バルティス山の麓は草木が一切生える事無く、砂漠の様だがそうした過酷な地でもしたたかな動植物は生きる事を諦める死神ですら商売を辞め風すら力をなくす凪の中一面には起伏もロクにない不毛の大地が広がっている
だが利点は少なからずある、例えばグライダーが勢いよく地面に不時着するくらいは。
「おい!もっと山に寄せれんのか!?それより本当に着陸できるのか!?」「ぶつかっては元も子もありません!それと!このグライダーは底面装甲に特殊な素材で出来てる故着陸には問題ないかと!」
減速させながら出来るだけ平らな場所を目指す冷静なオ・ライリーに対して声を張り上げるゼネス
両者の意見を殴り飛ばすような衝撃が容赦なく着地の衝撃に伝わった
あちこちから軋む悲鳴がグライダーから聞こえた。
さらに地面に車輪が途端ガチャンと嫌な音がした、外れたのだ。
ナジャランが緊急パラシュートを引いて急速に減速するがバランスを崩して翼が折れてようやく止まる
全員怪我もなく「これだけあって怪我はないはないだろ!?」ゼネスは叫んだ
「よく頑張りましたな、お二方…」
キャノピーが勢いよく開いてオ・ライリーが顔を出した
「まだ空に浮いてる気分だ…バーサーカーに乗っていたほうがまだマシだったな」
ゼネス達は網で出来たタラップでグライダーから降りた
「・・・」
ナジャランは降りて以降、何も発さず腕を伸ばしてくるくると回っていた
5分後の小休止が終わり、いよいよバルティス山脈へと駆け上る準備が出来た
まるで彫刻で出来た山が拒絶しているかのように眼前に広がっていた
「ここからは陸路で行くのがベターかと」
オ・ライリーはカードを使って『ホーリーラマ』を召喚した。巨大なラマがナジャラン達を見下ろす
「随分と間抜けな面だな、これで3人乗り込むのか」
「ゼネス殿、ラマほど便利な生き物はございませんぞ?私が若い頃…失礼。本来ならばナジャラン殿ご自慢のサンダービークといきたいでしょうが空路は目立ちますし1人乗りではいささか不安でしょう」
「サンダービーク?いないよあんなの」
オ・ライリーからの返答に2人は耳を疑った。「どういう意味だナジャラン」
「ホロビッツ先生に貰ったの、究極最強のブック…これさえあればベルカイルも倒せるって、サンダービークみたいな雑魚クリーチャーなんかもういらないよ」
「な…ナジャどの?」
ややあってゼネスは包装紙入りのおやつを差し出した
「ところでナジャラン、クッキーはいらないか?乗り物酔いで食欲が失せた。高級品だが貴様にやる」ナジャランは怪訝そうに見つめた
「ゼネス、ふざけないでよ…こんな時にクッキーなんか食べたくないよ」
「ふふっ」「ふふふククク」…彼女のその返答を聞いた途端2人は笑い始めた、オ・ライリーに至っては空を仰いだ
「くはっ!はははっあーはっははは!!」「あのボケ爺~!!はははははは!!あーはっはっはっは!!!」
我慢出来なくなったのか2人は大笑いし始めた「ゼネスもオ・ライリーさんもどうした」「!?ッナジャラン後ろだ!」
ゼネスの発言にも理解出来なかったのか、胸から蠍の針が彼女を貫通しても彼女はきょとんとした表情だった
「ファハハハハ!残念だったな!ナジャランよ!精一杯の奇襲であったが!いゃあ!無念無念!」
巨大な尻尾を携えた死蟲のデプテラが姿を現した
「がっ…ぶぇっゲホッそんなっ酷い…ホロビッツさま」
ナジャランの胸と口から止めどなく黒い血が溢れた。どう見ても致命傷だ
「回復なぞ無理だぞ!アイテムカード、『ベノム』を使っておる!トロルですらもがいて死ぬわ」
「何!な…ナジャランが死んでしまった、あいつの手元にはベルカイルすら倒す究極のブックが」ゼネスは口を抑え肩を震わした失言だと気づいたのか口を塞いだ。なおもガクガクと肩が動く
「最早ここまでか…ホロビッツ殿秘蔵のカードがあのデプテラの手に渡るとは…」オ・ライリーは膝をつき地面を見つめた、包帯にまみれた彼も口を抑えてやはり身体は震えている
「ほぉ〜?それは皮肉よな!では…」デプテラは尻尾を下ろしてナジャランのブックを弄る
「まず試運転として貴様らに試してくれる!絶望に震えろ!タイガービートル!」カードの中から中型犬ほどの甲虫が飛び出した「なっ!?」セプターにとっては初期からお世話になる、いわば雑魚カードの代名詞だった
何かの間違いか!?このタイガービートルには特殊な効果が!?他にカードを見てデプテラは開いた口が塞がらない
「バカな!?マーフォーク!?コボルト!?G・ラット!?こんなものの何が究極だ!?」
「そんな、酷い、なんて人達なの、ホロビッツさまー」「はぁ!?」
人間なら即死の毒を受けたはずなのに尻尾の先のナジャランは手足をバタバタと震わせていた。玩具の様に
「酷い、なんてホロビッツ様ー、ホロビ酷い、さまー、」
