カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第1話 新たな決意

数キロ離れた先の海…島を襲うリヴァイアサンに光の矢が命中すると凄まじい勢いで蒸発した

間一髪で脱出する民衆の命が救われたのである

その矢を放ったのはギルドのクリーチャーではない、空を飛ぶ巨大な空中艦だった。

 

「い…一体、何が起こってるの!?」

身を震わせたナジャランは今までの状況を整理する。

 

『ホープ』のカードもゴリガンの裏切りによって奪われギルドも壊滅、ナイトも戦闘で消滅してしまう…セプターズギルドと黒のセプターの決戦は敗北に終わり、カードのコンプリートが完遂した

エンダネス島は放棄される事が決まり、港は避難民で溢れた

 

そしてナジャランは野戦病院の惨状を目撃し、全ての責任はゴリガンを持ちだした自分にあると塞ぎ込むしかなかった…だがそんな自分を励ましてくれた人物が二人いた、ゼネスとカリンだ

 

二人の激励で沈んでいる場合ではないと思い、自分を奮い立たせた矢先、最後の残存勢力であった瀕死のリヴァイアサンが姿を現し未だ避難が完了していない街へと突き進む。

 

そうして絶望的な状況を打ち砕いた船はセプターズギルド本部の飛行艇ドッグに寄港したいとスピーカーで説明する船は所属である『ボージェスアカデミー』と艦名を告げると「被災者の救済」という名目で入港を許可された。

 

大した混乱も無く救護班や食糧が渡される中、航空艦からアナウンスが流れる。

『セプターであるナジャラン殿は係員の指示に従い、本艦に乗船されたし。繰り返す。』

 

タラップを渡り、若い学生に案内されながら船内通路を見渡すナジャラン。

リヴァイアサンを吹き飛ばすほどの威力を持ち合わせた飛行船だが軍艦のような無骨さはない。シンプルな作りだった。

 

彼女は深呼吸を2回ほどして扉を開ける。

「失礼します」

 

「ノックを忘れてるね。ようこそ『真理の探求者号』へ。久しぶりだね、ナジャラン」

 

アナウンスの声の主が出迎えてくれた。

隣では電算機と呼ばれる機器がひっきりなしに穴の開いたテープを出している。

 

「ホアキン!?来てくれたのは嬉しいけど、なんでエンダネス島の位置がわかったの!?それにリヴァイアサンを仕留める凄い艦なんて見たことないよ!一体どうやって!?」

 

興奮したナジャランを遮るように、脳天にチョップが響き渡る。

「青臭い小僧よりまず、私を見て反応するべきでしょ?ナジャラン」

 

悶絶したナジャランが見上げると、遥か未来まで見通す眼を持つ賢者と謳われたグルベルがいた。

「フツー救助船なんて言われても警戒するのは当たり前。じゃあなんですんなり入れたかって答えが私な訳よ」

 

考えてみれば未来予知ができる彼女の一声は富豪や国からすれば黄金の山に匹敵する。化粧品や美容液は錬金術、煌びやかな衣服も化学の産物だ。こうした分野に投資して実権を握っていても

なんらおかしくはなかった。

 

救援はホアキンたち学生やグルベルだけではない。

コネクションや呼びかけを通じて『真理の探求者号』はさながら救護隊を乗せたレスキュー船となっていた。

 

街には未だ助けを求めている声がする。

「お兄ちゃんを助けて!!」

 

崩れた店の前で泣き叫ぶ少女に大人たちが救助に向かう。しかし、魔力切れのセプターでは5人がかりでも瓦礫は撤去できない。次第に中から聞こえる少年の声も小さくなっていく……。

 

「よぉーし、頑張れよボウズ!このチミノさまが助けてやるぜぇ!!」

 

そう言うと、一人のスキンヘッドの男がゴブリンを2体ほど召喚させた。2メートル以上ある巨大なゴブリンが瓦礫を軽々と持ち上げ、中の少年をもう1匹のゴブリンが救助した。

