カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第21話 待ち至り

?年前

「…それにしても、こりゃあどういう事だ」

セバスチャンが弟子入りし、エンダネス島のトップランカ一向は修行と称して旅を続けたある日、焼け落ちた廃村を見つける

 

村の住民、そして駐屯していた騎士団まで全滅していた…

「酷いものだ、一方的過ぎる。恐らくはセプターのせいでしょう…全く、こんな事を続けていたらいつまで経っても偏見や対立が収まらないというのに」

 

「あまり思案していたら考えが拗れますよ。それより生存者をさがさないと」

沈んだタレの肩を叩き、辺りを見回すルーフ…彼は散らばる焼死体を並べ、埋葬の準備をクリーチャーにさせていた

 

「もっとも、金銭目的ではない私怨によるものでしょう…村長と見られる住居から大金が見つかりました。」

「ではそれらの金銭で彼らの慰霊碑を作ろう、せめてもの慰めになるといいのですが」

 

「ビー!ビー!生体反応を確認!ビー!ビー!」

タブレットPC型クリーチャー『コンジャラー』が彼らの会話を妨害するように吉報を告げる

「でかしたコンジャラー、あの高台か」

ヒュンケルは少し離れた小高い丘を見つめた

 

そこもまた戦火の爪痕が消えていない。教会の様な所だった

「全部丸焦げじゃねぇか…生きてる奴がいても、それじゃあ」

 

「うぷっ、師匠たち…ごめんなさい…」

悲惨な光景を想像してしまったセバスチャンはえづいて瓦礫の山にもたれかかった

ふと焼け落ちた聖典のようなものを見つけ、中を拝見する、所々が焼け落ちて見えるのは1ページだけ

 

『生命が産まれるのは光が届かぬ暗き母の中、夜の静寂の様な心を持つことで暗黒神モルダビア様のご加護が』

 

「モルダビア…?この教会にいた神さまなのかな…?」

「ギー!!!ギィイイイイーーーー!!!」

 

風船をこすり合わせたような叫び声が聖典が落ちていた瓦礫から聞こえた

わあ!!と転げ落ちるセバスチャンに3人は直ぐにそこに駆け付け、焼けた材木をどけると大きな泡に包まれた少女が寝そべっている。

 

「ギ…」

泡はパチンと弾けてカードになった…彼女のクリーチャーなのだろう

 

 

「外傷は頭部と背中、それ以外には特に目立った外傷はないわ…乱暴もされてないし呪いも見つからない」

タレのクリーチャー『シェラザード』が入念に調べ上げて出た答えだ

 

「だから…まぁ…」

「この記憶喪失の状態は心身的によるショック…って事だな」

テントの中でヒュンケルは腕を組んで話した

 

「彼女のブックを調べましたが、他にはアイスウォールなど水属性主体のクリーチャーばかり…つまりこの惨状を巻き起こしたのは彼女ではないのでしょう」

ルーフの分析に周囲は安堵したが同時に問題が生じた

 

額に包帯を巻いた少女は絶望にうなだれ、地面を眺めるしかなかった

「いえ…きっと、私は悪いことをしたんです…だからあんな場所に…」

 

「そ…そうとも限りませんよ、きっと貴女を守りたくて閉じ込めたのかも」

粗末な燃え方から人為的なものと推測したルーフは彼女を励ました

 

「キミ…僕らの拠点、エンダネス島に来ないかい?」

「「タレ!?」」

突然の提案にルーフとヒュンケルは同時に叫んだ

 

「聞くが、彼女を放っておけるかい?私にはとても出来ないよ…それにあの泡の様なクリーチャーが必死になって守ったんだ…それだけのマスターであるなら、私はそれを信じる」

「タレ…まったく、仕方がない人だ」

「へへっ!じゃあ面倒はこのヒュンケル様がみるぜ!屋敷も最近改修したしな!」

 

「…なぜ、何故そこまで」

「嫌な世の中だからですよ、だから自分はいいことをしたくなる…そんな所と思ってください」

 

