カルドセプト『可能性の1つに』   作:ハガサネ

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第24話 決着

「ナイト…!?ナイトだと!?」

「は、はい!確かにナジャランが自身にナイトと書き込んでます!」

ベルカイルは狼狽した。

 

「バカな!あのカードは我が『デスゲイズ』で記述ごと消滅したんだぞ!」

「それはどうかしら?」

 

ナジャランは彼らの認識が浅はかだとばかりにほくそ笑んだ

「死んだ程度で?記述が消えた程度で?消滅した程度で?それより上の状況があったとしても、全能の書の一遍が本当に無くなるとでも?」

 

『リバイバル』とでも言うのか…?

唸るマスターロッド・バルガンにベルカイルは諭した

「落ち着け、例え記述通り復元したとしてナイトはナイト、この『カレイドスコープ』には蚊ほどにも効かん」

 

足元に輝く最終兵器の砲台は生きているかの様に輝く星、カルドラの居城に狙いを定めた

「魔力の充填まであと1ラウンド、それまでに」

「私の『リバイバル』が完成するまでの1ラウンド、それまでお願い」

 

攻め続けろ!

持ちこたえて!

 

ナジャランはカードを展開し、持てるクリーチャーとアイテムの全てを装備させた

 

バルテアスは指を鳴らしセプター兵器『ニル=バーナ』に命令を下す。数千体いる彼らはお互いの身体を巻き付かせ、一つの群体を形成していった

 

「反吐でブレスが出来そうだな」

エルダードラゴン・ギルマンは歯噛みした

 

その巨大な姿は翼の生えた悪魔そのものであり、より禍々しく邪悪である

 

「恐れ戦慄け!1000年虐げられてきたセプターたちの怒りと絶望!それを形と成した最終兵器『ニル』!これこそ四属を脱し、生き残った人類とセプターを導く最後の王よ!!」

マスターロッドは歓喜に叫んだ

 

感情と制御を司るコアを胸部に埋め込むと憎悪の塊は産声の様に咆哮した

 

「見よ!嘆き怒る哀れな姿を!聴け!永久に叫ぶ嘶きを!!心にある光を食い荒らす闇こそが人の本質!それを具現化したのが」

「違う!!!!」

ナジャランはバルガンの口上を頭から否定した

 

「本質っていうのはそもそも隠れているものでしょう…?ハッキリ見えるものじゃない、暴れたり傷を付けたりなんて、悲しいけどよくある事、でもそうした感情に抗う心だってあるはずなんだ、人の心は闇よ!でもその中で瞬く光こそ、人間の本質なんだわ!」

 

ナジャランはそう叫ぶと最後の一枚を天に掲げた

「メイガスミラー!!!」

上空に対魔の盾が出現した

 

「…!?」

「さっき教えてもらったわ!カルドラ様の光の剣は物理攻撃じゃない、魔術による攻撃なんだって!これならある程度は…」

 

「そうした対策も想定済みだ!」

ニルの両目から光が放たれ『マジックシールド』は半壊した

それだけではない、他のアイテムカードも崩壊していく

 

スペルカード『ラスト』を発動させたのだ。ベルカイルはナイトに装備させるアイテムカードこそが『カレイドスコープ』を破壊せしめる存在だと、そう確信していた

「まさに一挙両得!」とバルガンは下品な笑い声をあげる

 

そして最後の一押し…『アンサモン』が3枚も手元にある

勝利の象徴が今手元にある…その絶対的な安心感が

 

「な…!!!???」

全てが灰となり、散り散りになった

「何が起こった!?『シャッター』を使ったとでも言うのか!?こちらは『バリアー』で守りを固めているのだぞ!?」

 

信じられないという表情でバルガンは叫びベルカイルは灰を見つめた

 

この時は誰も何が起こったのかしら知らなかった、いや…正確にはナジャラン一人にしか気が付かなかった

 

タレが持つ至高でありグルベル師匠に手渡されたカード『サプレッション』を用いて己のカード封印したのである

 

彼女はグライダーに乗る前、タレの召喚したドッペルゲンガーと入れ替える際に言われた言葉がある

『アンサモン』がいらないという意思は受け取りましたが、きっと相手は容赦なくそれを使う気です、ですので私なりのやり方で封じて見せます。と

 

「タレさん…」

ナジャランはそう呟くと『ニル』としのぎを削っているクリーチャーやキギ達を見やる。記入が終わった、そう

 

「ごめん、そしてありがとう。待たせたね」

1ラウンドが過ぎた

 

「…口上はもういらない」

 

おかえり

 

旅騎士(ナイトエラント)!!!』

 

