※暴力的、バイオレンスな描写があります。
「感情の制御が独特だな、戦闘意欲を減退させる『ピース』のカードを頭に打ち込んだか」
「当たり、アンガーマネジメントに有効よ?親睦を深めるチョップくらいは打ち込めるしね。場を収める程度ならスリープだって使えた」
グルベルはベルカイルにカードを構える。一気に仕掛ける気だ
「でもダメね、根本的な解決は出来ないし…何より怒りのもとを目視しただけで『ピース』の呪いが吹き飛んじゃった」
怒り程度で呪いが吹き飛ぶものか、ハッタリだと黙殺しながらベルカイルは首なしの騎士を召還させる。二人のタイミングはほぼ同じだった
「駆けろ『デュラハン』!」「侮蔑の舞踏で狂い死ね『ダンシングドール』1!2!3!」
青年ほどの身の丈ある紳士服を着た3体の首つきトルソー人形が一斉に飛び上がった
「アンドゥ!」グルベルがそう叫ぶと2体の人形がデュラハンの前に立ちふさがり「トロワ!!」いつのまにか後ろに回り込んだ一体が後ろからロングソードで切りつけた「ぬっ!?」デュラハンに僅かな動揺が走った。一旦距離を置こうとバックステップを行う
しかしその動きは読まれている「アン!アン!ドゥ!トロワ!」一糸乱れぬ連携がデュラハンを確実に切りつけた
「やはり予知の力は健在か、だがこれはどうかな?その先にある虚無を覗け『デスゲイズ』」
ベルカイルは巨大な目玉の怪物を召還した。ナジャランにとって大切な『ナイト』のカードを消滅させた忌むべきクリーチャーだ
「首なしの次は目玉!美的センスのない気持ち悪いクリーチャーしかないのかしら!」
軽口を叩きながらもグルベルの形相は先ほどから変わらない、瞳には次に相手はどう動くか何が出るか、未来の記述が感覚的にグルベルは理解していた
「鏡よ鏡!愚かなる者を写せ!『ミラーホプロン』!」長方形の全身鏡が三体のダンシングドールが装着される
その瞬間デスゲイズの邪眼から虚無の光が溢れドールを襲う。直撃すれば存在が消滅する、だがそのような事は折り込み済みだった。ミラーホプロンに映されたデスゲイズは瞬く間に奇声をあげ、自らの力で消滅したのだ。「強すぎる力には反射系のアイテムがよく効くわね」全身鏡の盾が砕け散り周囲にはダイアモンドダストの様に見える鋭利な霧が舞う
「ならばこれで幕引きだ、デュラハン!」ベルカイルがそう叫ぶと首なしの騎士が持つ顔を模した盾から魔法の弾が散弾のように放たれた
「そんなもので私の…!?」ダンシングドール3体は全員は魔弾を喰らいバラバラになった
「やはりな、貴様はカルドセプトが記した未来の記述を読んで事象を予見している。私から言わせればカンニングに等しい。100パーセントの回答が散らばっていても一文字だけ消えればそれはあべこべな答えになる」
デスゲイズの能力はカルドセプトの記述を消滅させる邪眼、その眼で照らされたのは周辺の空気や地面に記されている記述だ。一部だけでも消えればグルベルの予見は大幅にズレる
「それじゃあこれはどう!?パイロマンサー!」
両手に燭台を持った執事の形をしたマネキンが姿を現した
「無駄な事を」
両者セプターはアイテムカードを握らせ、補助スペルで強化や弱体化を行い凌ぎを削っていた
「そもそも貴様の予知能力を使えばある程度の未来は変更できるはず。その激昂ぶりから察するにメテオストームを予見できなかった、断言できる。短期的な未来はともかく長期的な予見は出来ない!1時間先すら見通せまい」『プレートアーマー』を出しながら彼は薄ら笑いを浮かべる
「もう少し笑い方の練習をした方がいいわよ」『グレムリンアムル』を出してそれを阻止するグルベル。同時に強化されたパイロマンサーが持つ燭台が火を噴くがデュラハンの全てを燃やすに至らない。ベルカイルの口角は不気味にまた上がった
「これが笑わずにいられるか、未来が確実に塗り替えられた瞬間を目の当たりにしたのだ。カルドセプトの記述にない人頭杖たちの干渉で運命は大いに変容した!」
さらに彼は饒舌に語る「もう貴様に希望の未来は見いだせない!これがその証明だ!」
