カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第19話 セプター

「バルテアス…運命に抗うというあなたの考えは正しいと思う。だからこそ、運命を受け入れるという人達も認めて欲しいの」

ナジャラン反逆の神に視線を合わせずただ俯いて語った。正確には白い床にある『エルフ』のカードを見つめながら…

 

「…ないわね。」

溜息をついてバルテアスはそれを短く返答する

「キギ…?だったかしら?貴女の記憶を探ったけど、ビスティーム遺跡を守護していたエルフの一人でダークマスターを封印していたのよね。まさしく運命に翻弄されたエルフといったところかしら」

 

ナジャランが肯定の意味で頷くと再度ため息を吐いた

「まったくもって愚かな選択としか言いようがないわ。貴重な命まで費やしてオールドウィローを使った封印なんて…ダークマスターの魔力切れが起こるまで放置すればよかったのよ、それを意固地になって」「意固地なんかじゃない!」

 

感情が希薄になった魂の状態でナジャランは声を張り上げた

「エルフたちはビスティームの森を愛していた…其処を守る事を誇りに思っていた、だから命まで投げ出したんだ。滅びの運命を受け入れてまで、託したい命があったんだ」

 

白い空間でナジャランの声だけが残響する

「キギ達だけじゃない、命を賭けて戦ったエルダードラゴン達も、朽ちかけたドラゴンゾンビも…村人に判断を委ねたサルバトール様も…みんな、死ぬ運命が解っていても受け入れて前に進んで行ったんだ」

 

そうして顔を上げてバルテアスを見据える

「みんな運命を乗り越えたり抗ったりも出来たはずよ!でも受け入れた、それも一つの…意思と命の強さだと思うの!」

 

「ただの思考の放棄よ!」「絶対に違う!!」

眉をひそめたバルテアスの発言に間髪入れずナジャランが叫んだ

 

「子供の戯言ね…」そう呟いて、神は再度椅子に腰かけ指を鳴らした

 

バルテアスの両脇から白い霧が出没して中から瀕死の男女が現れた

血だらけのホロビッツとグルベルだ。グルベルは目が虚ろで胸から出血し、腕が折れている

ホロビッツに至ってはもっと酷い、血ダルマで腹が抉れている。臓腑こそ出ていないが致命傷だろう。

 

ナジャランは軽く悲鳴を上げたあと、冷静に二人を見据える。

「あ…あぁ、ナジャランそこにいたのね、バルテアス様が作りあげる世界は私よりも美しいわ…」

口から血の泡を吹きながらグルベルは微笑む

「傍観するカルドラと違って神が干渉し統治する素晴らしき世界、運命なんかに束縛されない、完璧な自由…バルテアス様が全て与えてくれるのよ、それを貴女は」

 

「グルベル様!本当の自由って、誰かに与えられるようなものなんですか!?その程度の価値なんですか?」

ナジャランはなおも否定する。

「私はそうは思いません、自由は自分の力で掴み取るからこそ美しく輝くものだと思います、手放したくないと思うほどに…誰かがくれるものなんかじゃない。私たち自身の意思で!だからこそ愛おしく感じる!何より貴女がそうであったように…正直グルベル様は苦手な人です!ですが誰より輝いていた!それは、自分の意思を貫いたから!誰かに与えられたのではなく!自分の意思で自由を手に入れたから!強い人だったから!」

 

彼女たちの問答を遮るように、瀕死のホロビッツが語り掛ける

「ナ…ナジャランよ、バルテアス様は絶望しかない我ら人類が滅びる運命を打ち砕く救いの神なのだ。かの御方が神の座に着き人類はいずれ全てがニル=バーナと化すのだ、憎しみや悲しみのない心を持ち…不確定の力を持って神々と共に世界を構築する。戦争も死もない絶望とは無縁の世界…それを貴様は」

 

「絶滅が何よ!先生のバカ!!」

怒鳴る様にナジャランが叫ぶ

「命が何より大事っていうのは解る、私に子供がいないけど。これからを生きる仔たちの未来を憂うのも大切だと思う、でも…それでも」

拳を握締め力説するナジャラン…こうなったらもう誰も止められない

 

「自分を失ってまで保ちたい命ってなに!?私たちが怒って悲しむ事がそんなにダメなの!?私たちが欲しい未来はどんな事があっても永続する事なんかじゃない!『あぁ生きててよかった、生まれてきて良かった!』って生き方をする事よ!人類が滅亡するのが絶望なんじゃない!生き抜く事すら放棄することが絶望なのよ」

「「ぐ…が…ググ」」

二人の賢者は唸り声をあげて泥になって溶けていく…クリーチャー『マッドマン』だ

「エミュレートがへたくそね…」

 

ナジャランは白い床に溶け込む泥を眺めながら嘯いた

「ゴリガンは」

急に横下から声が聞こえた。見ると幼いナジャランが砕けたゴリガンの頭部を抱えている。

「ゴリガンの事は…許す?」

またマッドマンだろうか、父が死んだ原因がゴリガンだと言われたあの直後はショックだったが今の彼女は違う

 

