※露悪的・バイオレンスな表現があります。
バルティス山は自然で出来た存在ではない。女神カルドラの光の剣の余波で生じた歪なクレーターである。
その最下層の奈落…
暗黒司祭ベルカイルは暗闇の静寂の中、空中に浮かぶ玉座に座りに眠りついていた。膨大な魔力は身体を蝕み、並みの人間では半年は安静にならなければいけない程の体力の消耗と苦痛に苛まれていた。しかしそれがどうした?
バルテアス様がカルドセプトを手にするその一瞬まで自分は油断をしない、肉体も魂も擦り減らしてもまだ足りない
執念が、怨恨が、絶望が、ベルカイルを支えているのだ。
彼は戦災孤児だった。目の前で略奪を行う兵士に両親を殺され、餓死寸前になるまで逃げ惑った彼を迎え入れた所は清貧な孤児院だった
そこは地方にまつわる神を信仰している、小さな教会だった。信仰はベルカイルにとって救いとなり、やがて敬虔な神父を目指す様になる
母譲りの金髪に色白な肌、やや痩せた印象だが人当たりも良く、将来は有望なモルダビア教の神父になると期待されていた
モルダビアは夜と静寂の神
究極神カルドラより前に産まれたとされる神で、真偽はともかくその宗派は穏やかなものでベルカイルもそれにならった
国に近いとはいえ、村の外れにある小高い丘にある小さな教会を任されたが不満を一切漏らさず、地道に己の仕事をこなし、時には力仕事や雑用もこなす彼に村人と次第に打ち解けていった。
ある嵐の晩、1人の女性が教会のドアを叩いた。ベルカイルはドアを開けると背中に矢が突き刺さった瀕死の女性と布に包まれた赤子が泣き喚いていた
「ミランダを…娘を頼みます」母親と見られる女性はそう哀願し果てた
雨に打たれ冷えた赤子をぬるま湯に入れようと布をめくると、その隣にはお守りの様にカードが明滅している。この赤子はセプターだ
近年セプター狩りが横行していた。天災の先駆け、悪魔の生まれ変わりと様々な迷信が人々の良心を醜く変えていった…その犠牲者がこの親子なのだ
ベルカイルは母親を丁重に葬るとミランダのカードも埋葬しようと手に取った、途端にカードが身体の一部と同化した様な錯覚を受けた、初めて自分もセプターだったとベルカイルは理解したのだ
それから月日は流れた
この年は凶作で村はなおの事荒れ果て、人々の心は救いを求めた
「夜の静寂の様に穏やかな心を持ちましょう、モルダビア様はきっと我々を見ておられます」村人は祈りを捧げられ、治安はかろうじて救われた
娘のミランダは子供達と元気に駆け回る姿を遠目から見守るベルカイル、人々は弱くセプターもまた同じ…なんの違いがあろうか…
そんな事を考えているうちにミランダは純粋な笑顔でベルカイルの膝にしがみつく。
彼女は私が縫った下手くそな毛糸の人形をいつも片手に持っていた
「お父さん!私ね!この村とお父さんの教会が大好き!特に丘から見る村が綺麗なんだよ」
ある晩、村長が罪を告白してきた。昔、セプターの親子を迫害して追放した事を今さらになって後悔してきた、と
「あの子供も生きていたらベルカイルさんくらいになっているだろう…」暗い顔の村長の肩に手を置き穏やかな表情を崩さなかった
「よくぞ懺悔なさいました、そのものを探し。受け入れましょう」
いつか皆が分かり合える時が来ると信じていた、あの時まで
その日は大雨が何日も降り注ぎ、あちこちで氾濫が起こっていた
高所にある教会に避難する様にと率先して村人を丘へと誘導するミランダ
ふらつく老人の手を取り彼女は懸命に叫ぶ「みんな、早く教会に行きましょう!家はまた建て直せます!」
しかし冷たい泥に脚を捕らわれ、少女の疲労もピークに達していた
ふと地面に振動と何かが急に迫ってくる音が聞こえ村人は震えだす
中年の男が叫ぶ「土石流だ!!」
勢いよく目の前に大量の土砂を巻き込んだ水が溢れてきた
助からないだろう。村人たちは親しいもの同士身体を寄せ合いながら死の刹那に身を任せた
瞬間、何かが勢いよくせり上がる
「アイス・ウォール」ミランダが唱えるとカードが呼応して勢いよく氷壁がダムの様に暴雨の死神を防ぎきった
養父であるベルカイルの言葉を思い出す
いざとなればカードを使いなさい、きっと周りは受け入れてくれます
ミランダは正しい行いをしたと確信しながらも胸中は不安で満ちていた
その不安を打ち砕く様に突如としてミランダの周りは感謝の言葉で埋め尽くされた
「やっぱりお父さんは正しかったんだ」少女は嬉しくて涙をぽろぽろと流した
同時刻、ベルカイルは教会に駆け付けた村長と言い争っていた。「何故バリケードの一つも作らず避難を優先させたのだベルカイル!」「伐採で西の山が崩れています!こんな状況ではいつ土砂崩れがくるか」「村の復旧には金がかかるのじゃぞ!食事も!」
