麦野レンは今日も元気に屋台を引いていた。
「美味しいラ〜メン、ラブラ〜メン。3時のおやつにほいラ〜メン...」
よくわからない歌を口ずさみながら今日はどこで屋台を開こうかと考えていた彼女....そうしてガラガラと音を立てながら交差点を通り過ぎようとした時だった。
「....だろ?」
「でも....」
「.....ない?」
「....ましょう」
「ん?」
不意にどこからかボソボソと声が聞こえてきた。
レンはその声に耳を傾けると、どうやらこの公園の中から発せられているらしい。
怪しさ4割、だが好奇心が6割で勝った彼女はそーっと入り口から公園を覗き込む。
すると....
「ほ、本当に大丈夫かな...?」
「大丈夫じゃない?いけるいける〜」
「正直危ない見た目をしていますが...今の状況で背に腹は変えられません」
「よし、なら切るぞ...」
子ウサギ公園の中央、木を屋根とした芝生の上で4人の少女がキノコを持ちながら何かを話し合っている光景がレンの視界に入ってきた。
(え、な、何をしてるんだろう?)
ヘルメットを被った1人がキノコを片手にナイフの様なものを押し当てようとしており、他の3人がそれを見守っている。
全く状況のわからない事態にレンの頭は疑問符で埋め尽くされていた。
「くそ、何でこうも廃棄弁当が連日出ないんだ。弁当があればこの謎キノコを食べる必要なんて無かったのに」
「しかたありません、コンビニ側からすれば廃棄が無くなるのは良いことですから」
「うぅ...お腹すいたなぁ....」
「くひひっ、もう3日目だもんね〜。もう我慢できなくなっちゃったし、これはもう焼くときは沢山の爆薬を使わないと〜」
そしてとうとう1人がキノコにナイフを当て切ろうとしたその時
「あ、あの!ちょっと待った!」
「「「「え?」」」」
思わずレンはそう大声を上げてしまった。
瞬間、一斉に公園の入り口に顔を向ける4人。
(やば、つい声が...)
慌てて口をつぐむが時すでに遅し、いかにも怪しいキノコを食べようとしていた彼女達を心配して声を漏らしてしまったが、4人は入り口にコソコソ隠れているレンを見て怪訝な表情をしている。
「....何だ?そこにいるのは誰だ」
「あ、えっと、私は....」
何か言わなければますます怪しまれる、慌てて手を動かすレンだったが、ふと彼女達の方から微かにぐ〜っという音が聞こえてきた。
「あの、良かったら私のラーメン食べます...か?」
「「「「ラーメン?」」」」
それから数分後、屋台の裏に回ったレンの正面には4人の少女達の姿があった。
「ほ、本当に無料でいいのか?」
「うぅ...久しぶりのご飯...」
「まあ遠慮する気はないけどね〜」
「ありがとうございます、実はもう3日も食べていなかったんです」
少女達はもう我慢できないという様な空気を何とか堪えながら椅子に腰掛けている。
そんな4人を前に手を洗っていたレンは今、内心興奮しまくっていた。
(やったやった!この前の人に続いて今日は一気に4人も!声かけてよかったー!!!)
