カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第17話 新たなる神

「うああああっっ!あぁ!?」

竜眼に触れ、膨大な情報が頭に流れ込み、昏睡状態から戻った彼は叫び声をあげた

本来の眼球の持ち主であるエルダードラゴン『ギルマン』の苦痛と痛み、使命や怒り…そして悲しみ

 

「人生を100回繰り返しても猶足らない衝撃ですね…これは」

あまりの経験に息をのんだ

 

「まだ食事も喉を通るまい、しばらく休めよ」

感謝してもしきれない、私はお礼をしようと師匠に託されたカードを渡そうとした

 

そんなものはいらん、と首を横に振る老賢者

特製の重湯を口にして息をつく…

「私が竜眼に触れて何時間経ちましたか?」

ホロビッツは指を2本立てた

本来ならばこれ以上の時間は当たり前じゃ、と5本指を立てる

 

「それは…お褒めの言葉と受け取っても?」

「無論じゃ、まぁ最速レコードは無理ではあったが…」

 

彼はそれを聞いて苦笑した

「それは、まぁホロビッツ様と比べればレコードの達成は無理でしょうが」

 

その発言に賢者はクスクスと笑い声をあげる

「違う違う、儂の弟子じゃよ。しかもその後牛丼を頬張りながら号泣した変わり者よ。しまいには儂の秘蔵の酒まで飲む始末」

 

なんという豪胆さだ

作り話とは違うのだろう、紛れもない真実…それゆえに軽率な発言をしてしまった

 

「それだけの心の強さ、さぞ才能ある有名な方なのでしょう」

賢者は笑みを止めた。失言だと瞬時に理解し話題を逸らそうと言葉が詰まる

 

「まぁ、そうじゃな…確かに素晴らしい才能であった…後釜はアイツしかいないと思っておった」

そういうと老人はキセルに火をつけ煙をくゆらせる

 

「聞くか?愚かな師と我儘な弟子の話を」

 

彼は重湯を再度頼み壁に寄りかかった。困った。昔話を聞く子供の様に興奮してしまっている

 

その内容は竜眼と比べればなんという事もない。だがその話は小さな憧れになった

──

 

バルガンの高笑いが収まるまで、ナジャランが『ダイナマイト』を手に持ちショックでひれ伏したような状態が続いた

涙を流し、力がまるで湧いてこない…。自分が生きているのは気まぐれと運だけだと痛感する。

 

その様子をただ無感情に見下ろしている存在がいる、ゴリガンだ

彼女との記憶も確かにあるが、まるで別人の出来事を共有したような感覚だ。感慨もなにもあったものではない

だがこうして自分黒のセプターたちを出し抜き『レジェンド』にまで到達した存在にしては余りにも無様だ。思わず口が開いた

「どうした?親の仇を前にして竦んだか?」

 

ナジャランはハっとして思わず見上げた

「ゴリガン…私は」

 

「以前『ライフジェム』で自爆したゴブリンに心を痛めた小娘が今度は自爆をするまでに成長したのは褒めてやる、しかしこれでは」

「こんなの強さなんかじゃない!私はこんな強さなんか欲しくなかった…みんなと馬鹿みたいに笑いたかった、自爆なんかしたくなかった…死にたくなかった…ただゴリガンと、旅を続けたかった…」

 

「甘ったれるな。目の前にいるのは父の仇だぞ、無念の一つも果たさんでどうする。そのダイナマイトは飾りか?」

落ち着いた挑発がナジャランの耳を襲った

 

「おいゴリガン、あまり刺激してやるな。ふふ…まぁ人間のこうした挫折した姿を見れなくなるのはなごり惜しいが、もう終わりだな」

 

「愉悦に浸っている所失礼」

バルガン達の背後から声が聞こえた。振り向くとずんぐりむっくりとしたブヨブヨした輪郭の男が姿を現した

「な、なんだ貴様!?」「その鎧、『ゼラチンアーマー』か!?」

 

