カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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※この二次創作の内容は単行本6巻以降、未収録のストーリーを含みます。


第2話 さようなら愛するものよ

「ちょっと聞いてよ!!」

なんださっきから…まだ朝じゃないだろ

「セプターの波動を感じたのよ、結構良質のやつが産まれてきた。連れてきて」

断る。食べられてはかなわん

「えーーーっ何もしないっていったじゃん!顔見て名前つけるだけ!ね?名前だって考えてるんだから!」

まったく信用できん!

「候補あるんだから!男だったらヒュンケルかルーフかタレ。どれがいいと思う?女だったらねぇ~…聞いてる?」

こうしてお前の癇癪に何度付き合わされたか…いい加減眠くなってきた。儂は寝るぞダゴン

「あ!寝るのナシだからね!!起きて!!起きなさいったら!!ホロビッッツーー!ホーロービーーーッツ!!」

 

「…先生!!ホロビッツ先生!!」

愛弟子の叫び声でホロビッツは目を覚ました

「そこまで耳が遠くなった覚えはないわい。ナジャ」

よかったーと医者たちに羽交い絞めにされながらホッと一息つくナジャランにホロビッツは苦笑する

「ドクターの皆、ちと席を外して欲しい。長くはかからん」

 

ほどなくして椅子に座るナジャランとチューブをあちこちに繋がれベットで安静してるホロビッツだけになった

 

「聞いたぞナジャよ、完成したカルドセプトを手に入れて神になるそうではないか」

「まだ決まってませんよ…そういう作戦みたいですけど…何か私に言うことはないんですか?」

彼女はさっきまでの勢いが嘘のように俯きながら師匠に質問した

「神になってうまいものばかり創造して責務を忘れるな」「違います…」「作戦前に柔軟体操とブックの編集を入念に」「違います…!」「もっとお前を旅に出せなくて済まなかった?とかか?」

「私がっ!!」

ナジャランは自分ごと否定するように大声を発したが次第にか細い声になって呟いた

「私が…ゴリガンをエンダネス島に入れた事…」

その時のナジャランは小さく、年相応の少女に見えた

 

「自惚れるな、儂でも見抜けなかった事にお前が責任を感じるな」「でも」

「それにな、儂が話を聞いて一番先に疑ったのはギルドマスター…つまりダゴンが裏で糸を引いていると一瞬でも思った事じゃ」

「え…?」信じられない返答にナジャランは耳を疑った

 

ダゴンとホロビッツの関係性はナジャランは知っている

彼女を母体として島を作り、セプターズギルドを完成させ長年連れ添った、いわばナジャランとゴリガンみたいな関係性だ、とナジャランはそう解釈していた

 

「恥をかいたのは儂のほうじゃ。あやつの性格は知っておる…幼稚で、なんでも知っていて。少しでも気に入らないことがあると暴れて怪我人を出す困ったやつで…しかし孤独だった」「先生…」

「私たちは負けたんだ、と同胞のミゴール族相手に相手に最後まで戦ったらしいな…

カードに戻され恐らくもう会えまい。いや…あったところで儂らを覚えているだろうか」

ナジャランはホロビッツのチューブに繋がれた腕を握りしめ、大丈夫ですよ。と頷いた

 

「そうか…そうだな…まさか弟子相手に慰められるとは、それにしてもこの短時間で良い顔になったなナジャ、神になったとき何をするか考えが付いたか」

盲目なのに全て見通したように賢者は微笑んだ

「先生、私」

「お主なりによく考えたことならどんなことがあっても受け入れるわい。」

そこで扉が勢いよく開かれ

「ホロビーーッツ!!」

賢者の最後の腐れ縁、グルベルが姿を現した

「まだ生きてるようでなにより!頼まれたカード!最高級の筆!国宝級の魔道具の数々!全部持ってきたわよ絶世の美女をアゴで使って何様よ!」

「儂の筆は?」「折れた!!」

まったく、魔女とのやりとりにとため息を吐くホロビッツ

「ナジャラン今日はもう休め。明日は決戦じゃ、朝飯は粥程度にしておけよ?」

 

愛弟子がドアを閉め嘘のように静かになった

「ナジャめ、いつの間にか頼りになりおって…そういえばグルベル、神の座につかないのか?少し意外じゃった」

 

