キヴォトス麺道中   作:Mrふんどし

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柴関ラーメン

今日も彼女は屋台を運んで....はいなかった。

 

では何をしているのかといえば、サングラスにマスクという変装のど定番かつ単純すぎる格好をしながらあるものを探していた。

 

彼女が求めるもの、それは....先日便利屋と名乗る少女達から聞いたとあるラーメン屋台の存在。

レンにとって他のラーメン屋はライバルであり、同じ志を持っている(と思っている)者同士の関係である。

 

これまで屋台を持つにあたって可能な限り他のラーメン屋を回り味の研究を行ってきた。

だがそんな彼女がまだ知らないラーメン屋台が存在する、それはレンとしては見過ごせないことだった。

 

「絶対に見つけるんだ、私のラーメン道の為に!」

 

そう1人虚空に宣言し、まだ見ぬ屋台のイメージを頭の中で思い描きながらレンは屋台探しの第一歩を踏み出したのだった───

 

 

 

 

 

──数時間後。

 

「ぜぇ....ぜぇ...」

 

レンはフラフラになりながら、砂に覆われた道の上を満身創痍の状態で歩いていた。

 

件のラーメン屋台を探しに行動に移したまでは良かったのだが、それには一つだけ問題が発生した。

それは...肝心なことに屋台の場所がわからないということである。

 

先日、あの便利屋の少女達から屋台の名前が柴関ラーメンであること、ブラックマーケットから少し離れたアビドスという地域で営業していることなどは聞いていたのだが、そこまで聞いたレンはいてもたってもいられず飛び出してしまい、具体的にどこで屋台を出しているのかまでは聞いていなかったのだ。

 

まあ完全にレンの自業自得ではあるのだが、"きっとラーメンの神様が私を導いてくれる!"という何の根拠もない自信を掲げていた数時間前の彼女にとってそれは些細なことだった。

 

....そのせいで今大ピンチに陥っているのも事実なのだが。

 

「み、水....もしくはラーメンの汁...」

 

しかもすぐに見つかるだろうと楽観的に捉えていたこともあり、水筒なども用意せずその身1つで出かけてしまっていた。

ここアビドスはやけに気温が高く、おまけに今日はとても良い快晴だったのもありレンの喉はもう水分を求めて悲鳴をあげている。

 

(も、もう駄目...)

 

がっくりと膝をつきそのまま地面にうつ伏せに倒れるレン、ジリジリと空から降り注ぐ太陽の光に照らされながら目を閉じようとしていた時。

 

「大丈夫?」

 

「えっ...?」

 

突然上から声がかけられた。

 

なんとか顔を向けるとそこには何処かの制服に身を包み自転車を引いている少女の姿があり、彼女は首を傾げながらレンを見下ろしていたのだった。

 

 

 

 

 

「っぐ...ぷはぁ!い、生き返った...」

 

それから少女によって運ばれたレンは近くのベンチに座り、手渡されたペットボトルの水を喉に流し込んでいく。

 

「あ、ありがとうございました」

 

「ん、気にしなくていい。私もたまたま通りがかっただけだから」

 

少女はレンから返されたペットボトルを鞄にしまいながらそう答える。

やがてレンが落ち着いたのを見て少女は改めて何故ここにいるのかを尋ねてきた。

 

「どうしてあそこで倒れてたの?あまりこの辺りで見ない顔だけど」

 

「えっと、実はあるものを探しにきてまして」

 

「あるもの?」

 

「はい、柴関ラーメンっていう屋台なんですけど...」

 

レンから発せられたその言葉に少女の耳はピクリと反応する。

 

「大将の屋台を探してるの?」

 

「っ!ご存知なんですか!?」

 

「うんよく知ってる」

 

まさに渡りに船とはことのことだ。

レンは前のめりになりながらその少女に案内してもらえないかを頼んだ。

 

「ん、わかった。ちょっと待って」

 

そう言うと少女は手元の携帯の画面に映る時刻を確認する。

 

「今ならセリカもバイト中だから丁度良い、ついてきて」

 

「は、はい!」

 

一筋の光がレンの心に差し込む中、自身の前を自転車を引きながら歩く少女に慌ててついていった。

 

 

 

「こ、この匂いは...!」

 

少女に着いていくこと30分ほど、レンは毎日嗅いでいる香りが漂ってきたのを感じていた。

 

「見えてきた」

 

レンの前を歩いていた少女はそう呟くと、少しだけ動かす足を早めていく。

 

「いらっしゃいませ...ってシロコ先輩じゃない!」

 

「おおシロコちゃんか、久しぶりだな」

 

やがて見えてきた屋台のそばには2人の人物が立っていた。

1人はトレイを持ちながら笑顔で声をかけてきた少女、もう1人は屋台の奥に立ち丼を洗っている大将らしき人物...2人とも目の前の少女と親しげに話している。

 

「あれ、シロコ先輩その子は?」

 

やがてシロコと呼ばれた少女の背後に立っていたレンを不思議そうに見つめるバイトらしき少女。

 

「ん、大将の屋台を探してたお客さん。わざわざアビドスまでやってきたって」

 

「え、そうなの?」

 

「そいつは嬉しいね、なら今日はサービスだ。好きに食べていきな。それと折角新しいお客を連れてきてくれたんだ、シロコちゃんもサービスしとくよ」

 

「ありがとう。じゃあセリカ、注文お願い」

 

