「情報が漏れていたのは事実ですが問題はあの強さです。もしあのまま先制出来たとしてもあの怪物と接触するのは時間の問題だったかもしれませんね」
「人頭杖ってのがセプター波動を感知するレーダーも兼ねてんだろ?その上判断を下してるって話じゃねぇか。狙うならそいつだろ?」
「それは本人(?)も織り込み済みだと思うね。それとソイツの強さの秘密だけどある仮設を立てようと思うが、聞くかい?」
「それは興味深い話ですがタレさん、もうじき件の人が来ますよ。思った以上に足音が大きいですね」
「ホントにとっておきのお茶用意してるのカリン~」
「当然ですわよ、さぁ…出撃前に語りましょう」
ガチャ
「アナタを含め、この5人でね」
バタン
「ちょっとーーー!?ナジャラン今更逃げるなんて許しませんわよぉおおおっっ」
「イヤーーーっ!!圧迫面接はイヤーーーーーッ面接がそもそもイーーーヤーーーーッ」
「大丈夫なのか…?もう航行してんだぞこの飛行船…」
貴賓室のスペースに円形のテーブルが一台、優雅なチェアーが5つ置かれている
その一つに座っているナジャランの他にセプターズギルドが誇る最上位ランカー、№3のヒュンケル、№2のルーフ、そしてナンバー1にして議長のタレが座っている。
ルーフ以外姿勢が崩れていて自然体という感じだ
さらに友人であり自分に渇を入れてくれたNo.4のカリンが優雅にお茶の飲んでいる。ズビッズビッという音が目立つのは黙っておこう
「貴女にお話しがあります」タレの発言にナジャランは緊張しながら答えた
「ぎゃああ!!助けてカリン!これから怒涛のハラスメント質問ラッシュが来るのよ!きっと趣味を答えても鼻で笑われて『浅くて中身のない趣味ですね(苦笑)』とか言われるにきまってるのよ!!」
「ナジャラン、そんなパワハラ全開の面接なんてこのご時世に存在しませんわ!(場合によります)何度も言いますがこれは面接ではありません。あくまでポジティブな事ですわよ?断じてあの話ではありませんわ」
カリンは呆れながらナジャランの背中を落ち着かせようと撫でた
ゴリガンが裏切りギルドマスターが四属の王ダゴンであり敗北した事は秘匿とされている。この船に乗っていてその事実知っているのはこの部屋にいる5人とゼネスのみ
無理もない話だ、この事が露見されればギルドが混迷を極めナジャランは謀殺されるだろう
僅かな綻びが出ないようにベルカイルの名前すら伏せているのだ
「気にするな」とカリンやホロビッツに励まされてもナジャランを表面上しか知らないセプター達がどう思うかは考えるまでもない
黒のセプター達が急襲し、老体のギルドマスターは激戦を繰り広げ瀕死の重傷を負うが偶然居合わせたナジャランに全てを託して果てた
この件が終わり次第全てを話す事を条件にそのようなカバーストーリーを進めている
「っていう風に話を進めてるけどさぁ!私ポロっと話してないよね!?」
「大丈夫だから!大丈夫だから!!」カリンの撫でる手が加速して心なしかナジャランの背中が熱くなる
「煙が出てますからそこまでですカリン」
タレが強引に話を進める
「この戦いが終わり、貴女が神になった後の話です」
「えぇ…皮算用が過ぎません…?」
「いいじゃないですか、皮算用だって立派なモチベーションですよ?」
明るい口調だがタレは何処か憂いの顔をしていた
「正直なところ、私たちは神の座にはそこまで興味はない、セプターとして切磋琢磨してるうちにランキング1位になったり皆を幸せにしたいと内政に奮闘していたらいつの間にか議長なんて役職についてしまったり…あっ!ごめん!脱線しちゃいましたね」
「相変わらずまどろっこしいぜタレさんよ」
「すまないね、ナジャランさん。私たちの要望は一つ、ミゴール族の殲滅です」
ルーフの発言にナジャランは動きを止めた
「本来なら私とヒュンケルは先発隊と一緒に黒のセプターになぶり殺しにされてました。しかし後詰に来てくれた部隊の必死の救援で一命を取り留めたのです。私たち2人の命を救うために大勢がね…もはや慈悲なぞ無用、神になり次第一息に悪魔の巣窟を」
「あのですね」
ルーフの熱弁にナジャランは手を上げ、そして迷いを振り切る様に一呼吸置いて啖呵を切る「私は、黒のセプターと…ミゴール族と話し合いたい!!」
ブーーーッッ
隣で紅茶を飲んでいたカレンが吹き出してヒュンケルの顔を直撃した
「……ワケを聞かせてくれねぇか?」顔中濡れていても動じずにヒュンケルは質問した。空気の読める男だ
「私、屍蟲のデプテラって言う黒のセプターと戦って…解った事があったんです。彼らは…ミゴール族の居場所が何処にも無いって」
