これホント飛ぶのかな…
航空艦の後部格納庫
そこに収められたナジャラン達が乗る飛行艇を見たナジャランの第一印象がそれだった
ラグビーボールにV字型ブーメランの様な翼を真ん中に取り付けた…乱暴に表現するとそんな印象である
魚の尾びれのような尾翼に胴体に前部に一輪だけあるホイール、後部は底が異様に厚く強行着陸するという主張が強い
オレンジに近い赤色は迷彩ではなく母艦から出す発光信号を打つ際に分かりやすいためらしい、最低限の計器しか積んでないこの船には外からの情報が不可欠だ
両翼には巨大なロケット推進装置、エンジンは積んでない、
飛行機ではない、グライダーという代物らしい、コードネームは溶岩を風呂にして100年近く入ったり大きな雌のドラゴンとつがいとなり子宝に恵まれた伝説のエルダードラゴンから取ったらしいが
「あーーーっ!もう!ボタンがありすぎ!」
操縦方法を覚えるうちにそのような些細な話は全て吹き飛んだ
何故オ・ライリーさんが全てやるのに補助席の自分まで予備ハンドルや予備の点火スイッチの説明まで読まなければならないのか…ちなみに最後部のゼネスはなんでも押すため何も備えていない。「不公平よ」と軽く愚痴が出た
現在ナジャランはグライダーの格納庫で猛勉強をしている。カリンとあの後話せなかったのは後悔しているが。自分の決意を話したことに対しての後悔はない。しかしわだかまりはまだある為、そこから逃避するように仕様書とにらめっこしていた
「なんだそりゃ、城塞都市ロカの入門教本半分にも満たんぞ。イラストもたくさんある、肩の力を抜いて5分で叩きこめルーキー」
うひゃっとナジャランは驚き振り向いた
ガンツだ。かつてナジャラン達とビスティーム遺跡を攻略した後、荒くれ者と傭兵団を結成。力無き人々の助けになっていると聞く
「難しく捉えがちだが、手綱…ハンドルだったか、とにかく操縦系に集中しろ。トラブった時だけ本を読め」
涙が出る様な的確なアドバイスにナジャランはため息をつく、緊張は幾ばくか和らいだようだ
「ねぇ…ガンツは…死ぬのって怖くないの?」
「お前さんの口からそんな言葉が出るとはな、その台詞はむしろ逆に聞きたかったわいナジャラン」
もさりと蓄えた口髭を撫でた後ガンツは口を開いた
「そうさな、死ぬのが怖くなけりゃ敗残兵として生きてはいまい。正直なところ今でも死ぬのは怖い、最近美味い牛乳を出す酒場も見つけたしな」
話してる最中に後ろを振り向くガンツ
そこにはグライダーの最終点検している学生、ブックの編集をしているセプター、ストレッチをしてる傭兵。みんなやることがバラバラだが次に備えていた。その眼差しは輝いてる様に生き生きと昂っている。ガンツが手を上げると一同は挨拶をした。
「だがな、儂が逃げた後ろにいる連中は…さっきまで儂を信じていた連中を裏切ってどうする?そう思うたび引けなくなっちまった」
ガンツは座っているナジャランの頭をポンと手を乗せて撫でた。ふと彼女は無き父を思い出した
「それでもナジャラン、生き延びる事を思えよ。ベテランから言えることはそれくらいだ」
ガンツはそのまま向こうへ歩いて行った。「どこに行くの?」
ナジャランの問いかけにガンツは振り向いて答える
「副長と一緒に編成の確認だ。そうそう!お前さん酒癖が悪いそうだな!似たもの同士だな!戦いが終わったらロカ特製ロゼワインを奢ってやるからお互い頭が割れるくらい飲むぞ!」
ガンツを見送った後、両の手で己の頬を叩き気合いを入れるナジャラン
全てを賭けて戦う覚悟が身を震わせる
「ナジャランさ〜ん」この場に似つかわない子供の声が聞こえた。
