「お父さん!」「お父さん大好き!」「助けてえお父さぁあん!!」
「…!!!!!!」
激痛と悪夢から目を覚ましたベルカイルは玉のような汗が噴き出した
「追撃の手は来なかったのか…?」ベルカイルは虚空を見上げて質問をする。
「ヒヒヒ」応じるように頭上に下品な声が響き渡った
死蟲のデプテラだ、生きた幹部はもう彼しかいない、頭脳戦と生存力に長けた彼の情報は信頼に出来た
「良き夢を見れましたかな暗黒司祭どの?セプターズギルドを焼き払った事を思い浮かべたか…あるいは人間時代の頃でも思い浮かべていたとか?」
そしてミゴール族の中でも特に不快な性格をしなければ戦友と呼べたかもしれない
「…向こうで仲間割れでも起こったのか?一向にセプターどもが来ないようだが」
セプターズギルドからしてみれば完成したカルドセプトを放置するなどあり得ない。必ず簒奪に向かうと考えていたが何一つ奈落付近からセプターの波動を感じなかった
「バルテアス様復活の計画が読まれている。連中は日食が起こる前にカルドセプトを盗み取るつもりだ」
「…想定内だ。しかしそんな事を知った所で満足な物資もないセプターズギルドでは特攻がせいぜいと踏んでいたが、何があった?」
「空飛ぶ船が高速でやってきて死に損なったリヴァイアサンを破壊。そのまま駐留している様子が確認出来た」
「エンダネス島の外部から救援が来たというのか?タイミングよく…それもクリーチャーではなく空中艇だと?」
「セプター能力の無い人間と手を組んだのは少々意外だが大した問題でもあるまい。再度エンダネス島に攻撃を掛けて航行不能にするべきだ」
「それは許可出来ない」「はぁ?」
予想外の返答にデプテラは驚いた
「まず風の王のテスト運用も兼ねての出撃だったが想定外の問題が発生した。帰還時に猛烈な空腹と興奮で大規模な共食いが発生した。鎮圧には成功したが数が相当減っている。計画には支障が無いがあの時の様な規模はしばらく出せない」
ベルカイルは玉座の肘掛けから浮かび上がる文字を読み取りながら詳細を語る。
「もう少しエンダネス島で交戦していたら逆に我々が食われていたかもしれない、ということか…」
風の王の攻撃では死ねず延々としゃぶり尽くされるイメージが頭に飛び込みデプテラは額を抑えた
「…我がミゴール族は未だに健在だが」
「正念場とはいえ死体に鞭を打つべきではない、すでに地上にいたことで肉体が限界を超え帰還後に死んだ戦士が跡を絶たない。ここは回復に専念するが定石」
「デュミナスの魔力回復は?」
「まだ数刻掛かる」クソッっと壁面にツバを吐くデプテラ
デュミナスはセプターの死体を魔力タンクにし人頭杖でコントロールする。いわばセプター兵器ともいえる存在だ。しかし魂のない死体から魔力が出る道理はない…先ほど本拠地の近くまで攻めてきた先発隊と後詰のセプターの死体を加工し増設したタンクとして魔力を回復するしかない。その工程とチューニングには時間が掛かる
「腰抜けが、後悔するぞ」
「なんとでもいえ。少なくともあの船がある限り奇襲はリスクが生じる」
ベルカイルの不可解な言動がデプテラには理解できなかった
「どういうことだ?」思わず質問をするが
「あの戦いの際に地の王であるダークマスターが封殺された」「はぁ!!??」
その解答は耳を疑うものだった
「メテオストームを使ったのはその為だ。本来ならばセプターがどれだけ集おうが四属の王に敵うものかよ」懐から取り出したダークマスターのカードを眺めながらベルカイルは嘯いた
「あそこまで用意された船に最大戦力が乗り込まなければ割にあわない、当然ダークマスターを屠ったセプターもいるはず。向かえば必ず痛手になろう」
苦虫を嚙み潰したようにデプテラは唸る…だが唐突に背筋が伸び複眼が多数ある顔をあげて「ひょうっ」と気色悪い声をあげた
「何か掴んだか?」
驚く事もなくベルカイルは落ち着いた様子だった、いつもの事だからだ
