カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第16話 幕間の攻防

「海上から超大型クリーチャーが出没!夢でも見てんのかい!?島くらいある!」

操舵主アルタはゴーグルに見えた光景に初めて脚を震わせた

 

「俺からも見える…!あれは水の王ダゴンだ!どうせバルティス山には間に合わねぇ!今からルーフの救援に向かう」腕時計を見て指示を出すヒュンケル

「そして、そのままダゴンをぶったおしてカードに返す!元のエンダネス島に戻すんだ!」

 

 

ルーフはS・ジャイアントに防御アイテムを装備させ、さらに水馬『ケルピー』を3体召喚させた。さらにもう3枚クリーチャーカードを構える

 

「ふぅん、対デュミナスのメタブックかと思ったら案外やるのね」

ケルピー達はダゴンの周囲を凄まじいスピードで周回し渦潮を作りあげる。

 

「足止めのつもり?まぁいいか…コホン」ルーフの目の前で少女はわざとらしく咳払いをする。所詮本体ではない、インターフェイスに過ぎない物体が声を張り上げる。それは念話に近い声だった

 

「そこの飛行艇!私はエンダネス島本体にしてセプターズギルドのマスター、水の王ダゴン!」

突然の自己紹介にヒュンケルもルーフも困惑した

 

「どうせ本部の連中は私を人間に仕立てあげて死んだことになってるでしょうけど、真実は違うわ。今まであなたたちはこのダゴンの上でのんきに生活してたワケ、笑えるわね?」

 

「ヒュンケル卿!頭から水の王の声が…いやそれより、奴が言ってる事は本当なのですか」

 

防衛隊から緊急の連絡が入る。彼らから不安や恐怖のどよめきがどんどん漏れていく

(少しばかり身動きが取れないからといって全てをバラすとは、いや違う…ダゴンにとっちゃ単なる余興か…)

 

伝声管を全て開きヒュンケルは喋る。

「そうだ、今まで隠していて悪かった。このことは一部のセプターしか知らねぇ」

 

ルーフの救援に向かう船内はどよめきが走った

 

「言っておくがアイツは誰の物でも無かったワイルドカード、ずっと無害に暮らしてたんだ…!スペルを使われて黒のセプターのしもべになっちまったが…それは懸命に連中と最後まで戦った結果で…」

 

「では我々は今まであんな怪物の元で…」「私たちを騙してたんですか!?」「そんな重要な事を今まで上層部は…!!」

 

予想以上の動揺の声が伝声管を通じて響き渡る、やはり自分は艦長に向いてないとヒュンケルは痛感した…

 

だがそれを打ち消すように最大音量でアナウンスの声が聞こえた

 

「さっきから聞いてれば随分と余裕がありそうな会話だね。あの島の思い出が全部否定された気分かい?まぁそういう人もいるかもね」

 

機関室で作業をしているホアキンの声だ

 

「よそ者の癖に…!」

一人のセプターが呟いた

 

「ただ、エンダネス島はセプター達にとって理想郷だったらしいじゃないか。技術水準の資料を年号順に軽く見せてもらったけど、100年前から完成されてる。きっと凄い人達が作ったんだと憧れたよ。僕は終ぞ見れなかったが…生贄か何か捧げられたのかい?ヒュンケル卿」

 

「いや…島民の魔力を少しだけ徴収していた」

「税金としちゃびっくりする位安いね」

もう話してもいいよとシャットダウンしていた回線をホアキンは再度開いた

 

「この船の中でエンダネス以外で生まれた人は少なくないハズだよね?どうだい?ダゴンから離れて元のバブラシュカ大陸で暮らしたいかい?」

沈黙が流れる

 

間も無く四属の王と接敵するだろう。周りは未だに風の王に跨ったミゴール族が船を追いかけながらガンツ隊と戦っているがまだホアキンの話は続いた

 

「生まれはどうにもならない…でもその人を判断するのは背景を知ったりコミュニュケーションを取ってからでも遅くないだろ?」

 

「そのうち騙されるぜボウズ」ヒュンケルは苦笑した

 

「構わないよ、自分の選択なんだ。飲んだくれのオッサンにずる賢そうな探索人、単純食いしん坊なセプター…みんな接してみなかったら解らなかった大切な友人だ。だから」

一息吸って「だから次にマトモな状態のダゴンと会ったら何かパーティーでも開いたらどうかな?僕も興味はあるよ、エンダネスに留まるなり別れるなりはそれからでも遅くないんじゃないかな?」

 

ややあって少し落ち着いた空気が流れた

「へぇ、やるじゃないかホアキン、昨日オトナになっただけあるね?」

アルタの冷やかしに最初は理解できなかったホアキンだったが次第に意味が解ってきた

 

「あわ、あわわわわ!それはか…関係ないだろ!?というかなんで知ってるんだよ!?」

「匂い」

トマトの様に赤くなるホアキンだが他の学生達はイジりもせず生暖かい目で見守っていた。『感慨深いぜ』と

「なんだよ!!みんな!畜生!!」

 

当然オープンチャンネルだ。周りからクスクスと笑い声が聞こえる

 

「聞いての通りだ、今は戦いに専念しな。それともアロンダみたいに逃げるかい?」

「それを言われちゃどうにもならねぇな…!」「ま、世界の存亡に私情はやめようか…」「俺はまだ怒りが収まってねぇよ!だがアロンダみてぇに皆置き去りにして脱走はしたくねぇ!」

操舵士の発破にセプター達が湧いた

 

アロンダが抜けて結束力が固まったのは嬉しい誤算である、もしかして裏で何か計画があったのか?と一瞬思ったが詮無きことだとヒュンケルは顎を撫でた

 