声のする方向に振り向くとブカブカな防寒着にタレのような幅広の帽子をした少年と暖かそうな黄色い毛糸のヴェールを被った少女がいる。ヴェールの中央にある黒くて丸い輪っかのマークが顔みたいでなんとも可愛らしい。2人ともナジャランより年下の背丈で幼い印象だった
「今から出撃なんですね、頑張ってくださいっ!」
「セバスチャン!自己紹介自己紹介!」興奮した少年を諌める様にヴェールの少女は叫んだ
いけねっと呟くと彼は腕を捲り、手を差し伸べた。軽く握手をするナジャラン
「初めまして、僕はセバスチャン。タレ様の弟子です。僕たちは前部にある船倉を改装した設備で防衛を担当をしてます。ナジャラン様が飛び立つまで、しっかりと守らせていただきますね」
「わ…私はヒュンケル様の弟子です、おっお見知りおきを」自己紹介しながらセバスチャンの後ろで少女はもじもじしている。照れ屋なのか顔がよく見えない
「え…えぇ!?防衛!?こんな小さい子が!?」
ややあってナジャランは驚愕した
この船のセプターの役割はナジャラン達やタレ達による最高戦力を除いて2つある
1つは航空戦力として飛行クリーチャーを使って攻防を切り替える遊撃に隊
そして船の内部にある防御部隊の2つだ
防衛部隊の本部は前方部分に設置されているがこれはナジャラン達がグライダーで飛ぶために配慮したため欠陥ともいえる位置についたように見えるが実際はシールドを張りやすいためセプターが乗る船として構造上最適解と言えた
「言いたい事は分かります、でも僕達の年齢はナジャランさんとそんなに変わりませんよ、それに世界が崩壊するかもしれないんです。無事なセプターも少ないし…何より身を挺して僕らを守ってくれたタレ師匠に報いたい」
「だから…だから私達志願したんです。師匠達は反対しましたが…ルーフ様が取り持ってくれてなんとか飛行船に乗せてくれたんです!頼りないかもしれませんが…精一杯頑張りますッ」ヴェールを揺らしながら少女は懸命に話した
なんと健気なことか
少しだけ涙が出そうになったが悟られない様に両腕でナジャランは2人を抱きしめ
「うん、私も頑張るね」とだけ喋った
ジリジリジリ!ジリジリジリ!
格納庫からベルの音が響き渡る、待機命令だ
「もう時間だよモリー、例の物渡すんだろ?」セバスチャンは彼女の肩を叩く
少女がポケットから何かをまさぐりナジャランに渡した「ホロビッツ様から預かったものです。今くらいの時間に渡すようにって」手紙だ、ボロボロで中に何か硬いものが入っているのかそこだけ形が浮き出ている
ありがとう、受け取ると彼女の頭をなでた。毛糸の感触が心地よい、まるで人形のようだ
「頼りにしてるよ。頑張ってね」
「「はい」」2人とも元気よく答えてその場を離れるように走った
「あっちょっと!」その場でナジャランは2人を止める様に叫んだ
「セバスチャンの隣のキミ!名前聞いてなかった!」
「えっ!?そうでした!?モルダビアです!モルダビア!」
「そっか!モルダビアちゃん!セバスチャンくん!応援ありがとね」
そうして2人は仲良く格納庫の扉を閉めた
「さて、何が入ってるんだろ…?お説教じゃありませんように!」ナジャランは我慢出来なかったのか勢いよく手紙を破り中を確認する。
すまない
とだけ書かれた紙が入っていた、珍しい…几帳面な先生の事だ、魔術で作った立体映像と肉声の入った手紙を送るのに、まぁ重傷だし時間もなかった事だろう。仕方ないよね
それともう一枚、スペルカードが封入されている。中身はリベレーション、遠くのものと会話が出来る希少なカードだ