ミゴール族…バルテアスのが創造した半神半魔の異形の人類
敗北した彼らは奈落に追いやられ、バルテアスの周囲でしか生きられない
全ての属性に優位に立つ存在と恐れられたが本質はあらゆる存在に反発される悲しき存在、戦いを通じて解った事を惜しげもなく話した
そう語るナジャランに半信半疑の様子で信じられないといった表情を皆していた。タレ以外は
「存在するだけで周囲から忌み嫌われる苦痛はよく解ってるつもり。だから…だから私は彼らを救いたい!居場所を作ってあげたい!」
「貴女の話は良くわかりました…」ルーフは静かに怒りを込めながら席を立った。全員彼に殺意すら感じる
「私の友人達は黒のセプターに殺され、今も魔力タンクに亡骸を利用されています…恋人や家族もいた。彼らの、そして彼らの想い人の無念を晴らさずに話しあえと…!?」
ナジャランは意に介さず答えた
「私も彼らに酷い目にばかり遭わされました…でもホロビッツ先生は言ってました。世界の最後は人類の醜い戦争だって…憎しみを晴らす為に戦うなんて間違ってる」
「貴女は被害に遭ってないから言えるんだ!目の前で身内を殺した奴を!殺すなと言われて!キミは何も感じないのか!?」
「ルーフさん…私は…そういった正しい憎しみには応えられない…だけど」流れる汗が褐色の肌を伝う
「だけど…それで…他人を殺せと…他人の赤ちゃんや周りを殺せと言われても私には出来ない…それを強制するならルーフさん。貴方とだって戦う」
ブーッッッ
紅茶抜きのカレンの純粋な唾がヒュンケルをまたも直撃したテーブルはもうぐちゃぐちゃだ
「聖女のつもりかこのガキ…!!!その甘く濁り切った考えを矯正する必要があるようだな」
ルーフはカードを取り出そうとするが「ルーフ」タレのその一声で動きが止まった
「本音が聞けて良かったよ、だが私としてもミゴール族との対話は危険だ」
「タ…タレさん」「だが説教をするほど老け込んでもいなければ、斜に構えた会話をキミにするほど大人げない性格はしてはいない」
そういうとタレはテーブルをハンカチで拭いた後、一枚のカードを置いた
「キミの覚悟は伝わりました。これはその野心ともいえる志に対しての僅かながらの投資…プレゼントと捉えていいでしょう、受け取ってください」
「これは…アンサモンじゃねぇか!!」
ヒュンケルは唾だらけの顔を拭く事を忘れるくらい驚愕した
最強のカードであるダゴンすら封じた究極のスペルカード。これが直撃した場合いかなるクリーチャーも手札に戻る禁呪級の伝説のカードである
「議長特権ってやつさ。もう一つ切り札があるけどこれは師匠との思いでの品でね、残念ながら無理だ」
「アンサモン…初めて見ましたわ…」「なぁ…カリンよ、その前に俺に何か言うことはねぇかな?」「?…あぁごめんなさいヒュンケル卿…でも私のツバですしむしろ喜ぶべきでは?」
ヒュンケルのヘッドロックでうめき声をあげるカリンを無視するようにタレは語る
「ただし、覚悟するように…ミゴール族との対話や共存ということは世の中がひっくり返るほど果てしなく大きい波紋を呼びます。その先を見据えて、このカードを受け取ってください」
「はい、アンサモンありがとうございました。ですがこれは受け取りません」
スルっとヘッドロックを抜けたカリンがナジャランの肩を優しく撫でる
「よく答えてくれましたわナジャラン…さぁ、早速ブックを編集しましょう。アンサモンを取り入れた最強のブック…こんな状況で不謹慎ですが聞いただけでワクワクしますわね」
「…え?いや…カリン?私アンサモンはいらないって」
「私の聴き違いか貴女がパニックになってるだけですわ。さぁ…早くアンサモンを」
「いや本当にいらな
「さっさと!アンサモンを!受け取りなさい!バカぁあああ」
カリンのアイアンクローがナジャランの顔面を鷲掴みにする
「どこの世界にこんな話を蹴るおバカなセプターがいますか!?舐めプ!?タレさまが気に入らないから!?そりゃ胡散臭いでしょうよ!なんか全部しょい込んだ態度もムカつくし!日和見気質だから議長としての手腕はあんまり」
「あの…カリンさん!タレ泣いちゃう!タレさんが泣いちゃいますから!!」
「いいんだルーフ…それより私からも聴きたいな、ナジャラン」
タレは焦りも困惑した様子もなかった。やや落ち込んではいた
無理矢理アイアンクローを引き剥がすナジャラン、その頭は瓢箪みたいな形になったが直ぐ元に戻った
「あたた…すいません、でもみなさんはベルカイルに対峙した事、ありませんよね」
周囲は顔を合わせるがタレはナジャランを見据えたままだ
「私、ベルカイルと戦いました。あの人は別格です…それこそ私達5人で戦っても勝てる状況が思い浮かびません」