苦笑するタレだが重要な事を忘れていた

「そうそう、名前だ…キミは何と呼べば…」

 

「モルダビア…モルダビアなんてどうでしょうか?」

セバスチャンは挙手して声をあげた

「彼女の本当の名前が見つかるまでの借り名というか…いかがでしょうか?」

 

いい名前だ、よろしくモルダビア

──

「あぁ~!もう!さっきから攻撃よけてばっかじゃん!その上なんも仕掛けてこないジリ貧!こんなんじゃいつまで経っても私を殺せないわよ?」

 

ダゴンは怒鳴りながら目の前の№4カリンに向けて吸盤から出る弾幕を出している

「そこは!これから!解って頂けるか…と!!それより、ひとつ質問をしますわギルドマスター…貴女本当に自分自身をコントロールできませんの?」

 

鮮やかに回避しながら彼女は目の前の怪物のインターフェイスにカリンは問いかけた

「さっきからやってるけど無理!吸盤の斜線一つ動かせないわ。あとこれから解るってどういう…わおっ」

 

ダゴンを周回している飛行艇、真理の探求者号から突如として木が、根が、葉が、そこかしこに生い茂る。

 

『ミスルト』

艦長であり、セプターズギルドの誇る№3、ヒュンケルの隠し玉である

 

「アイアンエンジン、無事起動完了したよ艦長。これで主砲も最大速もあふれ出る魔力で遠慮なく出せる。でも思った以上に機体が持たない、多分」

「1分も出せるかどうか、だろ?抜けたい奴はさっさと脱出しろよ」

 

「バカ言え」

フレーズやニュアンスは違えどそういった暴言が彼を包んだ

 

鼻で笑ったあと伝声管を掴み艦長は叫んだ

「じゃあ派手にやろうぜ諸君!フォーメーション・インフィニティだ!ガイデスの加護を!」

 

「「「ガイデスの加護を!」」」

一番安全な場所を捨ててセプター達は脚を運ばせた

 

「面白いわね…?確かに『ミスルト』ならあの飛行艇の動力に寄生して増幅させる役割を持つわ…。でも同時に私に狙われちゃうリスクくらいは把握してなきゃ詰むわよ?もちろん対策はしてるわね?」

 

吸盤は一斉に空飛ぶ船に狙いを定めた

「やっぱり本体より貴女がコントロールしていたら本当に詰んでましたわ!『カメレオンアーマー』よ!真理の探求者号を守って!」

 

水面から伸びたビルの様な虹色の巨大なプレートがせり上がる。

それはダゴンから放つレーザーをある程度受け止めるが所詮は装備カード。プレート一層程度では全てを受け止めるには無謀な代物「最大レベル5層!!展開!」

 

「私の障壁を逆に利用しようというの!?」

インターフェイスのダゴンは驚いたが悲観ではない、サプライズに僅かに目を輝かせただけだった

 

虹色のビル群が水上を埋め尽くす。レーザーは拡散され、かろうじて直撃は避ける

「これで1ステップ、終着まで残り2ステップ!お覚悟を!」

「いいわね、そういうの!来なさい我が子供たち!」

 

カリン、そして探求者号に触手が伸びる。反射も増幅した障壁も意味をなさない、ミゴール族すら容易に切り裂いた必殺の一撃だ

 

「これはどうするの!?」

「わが師、コーテツの切り札にしてカカ山の覇者!『ソン=ギョウジャ』!」

 

ビル群…もとい巨大な『カメレオンアーマー』の一部から一筋の煙に乗った猿の行者がダゴンの上空を陣取った

 

『ソン=ギョウジャ』は援護型クリーチャー、コーテツは『ワーボア』や『スイコ』といったクリーチャーを使い変幻自在のテクニカルな動きを好んだ

 

だがカリンは違う、今からやることはテクニカルとは一切関係ない。残虐かつ禁じ手に近い

ナジャランとの試合でこの戦術を使っていたら彼女は死んでいただろう

 