「許すわよ、許すに決まってるじゃない…もう一人の父ちゃんを殺すなんて…私には出来ない」

「そうか、その選択をするのがキミなんだね」

 

「何!?何をしたのナジャラン!」

一方でバルテアスは初めて取り乱していた

「何…ってこれもどうせマッドマンか何かでしょ?嫌がらせにしては趣味が悪いわ」

「とぼけないで頂戴!ここは私の空間よ!脆弱な魂の癖にコントロールが効いてないのがいい証拠じゃない!」

バルテアスが怒りカードを構えた

「幻の巨獣よ!目を覚まし騒ぎ!喚け!さやけき夜に!『バンダースナッチ』!」

前脚のない、直立歩行したような巨大な猫が姿を現した、見た事も聞いたこともないクリーチャーだ

 

「何より、その姿が気に食わないわ!なんで中立神の頃だった私をマネしてるの!?もういい!量子レベルまで分解してレジェンドの彼方まで吹き飛びなさい!」

「バルテアス!?貴女何を言って」

ナジャランの疑問を他所にバンダースナッチの口からデスゲイズの様な巨大な眼球が飛び出て光線が放たれる

 

しかしそれはあらぬ方向に曲がり巨獣本体に直撃した

「ヌ゛ャ゛ア゛」と猫のマネをした牛の様な叫びと共に上半身が消え、遠い空間に奇妙な点が爆ぜた

 

「嘘よ…直撃のはず…今のは自爆という現象を確定させた…?」

「ほら、彼が作ったチャンスだ。大切にしなよ」

 

驚愕したバルテアスを無視する様に小さいナジャランがゴリガンの残骸を手渡すと光が勢いよく広がったそして反逆神の方向を見て微笑んだ

 

「バルテアス、正直キミの事は嫌いではなかったよ。最後の戦いだ、僕と対極を意味する『不確定』の輝き…見せてもらうよ」

「待って、待ちなさい!!カルドセプト!!」

 

もうバルテアスも白い空間も暖かい光で見えなくなった

「あ…あ?これは」

 

突然目の前に拳が見えた

「きゃっ!?」拳が顔面を捉え数メートルは飛ぶが痛みも衝撃もまるでない…

この感覚は竜眼に触れた時に近かった。だが誰の記憶だ?疑問に思った矢先その解答は早かった

 

「もう一度言ってみろバノッツ!」

「何度でもいいます!私もサルバトール師匠の様に理想に殉じます!!」

これは父ちゃんの記憶だ、と

 

「世界を救うのはセプターの力ではありません、人間が本来持つ意思の力なんです!」

「力無き者を救済する事こそセプターの本懐!己を律し、正しい事にカードを使う事こそ未来を救うカギだ」

ホロビッツ先生がここまで感情的になるのを見るのは生まれて初めてだ

 

「では力の無い弱者は…強者に巻き付くしか生き方が無いではありませんか!」

自分の右腕が心なしか熱い

「違う!力なき者と手を取り合い共に向かってこそ掴める未来があるはずです!」

「バノッツ…!」

「貴方も薄々解ってるはずだ!人口の増加に技術の発展。そして未知の世界への羨望…近い将来、エンダネス島の方から人間に接触するのは明白!そうなれば無用な争いがあるのは必然です!」

 

「それを貴様が解消しようというのか…同じ弱者の立場になってセプターという存在を理解させようと…無用にカードを使わない恐ろしい存在ではないと…!」

バノッツが頷くと先生は打ちひしがれた様に落ち込んだ

 

「お前を旅に行かせたのは儂の失敗だったか…」

「それは違います。彼女と出会う事で私は運命を知りえました…感謝してもしきれない。そして恩知らずで不出来な弟子で申し訳ありません。今までお世話になりました」

そうしてドアを開くと一人の女性が駆け寄ってきた。身重だ

 

二人はギルマン火山をまるで巡礼者のように降りていく

「あなた、本当に良かったの?私はセプターでもない普通の人間よ?」

「だからこそ、それでいいんだ。俺達が分かり合えるという象徴…そうだ、もし産まれるのが女の子だったらナジャランと名付けていいか?ナーディア」

 

初めて聞く母の名だ

「あら?どうして?」

「お前と同じ『希望』という意味を持たせたい」

 

時が流れた、母ちゃんは私を生んですぐに死に、父ちゃんはお人よしが過ぎて事業に失敗した

悪いやつに騙されて多額の借金までこさえたが不思議と不満は無かった…

 

「これで、キミ達は自由だ。北方の僻地で娼婦にならずに済んだな…えぇと名前は」

「コンスエラ…それより本当にいいのかい?私らの身請けなんか安くないはず。何故そこまで」

ボロ布をまとった美女の問いに父は笑顔で答えた

 

「死んだカミさんに少し雰囲気が似てただけさ。半端に残ったカネを返却するよりはこうして誰かに使ったほうがいい、それより俺が怖くないか?セプターだぞ?」

「知ってるよ、決して暴力を振るわない『腑抜けのバノッツ』だったか…セプターにも色々いるんだね」

 

