『 灰被りの海兵 』   作:meiTo

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第10話 「東の海の汚点」

 

 

 

 

 

海軍本部情報処理室。

 

深夜の静寂の中、俺は山積みの報告書に目を通していた。

 

先日階級は少佐に上がった。

 

それに伴い、閲覧できる情報のレベルも格段に跳ね上がった。

 

 

「……おかしいな」

 

 

俺の手が止まる。

 

東の海、コノミ諸島担当の『第16支部』からの報告書だ。

 

海賊被害の報告は「皆無」。平和そのものだ。

 

だが、その割には支部大佐ネズミからの上納金の額が、他の支部と比べて異常に多い。

 

平和な村からこれほどの税収が上がるか?裏がある。

 

脳裏に原作の知識が蘇る。

 

 

 

 

 

 ――アーロンパーク。

 

 

 

魚人海賊団アーロン一味による支配。

 

そして、ナミの悲劇。

 

本来ならルフィが到着するまで放置されるべき事件だ。

 

ネズミ大佐が情報を揉み消しているせいで、本部はこの事態を把握していない。

 

 

「……汚ねェ金だ」

 

 

俺は報告書を握りつぶしその場で黒い粉に変えた。

 

ヴェルゴに相談すれば「余計なことはするな」と言われるだろう。

 

あるいは、その金をファミリーの資金源に吸い上げるだけだ。

 

正規の手続きで告発すれば、査問会が開かれる間にナミの村は更地になるかもしれない。

 

 

「……現地調査に行く。個人的な休暇だ」

 

 

俺は誰にも告げず単身、東の海へと飛んだ。

 

 

ドラ○ン○ールの金斗雲を真似『煤』を雲の様に固め浮かす応用技

 

『煤雲(スス・クラウド)』に乗って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

コノミ諸島、ココヤシ村。

 

 

空から見たその島は異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

巨大な門。

 

そびえ立つ「アーロンパーク」。

 

 

俺は村外れの林に降り立った。

 

村は静まり返っていた…正に恐怖による支配。

 

 

「……アンタ、見ない顔ね」

 

 

周辺を見渡していると背後から声をかけられた。

 

振り返ると、オレンジ色の髪を短く切った少女が立っていた。

 

泥棒猫ナミ。

 

まだルフィに出会う前。

 

その左肩にはアーロン一味の刺青がある。

 

 

 

「旅行者だ。道に迷ってな」

 

「へェ……旅行者ね。こんな何もない村に?」

 

 

 

ナミの目が鋭く俺を観察する。

 

同時に俺の懐の財布の位置を確認しているのが分かった。

 

流石だ。

 

だが、俺は気づかないフリをした。

 

 

「海軍の支部を探しているんだが」

 

「海軍!?」

 

ナミの表情が凍りついた。

希望の色ではない、嫌悪と諦めの色だ。

 

 

「……あいつらは、何の役にも立たないわよ。お金の計算しかできないクズばかり」

 

「そうらしいな」

 

 

俺は苦笑した。

 

その時、遠くから怒号が響いた。

 

 

「おい人間どもォ! 今月の『奉納金』の時間だァ!!」

 

魚人たちだ。

 

村人たちが青ざめて家から出てくる。

 

ナミが唇を噛み締め、俺のことなど忘れたように走り出した。

 

俺はその場から動かなかった。

 

身体を煤に変え、気配を消し様子を伺う。

 

 

アーロンがいる。

 

懸賞金2000万ベリー。

偉大なる航路の基準で見れば雑魚だ。

 

今の俺なら武装色の一撃で沈められる。

 

首を刎ねれば、この村は救われる。ナミは自由になる。

 

 

俺は右腕を硬質化させた。

 

 

 

 

…殺るか?

 

 

 

 

 

その時、ナミがアーロンの前に立ち、札束の入った袋を投げつけたのを見た。

 

 

 

「……約束よ、アーロン!あと少しで1億ベリーだわ!そうしたら村を返してもらう!」

 

「シャハハハ! ああ、約束だとも。俺は金銭の契約は破らねェ」

 

ナミの目には、まだ光があった。

自力で村を買い取るという絶望的な希望。

 

俺の手が止まった。

 

もし俺がここでアーロンを殺せば、彼女は「海軍に救われた」ことになる。

 

だが、その海軍こそが彼女を裏切り続けてきた元凶(ネズミ)なのだ。

 

俺ごときが手を下しても、彼女の心の傷は癒えない。

 

彼女に必要なのは組織の正義じゃない。

 

理不尽な世界をぶっ壊す自由な海賊だ。

 

それにここでナミが麦わらの一味に入らなければ、未来で空島へ行くことも、ロビンを救うこともできない。

 

 

「……クソッ、残酷なもんだな。未来を知ってるってのは」

 

 

俺は硬質化を解いた。

目の前の事をただ黙って見過ごすほど、俺は大人になれていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

第16支部の軍艦が、ココヤシ村の沖合に停泊していた。

 

船長室では、ネズミ大佐がアーロンからの賄賂を数えていた。

 

 

「チチチチ、今月も豊作だ……」

 

 

 

その背後の窓の隙間から、黒い煙が室内に滑り込んだ。

 

 

「――随分と汚い金だな、大佐」

 

 

俺は実体化し、ネズミの背後の椅子に腰掛けた。

 

 

「なッ!? き、貴様誰だ!!」

 

「本部少佐のアッシュだ」

 

俺は身分証をチラつかせた。

 

ネズミの顔色が真っ青になる。

 

「ほ、本部だと!? なぜこんな辺境に……! まさか査察か!?」

 

「いや。ただの散歩だ」

 

俺は机の上の金貨を指先で弾いた。

 

金貨は一瞬で真っ黒な煤に覆われ、ボロボロと崩れ去った。

 

『炭素分解』

 

物質の結合を緩める、新しい技術だ。

 

 

「ヒッ……!!」

 

「いいか、大佐。俺は今日…何も見なかった。……だが」

 

俺は立ち上がり、ネズミの顔を覗き込んだ。

 

全身から殺気を放つ。

ヴェルゴ仕込みの、冷たい殺気だ。

 

 

「お前のその薄汚い顔、覚えたぞ。……もし今後、この村の『希望』を根こそぎ奪うような真似をすれば、その時は査問会なんて生ぬるい場所には送らん」

 

 

俺の手がネズミの喉元を掴む。

 

ゆっくりと首元から顔に向かって黒い煤が広がる

 

 

「……穴という穴から煤が入ったらどうなると思う?」

 

 

ドサッ。

 

俺は腰を抜かしたネズミを見下ろし、窓から飛び出した。

 

警告はした。

 

 

原作では、ネズミはナミの貯めた9300万ベリーを没収し、彼女を絶望の淵に叩き落とす。

 

俺の脅しが効いて、彼が思い留まるか?

 

それとも、恐怖で逆に強硬手段に出るか?

 

今出来ることはやった。

 

 

帰り際、俺は村のミカン畑に立ち寄った。

 

ナミの家の軒先に俺の財布が落ちていた。中身は案の定空っぽだった。

 

苦笑し、懐から予備の金――約50万ベリーをミカンの木の下に置いた。

 

 

 

「……偽善だな。」

 

 

ほんの少しの手助け。

 

これが、ルフィが来るまでの間の彼女の命綱になればいい。

 

俺は東の海を後にした。

 

もうすぐ、時代がうねり始める。

 

 

 

次の任務地は、始まりと終わりの町――ローグタウンだ。

 

 

 

 

 

 

 

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