彼女の首が鳴り180度曲がる、笑顔だ「ぷああああああああ」「な…なんだこいつは!?」今度は次第に顔の形が崩れていく胸から口が生えて甲高い声で囀り出す「ホロホロホロホロ!ホrrrrルォー」今殺したのはナジャランではない。死蟲のセプターが気が付いた時には『ナジャランのような何か』が爆ぜて花火みたいに砕け散った。それは対象に化ける魔法生物のクリーチャー「ドッペルゲンガーかっ!?」そう発音をした途端ゼネスの左手の義手がデプテラを殴り飛ばした。ついでに持っていた人頭杖ゴリアスも膝で。
「ぶげぇええ!!緊急!緊急の連絡をしなければ」のたうち回りまるで吐瀉するように口からカードをひねり出すゴリアス。
「連絡なぞしてる場合か!セプターの波動を感じ取れなかったのか役立たずめ!」無理難題を叫びながらデプテラは囮のカードを投げ捨てた
「所詮は黒のセプター、貴様らを救おうとしたナジャランの考えは俺には到底理解できんな!」
ゼネスはそういうとカードからバーサーカーを召喚させる
そのセリフを聞いたデプテラのは困惑と怒りの感情が湧き出た「なに…?ナジャランが我々を救済?同情なぞ身の毛がよだつ、役に立ちたいのならば今すぐ風の王にハラワタでも提供してろ…」と愚痴りながら反撃の一手を用意した
「貴様らの王国を構築せよ!邪魔するならば排除せよ『ハイブ』!」無数の蟻人間がバーサーカーとゼネスを取り囲む。銃器や槍が狙いを定め攻撃のチャンスを窺っている
「これで身動きはとれまい!!分断されたサポート役なぞ恐るるに足らず」デプテラは指を鳴らして合図を送る
砂が爆発したと思うと地中からミゴール族の兵士6人が飛び掛かった
ゼネスがオ・ライリーの名を叫んでも呆然と包帯を巻きつけた老人がたっていた、訓練に使う人形かと、ミゴールはニヤけた
「だから言ったでしょう、ラマは役に立つと…私の脚を高速化しろ!」ホーリーラマの目が光るとオ・ライリーの脚も輝きに満ちた。瞬間胸にあった6つの花弁が一つ一つミゴールの兵士の額に張り付き頭にめり込んだ「ホアーッタタタタタタ!アアアウォオ!!!」そして奇声が周辺を支配した
「悪いな、ゼネス殿。」包帯は拳の衝撃に耐えきれずトイレットペーパーの様に破け、その正体を現した
「オライリーは私の屋敷で庭師をしているセプターだ」「ハッ!承知しているわ。どう誤魔化そうがその気迫、来世たりとて忘れはせぬ」
彼との因縁はそう深くはない。大会の飛び入り参加でケガを負ったままゼネスと戦った程度の間柄、ただそれだけだ。結果はゼネスの勝ちだがその戦いが遠因で負けた事もまた事実、ある意味で彼の人生を決定づけた出発点かもしれない
従って、この老虎と若竜の関係は本人でもなければ推し量れないと言える
「そうだろう!?南部の虎!オーエンよ!!」
「未だにこの名前どころかあだ名まで覚えていてくれたとは嬉しい限り、あの頃と違い戦士としての格が上がった様子!」
殴られたミゴールの戦士たちは起き上がりハイブ達と共に彼らを再度囲んだ
その様子を不敵に笑い竜虎は並びたち、目の前の羅刹たちを見据える
「「さっさと掛かってこい!貴様らの挑戦を待っているぞ!!」」
ゴリアスは慌てながらリベレーションを起動して会話しようとするがスリングを装備したバーサーカーの一撃が運悪くヒットした
──
脱走兵アロンダは相棒であるクリーチャー『ワイバーン』を操縦しながらあたりを見渡した
「もういいよ」そういうと後ろに白い布で包まれた荷物が揺れ動く
「ぷはぁ」女性の声が自身の解放感を告げる。荷物から頭だけが生えるナジャランだ
「肩の近くにあるヒモ引っ張りな、布全部取れるってさ」彼女の説明通りにするとバラバラと全てが解除される
ワイバーンの魔術由来で風の抵抗感はない。むしろ暖かいのがありがたかった
「アロンダさん、本当に良かったんですか?」ナジャランの質問にアロンダは鼻で笑った
「有り余る報酬貰ったんだ!逆に感謝してるよ。バルテアス山まで送ればその報酬は倍!しかも戦わなくていいんだから」
強がりなのか判らないが少なくともワイバーンの性能とアロンダの実力は信頼出来たのは空を飛んでいて解る
向こうの空を見ると他に離脱した仲間がゆらゆらと揺れて合図を送っているのが見えた。よく見たら船も無事だ
「あの人たちはどうなるの?」「戻るか逃げるか未だに決めかねてるってさ」アロンダは肩をすくめた。
ぐううう
気が抜けたらナジャランの腹の虫が鳴り始めた
あれだけ喰ってまだ体内が欲しているのか長い音が響いた
「な…なんか緊張が解けたらお腹すいちゃった…アロンダさん、何かもってない?」
乾坤一擲、賽は投げられた、勝負はこれから
我々が見ていない所で運命の神カルドラはダイスを振る。という様々な意味を込めてホロビッツとグルベルの考案した作戦「カルドラダイス」の全容がこの瞬間発動した