魔法陣から数多の文字と共に騎士が顕現した

そのいで立ちは人間と同じだが白銀の鎧兜に身を包んだ絵本に出てくるような勇者そのものだった

 

「ナイト…エラント!?人間サイズの小型の騎士だと…!?」

「こ…これは!?」

驚いたのは『ナイト』本人に他ならない、『デスゲイズ』の攻撃で肉体も魂も消滅する刹那、主君に別れを告げた瞬間の光景がこれだ。

 

「何があったかは後で説明するわ、今の攻撃対象はあの悪魔!」

兜が赤く発光し、軌跡を描く

 

「…御意、それと我が君」

命令違反をしてしまい、申し訳ありません

 

そう呟いた後、剣を『ニル』構える『ナイトエラント』

振り下ろされる巨大な腕をいなし、額に突き刺す。純粋な技量によるダメージ反射の一撃で僅かな隙が出来た

 

「キギ!」ナジャランの叫びとその動作はほぼ同時だった

 

「ガルーダ様の羽で結わえた一矢、その身に受けろ!!」

閃光の様な光が『ニル』の心臓に突き刺さった

 

勝負は

「私の勝ちだ!」

ベルカイルは咆哮した、『カレイドスコープ』の砲身内部は光に溢れている

 

「一歩遅かったな!!光の剣!投射!!」

 

最早間に合わない、五秒も経たないうちにこの光はカルドラの城を打ち抜くだろう

満身創痍で神々は盾になろうと必死だ

 

だがさらにその目の前には一つの、いや一人のクリーチャーがいた

「ケットシー殿、皆々様、どうか力をお貸しいただきたい」

『ナイトエラント』は手を掲げ、叫んだ

 

仕方ニャイ!そういってケットシーは宝石になってナイトの盾にコアと化して張り付いた

「猫ッコロだけで防げっかよ!!てめぇら続くぞ」

イーミアの号令と共に他のクリーチャーも、キギも、ギルマン達エルダードラゴンも。全ての魂がナイトに吸収、否

 

一体化…合成されていく…

 

「完成…神聖武装騎士(アームドパラディン)!」

ナイトエラントとは違い、背丈はかつてのナイトと同じ巨人と見まごう程の体躯

しかしその鎧は聖騎士の名に相応しく、眩い朝日の様な金色の色そのものだった

 

ケットシー・コア展開!!

そう叫ぶと光の盾が展開され、『カレイドスコープ』の光が吸収されていく

 

星すら砕く一撃がみるみる内に吸い込まれていく

「ヒイイ!?う…嘘だ!!カルドラの力だぞ…!!メイガスミラーでもある程度防げる程度なのに」

 

バルガンは恐怖に動揺するがベルカイルの目には絶望を映していない。そこまで感じ取れる余裕はない

 

ただただ、その勢いはナジャランに向かって行く、我が身を引き裂く以上の苦痛だがそれすらものともしない

「この際、背信で構わぬ!カルドセプトを!!」

 

ナジャランはカードを一枚だけ

 

ガシリと 左腕を掴まれる感触がした

「もう遅い!」

 

それを引いて発動させる

 

「「「「チ゛ュウウウ」」」

瞬く間にナジャランの腕はネズミの塊になった。

口には素朴なハーモニカのみ

 

「な…何を!?」

『ラットハンター』

対象を大型ネズミにする呪法アイテム、それをナジャランは自分自身に発動させたのである。

ただのネズミであって、それはナジャラン本体ではない

 

「邪魔だァ!」腕を振りほどくがその反動でネズミたちの肉体は崩壊し、カードに戻る

 

ナジャランは残った右腕を振りかぶり

「し…しまっ」

 

カード越しにベルカイルを殴りつけた

怪力無双の彼の身体は吹き飛び『カレイドスコープ』に直撃する

 

「今よ『ナイト』!いいえ!パラディン!!」

 

一体どれほどの意思が宿っているのか

聖騎士の剣は天にも届く程光り輝き伸びていた

 

それが『カレイドスコープ』に振り下ろされる

ベルカイルは怒りの叫びを張り上げ、傍観していたバルガンは失意と絶望に泣き叫んだ

 

だが何故だろう

カレイドスコープ…いや、レジェンドと融合したバルテアスはその光をみた時、穏やかな気持ちになれた

 

それは永い間漆黒にいた彼が久しぶりに見た光だったからに他ならない

 

「カルドラ…」

───

 

ナジャランは目を覚ますと上空には黒い月と大地を照らす白き太陽の交互が隣り合わせに存在していた

「え…あ…?ここは?」

「気が付いたんですね!ナジャランの姉御!」

 

勝手にナジャランについてきたが今では頼れる仲間である『リビングスピア』と『エイドロン』が歓喜した

 

彼女が回りを見渡すと無数の『ニル=バーナ』の残骸と

「バルテアス…」

反逆神の欠けた巨大な頭部が横たわっていた。まるで大理石の遺跡の一部の様に…

 

「お見事でした、全て終わったんでさァ」

「………あっ!?」

色々な感情が湧き出る中、重大な事に気が付いた

 

ていうか皆は!?ナイトやキギ達や神々は!?