アイテムカードの最高峰にして名剣『クレイモア』を装着したデュラハンが唐竹の様に炎のマネキンを両断した
「クリーチャー同士の勝負にこだわり過ぎたわね」魔女は彼に初めて微笑んだ
地面から無数の操り糸が湧き出てベルカイルの手指に絡みつく
「これは…ハウントか…!?」
『ハウント』このスペルカードは相手が優秀なセプターほど、相手が有利なほど効果的な力を発揮する
身動きを取れなくして間違った指示をオート操作で出す狡猾さの極みの様なグルベルの切り札だ
「食らったのは初めてだが…なるほど私からは何もできんな」「平然としてるのも今のうちよ?」
「べ…ベルカイル様!これは!?」忠実な首無し騎士がカードになり持ち主の手元に戻った。次の瞬間四輪バイクのクリーチャー『ナイトメア』が爆音と共に姿を現す。意味不明なクリーチャー交換だ
「そのしもべにも指示もロクに出せないわよ?そして…予言なんてしなくても解るわ、貴方は自分のカードで破滅する」
「なるほど、だが魔女よ、貴様も死ぬのでは?」彼は唯一動く首を上に動かし晴天を見上げた。正確には自分に迫ってくる一つの流れ星を
ハウントの力で『メテオ』を起動させベルカイルを押しつぶすように迫ってくる
「心配?嬉しいけど私は特等席で見学させてもらうわ」鉄壁の『スフィアシールド』を展開させダンシングドール4号で構築した椅子に座るグルベル
「アナタを出来るだけ苦しめて殺そうと思ったけど残念だわ、そんなに人間を消滅する事を使命と感じるなら、率先してまずは自分からなるべきじゃない?」
周りの空気を燃やし黒煙をあげながらメテオが差し迫るなか暗黒の司祭の唇が動いた
「全ての存在が消滅出来ると確証が出来たならそうしてる」
彼が語る『慈悲』が直撃した
地面も隕石もその衝撃に耐えきれず崩壊し巨大なクレーターがまた一つ出来た
空を飛ぶ鳥は一瞬で屍と化し焦げた空気を一身に浴びて燃え上がり地面に落ちる
「仇は討ったわよ…間に合わなくてごめんなさ!?」何かが靴音を鳴らし迫ってくる事に本能的な恐怖を感じたグルベルはスフィアシールドを展開してるにもかかわらず防御スペルを発動しようとしていた
「あまりに遅い」
展開していた円形の結界が男の拳で崩壊した
「ありえない!?なんなの!?どんな防御アイテムでも核に匹敵する隕石の直撃を防ぎきるなんて」動揺した魔女は襟首を掴まれ、持ち上がった。視線の先は傷一つ付いてないベルカイルがそこにいた
「…人間でもないしミゴールの様な改造もされていない。ましてやクリーチャーでもない…まさか」
メテオが防げる理屈は無理筋ながら存在している、核爆発でも平然としていられる位に凄まじく固いというバカバカしくて身も蓋もないクラスの回答
『余裕で防げる程の魔力障壁を出せる膨大な、世界を掌握できる程の魔力を持っている』これは即ち神に等しい魔力持ち合わせているという事である
「その答えに至ったのはダゴンの他に貴様しかいない。やはり優秀だな、賢者と呼ばれるだけはある」
「インチキ(チート)じみてると言いようがないわね…バルテアス神の全ての魔力を譲渡させてるだなんて…」
頼みの綱であるハウントの呪縛が解けているのを確認しながら賢者はなおも反撃の機会を窺っていた
「さしずめ『バルテアス・アバター』といった所かしら」
そう呟いて魔女は首を揺らした
「でも神の膨大な魔力をその肉体に秘めてるって事はつまり、こういうのに弱いって事よね」
グルベルの巨大な帽子から一枚のカードが滑り落ちて発動した『マジックドレイン』だ
オーラの様な魔力がベルカイルから抜き取られ、スライムの様に彼女にまとわりついて吸収された「…!この感覚…大した魔力じゃない!?」
「上級のセプターでもその対策を思いつくのは時間を要するだろう。流石だな、だが私にマジックドレインは効かない」「それでも今のは防ぐべきだったわ」
なんだと?ベルカイルは嫌な予感がした
「片手…いや規模からいって多分両手ね。魂を共鳴させて魔力を調整する『エコー』のカードを埋め込んでるでしょう?それがアンタの力の秘密」