そう聞くと妙に満足したような顔つきをした

見返りを求めず貧しいながらも頑張る父親が大好きで、誇らしかった

 

もう少しだけ時が流れた

 

突然の爆発と轟音が止み、虫の息になった父の姿があった…体のあちこちが無い…

(あ…あぁ…)

『ダイナマイト』を使ったんだ…向こうには黒のセプターの遺骸が転がっている

 

火の海が街を襲う凄惨な状況で勢いよく一つの人頭杖が飛び起きた

「ぷはぁっ!死ぬかと思ったわ!」

間違いない、ゴリガンだ。息を切らせ、周りを見渡している

 

「それにしてもダイナマイトとは…後先考えない人間の考えるような事よ」

なんというか…知ってるゴリガンとはまるで違う、小者という印象があった

そして父が持っていたあるカードに気が付いた。いやらしい顔を見せ近づいてゆく

 

「おほっ!?これは…稀に見るレアカードではないか?どれどれ、儂が役立ててやる、案ずるなよ?近い将来、娘も貴様の元にィっ!?」

 

最後の力を振り絞りゴリガンの頭を握るバノッツの姿があった。握りしめたカードが光り、父とゴリガンを包み込む

「な…なんだ!?この感覚は!?記憶が…記憶が読まれていく!?」

「ほほ~、お前さんはバルテアス神が作ったアーティファクトなわけか…それも長い年月をかけて…こりゃカルドセプトが完成するのは目に見えてるな」

 

狼狽えるゴリガンだが未だ抵抗を続ける

「自分が何をやっているのか分かっているのか!?これ以上魔力を使えば死ぬのだぞ!?」

「もう助からねぇよ、それにいいこと考えた…お前に俺の魂の一部をくれてやる」

 

その場にいたゴリガンより大きな声でナジャランは叫んだ。

 

「安心しろ、このスペルの性能上、俺の意思も記憶も受け継がない…知識と性格がちょいと変わるだけさ…ただな、カルドセプトが完成した時。嫌がらせをして欲しいだけさ」

「貴様…!何がそんなにおかしい!そうまでしてバルテアス様の計画を阻害出来て嬉しいか!?」

 

「そうじゃねぇよ、俺にとって『希望』を未来に託せたのが嬉しいだけさ。俺の命なんか惜しくねぇ」

「やめろおおおおお」

 

死の運命を受け入れ、父は微笑んだ

「改心せよ」『メズマライズ』

 

そうか、なんてことはなかった

いつもそこにいたんだね、父ちゃん

 

──

1000年に渡る計画は実を結び暗黒の司祭は感極まり泣き始めた

いや、まだだ。モタモタしていたら日食が終わる。

後はレジェンドに備わった魔王像に完成したカルドセプトを捧げるのみではないか…

 

「何をしているベルカイル…」

後ろから声が聞こえる。マスターロッド、バルガンがそこにいた

「貴様…我々がイフリートに襲われているというに呑気に小娘の相手なぞ」

「そういうなバルガン。貴様らの実力を知っているからこそ…そういえばゴリガンが見えぬが、死んだ…か?」

 

ゴリガンはいた。カルドセプトが安置されている祭壇の前に

「おいゴリガン、何をしている?不敬」がりっ「ぞ?」

 

ゴリガンは思い切りカルドセプトを噛みちぎった。そして一枚のカードを飲み込むと創造の書は意味を持たなくなり光を失ってしまう。バルガンもベルカイルもその状況を理解するのに5秒もかかってしまった

 

「ゴリガン…貴様何を」グォオオオオリィイイイイイイギャアアアアアアンンン

ベルカイルは激怒した

激怒したあまり無くなった左腕が復活し

激怒したあまり体温が100度になって肌が熱した鉄の様に赤くなり

激怒したあまり身長が巨漢になり

激怒したあまり風貌がかつての反逆神バルテアスそっくりになった

 

激怒した彼はカードを投げると音速を超えたスピードでゴリガンに直撃した

飲み込んだカードと内臓されていたカードが舞い落ちナジャランに降り注いだ

 

その直後ナジャランの身体が燃え上がり身体を起こした

背中から不死鳥の様な羽が生えた

「フェニックスアムル…?」

ゴリガンが抜いたカードがそれだった

 

今のナジャランは間違いなく死んでいて、不死鳥の力でかりそめの命が繋いでるに過ぎない

そう、ナジャランは今フェニックスアムルと一体化している

 

自然と彼女が浮き上がり創造の書と融合を果たす。再度カルドセプトが姿を現した

ただ一つだけ、形が変わっている

 

「ナジャラン…まさか、貴様自身がカルドセプトに…!?」

「そうよ!私はカルドセプト『ナジャラン』来なさいベルカイル!いいえ、バルテアス!!」

神話の書が今、動き出す




キャラクター紹介
ロスト・バルテアス
自称バルテアスの良心でバルテアスの一部
ナジャランの母親には似ていない

バルテアス・アバター
ゲーム本編のバルテアスと同じ姿になったベルカイル
こうなったのは人間としてのベルカイル本人に備わった力である
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