『 灰被りの海兵 』   作:meiTo

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第7話 「黒腕の教室」

 

 

 

 

海軍本部(マリンフォード)

 

 

世界の正義の中心地にある将校育成学校のグラウンドは、今日も怒号と悲鳴に包まれていた。

 

 

「甘ったれるなァ!! 能力にかまけて身体を鍛えん奴は、新世界では三秒で死ぬぞ!!」

 

 

紫の髪を逆立てた巨漢が、怒鳴り声を上げる。

 

元海軍大将、現在は全軍の教官を務めるゼファーだ。

 

彼の右腕には、巨大な岩石のような筋肉が隆起しており、真っ黒な「武装色の覇気」で硬化されている。

 

 

ドゴォォォン!!

ゼファーの拳が、俺の腹にめり込んだ。

 

ロギア(自然系)の流動化防御など意味をなさない。

実体を捉える覇気の一撃だ。

 

 

「がはっ……!!」

 

 

俺は地面を転がり、受け身を取って立ち上がった。

胃液がせり上がってくる。

 

周囲の士官候補生たちが息を呑む。

 

 

「立て、アッシュ曹長! 貴様の『煤』は攻撃力が皆無だ! ならば覇気と体術で補うしかない。それが出来んようなら、ヴェルゴの下へ帰って雑用でもしてろ!」

 

 

容赦ない言葉。

だが、俺はこの男の指導を求めていた。

 

家族を海賊に殺され、それでも不殺の正義を貫こうともがく(後に闇落ちするが)この男こそが今の俺に必要な師だ。

 

 

「……イエッサー!、ゼファー先生!」

 

 

俺は血を吐き捨て、構え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩。食堂。

 

俺がトレイを持って席を探していると、目立つ集団がいた。

 

『葉巻を二本咥えた白髪の男』と『ピンク色の長髪の美女』

 

スモーカーとヒナだ。

 

彼らは既に少尉クラスだが、有望株としてゼファーの教練に参加している同期生だ。

 

 

「おい、煤野郎。…ここ空いてるぜ」

 

 

スモーカーが気だるげに声をかけてきた。

俺は黙って対面に座る。

 

 

「……スモーカー君…彼はヴェルゴ中佐の部下よ。あまり馴れ馴れしくすると、君まで『ドブネズミ』だと思われるわ」

 

「うるせェよヒナ。……俺は、コイツの根性は嫌いじゃねェ」

 

スモーカーは俺のボロボロの制服を一瞥した。

 

俺とスモーカー。

 『モクモクの実(煙)』と『ススススの実(煤)』。

 

能力の性質は似ているが世間的な評価は雲泥の差だ。

煙は拡散し、捕縛に適している。

 

煤は……ただ汚れるだけだ。

 

 

「午後の模擬戦、相手はお前だってよ」

 

 

スモーカーがニヤリと笑った。

 

 

「手加減はしねェぞ。ロギア同士の戦い……決着がつかねェ『千日手(膠着状態の事)』になるか…それとも」

 

「……俺が負けるか、ですか?」

 

「ハッ、分かってんじゃねェか」

 

 

煙と煤。普通に考えれば、質量を持たない煙の方が有利だ。

俺の物理攻撃はすり抜ける。

 

だが…俺には秘策があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

第3演習場。

ゼファーが見守る中、俺とスモーカーは対峙した。

 

 

「始めェ!!」

 

 

合図と同時に、スモーカーの下半身が白煙と化して爆発的な加速を生む。

 

 

『ホワイト・ブロー』。

煙となって伸びた拳が、俺の顔面を襲う。

 

俺は回避しなかった。

 

身体を瞬時に粒子化し、黒い煤の竜巻となって、白い煙の拳を受け止める。

 

 

「無駄だ! 煙は掴めねェ!」

 

「……そうかな?」

 

俺は能力を全開にした。

 

『混合汚染(ミックス・ポリューション)』。

 

俺の身体を構成する微細な炭素粒子を、スモーカーの「白煙」の中に強制的に混入させる。

 

本来、純粋な気体に近い彼の煙に、不純物である俺の煤が混ざり合う。

 

白かった煙が、ドス黒い灰色に変色していく。

 

 

「なッ……!? なんだ、身体が重ェ……!?」

 

 

スモーカーが驚愕の声を上げた。

 

煙は軽い。だが、煤は重い。

 

俺は彼の煙の内部に入り込み、その「質量」を強制的に増加させたのだ。動きが鈍る。

 

 

「ヒナ、驚き。スモーカー君の煙が落ちていくわ」

 

 

見学席のヒナが目を見開く。

 

俺はスモーカーの懐に入り込んだ。

 

今だ。

ロギアの流動性に頼り切ったこの瞬間に、ゼファー先生に叩き込まれた『痛み』を返す。

 

俺は右腕を実体化させ、渾身の力を込めた。

 

まだ完全ではないが、微かに纏った武装色の覇気。

そして、ヴェルゴを見て盗んだ六式の足運び。

 

 

「『指銃(シガン)』……改め、『煤杭(スス・パイル)』!!」

 

 

硬質化した指先を、スモーカーの鳩尾に突き刺す。

 

 ドスッ!!

「ぐ、ァ……ッ!!?」

 

スモーカーが苦悶の声を上げ、膝をついた。

 

煙の身体が強制的に実体に戻される。

 

不完全ながらも覇気が通った証拠だ。

 

会場が静まり返る。

 

あの狂犬スモーカーが、一撃をもらった。

 

 

「……そこまで!」

 

 

ゼファーの声が響いた。

 

俺は荒い息を吐きながら距離を取った。

 

スモーカーは腹を押さえながら俺を睨みつけているが、その目には敵意以上の興味が宿っていた。

 

 

「勝負あり、とは言わん。実戦ならスモーカーが煙で窒息させにかかれば相打ちだっただろう。……だが」

 

 

ゼファーが俺の前に歩み寄ってきた。

 

巨大な手が、俺の頭に置かれる。

 

 

「……工夫したな、アッシュ。ロギアの特性に胡座をかかず、相手の特性を逆手に取った。そして、未熟だが覇気の萌芽が見えた」

 

 

褒められた。あの鬼教官に。

 

俺の胸に熱いものが込み上げる。

 

 

「調子に乗るなよ…海にはお前の想像を超える化け物がゴロゴロいる。……例えば、今の三大将だ」

 

 

ゼファーは本部要塞の上層階を見上げた。

 

そこには、俺たちの戦いを退屈そうに見下ろす黄色いスーツの男――ボルサリーノ(黄猿)の姿があった。

 

 

「精進しろ。……次はお前だ、ヒナ!」

 

「ヒナ、了解!」

 

 

訓練は続く。

 

スモーカーが俺の横を通り過ぎる時、小声で言った。

 

 

「……借りは返すぞ、煤野郎」

 

「いつでも来てください、煙突大佐」

 

俺たちはニヤリと笑い合った。

 

悪くない。この世代の連中と競い合うのは。

 

だが、俺には時間がない。

 

原作開始までのカウントダウンは進んでいる。

 

そして、ヴェルゴという時限爆弾も抱えている。

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

 

俺の部屋に、一通の召集令状が届いた。

 

 

 

 

差出人は「海軍科学班」。

 

 

 

 

 

「……Dr.ベガパンク?」

 

俺の『煤』の成分分析結果に、興味を持ったらしい。

 

これはチャンスか…それとも実験台への招待状か。

 

 

 

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