物凄く気まぐれで思いついた作品です。
気が向いた時、話が思いついたら続きを投稿します。
ガラガラガラガラッ──、
固いアスファルトの上、そこを車輪が通り過ぎる音が静かに響いていく。
音をたてている正体は小さな屋台....その先頭では屋台を懸命に引いている1人の少女がいた。
「ふぅ...!もう、少し.....!」
肩下まで伸ばしたゴールデンブラウンの髪を後ろで纏め、更に丼模様のバンダナを頭に巻いている。
服は少し大きめのオーバーシャツを肘の上まで捲り、その上から無地のエプロンをつけていた。
彼女は息を切らしながら住宅街を進み続ける。
時折流れる風が彼女の肌を冷やし、屋台につけられた暖簾を揺らしていく。
その暖簾にはシンプルにこう書かれていた。
"らーめん"、と───。
「はあ〜〜〜っ!疲れたぁ!」
今回の目的地に辿り着いた少女は屋台を引く手を話しながら盛大に息を吐く。
彼女の名は麦野レン、ラーメンを愛しラーメンに愛されている(と勝手に思い込んでいる)ごく普通の少女である。
ラーメンが好きすぎていつしか皆にもこの美味しさを理解してほしいという思いが爆発、所属していた学園を中退し自分だけの屋台を作り上げてから数週間、ついに今日初めて屋台を走らせることが出来たのだった。
彼女の目的はただ一つ、1人でも多くの人にラーメンの魅力を伝えること、それだけが彼女の道だった。
そんな彼女がやってきたのは人通りの多い街中、ここは夕方になると仕事帰りの住人達が行き交う恰好のラーメン布教スポットだった。
「よし、早く準備しなくちゃね!」
少女...レンはなるべく邪魔にならない壁際に屋台を移動させると早速お客を待つ準備を進めた。
屋台の上からくくりつけていた椅子を下ろし席を作る、それから改めて用意していたスープの味の確認や具材の在庫のチェックをし終えるとニコニコと満面の笑みを浮かべながら客を待ち始める。
「何だあれ?あそこにあんなのあったっけ?」
「ラーメン屋?」
彼女の屋台の前を通りがかる人々は一度は興味ありげに視線を向けるが、立ち止まり屋台へ向かってくる者は1人もいない。
そんな状態が続くこと1時間、流石にレンもおかしいと思い始め顔には僅かに困惑の表情が浮かんでくる。
(あ、あれぇ?何で皆来てくれないんだろう...もしかして私って皆から見えてない?幽霊だった!?)
まだ呑気なことを考える余裕があるのかそこまで深刻に捉えていないようだが、それからまた30分程経過しても一向に客が近づいてくる気配が無い。
味には自信がある、この数週間丹精込めてスープを研究し続け美味しいと思えるものを作り上げたのだ。
だから一口でも味わってくれればわかってくれる筈、そんな希望を抱いているが刻一刻と時間は流れていく。
(そ、そんな...私の輝かしいラーメン屋台の初日がこのままだと0人で終わってしまう...!)
いっそのこと直接勧誘するか?だが客が自分の意思で食べに来てくれることが彼女にとっての理想、その気持ちを諦めていいものかどうか.....レンは早くも(勝手に)窮地に立たされていた。
いよいよ空も暗くなり始め、屋根からぶら下げたランタンが屋台を寂しく照らす中....
