カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第13話 依代

セプターズギルド本部の天井はエルダードラゴンのブレスが弾かれた衝撃で崩壊し、皮肉にも清々しい青空が覗いている

その下では一人の老人と白い装束のギルドの医療班セプター達が地に伏していて生きているのか死んでいるかもわからない。立っているものは唯一ベルカイルのみだが青銅のような肌が猶深い青に変貌していた

 

「それで、貴様はおめおめと敵の罠にはまり片腕を無くした…と?何が任せたぞだクソたわけ…」

炸裂して原型がない左手を抑えながら司祭の報告を聞きバルカンは溜息をついた

 

あの後ホロビッツが負けた事で残ったセプター達は決死の攻撃を仕掛けた。しかしどのクリーチャーも『ダークマスター』の前では羽虫と同等

その地の王がホロビッツの命ともいえる象徴を両腕で掴む

 

「あ…あぁ」医療班の長は地べたに這いずる様に信じがたい光景を目の当たりにした。

地の王がホロビッツが所持する最強のカード『エルダードラゴン』の喉元に牙を突き立て、さながら捕食をしているからだ。指には吸血鬼の至宝『バンパイアリング』が嵌められている

 

幼い頃弟と式典で見たドラゴンの雄姿が眼に焼き付いて離れなかった。

まさしくカルドラ神の尖兵であり全ての障害を打ち砕くセプターの希望だったからだ。

その希望の王がこうして、怪物に食われている。未来を守るために戦ったクリーチャーに対してこれ以上の冒涜があろうか。最早身体は動かず涙を流すばかりであった

 

しかし当のベルカイルは苦悶の表情を浮かべ壁に寄りかかる

左手に埋め込んだエコーのカードを失った代償はあまりに大きかった。魔力のコントロールが上手く行かない処ではない…無軌道な魔力の奔流が体の中を駆け回る。

 

「大失態だ、バルテアス様の復活を見届けた際、この命をもって贖罪する」

「勝手にしろ」バルカンは心底どうでもよいと溜息をついた

 

彼にとってベルカイルは使い捨ての端末に過ぎない

何よりバルテアス神が創生したミゴール族でもない、カルドラ神の寵愛を受けた忌々しい人間が黒のセプターのトップという事実が既に目障りだ。

 

『バンパイアリング』の力なのか、ダークマスターの粘体装甲は鍾乳石の様に高質化して巨大な竜骨に変貌した

緑色の体躯もそれに応じて変形しドラゴンゾンビよりも禍々しい、骨だけの魔龍…さながらそれは邪神像のようだ

 

身体に流れる奔流を抑えるには慣れがいる。神経を集中しながら『フライ』のカードを使うのが今は精一杯だ

早く我を使え、バルテアス様との契約を果たせ、と語る様に手を伸ばすダークマスターに無言で乗り込むベルカイル

 

間も無く来る日食のタイムリミットまであと少しだ。もっと闇の力を…バルテアス様に合った環境にまで高めなければ

 

彼は通信に使っていた『リベレーション』を起動させる。本来の使い方は遠隔でクリーチャーを召喚出来るという優れた能力を持つスペルカード

「運命に抗え。全ての王よ目を覚ませ」崩壊した左手を掲げ碧空を見上げる

これで憂いは何もかも吹き飛ぶだろう

地の王は飛行艇の倍近い速度でバルティス山の方角に向かっていった

 

「ま…まて。…?な…なんだこれは」

視界が消えて暗闇になったと医療班の彼は誤認した

あるいは日食になったのかと

「あ…あぁ…」それが何か気づいた時あらゆる望みは消え失せた

いっそ弟と一緒に果てたらどれだけ良かったか

 

空を漆黒に覆われ、空は不快な音と黒い空で満たされた

風の王『ベールゼブブ』の群れが、数えきれない途方もない群体が空に、いやこの星全体を埋め尽くしている

 

「1000年かけた計画はとうとう成就される…ベルカイル、我は依代を解放するぞ。」

マスターロッド・バルカンは口から保管されたカードを取り出し魔力を解放させた

──

?分前

 

カタパルトを装備した腐肉の屍霊ラルバが海上を飛んでいるタレ達に凶弾を撃ちこむ、一発でも当たれば忽ち骸骨の群れが彼らを飲み込むだろう

 