ゴリガンの問いに正解、とだけ彼は答えるとカードを構えた

「反骨する紅蓮のしもべよ!くろがねの檻をつきやぶれ!『イフリート』!」

手元に燃え盛る重厚なデザインのランタンが姿を現す。その中から「早く出せええ!!」と唸る男の声が響いた

 

瞬時に塔から追尾レーザーが放たれるがそのほとんどがランタンに吸収、ヒビが入る程度だった

「うおおおお!!」そのの中から歓喜の声がヒビから生じる

 

 

突如としてナジャランの目に閃光と爆発が覆う

「きゃあ!?な…なに!?」

 

未だに燃える球体に目を隠していると隣からべしゃっとゼラチンに包まれた塊が降ってきた

「ひぃ!?」

悲鳴を上げるナジャランをよそに塊が立ち上がり彼女を見据えた

 

「やはりこの鎧は対爆も優秀だな…やぁナジャラン、ゲホ…私だよ」

ゼラチンは熱で溶けて悪霊ラルバもかくや、といわんばかりのグロテスクな肉の塊に見えた

「だ…ダレー!?」

「タレ!ダレじゃなくてタレです!それより走りますよ!」

 

ドロドロに溶けた鎧から二つのカードが飛び出た、高速移動スペル『ヘイスト』だ

困惑しながらもナジャランは腰にダイナマイトを当てるとそこからリングがベルトに巻かれる。魔法で出来たアイテムは携帯する事なぞ造作もない

二人は駆け足で階段を昇っていった

 

今のナジャランの本心は正直な所動きたくはなかった、ただあの場から逃げたかっただけだ

「あの…タレさん、ありがとうござ!?」走りながら気が付いた、ボロボロと崩れるゼラチンアーマーから出血している肉体が露わになっていく

 

「正直、もう動きたくはありませんね…骨もいくつかやってるかも…ただ、これはどうしても伝えたい事があります」

どうやってここに着いたのかという質問をしたかったが、切迫した状況だ…それどころではない。傾聴する様に走りながら彼の話を聞くことにした

 

「いいですか?まずこの塔はバルテアスと依代と呼ばれた伝説のクリーチャーの融合体です。

名前は把握していませんが強力なのは間違いないと思います。『アンサモン』も先ほど試しに使おうとしましたが純粋なクリーチャーではないため反応がない、こいつは倒すよりも(バシィッ)えごふっ!?」

 

「ご…ごめんなさいあまりに突拍子のない話だから錯乱したと思って…」

 

ナジャランのビンタを浴びたがタレは平静を保っていた。そうだよね…という納得があったからだ

 

「無理はありませんが信憑性のある情報です…それと、速度が変わらないとはいえ、走るときのフォームを見るに精神に揺らぎが見えます。さしでがましい話ですが何かありましたか?」

 

ナジャランはこれまでの経緯とゴリガンに自分の父が殺された原因の一つという話を暗い面持ちで告白した…

 

貴女は被害に遭ってないから言えるんだ!目の前で身内を殺した奴を!殺すなと言われて!キミは何も感じないのか!?

まさかその激昂した問いがこうして還ってくるとは微塵も思わなかった。

 

「タレさん以上に突拍子の無い話なのは自覚しています。ビンタ、どうですか?」

「いえ」

「あとで…ルーフさんに謝らないと…あの話を聞いたとき、本当にどうにかなりそうだった。私は父ちゃんの仇も、無念も果たせず…ただ綺麗ごとを吐いた泣きじゃくる子供に過ぎないんだって…!」喋ってる最中にポロポロとナジャランの瞼から雨粒の様に涙があふれてくる。

 

「そうですか…しかし以外ですね、あの次期賢者と名高いバノッツ様の最後がそのような話だったとは」

「う…うん?タレさん、誰かと勘違いしてません?」

 

話が噛み合わないのか彼は怪訝そうにナジャランに話す

 

「ご存知ないのですか…?貴女の父、バノッツはセプターとしての才覚や戦闘技術に頭脳も他人を惹きつけるカリスマ性もあったとホロビッツ様の口から聞いております。存命ならば私に代わって議長の席についてもおかしくないとも」