「前線に行ってもいいけど、占いだと激戦で私の肌年齢が20年は老けちゃうのよ?信じられる!?20年よ?」

ククク…と重傷の賢者は震えた

「ねぇホロビッツ…貴方死ぬ気なの?」

ピタリ、とその震えが止まる

 

「寿命も近いんじゃよ。少し早まるだけじゃ、それより例の物は?」

「ホロビッツ!よく考えて!それはもう自棄の考」

「例の物じゃグルベル。老人をじらすな!」

賢者の催促に魔女は諦めた様子で長方形のケースを渡した

 

「魔術で貴方のその頼みを聞いた時の私の気持ち、わかる?」

「結局話を聞いてくれるお前は美しいよ。グルベル」

「私、貴方の計画に参加しないからね?」

魔女は踵を返して病室を出ようと扉に向かう

 

「墓標と…この戦没者と行方不明者の名簿が見たいのだけれど、どこにあるか解る?」

「墓標は最後のリヴァイアサンを倒した所に近いとの事だ…名簿なら医療チームを訪ねろ、儂もこれから知るが心の準備が未だ出来てない。量も膨大だしな…個人的な意見だが生存者を探した方が精神的に楽だぞ」

 

「まだ生きてるかもって期待をしたくないだけよ」

賢者たちの会話はそれきりだった

 

早朝5時の朝日が昇る頃、天気は皮肉にも快晴だった、未だ月は見え、鳥は飛びたち今日はいい事がありそうな…そういった日だった

 

廃墟同然のエンダネス島に出発のラッパが響きわたる

 

遠巻きにナジャラン達はホアキンが学生達に別れを告げている所を船上のデッキから見ていた…内容は聞こえないし聞くべきではない、しかし友人がこれから命を掛ける理由くらいは見るべきだと、そう思った

 

一際小さい、眼鏡を掛けた少女がホアキンに泣きついていた「行かないで」と聞こえてくるようだったが彼は抱きしめた後軽いキスをして振り返らず、こちらに向かっていく

 

「あ〜あ、私もあんな恋愛したかったなぁ〜」2杯目のサンドロブスターのパエリアを頬張りながらナジャランは呑気に喋っていた

 

その隣でコーヒーを味わう戦友アルタは内心呆れていた

 

曰く昼はきっと食べられないから午前4時に朝食を済ませて早め?の昼食を楽しんでいるらしい、頼もしい事…アルタは肩をすくめてブロック状の栄養食を頬張った。味は悪くない。探索に向かう時は頼りになるだろう

 

コーヒーを飲み干しナジャランに質問する

 

「それよりこの船、私が操舵なの大丈夫なわけ?あの船動かしてたの学生サン達とホアキンなわけでしょ?」

 

ナジャランはロブスターのハサミの肉を綺麗にほじくりながら返答した

 

「ホアキンなら機関士やるって、

アルタは魔道具の扱いも上手いし度胸も段違いってさ。そうそうガンツにあった?あいつ自分の傭兵団率いてこの船を守るってさ」

 

アルタは息を吐いた後、清潔な布でカップを拭いた

 

「船長は…ヒュンケル卿だっけ?後詰の部隊の救援が間に合って帰って来たらしいじゃん?顔もいいし、悪運強い男は嫌いじゃないよ?」

 

命運を賭けるのは彼らだけではない、ギルド議長タレを含めトップ3名は重傷ながらも船に乗って囮役を買って出たし自分を叱咤してくれたカリン、他にも優秀なセプターがこぞって参加してくれた

 

死にに行くのではない、この世界と生きる為に戦いに赴くのだ

自分達がどれだけやれるかと思案する二人

デッキから突然風が吹いてきた、

ん…あれ?これって

 

途端アルタは探索者としての勘が沸き立つ

探索人の同僚が死ぬ予感、自分の命の危機が解る予感、かつて恋人が死ぬ前日に味わったあの感覚が

 

不思議とナジャランとこうして会話が出来るのはこれきりじゃないか?という気持ちが汗の如く吹き出してきた。恐らくは自分かナジャランか、あるいは近しいものが死ぬ

 

しかし…行かないで欲しいと語った程度で、いや死ぬと解った程度で、止まる覚悟だろうか…?ナジャも、私たちも…

アルタは自分の手を握りしめてナジャランを呼び止めた

 

「ナジャ!その…生きて帰ったら男でも紹介してあげるよ。探索仲間でさ、年離れてるけど料理は美味いんだ」

 

結局、死ぬかもしれないというアルタの予感はその通りになった

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