それを二人で巧みにバックラーで弾く、あるいは回避する。

熟練セプターの動きに翻弄されるが窮地に立たされたとは微塵も思っていない

 

「ネズミの様に逃げおって。だがこれで最後よ」

前哨戦は終わりばかりに人頭杖は次の指示を送る

 

屍霊『ラルバ』と悪霊『マーネス』がルーフを襲い掛かかる。「正面2人で攻めればどちらかが生き残れたものを!」

ファイアーシールドを展開し、タレの攻撃に備えるデュミナス

 

ルーフというセプターは美形の優男に見えるが爆炎の貴公子のあだ名がごとし、攻撃系クリーチャーやスペルで敵を圧倒するスタイルで有名であるが、その上を遥かに行くデュミナスに勝てる道理はない。

『まずは熟知した敵から仕留めるのは基本中の基本』と最大火力で踏みにじろうと人頭杖はほくそ笑んだ。

 

だが鉄壁の構築を破らんとばかりに空間が歪み、魔石トラペゾヘドロンが姿を現した。「敵を完全に補足したんだな!?コンジャラー!バ・アルを召喚しろ!」

遠くにある飛行艇、叡智の探求者号の艦長ヒュンケルの叫び声が聞こえるようだった

 

トラペゾヘドロンが割れ、中から大鎌を携えた悪鬼が後ろからデュナメスに襲いかかる!

「バ・アルだと!?猪口才なっ!」鎌が貫通するがデュミナスの背骨から無数のトゲが生え、悪鬼に突き刺さる。攻防一体のアイテム『スパイクシールド』だ

「ピ----!!プピーーーッ」「五月蠅いぞデュナメス!!」彼はひび割れた窯の様に蒸気を噴き出し苦痛にのたうつ様に捩る、魔力が反応しているに過ぎないが亡霊の叫びに聞こえた

「ハッこれで策は全てか!?」スパークボールを発動させるとバ・アルは頭上で爆発して返り血で出来たシャワーを浴び、人頭杖は高らかに笑った。まもなく目の前の眼鏡をかけたセプターは泣き叫び許しを乞いながら朽ちていくだろう

 

「聞くがいい下賎なセプターどもよ、冥府に落ちても我が名を叫べ!我こそマスターバルガンを凌ぐ智慧者にしてバルテアス様の右腕になるもの、我が名は!「嵐の星より生まれ!来たれ!S(ストーム)・ジャイアント!」ルーフはそう呟くと落雷のような巨人の雄叫びが場を埋め尽くした

『HEAAAAA!!!!』

頭上から山のような巨人が降ってきた

 

ストームジャイアント、肌は青白く頭髪含め全身の体毛がない。眼球全体がアクアマリンの様な青い美しさを放つが厳つい顔つきと相待って意思があまり伝わらない不気味さがあった。上半身には岩で出来たプロテクタで身を包んだ巨人の大きさはナジャランと対峙したコロッサスクラス、巨大な建築物をゆうに超えていた

な…なんだ!?と驚いてるのも束の間、巨人の手のひらから巨大な貝がフリスビーの様に投げられ、マーネスとラルバを八つ裂きにした

 

「一度相対せば対策は見えてくるというもの、その点貴方は自信があって現状のブックと戦術で満足してしまっている」

今回の戦いに合わせてルーフは火属性対策のブックに組み合わせている…使い慣れた相棒と呼べるブックを1から組み直して運用するのは達人の技術で無ければ不可能だしその胸中は複雑であったが

友人達の死骸をしているデュナメスを滅すると思うとこの程度の労力は苦ではない

 

しかし、そんな事情は人頭杖にはまるで取るに足らぬ

「なめるな!」次の攻撃をデュナメスに指示した

バトルアックスを携えたミノタウロスが頭を砕かんと頭上に召喚される

だが斧を振り下ろす瞬間、巨人の肩から火山が噴火した様な錯覚に陥った。豪火に焼かれ消滅するミノタウロス…

 

いつの間にかストームジャイアントにタレの愛用クリーチャー

紅蓮に燃える四足のドラゴン「パイロドレイク」がしがみついていた。翼を持たぬ火竜だがその首は長く、まるでマグマを纏う草食恐竜の様な威圧感があった。

 