「な!!?」ベルカイルは初めて動揺した
「以前、瀕死の幼児の腕にフレイムロードを移植して命をつなぎ留めたヤブ医者セプターがいてね。禁止されてるけどカードを埋め込む施術って調べてたら結構あるみたいじゃない?アンタのその技術は一時期に闇ギルドで流行ってた緊急的に魔力を捻出するやつだけど魔石やらなんやらで思った以上に効果を発揮できず廃れていったけど
動力源が神の魔力となると話は別…両腕のコントロールすら失わなければ桁違いの力が手に入るはずよね」
「やはりここに来て正解だな。貴様ら賢者を野放しにしたならば例えバルテアス様が復活しても必ずや障害になるはず…さらばだ」
「言ってる意味が解らなかったかしら、腕が最大の弱点だから気を付けろって」
突如賢者の胸が弾け飛んだ。接近戦に用意した苦肉の一手『マイン』のカードが発動されたのだ
もう少し握りしめれば賢者の首はへし折れていただろうが同時に自分の右腕は膨大な魔力消費による逆流で僅かながらダメージを受けていたかもしれない。その僅かでもベルカイルにとっては深刻だと自覚している彼は思わず指を離してしまった
一方でグルベルは大ダメージだ。トカゲのシッポ切りどころの話ではない。肺はわずかな呼吸が限界で喉も出血している。やるんじゃなかったとザマァ見ろといった感情が交差する中で意識を集中させる。必死になって『フライ』を発動し、ギルドに向かう魔女
飛びたった直前、後ろからバイクに乗ったベルカイルが空中を走り迫ってくる。「しつこい!!」何度も応戦しながら愛したエンダネスの廃墟を飛ぶ魔女、その胸中は痛みや苦しみ、恐怖ではない
(歯が無事でよかった、顔もまだ大丈夫…でも内臓が死んだら肌にも影響するのよね…どうしよ)
この瞬間においても猶、グルベルの頭の中は自分の美貌のアフターケアと
(あとは任せたわよ、ナジャラン…ホロビッツ)
仲間たちの想いでいっぱいだった
──
「よし、完成したぞ…!!」
ホロビッツは汗をぬぐい転送円に最後の点を入れた「儂はこれからグルベルの元に向かう!皆は直ちに」
直後ギルドの正面の出入り口から勢いよく何かがバウンドしながら飛び出してきた。グルベルだ
帽子は砕け、セットされた美しい黒髪が土埃に纏わりついてボサボサで鼻は折れて歯はあちこち砕け、瞼は腫れあがり見えているかどうかも定かではない。何より深刻なのは胸部だ。もしかしたら鎖骨が露出してるかもしれないので触るわけにもいかない
「グル…ベル…!!」
ホロビッツの声を聞いたのか割れた爪から血が噴き出しながらも彼の手を握りグルベルはベルカイルの全てを語った
肺が潰れたその発音はあまりにか細く、何を言ってるのか周りにいたセプターからは意味不明だった
ただ一人、ホロビッツだけには理解できた
「最後に一つだけ質問があるのだけれど、私は綺麗?」「あぁ、世界一美しいよ。お前のファンでいて良かった」「貴方にそんな事を言われたのは初めてだけどちょっとキモイわね。でも嬉しい」
半壊した4輪バイクと共に暗黒の司教ベルカイルが姿を現した
戻れと一言だけ彼が命じるとナイトメアと呼ばれたバイクのクリーチャーは手札に還った
「やはり転送円か、小賢しい…バルテアス様の所にはいかせぬ」(きゅ…救援を求む!ベルカイル殿!!救援を求む!!!)
突如としてベルカイルの耳に人頭杖の叫び声が響いた。『リベレーション』による通信だ
(ゴリアスか、後にしろ)
大方、デプテラ達の奇襲が失敗したのだろう。ため息をついて歩を進ませた
(緊急事態です!!!救援を求めます!!セプターであるナジャランの殺害には成功しましたが…これは!!ぎゃあ)
(…なにがあった)
足を止め話を聞くベルカイル、その僅かな時間は白い布に包まれたグルベルを担架で運ぶには十分な時間だった
「やってくれたな」ベルカイルがホロビッツを睨むと
「どの口がほざくか、ド畜生の青二才の分際で」
老賢者は激怒したグルベルに匹敵する顔で睨み返した