「はいはい、シロコ先輩はいつもので良いわよね?」

 

「ん」

 

「それで、貴方はどうするの?」

 

セリカと呼ばれた少女に注文を促されたレンは頭の中で瞬時に最適な答えを導き出そうとする。

 

初めて食べにいくラーメンの場合、最初が肝心である。

見栄を張る注文をすれば正確な評価は出来ない、むしろマイナスになってしまう。

だからこそ、その店や屋台で1番定番と言える物を注文するのが良いといえるのだ。

 

軽く目の前に立てかけていた小さなメニュー表を見ると、屋台の名前にもつけられている"柴関ラーメン"があるではないか。

おそらくこれがこの屋台で1番オーソドックスな品なのだろう。

 

「じゃあこの柴関ラーメンで」

 

「はーい、なら柴石ラーメン2つね」

 

セリカが2人の注文を聞き終えると、早速大将がラーメン作りを目の前で始めていく。

 

「でもわざわざ大将のラーメンを食べにきたっていうのは凄いわね、もし良かったらどうしてなのか聞きたいんだけど...」

 

「えっと、実は私もラーメン屋台をやってまして....」

 

「そうなの!?」

 

「それで最近美味しいラーメン屋台がこの辺りにあるって話を聞いたので、是非食べたいなと...」

 

「良い選択、大将のラーメンは美味しいから」

 

「はっはっは、嬉しい事言ってくれるな」

 

大将は3人の会話を聞きながら作業を進めていく、だがレンは話しながら常に目の前の大将の動きを観察していた。

 

(凄い...全部の動きに無駄が無い....)

 

タレを丼へと投下した大将はそのまま麺を掴みてぼの中へと入れていく所だった。

使っている麺は中細のストレート、おそらく少し硬めに仕上げているのだろう。

 

てぼの中へ入れながら軽く振った大将はそのままスープの入った寸胴鍋の蓋を開いていくと、レンの元に濃厚な醤油の匂いが香ってくる。

 

「何か苦手なものはあるかい?」

 

「あ、わ、私は特に...」

 

「よし、なら初めてのお客さんだからな、トッピングもサービスだ」

 

大将はスープを丼に入れ終えてぼを掴むと一切のブレも無く湯切りをし始めた。

チャッチャッと気持ちのいい湯切り音が聞こえてくる、コシの強い麺が丼へと注がれる中、大将は仕上げの具材をこれでもかと盛り付けていった。

 

野菜はもちろんチャーシューや海苔も多めに飾り付け、1人分とは思えないほどのラーメンが出来上がっていく。

 

「お待ちどうさん、熱いうちに食ってくれな」

 

そして完成した2つの柴関ラーメンの丼を片手に掴むとレンとシロコの前にドンっと置いた。

 

あまりのボリュームにレンは驚いてしまったが、隣に座るシロコは手を合わせると割り箸を手にそのまま食べ進めていく。

 

(こ、これが柴関ラーメン...スープの香り、トッピングの新鮮さ...どれをとっても食欲が湧いてくる!)

 

水も飲まず、数時間街を歩き続けたレンのお腹はいつのまにか限界を迎えていたらしい。

一度匂いを嗅いだだけでギュルギュルと腹の虫が鳴るのを感じていた。

 

(噂の味を....いざ!)

 

パンっと手を合わせ、麺を軽く割り箸で掴むと一息に啜っていく。

ズルズルと音を立て口の中へ入り込んだ麺を噛んだ瞬間、レンは目を見開いた。

 

まず最初に感じたのは丁度いい麺の感触だ、予想通り少し硬めに仕上がっているそれは程よく歯で噛み切ることができ、同時にストレート麺が醤油のスープを絡めとりスープ特有の風味が広がってくる。

次はレンゲを使ってスープを一口、麺に絡みついていた少量のものとは違いガツンとした香りが味と共に鼻の奥を通過していった。

 

更に麺を啜りながらトッピングの野菜やチャーシューを一口、スープ、麺と交互に食べていく....

 

(美味い....美味い...!)

 

もはや余計な口上は必要ない。

今自分がするべきことは、このラーメンをただ味わい尽くすだけだ。

 

「良い食べっぷり」

 

「夢中で食べてるわね...」

 

「そんなにがっついてくれるなんて、作った甲斐があるってもんだ」

 

3人から微笑ましく見守られていることにも気づかずに、レンはそれから暫くの間大盛りラーメンを食べ進めていった。

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

「ん、美味しかった」

 

「おう、2人ともありがとさん」

 

やがて完食し終えた2人が立ち上がると、大将は嬉しそうに笑いながら丼を片付けていく。

 

「とても作り手の愛が伝わる素晴らしいラーメンでした」

 

「まさかそんなに褒めてくれるなんてなぁ....そういやお前さんも屋台をやってるだって?」

 

「は、はい」

 

「なら、今度この辺りに来ることがあれば是非食べさせてくれ。次はこっちが客になる番だからな」

 

そう言い愛嬌のあるウインクする大将。

 

「私も食べてみたい、アヤネ達も喜びそう」

 

「そうね、それに良かったらまた食べにきて!」

 

「....はい!是非!」

 

そんな彼女達からの反応に、レンはラーメンを作り食べてもらうものとは違った満足感を感じながら、お腹をさすって満面の笑みで帰り道を歩いて行ったのだった。

 

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