「ご心配には及びません、ギルマンサマは成仏…?っていうんですかい?空に還りましたし、キギ様も森に帰っちまいました。皆様『ナジャラン』によろしく、とだけ伝えてね」

 

もう少しだけ話したかった気もするが…夢のような再開を果たせただけよしとするか。とひとりごちた

 

「神サマたちはナイトのアニk     身体 レストア で」

突然リビングスピアの声が聞こえなくなった

 

それもそのはず

上空には4機程の車輪で浮いたヘリコプターが爆音を出しながら現れたからだ

 

「あれは『チャリオット』!?な…なぜ!?」

 

チャリオットが1騎ランディングすると中から『シャドウアーマー』と『クロスボウ』を装備したセプターが4、5人出てくる

 

飛行船の防衛隊を再編成した急襲部隊だ

「こちらα隊、塔周辺の制圧にかかる。状況だが無数の死体がある」

≪了解だ、死体には触れず生存者の確認を優先せよ、もうじき俺達も合流する≫

 

タブレットPCを思わせる『コンジャラー』を握りしめながら通信するセプター、おそらくヒュンケルの指示だろう

ふとこちらと目が合った

「最重要人物ナジャランを視認!!やった!」

 

その言葉を皮切りに全ての黒きセプター達が詰め寄ってきた

「よくぞご無事で、セプターナジャラン」

「やりとげましたなぁ!」

 

様々な反応を見せながら近寄っていく彼らにナジャランは拒絶する態度を露わにした

「だ…ダメー!!私に触れたらあなたたち神様になっちゃう!!アイムカルドセプト!!アイムカルドセーーープト!!」

手を両手でブンブン振り回して距離を置こうとしている

 

「な…何を言ってるんだ!!??」

「解らん、きっと激戦で錯乱してるに違いない…うわっ」

 

本当の事なんだよ!とセプター達を宥めるリビングスピアや組体操の様にブロックするエイドロンを他所に他のセプター達も降り立つ

 

「パンパパーン!!ララーンラーータンタカッターーン♪」

「どうでもいいけど音程合ってないよ子爵」

「コールマン!!男爵である!ヒバチどの!」

 

彼ら二人は偽装作戦でアロンダと共に船に脱出した遊撃隊員である。

急に島より巨大な木が生えたため、急ぎ赴きガスクラウド3体を『チャリオット』に変化したのだ

 

「つかアロンダの姐御がいない、死んじまったかどうかナジャランに聴かないと」

「問題は無し!!実をいうと吾輩の開発した発信機をこっそり取り付けたのである!距離はええーーと」

 

コールマンが手元にある機械を弄ってると巨大なダチョウのような鳥がソレを嘴でつまみ上げる

「無許可はやめなよ、カネ取るよ?」

「姐さん!!」

 

「その巨鳥は『ロードランナー』…ぬはっ!今後は気を付けるのである…むぅ?もしや後ろにいるお方が?」

「気にしないで欲しい、もう魔力も枯渇しかけて調子が悪い」

 

布にくるまれたタレがシャラザードに膝枕されながらロードランナーの背中で力なく手を振る。

「それより、信じられないな…反対方向からとんでもない来客が来る」

 

その発言を頼りにコールマンがゴーグルを見ると飛び上がった

「ど、どっひゃあ!!竜眼のゼネスである!というか大所帯であるが…あの外套に包まれた集団は…?一体…」

 

動揺も束の間、コールマン以上の悲鳴が響き渡る

「ナジャラン以外の生存者を確認、こ…これは!?」

クロスボウを向けながら隊員は叫んだ

 

そこにはベルカイルが前のめりに倒れた状態だったが、彼の声で目が覚め今にも起き上がりそうだった。

問題はその姿だ

 

バルテアスの魔力は切れ、赤い肉体も焦げた黒髪も燃え尽きたように灰色になり顔面も身体も馬車に引き摺られたようにボロボロだ

ナジャランのパンチが原因ではない、神の魔力に身体が耐えきれず崩壊仕掛けているだけだ

 

