カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第18話 『ホーリーワード』

何時間寝ていたか、あるいは一瞬だけまどろんでいたのか…

固くて白い床でナジャランは腰に床をつけたまま起き上がった

「あ、あれ?何が起こったの?確かケルベロスに乗ってカルドセプトを…」

 

「おはようナジャラン」

右から落ち着いた女性の声が聞こえ、その方向を見る

白くて2人用のラウンドテーブルと白い椅子

 

そして、蠱惑的な美女がアルバムを見ていた

 

年齢は30歳前後という印象だ、褐色の肌にウェーブの掛かった黒い長髪、サリーのように布を纏った服を着ていて。目は寝ているように閉じているが盲目というわけではないようだ。ページをめくって文字やイラストを眺めている

 

ナジャランは立ち上がり、彼女に近づく

「あのすいません、ここは…!?」思わず息を呑んだ

よく見たらとんでもないバストだ

デカい、あまりにもデカい、大玉スイカを2つ取り付けた様な爆乳がサリーからハミ出ている

よく見たらノーメイクなのにキメ細かい肌だ。見れば見るほど美人だと解る。(見た事ないけど男女問わず篭絡するってクリーチャー『サキュバス』の類いじゃないわよね…?)…失礼な考えをしながらナジャランは深呼吸して目の前の淑女に質問した

 

「ここはいったい」

「その前に、お茶でもどう?」彼女が指を鳴らすと瞬時に白い椅子と紅茶が現れオルゴールから曲が流れた。どこか懐かしい、落ち着く旋律

 

「さやけき夜にって曲よ?気に入ってるの」「本当にいい曲…何時間も聴きながらブックの編集とか出来そう…じゃなくって!お願いします、ここがどこなのか教えください」

 

焦燥感が湧いてくる。何か引っかかる、重大な事をさっきから自分はぽっかりと忘れているという自覚だけはある

「じゃあ椅子に座って」「!?」

 

本当に、自分は何をしているのしているのか…彼女の指示通り椅子に座っている。意識があるのに見当違いの動きをする…まるで明晰夢でもみているようだ。ふと彼女の持っているアルバムのタイトルに目線がいってしまう

 

『セプター・ナジャランの一生』と書かれている

もしかして、と嫌な予感。嫌な考えだけがタイトルに書かれた女性の頭をよぎった

 

「まずは自己紹介、はじめまして。バルテアスです」

 

声も出ない…反逆神バルテアスがこんな美女?竜眼で見た光景のバルテアスは壮年の老人だったがまるでかけ離れてる。冗談にしても出来が悪い、恐らくは黒のセプターの幹部か何かだ。椅子から立ち上がり腰にあるカードをナジャランは構えた

「カードよ!この手に」

「やめて、話をききなさい」

 

また自分が椅子に座っている事に気が付くナジャラン、手には湯気が出ている紅茶のカップがあってオルゴールの曲が一周している

 

時間を止める『アワーグラス』でも使ったというのか?

「それは違うわ、あと貴女はカードは使いたくても使えない」

心まで読まれている…

 

「改めまして、バルテアスよ。正確には1000年に渡る苦痛の末にバルテアスから分裂した良心?のような存在かしら」

もっとゾンビみたいな形状のほうがよかった?と悪戯な笑みを浮かべる美女にまた言葉を失うナジャラン

 

「ここは私と融合したクリーチャー『レジェンド』の魂の中、私の放ったスペル『ペイン』で絶命した貴女が迷い込んだみたい」

 

思い出したくない記憶が蘇ってきた…

全身の皮膚や臓器が針に変わったような…果てがないような激痛に意識が飛び、心臓が止まるその瞬間まで恐怖が頭の中でいっぱいだった

本来ならもっと取り乱すのだがその様な動揺は全くない

その時初めて自分は死んだ存在なんだと、悲しい実感が湧いてきた

 

「これから私はどうなるの…?」

「生き返らせてあげるわよ?当然私に協力するならね?」

 

目の前に元凶がいるのに、世界を滅ぼす存在が目の前にいるのに、ナジャランは嫌気が差すくらい冷静だった。故にやるべき事は決まっている

なんとも情けない事だがこれが敗北して死んだ自分にとって最後の仕事、使命…あるいは義務なのだろう。

せめて交渉、いや…歎願をするべきなのだと、自分が生き返るなんてどうでもいい!皆が生きていられればそれで!