 

 

「えええええ!!!???あの父ちゃんが!?お風呂だって3日に1回入るような、日に2食が限界で満足に寝泊り出来ないようなホームレス丸出しな父ちゃんが!?」

「後年のホロビッツ様が弟子を取るとはそういう事です、私が知る中でも高名なセプターが何百人と師事を志願しましたが誰一人として叶いませんでした。あのハーシグ元議員も…まぁそれはどうでもいいですね」

 

「ホロビッツ先生の授業って路地裏にあるインチキ格闘技塾みたいなもんかと思ってましたよ『ドラゴンの様に強くなり、みるみる金持ちになる力があなたに!』的な…だからみんな来ないもんかと」

 

「人がマジメに話してる時に変な例えやめません!?」

すっかりナジャランの涙は引き、騒がしい人だとタレはひとりごちた

 

「そうだとしたら父ちゃんは何で破門になったんですか?ホロビッツ様はグータラが過ぎたからってそれ以上言わなかったし」

「…生き方に相違があり過ぎました、思想と言ってもいい。トラブルを避けるために特定の地位や風土を除いて大概のセプターは自分は普通の人間だと己を隠して人間社会に溶け込もうと努力します、かのサルバトール様ですら医者として働いてましたしね」

 

脇腹の痛みが無くなるくらいタレに熱が入る

「しかし彼は違いました…俺はセプターなんだと、セプターはあなた達が思ってるより怖くない存在なのだと。そう理解して欲しいと活動した人間だったのです」

 

言われてみれば確かにそうだ、借金取りにだって父ちゃんはセプターだって周知されてたし宿屋に行く時だって開口一番にセプターだけど泊めてもらっていいか?と問いかけたりもした

 

「エンダネス島にその考えは前代未聞でした。無理に反発している人と繋がるなんて愚行であると…」

忌憚のない発言にナジャランは顔をしかめるが反論は出来ない。語っている彼の残念そうな顔が見えたからだ。

 

「折り悪くサルバトール様が惨死した数ヶ月後にその考えを表明したのです。無論大喧嘩が始まりバノッツ殿はナイト以外のカードを師に返却し、女性と一緒に流浪の旅に出た…と」

 

その女性が誰なのか…タレの口から語るまでもない

「お母ちゃん…」

 

「誰からも理解してもらえず、カードの編成もロクに使えず最後は自爆とは…さぞ無念だったでしょうね…」

「そんな事はない!」

 

思わず反発するナジャラン

「少なくとも理解は少しはされていた!父ちゃんはゴロツキ達の不当な立ち退きに頑なに立ち向かったから守れた家もいくつもあったしそれに対してカードの力を決して使わなかった!最後の時だって笑って死地に向かって…」

 

何故あの時、父ちゃんは笑ったんだろ?

 

 

「そこまでだ」

 

もうすぐ頂上だというのに横から聞きたくない声が聞こえた

 

「ベルカイル…!」

最初二人は彼がドラゴンゾンビに乗ってきたと勘違いしたがその威圧感から桁違いの存在だと勘づいた

 

「大した変貌を遂げましたね…そのダークマスター、インチキ道場にでも通いましたか?」

「減らず口もそれまでだ、盗人よ」

 

タレは切り札を取り出すが既に遅かった、カードを持った暗黒司祭の右腕が伸びる

『ライフフォース!!』

 

「な!?」

タレの身体が急に軽くなった、同時に魔力が体中に満ちる感覚が伝わる。しかし歓迎される状態ではないのは理解した

 

ライフフォースの呪いはクリーチャーもアイテムも魔力消費を行わずに出来るがスペルカードをしよう出来ない大味な代物だ。解除するには別途でスペルカードを強制的に生贄にしなければならない

 

「本来なら自分の補助に使うスペルを妨害カードとして扱うなんて…!」

ベルカイルのセプターとしての力量に歯噛みするナジャランはタレに掛けられた呪いを解除するべくカードを構える

 