歓声が沸き上がり周りから賞賛されるチミノ。

 

かつてナジャランと戦ったゴロツキの彼とは、まるで嘘のように頼れる男になっていた。

「ありがとう、おじさん!僕……!おじさんみたいな凄いセプターになる!」

「お兄ちゃんを助けてくれてありがとう!おじさん!」

「向こうで女将がスープを作ってんだ、ゆっくり飲めよ。ボウズは医務室だな!」

 

その医務室ではセプター能力もない、ただの奇特な医者が重傷の患者を診ていた。

「お医者さんッ!この人は助かるのかい!?」

「耳元で騒ぐな!それにしても…こんなに大勢のセプターを治療できるとは夢でも見ているみたいだ。ヒヒッ!安心しろ。脚はちょいと難しいが両腕は無事だ。料理も問題なく作れるぞ?」

「命は!?命は無事なんだね!?」

「近いわ!!当たり前じゃろ!!それと念のため精密検査を受けろよ!?」

 

また黒のセプターの追撃が来るかもしれないというのに、彼らは今ある命を助けるために尽くしている。

そんな彼らを、小さな窓から覗いている影があった。

 

「ここから見えるのかい?ナジャランの名前を聞いたら懐かしそうにしてる人、結構いたよ。あちこち旅したんだね」

夢中になっている彼女に、ホアキンは声を掛けた。

 

「みんな……あんなに頑張ってるんだ…」

自分もこうして泣いてばかりで、立ち尽くしてはいられない。

そう思い、ナジャランはホアキンたちに懇願した。

 

「お願い、私にも何かさせて」

その言葉を聞き、ホアキンは彼女の肩に手をポンとのせた。

「よく言った、ナジャラン。それじゃあ、神様になってくれるかい?」

 

「わかったわ、ホアキン。私…立派な神様になるわね」

こうしてナジャランは、偉大な神になる第一歩を──

 

「アホかーっ!!なんでそうなるのよ!?救助とか炊き出しとか、仕事が色々あるわよね!?なんで私が神様にならなきゃいけないわけ!?」

 

「久しぶりのリアクション、いつものナジャランで安心したよ。まず説明を聞いて欲しい。黒のセプターたちがカードを完全蒐集して、カルドセプトを完成させたのは間違いないよね?なら、なぜこの現状で新しい神様が誕生しないんだい?」

 

ホアキンの質問に、首を傾げるナジャラン。

「う……ん、きっと宇宙の支配者トーナメントとか開いて、黒のセプター同士で戦ってるとか?」

 

隣で聞いていたグルベルは、肩を震わせながら笑っていた。

「ふふっ、じゃあ私達もトーナメントに殴り込む準備をしなければならないわね。チーム名はビューティー…っておバカ!」

 

グルベル本日2度目のチョップがナジャランに再度直撃した。

 

「黒のセプターはカルドセプトを譲渡したいのよ。他でもない、反逆神バルテアスにね」

 

反逆神バルテアス。かつてカルドラに背き、深淵に葬られた悍ましき神。

神は己を殺すことはできないとカルドセプトに書き込んだため、未だカルドラの光の剣で悶え苦しんでいると聞く。

 

確かに彼らはバルテアスの復活を望んでいたが、それは自分が新しい神になり彼を復活させれば済む話ではないのか?

当たり前の疑問を、まるで読心していたかのようにグルベルは語る。

 

「黒のセプターの信仰心は本物よ。同じ神の座に着くなど烏滸がましい。ましてやバルテアスが1000年待ち続けたカルドセプトを使うなんて簒奪としか言いようがないのよ」

 

「話を戻すわね」と遠くの空を見つめるグルベル。その先には夜すら暗く見える漆黒の雲が見えた。

 

「まずバルテアスは身動きがとれないわ。カルドラ様の光の剣を受けて瀕死なのは勿論、四属性の神々による精霊力によって封印がされているから…。でも、その封印が弱まる時がある。日食よ」

 