「いつの間に!?S・ジャイアントと同じタイミングで召喚だと!?」

 

「その程度で驚かれては困る。私の読みが正しければこれで詰みだ」

花が咲き乱れ、中から絶世の踊り子が姿を現した

フェイスベールに覆われたうっすらと見える口元は蠱惑的に映りスラリと伸びたプロポーションは見るもの全てを魅了する

 

シャラザードと呼ばれるクリーチャーだ

 

「はぁいタレ様!今日はどの様なご要望を?」

「いつも通りだ、キミの仕事を頼む」

偶には純な反応が欲しかったのか、軽くむくれるシャラザードだったがすぐにデュナメスに向かって行った

 

「ハッ!なんだその軟派なクリーチャーは!?丁度いい、シワシワなミイラになる様を大切な主人に見せつけろ」

 

デュナメスの顔から巨大な人魂『ウィルオウィスプ』が飛び出し、彼女を包み込む。生気を吸い込む恐ろしい攻撃だ

「あんっ!熱烈なハグね…でも」

彼女が艶やかなオイルを身体に塗りたくると人魂は目の前の敵を見失い退散した

 

「ガセアスフォームか!だが攻撃は出来んぞ!無論デュミナスにもファイアーシールドを展開している!」

当たり前だろう、目的は攻撃ではないのだから

シャラザードはふぅっと吐息を出すと薔薇が咲き乱れデュナメスの周りを付き纏う

その途端、全身から漏れる火が消えかける

彼女の能力、セプターの呪い解除が発動したのだ「な…!!??まさか!?デュミナスの弱点を!!??」

 

デュナメスの圧倒的強さはセプターに掛けられる強化『呪い』にある。

どんなセプターやクリーチャーにも掛けられる呪いは一つのみ、無理に掛けようとしても新しい呪いに上書きされてしまう

 

しかし複数のセプターが一体となった存在ならどうか

ある遺骸にはアンチマジックを

また他の遺骸にはヘイストを

ファンタズムを、バイタリティを…様々な加護を1つ1つ付加されている

 

それらの集合体であるデュナメスはまさに決戦に向けたチート(インチキ)じみた無敵の城。正面から戦えばタレもナジャランも敵いようがない。

 

その城塞の呪いが踊り子の吐息に剥がされる。追い打ちをかける様にタレの肩に止まった『クロックアウル』の呪いの上書きやスペルカード『ディスペル』による呪い解除で瞬く間に弱体化する

 

「バカな!?バカな!?こいつを作るのにどれだけ苦労したと」人頭杖は突然の事態に慌てふためいて目の前にいる怒るセプターにすら気が付いていない

 

「みなさん、待たせましたね…」ルーフは静かに目を閉じるとアイシクルを槍の様に投げてデュミナスを貫いた。

「な…なんだ!?デュミナスのコアであるネクロスカラベが!?」

すると何かの仕掛けがほどけた様にぼたぼたとデュミナスを形成していた骸骨が崩れていく…

 

それを眺めながらルーフは達成感と同時に恐怖を覚えていた

なんら満たされない、未だ達成されていない…黒のセプター、それに連なる全ての命をさらに潰さなければ怒りは収まらない。そうした感情が渦巻いていた

 

「タレ、もちろんこいつは処分しますよね?」

デュミナスをコントロールしていた人頭杖は滝の様な汗を流していた

平静を装ってるがルーフと同じようにタレもまた怒っていた

 

「まぁそれは提供する情報しだいさ、お前に聞きたい事が二つある」

「わ、私に何かあってみろ!直ぐにベルカイルがあぁぁぁ!?」「うわっえっぐ!」

タレが指でパイエティコインを放ち人頭杖の左眼球を貫いた

 

げぼぁ!途端口に隠してあったカードがバラバラと四散した。内容は『リコール』を始め『トーチャー』や『デスペアー』など恐ろしいカードの数々「話す!話すから助けてくれ!」もう一個のパイエティコインを見せると彼は観念した