「たった今わかったぞ!確かにセプターズギルドのトップ3人があの船に乗り込むらしい、しかし全員ケガや消耗をしているとのことだ。存分な力を発揮できまい、思うにダークマスターを封じたセプターはそのうちのどれか…そしてもう一つ!あの船の中に脱出とは違う目的の小型艇が内蔵してる専用ドックを見つけた。整備員の出入りも確認済だ。間違いなく存在している」
「…短・中距離の飛行艇があの中で発進、バルティス山を強襲して制圧する算段か…
その大型の空中艇や殆どの人員、その全てが陽動ということになるな」ベルカイルが呟くと「ヒヒヒ」とデプテラは嗤う
「いかにも、別働隊が用意されている。その小型艇が本隊で間違いあるまい。現状(リアルタイム)で仕入れた情報故に報告が遅れたのは許せよ」
まるで直接覗いてきたかの様な物言い、いや覗き込んだのだ…強襲の際に潜り込ませたデプテラの肉体ともいえる寄生虫が船内に潜み情報を盗み聞き、諜報していたのだ
あるいは寄生虫を人間に取り付け、眷属として使役する事が最良ではあるが本体との距離が遠すぎる場合そのような複雑な行動は制限される
蟲達の寿命が尽き、もうこれ以上の情報は手に入らないがこれだけ大掛かりな作戦に変更はあり得ない
「規模は?」
ベルカイルの短い問いに死蟲はいやらしく答える
「サポートタイプのセプターが1人、火属の王のかつての持ち主が1人、最後の1人はあのナジャランだ」
ベルカイルはナジャランの名前を聞いた途端眉をひそめた
「まったく、あれだけ痛めつけてなお我らに立てつくとは…ホロビッツの次に仕留めるべき要注意人物だと情報を共有したが…誰ぞ仕留め損ねたのやら…グヒヒ」
こいつの半身を吹き飛ばした過去があるはずなのだが未だ減らず口が絶えない、ベルカイルは反吐が出るほど優秀な部下に最期の指示を下す
「陽動部隊とはいえ、放置するは愚策、少数の風の王とミゴール族を乗せた兵士…それにデュミナスの調整を間に合わせ次第予想ルートに配置する。デプテラ…飛行船が険しいバルティス山に着陸できるのは不可能だ。麓でしようにもそこは限定的…待ち伏せしろ、精鋭のミゴールをくれてやる」
デプテラはニタリと微笑み「ではこちらは好きにさせていただく!死骸は蟲に食わせもらうぞ」下品な笑い声と共に飛び去った
ベルカイルは顎に手を当てて思案しながら聞こえるように呼び掛ける
「ゴリガン、この状況をどう見る」
そう呟くと玉座の影からナジャランの元相棒である人頭杖ゴリガンが姿を現した
「リヴァイアサンを撃墜したデータから見るに巡航速度がおおよそ把握されました
日が昇る頃に出発さえすれば日食の前に到着すると思われます。超大型クリーチャーがいる事を見越しての砲撃といい強力な予見の持ち主がいるとしか思いません。賢人グルベルが一枚噛んでいるかと」
ベルカイルは顎を撫でながら片目を瞑った
「なるほど…バルカンの様子は?」
「マスター・バルカンはスペルカード『エクリプス』3枚目の発動をされております。前回申し上げました通り、ご希望の日食のスピードは速めるには至りません。バルカン殿に代りお詫び申し上げます」
「そうか、ご苦労」
息をつくベルカイル
厄介な事に向こうは戦慣れをしている。
日食のタイムリミットを読み取り、時間を逆算…セプター達兵員の補給を済ませ十分な休息を取った向こうの士気は高いだろう
こちらはゴリガンを使って情報収集に成功、圧倒的に優位に働いてるつもりが逆に手玉に取られているのでは…?
「手際が良すぎる…まさかこの事をホロビッツかグルベルが予見していて事前に作戦を進めていたのか?それなりの時間が無ければ大型クリーチャーを仕留める砲台を積んだ船舶なぞ…」
「あり得ぬ話ではございません。スペル移動をすれば罠にかかると警戒していたのか機械を使っての移動を主にした2面作戦…油断なりません」
悪寒が走ったと同時にある考えがよぎる
ここまで出来る連中が果たしてこの程度の陽動で済むか…?
あと1手、決定打になるような第3の手段が控えているのではないか?あの空中艇のようにカードの枠を超えた何かが…
「まさか…転送円を?」この気づきが後の彼の明暗を分けたかもしれない…