「そうした綻びが脆弱を産むのだ」

ナジャランの足元が波打つ。地形を貫通する能力を持ったバイク型クリーチャー『ナイトメア』が彼女に食らいつこうとしている。

 

「ごめん、でもこれで繋ぐ!勝利に向かって!『エイドロン』!!」

小型の毛玉のような怪物、エイドロンが足元に召喚され四輪バイクの勢いを殺す。ナジャランはその隙をついて上に跨った

 

振り払わんとフルスピードで蛇行運転しながら走るナイトメア。足元にはタワーシールドで出来た路面故に貫通できない

 

「わあああああ!!」

 

壁どころか天井まで伝い、ナジャランは螺旋階段を昇りきった

 

そこには、台座と魔王像…そして光輝くカード、「カルドセプト…!!」

それが見えた

 

赤ん坊でもその存在を見れば異質さに、威光に気が付くだろう

全てのセプターはこれと会うために生まれてきたといっても過言ではない

そうした感動を打ち破るように足元で何かが響く

 

突然バキバキと音を立ててバイクは変形する。クリーチャー交換だ

 

ナジャランは咄嗟に離れた

ベルカイルにとって最高の騎士が目の前に召喚された

 

「デュラハン…!」

ナジャランは息を呑んだ

あるいは万全の魔力ならば、あるいはナイトがいたならば

 

そんな事ばかり脳裏に浮かぶ

だが諦めるという利口な頭は持ち合わせてはいない

 

温存していた最後の切り札の出番だ

 

「ケルベロス!」ビスティームでキギに託されたカードが解放される。そしてもう一枚カードを、アイテムカードを出す瞬間をベルカイルは見逃さなかった

 

2回攻撃という特異な存在だがケルベロスにも弱点はある

先制が出来るような機動力が無いことだ

 

「ファルコンソードを装着!」デュラハンのランスは瞬時に名刀に変化した

 

あと1メートルもあれば雲耀の速さの如く切りつけられる

その確信が驚きに変わった

 

「さすがの用意周到さね、だから私が勝つ!ザ・ハンド」双頭のケルベロスの喉から異形の腕が2本生える。瞬時にそれらは切り裂かれたがまるでもやの様に再生し、ファルコンソードを握りしめる

 

「…!!」

ダークマスターの巨腕がタレを吹き飛ばし、同じく塔頂したベルカイルは押し黙った

それはケルベロスの斬撃でデュラハンが斬られたショックからではない

 

「そのまま、いっけーっっ!」

 

ナジャランが魔犬の背に乗りカルドセプトに手を伸ばす事に声すら出せないからではない

「…ふっふふ」

今までの事を悔い改め、手を伸ばすナジャランを応援するためではない

 

 

瞬間紫電がレジェンドから伸びた

 

「うげ!?げげげげげげえっげげげげげげげgっげげえっげえggg」

殺人クラゲ『ライオンメイン』に刺されたようなあり得ない声で叫び声があがる

それはベルカイルにとって己の安息を告げるセレナーデだった

 

「ふっ…くはははははっあはははははは」

 

日食だ。太陽は月に覆われ新たな神と時代が幕を開ける

 

「人類よ!あまねく地上の生命よ!神々よ!カルドラよ!」ベルカイルは感極まり号泣した

「これから出でたるは原初のセプターにしてカルドセプトの真理を識るもの、そして新しき究極絶対神として生まれ変わるもの」

 

ナジャランはそのまま地面に激突し、苦痛と恐怖のままその命を終えた

 

「その名を讃える権利すら無いと識れ、千年の時を怨嗟の声で世界を満たせ、我が神!バルテアスの名を!」

両腕を広げ、恍惚した表情だった




「ん…あれ…?」

白い空間、白いテーブル、その上にはオルゴールと紅茶、アルバムが置かれている
影すらない白い、ただただ白い空間で、ナジャランは目を覚す
「ここは…どこ?」
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