「日食……!?でも、そんな都合よく日食なんて…!?」

「禁忌のスペルカード『イクリプス』を使うことで、完璧な日食を早めることができるのよ。月齢的に、丁度明日ね」

 

なぜベルカイルを始め、黒のセプターがギルドの弱体化や老体のホロビッツが現役な時に、リスク覚悟で強襲し始めたのか。その理由がこれで分かった。彼らは焦っていたのだ。他でもない日食の時期を狙って

 

「セプターズギルドもこの事を見越して総攻撃を仕掛けたけど…結果はこのザマね。私の予知は世界の記述を読む力。それは、記述にはないゴリガンのスパイ情報で大いに狂わされたわ」

 

ナジャランはまた己の行動に胸を痛めた。だが、向き合うべき情報だった。

 

「あとはベールゼブブを始めとした四属の王を召喚し、バルテアスに合わせた環境にした後、身動きが取れる状態になった彼にカルドセプトを譲渡。新たな神となったバルテアスが世界を滅ぼし、カルドラに復讐するってワケ」

 

「それにしても、よく解りましたね?黒のセプターの計画」

「私は賢者よ?最近お肌のノリが悪いから、火の神ビステア様の機嫌でも悪いのかと精霊力を図ってみたら、急速に衰えを感じている地点を発見してね。仮説を立てて月の状況を調べたら、大正解ってやつよ」

 

あからさまな嘘だ。彼女は滅びを阻止するために立ち上がった賢者の一人。

予見とは違う黒のセプターの動きを常に観察し、月齢の観測を詳細に行っていたのだ。

イレギュラーな事態に対し、ホロビッツとグルベルが対策を行っているのは不自然ではなかった。

 

グルベルたちの会話を遮るようにナジャランは叫ぶ。

「日食はいつ?バルテアスは何処に!?」

ナジャランは今からでも殴り込みに行くかのような臨戦体制だった。

 

それを嗜めるようにグルベルは諭す。

「日食は明日の正午。封印されているバルティス山には、この船なら数時間で着く距離にいるわ」

 

「ビーク!」

 

ナジャランはカードを展開した。彼女のエースクリーチャーである翼竜、サンダービークが爆煙とプラズマを纏って現れる。

が、直ぐに意識が遮断されたように眠りに着いてしまった。グルベルの『スリープ』だ。

 

「話は最後まで聞きなさい。部屋ごとブッ壊して進むのも貴女らしいけど…連中はナジャラン、貴女一人で戦ってどうにかなる相手じゃないわ」

「敵だってあれだけの魔力を使ってたら、消耗してるはずです!」

「相変わらずの無鉄砲さだね……。キミは気が付いてないだろうけど、魔力がいくらあっても体力も精神力もムリは禁物だよ」

 

今すぐにでも飛び出しそうなナジャランを二人は諭した。

 

「サンダービークじゃ長距離は不利。魔力も探知されるし、その点この航空艦は対魔法感知のステルス艦。エンダネスの管制でも、近距離じゃなきゃ感知できなかった優れものよ?」

 

不敵に笑うグルベルに、ナジャランは自分を精一杯抑え込んだ。

サンダービークは瞬く間にカードに戻り、ホアキンは肩の力が抜けるのを感じた。

 

「計画を話すよ。ナジャランが乗っているこの飛行船『真理の探求者号』をバルティス山に向かわせる。だけどそれは陽動。本命は航行途中で艦から小型艇を発進させて、別ルートに向かうこと」

 

「物資の運搬や人員の編入。それが終わった明朝に僕らは出発する。ナジャランを筆頭にバルティス山を攻略して、カルドセプトを奪取するって話さ。護衛として、最大であと2人は小型艇に乗り込むことになる。陽動隊が大半を引き込む予定だけど、残存戦力は全部そっち持ち。まぁ、どちらも決死隊だね」

 

発言をしているホアキンの手は、用紙を握りしめ、僅かに震えていた。

共に旅をしたビスティーム遺跡の探索とは訳が違う。だが今自分が逃げてしまえば、この世界の人々が夥しく死んでしまう。その事実が彼を踏み止まらせていた。

 