「よし、それじゃあ景気づけにホアキン砲のチャージを急がせろ!もうすぐダゴンに一発」

 

瞬時に空の明かりが消える、風の王『ベールゼブブ』が空を埋め尽くしたのだ

 

「あれは…!?クソが!!みんな空を直視するな!アルタはゴーグル外して操舵!精神的にやられるぞ」

 

のぞき窓からその光景を見てしまった学生はストレスで吐いてしまう。気を失うセプターも出始めた

唯一ホアキンだけがその光景を凝視していた、本心を言えばスケッチでもしたかった程である

 

「聞いて欲しい!バルティス山の上空にだけ風の王がいない!時計を見ても日食までほんの少し時間がある!今僕たちに出来る事はルーフさんを助ける事だけだ!」

 

「おい!ホアキン、一部の敵の様子がおかしい」

ペガサスに乗って防衛していたガンツから魔道具『インカム』からの通信が入る。5騎中2騎の風の王を沈めたが

死人が出なかったとはいえ戦闘不能者はそれなりに報告を受けた。撤退の要請かと最初彼は思った

 

方角を教えてもらい望遠鏡を覗くと確かに見える

騎乗しているミゴールの兵士達が必死に指示をしているかの様に見える、中には腹部を刺してまで止めようとしていた

だいぶ弱った個体のようだ

「この状況で凄いな、ガンツは」

「頭上に蝿なんぞ戦場じゃいくらでも見たわい、デカイか小さいかだけだ。それよりアレはなんだ?」

「なんてことはないよ、コントロールを失っただけの」そこでふと思案するがある生態を思い出した

白アリの習性だ。弱った個体に対してそれは

 

「あ…ああああああ!!!!????」

伝声管を握りしめホアキンは操舵室に狂ったように叫んだ「取り舵だ!!!アルタ!!取り舵」

「いきなりなんだい!」「ホアキン砲のチャージも中止!エンジンを臨界させて離脱する!ガンツ隊も僕たちに付いてきてくれ!」

 

困惑する彼女だが言われた通り旋回する、今更ながら嫌な予感がしてきた

「艦長命令無視かよ…!いったい何があるんだ!ホアキ」ブ!ブ!ブ!ブ!ブ!ブ!ブ!

 

通信の音を遮る様にそれは来た、数にしておよそ10匹以上

 

巨大な風の王が弱った風の王とミゴール族を貪った

 

「畜生!ここまでか!?」

「いや…なんとかなるかもしれない…ヒュンケル艦長!みんな!私に賭けてみないか!?」

ゴーグルをしたアルタは自らを奮い立たせるように声を出した

「コイツらをぶつける!」

 

 

 

「なんという…!!」

ルーフはカードを構えながら絶句した自分に向かってくる真理の探求者号のすぐ横で多数の風の王が下りてきたのだ

「よそ見してる場合かしら?」

そういうとダゴンの吸盤から無数のレーザーが飛び交う

「もうこれでタネ切れか…『シミュラクラム』!!」

そのレーザー以上のルーフの分身を囮にして彼女の攻撃を防いだ。だが分身を作る魔力も最早心もとない

 

「さっき喰らったケルピーに加えてカリュブデュスの包囲攻撃までしたのは見事だったわ、でもこれでサヨナラね!」

伸びた触手がルーフに襲い掛かった

 

ブ!ブ!ブ!

「な!?」

それを防ぐかの様に巨大な物体がダゴンに食らいつく、先ほど落下してきたベールゼブブだ

 

「ちょっと!はしゃぎ過ぎ!あとで叱られてもしらないわよ!?」

「艦首ホアキン砲!撃て!」

 

勢いよく光の矢が水の王に当たった

 

ダゴンが反撃とばかりに触手が伸びて船体を壊そうとした時、薄いクリスタルに包まれたS・ジャイアントが姿を現す。おそらくカウンターアムルだろう

「HEEAAッ」

「邪魔!!」

 

思い切り突き刺すと異質な感触がした…貫いた感覚がまるで違う

 

(やられた!あのタレってセプター…カウンターアムルの他に別のアイテムを使って私を出し抜いたとでもいうの?ダメージは確実に与えただろうけど…とんだ失態だわ)

 

急いで念話をしようとバルテアス山を見ると「あぁ…そう、おめでとうバルテアス様」そのやる気は喪失した

バルテアスと融合した『レジェンド』が顕現したからだ

 

「結構バカやれて楽しかったかな、ホロビッツ達には及ばないけど…意地悪を言ってごめんね、子供たち」

例えベルカイルが死のうがもう日食も神の復活も止められない。アンサモンを使っても無理だ

 

黒のセプターに移った時点で自分の記憶がボロボロと無くなり始めてる。日食が終わる頃には純粋な水の王としてこの世界に君臨するのだろう

 

「多分ルーフのボウヤは魔力切れ、というと次はアナタかしら?名前は?」

下を見やると眼鏡をかけた若い女性のセプターが水上に立っている

「お初にお目にかかります、ギルドマスター。カリンと申しますわ」

サーカス仕込みの軽やかな挨拶を彼女はした

 

「もう船のバサルトエンジンが限界だ!艦長!参謀としてリミッターの解除を申請!」

「だよね!悪いなホアキン!見てくれはブサイクになっちまうかもな」

ホアキンの提案を待っていたかのようにヒュンケルはカードを構える

 

最後まで諦めないというみんなの命の輝きがまぶしい

それがあまりにも残念だったとダゴンは心痛に溜息をついた

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