「すぐ済むさ、向こうでみんなが戦ってるしね…まず一つ、どうやって我々のルートを知った?」

「ゴ…ゴリガンだ。飛行艇がついた情報を掴んだ途端アイツが飛行ルートを経産してある程度の目星を付けていた」

 

裏切者が情報を提供しているわけではなかった。安堵したと同時に敵に回ったゴリガンに対しての憎しみが僅かながら増した。

 

「もう一つ、これが本題だ。どうやってバルテアスは復活する?日食や四属の王だけでは不可能だ」

「な…何を言って」

人頭杖の右頬が髭ごと切れた「うぎゃあああ!!」

「竜眼で見た太古の戦争の光景は私も見てね。カルドラ様の光の剣…あんなものが突き刺さった状態では指ですら動かせまい」

 

「私は見れませんでした。初めて聞きましたよタレ」「まぁ私にもいろいろあるさ、ホロビッツ様達もそれが気がかりだったらしくてね。話を続けるぞデクノボウくん…で良かったか?」

 

あまりのショックに身じろいで悪口にも耳を貸さない人頭杖

「話せば命は助けてくれるのか?」「…善処しよう」

 

「依代だ、依代を用いてバルテアス様を権限させる」「依代…なんだそれは」ルーフもタレも困惑したが彼は嘘を言ってる様子はない

 

「そもそもミゴールのセプターを地上の寄生生物と融合させる手術は依代を作る工程で出来上がった産物に過ぎない。その究極、神とクリーチャーの融合に比べれば些細なものだ」

 

「いくらなんでも話がぶっ飛びすぎよ」「シャラザード、私も理解が追い付いていませんが静かにしてください」タレは彼女の頭を撫でた

 

「つまりその融合させるクリーチャーを依代と呼ぶわけですね。そうして依代と一体化したバルテアスがカルドセプトを手に入れる…問題はどんなクリーチャーかだ。恐らく並みのレアカードではないはず…」

 

「い…いかにも、カルドセプトから生じたカードの中で唯一『伝説』の名を赦された禁断のクリーチャー…それこそ依代として相応しい」

 

「なんだ…ギルドの書庫ですらそんなカード聞いたことがない」「なんにせよこの情報はまさに値千金です。クリーチャーと融合したバルテアスならば、倒せるはず。急いでナジャラン達に連絡を」

 

「みーつけた」

タレとルーフの会話を遮る様に水面に浮いた美少女が笑顔で話しかける

その正体は先ほど人頭杖がトーチャーと共に吐き出したカードに混じっていたクリーチャーだが吐いた当人ですら知らない。ベルカイルが仕込んだものだ

 

その光景を見て硬直してないのはシャラザードだけだった

そこにいたセプター3人は彼女に見覚えがあるからだ

 

「狭くて暗い所にずーっといてヒマだったのよねぇー、貴方たち?私と遊ばない?」

「ま…まてダゴン!!!私は裏切ってない!!私は」

 

青く濁った海の底から島の様な何かがせりあがってくる。急速に輪郭がはっきりした所で二人は走馬灯を見た

 

「ルーフ!下がって!」直後タレは庇うように『カウンターアムル』を起動させる

本来ならば最適解である、このまま攻撃されれば魔術が発動してダゴンの攻撃は逆に反射されて潰れるはずだ

「へぇ、優等生」

 

海上から高速で伸びた触手がカウンターアムルを粉々に砕きタレに触れた

「げふあっっっっ」

その瞬間凄まじい勢いで飛ばされて水面を水切り石の様に何回も跳ね、バルティス山のある島まで吹っ飛ばされてしまう

 

もう一つ触手が伸び人頭杖を粉々に砕いたがそんな事を気にする人物は誰一人いなかった

 

「タ…タレ様!?」シェラザードは呆気に取られるが気を失ったのかカードになってタレの元に戻っていく

彼ほどの魔力なら大丈夫だろう、護符だって沢山持っているんだ。目の前にいるギルドマスターにのみ集中しよう

 

そう言い聞かせる前にアンサモンが使えなくなった事を瞬時に考えてしまったルーフは己を猛烈に恥じた

 

「アンサモンを使うセプターも排除できた。あら?貴女も来てくれるのね?嬉しいわベールゼブブ」

そして少女は何もない大空を見上げる

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