「内容はわかったわ。でも、私なんかがカルドセプトを手に入れていいの…?もっと強くて志が高い人とか……」

 

「四属の王や黒のセプターと交戦して生き延びた癖によく言うわ。数多のランカーセプターと戦い、ギルドランクNo.4のカリンにも快勝。実力は申し分ないし、他の実力者セプターは瀕死や重体……それに、まぁ?おバカだけど他人の為に泣けるその性格は及第点よ」

 

ナジャランはそれに関してそれ以上口出しする気はなかった。自分しかいない状況、責任は重大だが、やるしかない。

バルテアスの復活だけは、なんとしても防がなければならないのだから。

 

「本隊のメンバー選抜だけど、僕が集めたデータを元にした電算機が隣で唸りを上げているだろ?あと1時間もすれば」

 

「話は全て聞かせてもらったぞ!」

 

ホアキンが説明している途中で突然天板が勢いよく外れた。

隻腕の男が飛び降り、ホアキン謹製のパソコンを踏み砕いた。悪気は一切ない。

 

(何か壊したか?まぁいい……)

「ナジャラン!死地に向かうそうではないか!そんな面白い地獄を満喫するなど、このゼネスが許さん」

「ゼネス…貴方、死ぬ気なの?お師匠さんはそんな事望んでないと思うよ」

 

ナジャランの不安をよそに、ゼネスは意気込んだ。

「無論。そして、目の前の友を見捨てて逃げることは尚のこと許さんはずだ」

いつも通りストレートな男だが、自分以上のこの無鉄砲さが彼女にとってありがたかった

 

「失礼」

ナジャランとゼネスの後ろから、老人の声が聞こえた。

 

「「なっ!?」」

二人はハミングするように驚き、カードを勢いよく構えた。しかし声の主は両手を広げ、交戦の意思がないことを示した。

 

その男は長身で、全身に包帯を巻いており、コートを羽織っていた。包帯からはみ出た白髪まじりの黒髪と、胸にある萎れた花が不気味に主張していた。

 

「私が呼んだのよ。彼の名はオ・ライリー。非戦闘員だけど、彼のサポートは頼りになるはずよ」

グルベルは何処から用意したのか、豪華なチェアに座りながら語る。

 

「ほぅ」

ゼネスはオ・ライリーを一瞥すると、まじまじと見つめ、何かに気がついたようだった。

「ふっ……くくく、いいだろう。貴様なら背中を預けても問題あるまい。そして賢者グルベル!!俺の参加に異論はないな!?」

「『美しい』を付けなさい…ま、あのサルバトールの弟子なんだし?失望させないでよ?」

「無論!オマエには美しい勝利を捧げてやる!!」

 

「とりあえず食事だ!」と貴賓室から飛び出すゼネス。

それと入れ替わるように、ギルドのセプターが息を切らせてやってきた。

 

「伝令!!ホロビッツさまの容体が安定しました!!」

「ほ、本当!?今すぐ向かうわ!!」

 

ナジャランは、嬉しさのあまり飛び跳ね「みんな、ありがとうね!!」と告げると、急いで貴賓室を出た。

 

「あとは任せたわよ、ナジャラン…あっ!そうそう、私は船から降りるわよ。ホロビッツに用事があるし、何より上空の紫外線は肌に悪いもの」

 

グルベルはそう言うと、座っていたチェアーの周辺ごと、エレベーターのように下降していった。

 

後に残ったのは、渾身の電算機を壊され、呆然としたホアキンとオ・ライリーだけだった。

「あ、あの…ホアキン殿。何か手伝いましょうか?」

「とりあえず……水をください」




この作品は今年の正月から執筆しているものです
本当は全て書き終えてから加筆修正しようと思っていましたが突然のカルドセプト・ビギンズ、そしてカルドセプト・theファーストの朗報にいてもたってもいられず投稿しました。成功を心より応援しております
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