怒る村長を宥めるベルカイルは丘から村の様子を見ている男を目撃した
「今言い争ってる暇はありません失礼します」と軽く村長に会釈し、男に話しかける「そこの旅の方!村は洪水で壊滅的です!危ないですので下がって…」ベルカイルが声をかけるが絶句した
男はカードを手に取り呪詛のように何かを呟いていた。紛れもないセプターである
「おやめなさい!セプターさん」よく見れば無作法に伸びたヒゲが目立つがベルカイルと同じくらいの年で目が血走っていた、彼は一目で追放された子供だとわかった
「やめろだと…!?親父とおふくろはこの村で責め苦に合わせられて家まで燃やされたんだ!その時に受けたケガが原因で二人と野垂れ死んだ!これは正当な復讐だ!!」
「貴方の苦しみは分かります、私の両親も戦争で殺されました!ですから話を聞いてくださ」
ベルカイルの説得も虚しくセプターはクリーチャーカードを取り出す
「シーフ!目の前の野郎を切り刻め!」指がナイフの人を模したカラクリ人形が召喚される
「コーンフォーク!」やむおえないとベルカイルはトウモロコシで出来た戦士のクリーチャーを出した、さらにスピアを装着させるがからくり人形の両指に付けてあるナイフがワイヤーで射出されスピアに絡みつく。シーフのアイテム奪取能力だ
スピアは絡み取られた後シーフの頭部にあるバネ射出ナイフが飛び出しコーンフォークの脳天に突き刺さった
「ベルカイルさん…あ、あんたセプターだったのか、あんたがバケモノだったなんて、そんな」ショックを受けた村長は青ざめた顔つきで神父を指をさす
バケモノ、それは失言だった。少なくとも彼にとっては
「殺す!!30年と少し!この時を待ってたぜクソ爺!!」
シーフが唸ると両肩から二本の槍が突き出た。先ほどのスピアを吸収したとみていいだろう
脚の車輪が回り出し急速にスピードをあげるシーフ、村長はうずくまって身をかがめていた
モルダビア様、私に力を…ふと、ミランダの母親が持っていたカードを思い出した
このカードならあるいは…「駆けろ!!デュラハン!!」
一瞬のうちにシーフはガラクタのように粉砕された。その時まるで勝利の号令のように激しい音を立ててせりあがるアイスウォールの光景を村長は信じられない表情で眺めるしかなかった…
その後、ミランダはベルカイルにもに経緯を報告した彼は村人がセプターを受け入れた事に感激し、自分も実はセプターだったと打ち上け「降伏した彼を受け入れて欲しい」と持ちかけた
「みなさんが悪いとは思いません、ですがこの仕打ちはあまりではありませんか?」
村人は顔を合わせた後、頷き「あぁ、俺達が済まなかった。ところでベルカイルさん。そいつのブック?ってやつはアンタの手元にあるのか?」
「?えぇそれはまぁ、没収しましたが…」
「お父さん!危ない!!」
ミランダの声と自分が棒で殴られるタイミングは一緒だった
雨が終わり、軍隊が来てベルカイルとセプターを縛り上げられた
教会は封鎖され、中からミランダの声が聞こえる
「この者、邪悪なセプターらにつき絞首刑を実行する!異議があるものは!?」
何が起こったかベルカイルは理解できなかった
きっと誤解だ、村人達ならきっと
「死ねっセプターのクズが」男が石を投げるとベルカイルの頭に命中する
それを皮切りに罵倒と共に隣の彼と一緒に石を投げられた
「このッ…クズはどっちだ!呪われろ!!永遠に呪われろぉ!!」
セプターは血と涙を流しながら村人を睨みつける
その様子を見た彼らはやはりセプターは野蛮だと益々怒りを増長させた
曰く私達は騙されただの私達が苦しんでいるのを遠目から笑っていただの、全てを否定される様な罵詈雑言がベルカイルを包んだ、しかしそれは彼にとっては些細な話だ
「せめて隣の彼を助けてあげてください!彼は」ベルカイルの嘆願も虚しくロープがびんと伸びた。
あ…あぁ
自分も間も無くこうなるだろう、しかし自分の生きる意味だけはどうしても守りたかった
「教会にいるミランダはどうするつもりです?あの娘は…皆さんを救おうと懸命に尽くしたんです!せめて追放だけでも」
「やれ」村長はそう命じると村人は松明を教会に近づけた、途端勢いよく炎が燃え広がる。「王国の騎士様が持ってきた油はよく燃えなさるな…まさしく貴方さまの闘気のようですじゃ」村長は揉み手をして兵士長に媚びを売った。
それに気が付いたように何かが入った袋を村長に手渡される。金貨だ
「皆の衆!セプターを3人仕留めた恩賞として王国はお恵みを下さった!これで村はまだ息を吹き返すぞ」
金貨を掲げると村人は歓声が沸き上がる
まるで中から娘が助けを呼ぶ悲鳴をかき消すように…
子供も大人も安堵した表情を浮かべていた。これで平和が訪れると…
ベルカイルは発狂したかのように叫び声をあげ首の骨が自らの体重で折れる音を聞いた