不幸にも痛覚は正常であり呼吸をするだけで砕けた骨が悲鳴を上げる

ごくろう、とだけ告げてヒュンケルとルーフが詰め寄る

 

「これが…黒のセプターの首魁…」

「ナジャランの報告とはだいぶ違う人相ですが間違いないでしょう、まだ目が死んでいません」

 

「…ぜ」

「あん?」

か細いベルカイルの声にヒュンケルは反応した

 

「何故解ってくれない、何故理解してくれない…こんな世界は不要なのだと…愛だの希望だの嘯き、何もかも傷つける世界を何故」

「なにを言うかと思えばありきたりでガッカリしたぜ」

 

ヒュンケルがロングソードを振り下ろそうと構える

「どれだけ死んだと思ってそんな発言が出来るか理解しがたいな、もう裁判は無用だ。即刻」

「やめてぇ!!!!!!!!!!」

 

ケープを投げ捨てて少女が駆け、躓いて転倒するようにベルカイルを抱きしめる

「モルダビア!!??何故だ!!?」

 

不可解な名前を聞いて司祭は上を見上げた

 

彼女の頭が太陽を影の様に遮り、表情が見えないが両手で自分の頭を支えてきた

 

「ありえない、まさか…あなた様が暗黒の神、モルダビアさまなのですか…?」

彼女は力なく、渇いた笑い声をあげるとボロボロと涙を流し始めた

 

 

 

ちがうわよお父さんのばか

 

 

「みら…ん…だ…?」

 

額に大きな火傷跡のある少女は彼を抱きしめた、やっぱりお父さんなんだと

姿かたちが変わり果てようと違えるはずもない、その事実がなにより残酷だった

 

あ、あああ、あ

 

彼は泣いた

その声は泣き慣れていない、聞くに耐えない叫び声だった

 

 

暗黒司祭ベルカイルの一生は何一つ成し得ずこうして無駄なものになった

 

 

 

しかし報われたのだ




「…大丈夫ですかミランダ?」
ベルカイルは義娘のすすり泣く声を聞き、急ぎ足で駆け付けた
「ひっく…ひっく…」
落ち着かせようと背中を撫でる…なんと小さな背中だろう、と思いながら目の腫れた彼女を見やる

「お父さん、最近夢を見るの…暖かくて大きな人がぎゅっと私を包んで逃げるんだけど周りの人が怒鳴ってくるの…『お前なんかいなくなればいい!』とか『悪魔のセプターが』とか」
「……」

「暖かい人は私を守って戦ってくれるんだけど次第に冷たくなって周りの声がどんどん声が大きくなるの、私」
「ミランダ」

ねぇお父さん
なぜ神様はおられるというのに争いは絶えないの?
神様は私たちに何を求めているの?

ベルカイルはその言葉を聞いて口元に手をあて思案する
子供たちの前では普段は楽しませたりしようと軽くおどけたりする父の珍しい反応に
彼女は不思議と泣き止んだ

「ミランダ…神のお考えを知ろうなぞ、私達には到底及ばぬ領域です。その質問にはお答えできません」
「うん…」

「ですが、何故争いが起こるのかというのは答えられます。人が望んでいるからです、何か別の力が働いたとしても…全ては人の意思で争いごとが起こっています」

だから争いが嫌いな私もミランダも望んで戦うかもしれません、それはとても恐ろしいことです

「…お父さん、私怖い…私もお父さんも戦って、あの怒鳴り声の一つになっちゃうのが」
「ミランダ、戦いすら出来ずに何もかも奪われる。そういった状況は争いより怖い。どうか声に飲み込まれない様に心を強く持って欲しい」

「でもお父さん、私…こんな力使いたくないよ」
そうして彼女はカードを父に見せた、ボロボロの『アンダイン』のカードが明滅している。
まだ目覚めてないが召喚しただけで村がどうなるか計り知れない

「大丈夫ですよミランダ、村の人たちは皆優しい方々ではありませんか。愛と信頼こそが戦を遠ざけるのです」
そうだ、といくつかカードを取り出した

「いざとなればカードを使いなさい、皆さんもきっと受け入れてくれます。
ほら『ナイトメア』のカードだ、悪い夢を味方に付けてくれるはずだよ」
「ううん、いらないよ。お父さんが近くにいるもん」

仲睦まじく親子は笑った
「それじゃあ、おやすみなさいミランダ。明日は早朝から村長と川の様子を見にいく予定だ」
「起こしてごめんね。お父さんおやすみなさい」

そういって父は部屋を出て行きミランダはランプの灯を消した。油が勿体ない

「もう2日も経ってる…早く止まないかな」

夜の静寂とは無縁の様に、雨音が仕切りに窓を叩いていく
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