 

「ねぇバルテアス…お願いがあるの…」

「なに?オッパイ揉みたいとか?」

「そうじゃない!!!」

 

うぉ…重っ

柔らか…なんだこれ…

 

「いや~凄か…違う!!!!」

思い切りテーブルを叩き我に返るナジャラン

 

「その…人類を…絶滅するのはやめて欲しいの」

「うん、いいよ。というか元々そうする予定だったし…特にセプターはね」

「虫のいい話だと思ってる、でもみんな必死になって…はい?」

 

だから、私が復活しても人類はそのままだってとバルテアスの拍子抜けした回答が出てきた

「え…!?えぇ!?」

「私の目的は、カルドセプトの極限までの弱体化…すなわち【運命】を消し去って真の自由を得ることよ。そのためにも貴女たちセプターの力が」

 

「さっきから何を言ってるのよ!?意味が解らないわ!【運命】!?そんなものの為にカルドラ様に反逆したの!?」

バルテアスは溜息をついた。それとリンクする様に胸元がゆさと揺れる

 

「そこからかぁ…うん。じゃあイチから話すわね…とりあえず私が反逆神になった理由からかな?まず私が何の神だったか、セプターなら当然知ってるわよね?」

「は…反逆神になる前…?し…知ってるわよ!ホロビッツ先生の授業で、た…確か暗黒絶対神?だかなんだか」

「ウワーッ!このヤロウ酷い知ったかぶりしてる!いきなりカルドラの敵にならないでちょうだい」

 

彼女は咳払いした後「三極神の一柱、抑制神よ。」と呟いた

世界を構築する四属の神々より上の存在がいる

破壊神ガイデス、創造神アティス、そしてその二柱を取り持つ抑制の神バルテアス

彼ら、あるいは彼女らは絶対神カルドラの指示に忠実に従い世界の流れを構築していった

 

「ナジャラン、貴女の事だからアティスだけでいいじゃん!とか思ってない?」

ギクっと震えるナジャラン、反論しようにも言葉が浮かばない、ホロビッツ先生にも似たような質問をされた気がする

 

「創造と秩序の神なんて持て囃された存在だけど極端なのよ」

いつの間にかナジャランと額をつんと指の衝撃が伝わった

 

その瞬間、ベルカイルの過去が飛び込んできた。戦争で死んだ両親、飢餓で苦しんだ苦しみ…モルダビア教とミランダという存在の救い。そして村人の裏切り…

彼の絶望を共有し、テーブルに両肘をつき頭を支える。魂になってから初めて涙が流れた

 

「これはアティスの差し金よ。これから数十年のある日…村長が病気で死んだあと若者たちが彼の手記を見て考えを改め、セプター達と共存を目指す町を作るというシナリオ…悪くないけど犠牲が増えすぎよ。胸糞悪いし…こんな状況を回避するのが私の役割。例えば…ほんの少しだけデュミナスに良心を持たせたりとか。それ以上の答えをガイデスが出すかもしれないしより極端な意見が出るかもしれない。だからアティスやガイデスと会議をして結論を出すの」

 

「そんな些細な事ばかり?もっとデカイ天罰とかお恵みとか出したりしないの?」

「おバカ、そうなったら人間は増長するばかりで成長しないじゃない、ぶっちゃけ立派になって欲しいのよ。神の期待に応えなさい」

 

語っている彼女は何処か懐かしむ様子であり落ち着いていた。世界を壊す事を望んでいた神とは思えないくらいに

「あの頃は満たされていたわ…戦争も支配も、虐殺も飢餓もない。安らかな生と穏やかな死の輪廻を享受した世界…神を含めた全ての魂は自由で、己の意思を持って答えを出して前に進んでいると。そう信じて疑わなかった」

 

おもむろにバルテアスはテーブルにカードを並べた

【この世界には、神にも抗えない力が存在する…】

「なんだと思う?ナジャラン、時間でもないし、終末の死でもない」

 

【それはカルドラがこの世界を生み出す前より存在していた…】

「まさに世界の…いいえ宇宙の原則、でも本当に些細な話よ」

 

【…その力とは「不確定」。極小の世界では全ての事象は予測不能…】

「貴女は道を歩く時地中の砂利が見える?漂う埃や塵が見える?それが原因で転んだり咳が出たりするのにね」

 

【究極的には運命を予知することは不可能であった…】

「意外でしょ?でもそれは不完全であるからこそ私たちが必要だった。いえ、そう思わされていた」

 

【しかしカルドセプトは、その作り手であるカルドラをも超え…】

「私たちの行動や思考を超越した存在…神の観測すら無意味に変えた異形の存在…運命」

 

【ついには、宇宙の原則「不確定」をもねじまげることを可能にした。】

「そう、カルドラよりカルドセプトの力が…「確定する力」が神を超越した存在になった。という事よ。」

ナジャランは急に手を両手で握られた、バルテアスの手だ。ただそれは

「美は醜に」「え…わぁ!!!????」

肉体が皺くちゃになり、豊満な身体は枯れた果実の様に歪み、身体のあちこちが病気でコブやイボで出来た老女のバルテアスだった

 

思わず椅子から転げ落ちるが追撃するかの様に老女が、いや…さらに体中の水分が抜ける抜けて白骨死体になって寄りかかってきた

「生は死に」骸骨から声が聞こえた

「ぎゃあっ!!」

そう語り掛けた途端骸骨は爆発して灰になる

「有は無に」

後に残るのはテーブルとナジャラン、それと舞い散る灰のみ

 

カードがヒラヒラと舞い落ちた、『リーンカーネーション』だ

灰が纏わりついて手形の様な紋様が現れ、そこから勢いよくリーンカーネーションを通じてバルテアスが出現する。さながらクリーチャーの様に

 

