケッチブックを突き付けると、ノアは嬉しそうに表情を輝かせた。

 

「うん、ありがとうアンアンちゃん! じゃあ早速――」

 

 ノアが急にスケッチブックに向けてスプレーを構えて来たので、咄嗟にノアの手首を掴んで制止する。

 何を考えている、ここ食堂だぞ……?

 

「へ? アンアンちゃん?」

「……」

 

 流石に呆れで大きく溜息が出る。やはりエマたちと行くべきだったか……?

 

「あ、アンアンちゃん、まだ怒ってる……?」

 

 別に怒っているわけではないのだが……。改めてペンを握り、スケッチブックに文字を連ねる。

 

『そういうことするなら一度部屋に行くぞ』

「うん! わかった!」

 

 大丈夫、だよな……? なんて、内心で大きな不安を抱きつつ、わがはいはノアの手を引いて自分の監房へと向かうのだった。

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