途端に感覚が研ぎ澄まされ頭から声が響く
あぁ紛れもないホロビッツ先生の声だ
「ナジャラン 今から、本当の作戦 を伝え る」
ホロビッツ先生の声だ
──ほぼ同時刻、艦橋にて
「つまりだな、この飛行船は推進と浮上を担当する上部の気嚢部分、αブロックと下部である船舶部分にあたるβブロックが合体した疑似的なバンドルギアになってるわけだな、完璧とは程遠いが多少の魔法が防げるし、セプター能力も感知され辛い。大火力の主砲もそのおかげだろう」
船長ヒュンケルの講釈をつまらない表情を聞きながらアルタは舵を掴んでいる。
魔道具をゴーグルに改造して飛行船の前方部分が見える仕様にされているがいかんせん孤独だ。故に艦長とこうして話してるがいよいよ話題が尽きてきた
「したがってどちらかのブロックがやられたら急激に弱くなる、これだけは覚えてくれ」
「気嚢部分がぶっ壊れたらそもそも飛行船はオシマイだよ」ハイ…仰る通りで…ヒュンケルは肩を下げた
当たり前だがナジャランがミゴール族と和解したい話も自爆覚悟で戦いに挑む事は皆には伏せている
アルタからナジャランの話を聞くと命がいくつあっても足りない話ばかりだ。巨大なファンガスや寄生されたウッドフォークの戦いやドリアードの鬼ごっこ、果てはドラゴンゾンビや伝説のエルフとの激闘。ダークマスターの交戦まで
ビスティームの探索だけではないだろう、色々な修羅場を経験したに違いない
それだけの実力者が死を覚悟して戦いに挑もうと言うのだ、そうまでして黒のセプターと和解をしたいという答えを出す事は生半可ではない。汚いものも少なからず見てきただろう、底抜けのバカだが嫌いにはなれない
青臭い理想論は兎も角、ヒュンケルはカルドセプトを手にするのは彼女が相応しいと改めて認識した
ポン
唯一赤かった防衛管制室と書かれたランプが緑に点灯した。モルダビアがいる防衛部隊が所定の位置についたという信号だ
「各員に通達、間も無くバルティス山に続く陸地の上空を飛ぶ…防衛はアイテムとスクロールを準備。遊撃は甲板近くで待機、クリーチャーは」
「おいおいおい、ヒュンケル艦長…もう一度確認するがこの船は肉眼以外じゃ探知されにくいんだろ?」
アルタは突然焦るように声をあげた
「命令してる最中だぞ!もう一度言うがこの船は推進と浮上を担当する」
「海上10時の方向、宙に浮いてるセプターを確認!距離はまだ遠いが動いてない!補足されてる!」
「そ…そんなぁ!?」衝撃の発言にそれを聞いていたセバスチャンの驚きの声を皮切りにからもどよめきが聞こえるようだった
「よく見えてんな」「これくらい察知できなきゃ今まで生きちゃいないさ、それよりどうすんだよ艦長」
魔道具に写された光景を凝視するとゴマ粒の様な黒い影が揺らめいている。もう少し進めばセプターの攻撃が仕掛けてくることは明らかだった
「どうもこうもねぇよ、反対側に逃げたら餌食になる!進路を10時の方向に変更、迎撃しつつグライダーを発進させる」「よく言った、しんどいよ?」
ヒュンケルの方針を聞いたアルタは苦笑いした
緊急のスクランブル・コールを鳴らすとサイレン音がそこかしこに響き渡る
「風の王はルーフの予想が正しければそんなには来ないはずだ!今までの航行中に奇襲どころか偵察すらされてねぇからな」
「でもこうして敵に補足されてる訳だろ!?情報が漏れてるんじゃないのかい!?」
彼女の懸念は最もだったが、どうにも彼はナジャランのバカが移ったらしい「信じるさ、お前はどうだ?」というヒュンケルの言葉に同じくバカが感染したアルタは黙るしかなかった
「格納庫に伝達、間もなく竜を飛ばすぞ!」