「こんなふざけた、神を超えた現象なんか存在するのが間違っているのよ。そもそも未来が決まっていたら私が、神が存在する意味があるのか…?私たちの選択はなんなのか」

 

この神の苦悶を垣間見えた気がした

今まで自分が選択していた事が決まりきったことだったなんて考えもしなかった

 

「そんな事実は受け入れられない、世界にカルドセプト…いいえ【運命】なんて不要だわ。混沌でもいい。これからは神々と人間の時代を築くべきだと。そう思った瞬間、私はその本、カルドセプトを手にした」

 

「運命すら見通す究極絶対神カルドラを倒し、新たな世界を創造した後…私はカルドセプトを封印し他の神々と共に協力し統治する…人類は滅びの宿命を逃れ。真の永遠と自由を享受するの」

恍惚とした顔をするバルテアス、そこには理想に燃える狂喜が輝いていた

 

「でもカルドラ様ってリュエードに不可侵の誓いをしたとはいえ滅茶苦茶強いわけでしょ…?どうしたらそんな」

ナジャランは情報を聞き出してる意識はない、馬鹿な話だが打ち解けているとみていいだろう

 

「知った所でもう手遅れだけどね、かつての理にして神々すら抗えない『不確定』でこの世を満たすのよ」

「不確定…?いやバルテアス、聞きなれない言葉なんだけど不確定ってなに?」

「ん~…言い換えれば」

 

【可能性】ね

私はセプターの【可能性の一つ】に賭けるわけよ

 

「可能性…?そんなもの温泉みたいに湧き出るわけでもないのにどうやって…」

「あら?記録を読んだら未来視が出来る賢者の予知をハズしたそうじゃない、アレの原因よ」

未来視を外した原因…?それは確かグルベル様にヒジキを混ぜたお茶を提供した事で…原因は自分のおっちょこちょいでもあるけど何か見落として…そうだよ、カルドセプトが作った存在ではない彼が原因で未来が少しだけ揺らいだと

「ゴリガン…」ナジャランのその呟きは100%の正解だった

 

「大正解~♡ご褒美におっぱい揉む?」

「そ…それ以上は遠慮しておくわ…」

 

「カルドラの光の剣を受ける前、私が負けた際の保険を用意した保険は3つだったの。神々に殺されないという私の書いた記述、カードを収集してカルドセプトを完成させる人頭杖。そして最後の保険…それが貴女たち、カルドセプトすら予見できない【不確定】よ」

バルテアスは初めて目を開けた、漆黒の眼に星々の様な白い点が広がっている

 

「人頭杖はカルドセプトの記述にない、カルドセプトの輪廻から外れた魂がない唯一の存在…そんな連中が人々に干渉すればどうなるか?僅かながら運命が狂う。運命の狂ったセプターがさらに別の存在に干渉して運命を狂わせる。時には協力したり、争ったり。真っ黒いコーヒーにミルクを混ぜる様に運命が変質される。人も動物もセプターも…すなわち、世界は不確定で満たされる」

 

「まさか…黒のセプターが国々や人と争ってばかりなのは…」

「おかげでリュエード全体に戦火が効率よく広がったわ、運命を滅ぼすには仕方なかったのよ。でもこれで世界は不確定で溢れた」

 

ほら…可視化してあげる

そういうと手のひらに紫の立方体が姿を現した。1~8の数字が目まぐるしく動き回る

「さながらダイス。これこそ不確定よ」

 

「でも可能性に過ぎないんでしょ?…もし負けたらどうするの…?」

ナジャランの問いに反逆神はほくそ笑む…

「私が仮に負けても不確定に塗れたセプターがカルドセプトを完成させて新たな神に変わりはない、そうした僅かな綻びが出来た神が何千何万回と繰り返し出来た時、カルドラを殺そうとするイレギュラーが産まれる」

 

名を付けるなら同じ意思を持った友人…違うわね、同じ存在…ジェミナイ(双子)といった所かしら…バルテアスはそう呟いた

 

一体どれほどのスケールで考えているのか…もはや動揺しないとはいえナジャランは改めてバルテアスに恐怖を感じたいと思った

 

「私はバルテアス…運命と、それを受け入れるような愚者に反逆する神よ」

そして神はナジャランに手を伸ばした

「もうじきカルドセプトが手に入る。そうすれば貴女を『レジェンド』から解放して新しい肉体を用意してあげるわ」

 

バルテアスが指を鳴らすと異形の人間が姿を現した。人の形を保ち顔はナジャランに僅かながら似せている

「神造兵士『ニル=バーナ』…賢者ですら踏み入る事が出来なかった領域である無我の境地を持つ至高の人類。ナジャラン…貴女は【不確定】の力を持ってカルドラを打倒し、怒りも悲しみもない存在として人類を守護し続ける超人として生きるの。この宇宙が滅びるまで永遠にね?」

 

ともに運命を打ち砕きましょうと手に触れる瞬間、足元にカードが落ちている事に両者は気が付いた

バルテアスにとっては取るに足らないカードだったが、それはナジャランにとっては

「エルフのカード…キギ?」

 

かけがえのない存在なのは疑う余地がない

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