勿論それを口に出すことはしない、ようやく準備を終えた彼女はにこやかな表情を浮かべて注文を尋ねる。
「それじゃあ、お味は?」
「じゃあ...私は醤油で頼む」
「私は味噌かな〜、美味しいのお願い〜」
「では私は塩味で」
「わ、私もミヤコちゃんと同じ塩で...」
「わかりました!では少々お待ちを」
4人からの注文を受け取るとレンはすぐに作業を開始した。
まず丼4つをカウンターに置くとそれぞれの底に醤油用のタレと塩のタレ、そしてペースト状の味噌ダレを入れ香味油をカンロ杓子で適量加えていく。
今回は前と違い4杯作らなければならない...つまり時間との勝負だ、レンは木箱から4玉分の麺を掴み流れるようにほぐしていく。
「おお...初めて見たな」
「くひひっ、上手だね〜」
その手捌きはまさに洗練されたものであり、4人も思わずレンの動きをじっと見つめてしまっていた。
それから殆ど同じタイミングでそれぞれの麺をてぼの中へ入れ、高速かつ丁寧に菜箸で軽くかき混ぜてから茹で釜へ投入、その後彼女の意識はスープの入った寸胴鍋へと向かう。
蓋を開けると鶏ガラやその他の具材でじっくり煮込んだスープの香りが漂い始める。
「わわっ...!良い匂い....」
まさに匂いだけで涎が垂れるほど、レンはそんな彼女達の反応をよそにおたまを使ってその濃厚なスープを丼の中へと落としていく。
醤油ダレと味噌ダレが混ざるのを確認しながら味噌ペーストを溶かすためにレンはスープの中で菜箸を軽く振る。
出来上がった四つのスープ、それを見て満足そうに頷いたレンは今度は再度麺の方へと向かった。
2つのてぼを素早く取り出し勢いの良い音を立てながらお湯を確実に切っていく、それから2つの塩丼の中に流し込むとすぐに残りのてぼも同様に湯切りしていく。
全ての丼に麺を入れ終えたレンは、最後のトッピングの準備に取り掛かった。
まずは醤油だ。
初日に作った様に海苔を何枚か、いくらかのメンマにチャーシュー、最後にネギをふりかけ半分に切った卵を端にセット。
次は塩。
こちらはワカメや白髪ネギにメンマ、チャーシューは勿論ナルトも並べて白ゴマを軽くふりかければ完成だ。
最後に味噌。
お馴染みのチャーシューの他にもやしや人参、キャベツなどを歯応えや満腹感も増やせる様にトッピング。
コーンをふりかけ、まろやかさを出すためにバターを一切れ追加する。
「はい、お待ちどう様!」
あっという間に出来上がった4つのラーメン、それらをレンは一人一人の前に置いていく。
「こ、これ、食べていいのか?」
「ゴクリッ....」
目の前に出された見事なラーメンに、4人の中には我慢という言葉は存在しなかった。
「「「「いただきます!」」」」
....それからはもうそこの空間には"食べる"という概念しか存在しなかった。
ラーメンを啜り、チャーシューにかぶりつき、スープで温まる。
誰も一言も発せず、4人は無我夢中でラーメンを食べ勧めた。
...そして勿論、そんな彼女達の姿を見ていたレンは...
(ああっ!これ!これ!!!この美味しそうに食べてる姿!たまらない!!!!)
案の定大興奮していた。
若干その気持ちに耐えきれず顔にまで表情が出かかっていたが、ラーメンを食べるのに集中していた彼女達には誰も気づかれることは無かった。
やがて、コトンという音が屋台に小さく響く。
「.....幸せというのはこういう時のことを言うんだな」
「...もう動かない」
「大満足だね〜....」
「....ついスープまで飲んでしまいました」
その言葉の通り全員の丼の中は何も残っておらず、スープごと完璧に飲み干したことを証明していた。
「なあ、最初にも聞いたが本当に無料で大丈夫なのか?...今の私達でも少しくらいは....」
「いえいえいえいえ!!お金を取るだなんてとんでもない!むしろありがとうでいっぱいでこちらがお礼をしたいくらいです!!!」
「そ、そうですか」
「....もしかして少し変な奴なのか?」
「まあ良いんじゃない?沢山食べられたし、喜んでくれてるしwinwinでしょ?」
「美味しかったぁ...」
やがて席を立った4人はそのまま公園の入り口へと戻っていく。
「本当にありがとうございました、おかげで助かりました」
「くひひっ、美味しかったよ〜」
「あ、ありがとうございました...」
「まあ美味かったな....SRTとして感謝する」
そう最後に言い残した4人は、満足そうにお腹をさすりながら公園の真ん中に設置されたテントへと帰っていった。
「.......」
初日に続いて、今日も無事ラーメンを振る舞えた麦野レンは....
(勝ち!勝ち!大勝利!私のラーメンが勝ったんだぁぁぁぁぁ!!!!)
...誰に勝ったのかまるでわからない勝利宣言を内心で高らかに叫びながら、屋台の前でガッツポーズを掲げていたのだった。