「駄目だ....今日はもう帰ろう...」
とうとうレンは溜息をつき屋台を撤収する覚悟を決めた。
昼のうちは元気満々だった彼女だが、その姿は今では見る影もない。
背中を丸め、いそいそと撤収作業をしようとしたその時。
「まだやっているか?」
「え?」
唐突に背中から声をかけられた。
はっきりと低く響く声に振り返るレン、すると暖簾の先に1人の少女が立っていた。
「もう終わりだったのならすまない、お腹が空いたから寄ってみたんだが...」
長めの金髪に頭の上には耳が生えており、どこか鋭い目つきをレンに向けている。
服装からして警察だろうか?そんな少女を前にレンは先程までの落ち込みはどこへやら、パァッと音が出ているのではないかと言わんばかりに満面の笑みを浮かべると勢いよく少女に詰め寄った。
「はい!大丈夫です!!バッチリやってます!!!」
「そ、そうか....なら座っても?」
「ど、どうぞどうぞ!」
レンは慌てながら椅子に促すと、少女はそれに従い正面の席へと座る。
「それにしてもこんなところに屋台があるとは知らなかった、いつから営業を?」
「あ、えっと、実は今日からだったんです。でも全然お客さんが来てくれなくて...なので貴方がお客さん第一号ですよ!」
「そうだったのか、それは嬉しいな」
そうレンに言われた少女は小さく笑う、そんな姿を見て今度はレンが手を水で洗いながら少女に質問を投げかけた。
「ところで、こんな時間までお仕事だったんですか?」
「ああ、まあそんなところだな」
「やっぱりお仕事は警察関係の?」
「そうだ、ヴァルキューレ....うちの別の局の奴が犯人を取り逃してしまってな、それで仕事が長引いたんだ」
少女はふうと出された水を飲みながら深く溜息をつく。
「あ、ところで味はどうしますか?」
「そうだな...とりあえず醤油で頼む」
「はい!わかりました!」
注文を聞いたレンはそう返事をすると、一気に真剣な顔つきへと変化した。
横から取り出した丼を取り付けてある湯煎鍋へとくぐらせ軽く温めた後、瞬時に清潔な布巾を使って拭き取っていく。
それから手元にセットしていたタレ壺からタレを取り出し丼の底へと投入、更に香味油を少量垂らして風味を調整していった。
そこまで進めると今度は後ろに置いていた木箱から特製のちぢれ麺を一玉掴み取り、固まった麺をほぐす様に手揉みを加えていく。
そうして出来た麺を目の前の茹で釜の湯に沈めていたてぼへと投入し軽く菜箸を使いほぐすと、その間に反対側に設置された寸胴鍋の蓋を開けこれまた特製のスープを大きなおたまですくい、先程タレと香味油を入れた丼へと流していった。
その瞬間屋台の周囲に立ち込めるスープの香りがレンの目の前に座る少女の鼻にも届く。
「これは...凄く良い匂いだな」
レンはそんな感想を聞きながら、少し前に茹でていた麺の方へ意識を向けると茹で釜からてぼを引き上げ一気に湯切りを行っていく。
チャッ!チャッ!と鋭い音を響かせながら、麺へと絡みついた余分な湯を落としていくと、それを熱々のスープの中へと滑らせた。
当然それだけで終わる筈は無い、まだ仕上げが残っている。
クーラーボックスからチャーシューを2切れ取ると、それを見栄えの良い位置に並べていく。
更に海苔を何枚か立てかけ、刻んだネギを少々まぶし最後にメンマを端に添えると丼を少女の目の前に置いた。
「はい、お待ちどお様!」
「ありがとう、これは....」
少女は受け取った丼の中を覗き込むと、そこにはまさに完璧なバランスで並ぶ具材が並んでいた。
「いただきます」
そう言って箸を手に取りレンゲを持ちながらスープの中に沈んだ麺を掴み啜る。
そのちょうど良い柔らかさと麺に絡んだスープの味が口いっぱいに広がっていくのを感じ、少女はほっと息をついた。
「美味いな...」
その言葉に続き、今度はメンマなどの具材も試していく。
これも美味い、スープの熱で柔らかくなったそれは噛む力をそこそこに喉を通っていく。
スープをレンゲで一飲み、更に麺を啜りまたスープ....気がつけば夢中になって食べ進めていた少女はやがて10分もしないうちにラーメンを食べ終わっていた。
「ふぅ...身に染みる美味いラーメンだった、ありがとう」
「いえ、気に入っていただけて何よりです!」
レンはにこやかに笑い答えるが、内心では...
(しゃぁぁぁぁぁ!!!喜んでもらえた!!私のラーメンは間違えてなかった!!!しゃっ!)
ガッツポーズを繰り返しすほどの大暴れだった。
勿論そんな事を顔にも出さずに対応するレン。
「ご馳走様、会計はいくらだ?」
少女は財布を出そうとするが、レンは首を振って止めた。
「私はラーメンの素晴らしさを伝えたくて屋台を開いてるだけなので、お金はいただけません。むしろ食べに来てくれてありがとうございました!」
「いやしかし....」
「大丈夫です!本当に大丈夫ですから!私の信念ですから!」
「そ、そうか....ならありがたくそうさせてもらう」
少女は若干苦笑いを浮かべながら椅子から立ち上がると、暖簾をくぐり屋台から離れていく。
「ありがとう、また会えたら今度は違う味を試してみる」
最後に振り返りレンへそう告げると、そのまま夜道を進んで去って行った。
「....」
残されたレンは屋台の灯りの中で固まっている。
「....ふふ、ラーメン布教...1人目....へへへっ」
それから彼女は1人にやけながら、しばらくその場で立ち尽くしていたのだった。
麦野レンの、ラーメン布教活動はまだまだ始まったばかり──。