「私は『イグニスファツィ』の能力を『ソン=ギョウジャ』に発動させますわ」

能力の模倣、行者の足元が異形の雲になり替わった

 

迎撃のレーザーを受けるも猶も勢いを止めないクリーチャー

「スピードも生命力も無視できないレベルですわよ?」

 

水の王と違い、子供でも引きちぎれそうな細い糸の様な触手が幾重にも取りついた

 

「あっ今ピリっと来たかも」

ダゴンの本体が初めて激痛に咆哮する。動きは完全に鈍った

 

「2ステップ!ラストォ」

カリンは懐に仕舞っていた信号弾を放った

 

真理の探求者は砲撃と旋回を止めて急速に対象に向かっていく

「結局最後は特攻ってわけ!?呆れるわ、例えそうでも悪手よ」

 

ダゴンは口を開け最大の攻撃準備に入った。海を、天を、全てを切り裂く水の奔流

「カメレオンアーマーも意味を成さないわよ?自爆なんてくだらないわ」

 

「誤解しないでくださいませ、そんな事をしたらナジャランに笑われますわ」

カリンは微笑み

「まだ気づきませんこと?ギルドマスター?」

そして水面を指さした

 

プカプカとオモチャの様に浮かぶ何かが見える

ゴブリンですらマトモに戦えない人類が唯一勝てるような最貧弱にして無類の増殖能力を持つ特異なクリーチャー『パウダーイーター』がそこにいた

 

真理の探求者号…その本来の役目を終えた後部格納庫ではセプターや傭兵、学生達がバケツリレーの要領でセバスチャンの召喚したパウダーイーターを運こび、海に落としている

 

「もっとスピードあげろ!取りこぼしたら重さで船が沈むと思え!」

ここではセプターや人間も関係ない、ただ一丸となってクリーチャーを海に落としている

 

突然非常用のライトが点灯してブザーが鳴り響く

「これより水の王ダゴン、もといギルドマスターに一発喰らわせる、衝撃に備えろ」

ヒュンケルの声だ

 

シャッターは勢いよく閉まり加圧される。全員はゴーグルやマスクを投げるように外して腰にある安全帯を壁フックにつけた

 

「艦内に残ったパウダーは全て手札に戻りました!お願いします」

壁の緊急ボタンを合図に機関部のホアキンが

 

至近距離での砲撃…

人類の英知程度で沈むならば王と名乗るのは恥であろう

 

「これで幕引きなのが残念ね」

瞬時にして青白い閃光が水の王の口から放たれた

 

「頼むぜモリー!」「ご安全に!」

船長室にいるのは3名、ヒュンケルとアルタ、そしてモルダビアだ

 

「みんなを守って!水の大精霊!かの名は」

『アンダイン』

数年前、彼女の流した涙を媒介に守護した泡のクリーチャーである

 

泡。泡。泡。

膨大な泡が閃光を飲み込み蒸発させる

 

「う…嘘でしょ!?アンダイン程度に私の一撃が」

「確かにそうかもしれませんわね。しかし、周囲のパウダーイーターが貴女の魔力の籠った水を吸収して、アンダインに供給していたら別の話、そして」

 

その盾は矛になる

「剣を盾に!盾は剣に!想いは刃に!」

格納庫にいるルーフが『チェンジソルブ』のカードを高々と掲げた

 

泡が解け、水流が螺旋を描き直進する。勢いは依然として衰えていない…

蛇の様に長い水で出来た尾、飛び出た木々が角に見え、その姿は矛というより伝説のシンリュウを想起させた

 

仮想敵のバルティス山を吹き飛ばす程の衝撃がダゴンに直撃。突き刺さると王は咆哮する

 

だが、あともう一押し足りない…あと2、3秒で触手があの船を粉々にするのだろう

「やめて」と少女は呟いた

 