「なっ」
誰が発したかわからない動揺を無視するかの様にナジャランは続ける
「アンサモンを使った所で結果は変わりません、また別の強力なクリーチャーやスペルで倒されてしまうのがオチです」
「そこにホロビッツ様やグルベル様が加わっても不可能と?」ルーフの質問にナジャランは静かに頷いた
「反論したいがあのデュミナスとかいうやつがアホみてぇに強いんだ、その親玉はさらに強いんだろうよ。タレみてぇにな」
「ヒュンケル、セプターといえども役職が必ずしも強さに直結するわけではありませんよ。それで…貴女はどう対処するのですナジャラン?もしかして、こうしてお茶でも飲んで分け隔てなく話すおつもりで?」
ルーフは意地悪そうに、しかし事実を突きつけた
「いえ、そもそも戦う事や私が神になる事が勝利条件じゃないですよね…?」
「…ナジャ?貴女何をいってますの?」
「日食さえ過ぎれば黒のセプターの目的は砕ける…私はそう思ってるの。向こうは後先考えてないくらいの全力、だから」
ナジャランはそう言うとアンサモンの上にあるカードを載せた
「どういうつもりだ…?」
ダイナマイト
響きとしては錬金術師の開発した爆薬と同じだが問題はその破壊力とデメリット
伝説級の武器を凌ぐ爆発が辺り一帯を焦土と化しその余波は使用した術者にも及ぶ、まさに玉砕と呼ぶにふさわしいアイテムカードである
「これを使ってバルティス山を爆破します」ブーーッ「間に合え!バックラー!」「ヒュンケル!貴重なカードと魔力を使うのはやめなさい!」
「って交渉すれば流石の黒のセプター達も押とどまってくれるかなって?信仰心が本物なら真下にあるバルテアス神に被害が及ぶのは避けたいだろうし~」
「やれやれ、ホッとしましたわナジャラン…私はてっきり貴女が」
「それを使って自爆する気なんでしょう?交渉が不発に終われば、ね?」
タレのその発言を上手く返せずにナジャランは押し黙った。もはやその行為がイエスと言ってしまっている
「その…いくらベルカイルでもこの一撃を喰らったら流石に死ななくても戦闘が継続できないくらいのダメージを負うと思うんです。あと誤解しないで欲しいんですが私は勝つつもりですよ…?みんながこんなに命を賭けてくれているし…だけど、本当に…もし本当に上手くいかなかったその時は、ミゴール族との交渉はお任せします」
「「「ハァアア~」」」トップ3人は思い切りため息をついた
「つまりこういう事か?ナジャランが勝てばミゴール族を救います、ナジャランが死んだらミゴール族を頼みますって?バカじゃねぇのか?賛同者がいると思ってんのかそんなの」
「そこはやってくださいよ、死んだらうまみが一つもない無報酬なわけなんですから」
再度ため息をつくヒュンケルは
「クソッタレ…わかったわかった、折れたよ。協力する」
「正気ですか!?」
ナジャランとヒュンケルのこのやり取りにルーフは頓狂な声をあげた
「そもそもが俺達セプターズギルドの力不足が原因なんだ。このお嬢ちゃんは無理言って借りてきた第三者。報酬がそれなら安いもんだ」
「まったく、簡単な口約束するつもりが逆に重たい約束をされるハメになるとは…いっておきますが結果は期待しないでくださいね?」
タレは腕を組んでどう交渉をするかと思案していた。半ば降参している合図だ
「…私は保留しますよ。それにしても結構な話ですがまさかこの状況を想定して我々に説明したかったわけではないでしょう?書面にでもして提出するつもりですか?」
「え?さすがはルーフさん、実は寝起きに文面思いついて朝から書きなぐった文章がここに…」
ナジャランがポケットから取り出した文書をルーフは平然と掠め取る
「あーーーー、何々?私、ナジャランはこれより敵陣地へ向かいますがその前に約束して欲しいことが云々…
汚い字…それと、キミPRしたい部分が間違ってない?ウチさぁ、キミみたいな勘違いクンが来ても困るんだよね?まず」
「ウギャーーー!!ハラスメントはやめてえええ」
ガタンッ
突然イスからある人物が立った
「そんな、自爆だなんて…貴女がそんな…そんな事を決意するなんて考えもしませんでしたわ…」
「カリン…」
「こんな結論をするのでしたら…私はあの時に貴女を励ますべきじゃなかった…」
そして扉の前まで開け、肩を震わせた
「ごめんカリン、でもありがとう」
「それ以上はおやめになって、でも…何がなんでも生き延びる努力はしてくださいな」
そうして彼女は扉を閉めた。女性のすすり泣く声が遠ざかり、聞こえなくなるまで静寂が続く
作戦名「カルドラダイス」
運命に身を委ねる戦いが間もなく始まろうとしていた