「な…なんだこりゃあ!?」

ヒュンケルは驚きの声をあげる

 

『ミスルト』が猛烈な勢いで成長を始めたのだ

船舶は木の根や葉が何倍にも膨れ上がり空間を埋め尽くす

 

エンジンからも膨大な木の根が張り巡らされ、機関部のホアキンや他の学生は外に逃げ出そうとしていた

 

その異常さは真理の探求者号だけではない

水の王ダゴンは異様な程に巨大になった『ミスルト』に飲み込まれた

 

──

ばふんっ

「もう5分経ったわよ、寝坊助さん。それともあと1000年ばかり寝るつもり?」

柔らかい枕の感触が少女の頭を襲う

 

「本当に5分で起こすヤツがいるかグルベル。さっさと放置して我らだけで出かければ良いものを」

「一番そわそわしていた人物がいっても説得力がありませんよホロビッツ」

 

あぁ懐かしい、でも誰だっけ

 

「今日は島でピクニックに行くんでしょダゴン、帰りはブティックに寄って新しい服を買わないと」

「その前に新しく出来たイクシア様の寺参りに行かねば」

「いや食事だろう。私の作ったサンドイッチを木陰で」

 

「サルバトールのは量が多すぎる」「その上味が薄い!お惣菜を買いに行くわよ」

「えぇ…?弟子には好評なんだが…」

 

3人の楽しい声が聞こえる。

猛烈にまた眠くなってきた。

 

「まだ起きないのかい?昨日の夜更かしが効いたのかな?」

「まぁ良い、もう少し寝かせてやるか」

「もう少しだけ」

 

〈今は只、幼げな少女として眠りにつきなさい〉

ちくしょう、地の神セレニアの見せる夢か…でも…最後の光景がこれなら幻でもいいか

 

「夢でも、幻でもないさ。おかえり、ダゴン・エンダネス」

サルバトールの薬草の香りがする手の感触が頭に伝わった

──

「まるで新しい世界が出来たみてぇだ…」

 

遥か上空に機能停止した飛行艇の残骸から脱出したヒュンケル達は驚嘆の声をあげた

世界樹と言わんばかりの巨木の上…飛行艇はまるで小鳥の巣の様になっていた

「今までご苦労さん、怪我人と死亡者はいねぇようだな」

1日も経ってない、木と一体化した戦友を撫でるとヒュンケルはきびすを返した

 

「怪我人なら多数いますよ、気絶者は5名程…それとホアキンくんが奇声を上げてますが」

「落下しねぇ様に見張ってろよ」

 

「それともう一つ、些細な事ですがお弟子さんのモルダビア、少し様子がおかしく」

「無理もねぇだろ、あれだけの規模のアンダインのコントロール…疲れが出るのも無理はねぇよ」

 

「おーーい!ヒュンケル!ルーフ卿!みて欲しいモンがある」

アルタは手を上げて無事なルートに案内した

 

「…こりゃあ」「…」

思わず口を閉じてしまう光景だった

 

世界樹の根本には石化したダゴンが巨木に取り込まれ、触手が辺りの海を覆っているようだ

 

「ここら辺を土で埋め立てれば…出来ちまうか、エンダネス島」

「あまりいい気がしませんね、もう隠しようがありませんよ?」

 

「ウジウジ悩んだって仕方がないさね、それより時間キッカリだ」

 

日食が終わり、太陽の光が差し込んできた

気が付けば風の王の数も激減している

周りからは歓声が沸き起こった

 

ナジャランが勝ったんだ

俺達の勝利だと

 

しかし、ふと目をバルティス山に向けると氷を背中に入れたように冷めた

 

巨大な塔が、おぞましい砲台へと変化していたのだ

「いったい…何が始まるんだい」

 

黒い月は半分ほど、未だに太陽を遮っている




「モリー!モルダビア!どうしたんだい、さっきから顔色が悪いよ」
「セバスチャン…私の名前、思い出した…思い出しちゃった」

ミランダって名前
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