園に明ける   作:クエクト1030

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弟は私と一緒によく遊んだ。
トランプ、メンコ、コマにゲーム。
鬼ごっこにチャンバラ、それに物造りも。
私はお姉ちゃんだから、弟よりもいつもよく出来てた。
弟はそれで悔しがってこっそり練習してて。私も負けじとこっそり練習する。
弟はそれに気づいてなくていつも悔しそうにして。ふふ。
楽しかった。大好き。

中学生くらいの歳になると、私達も役割がのしかかる様になった。
忌部は呪具を作る一族。
防具に関しても、武器に関しても、鍛治技術は必須だった。
私と弟は昔と同じ様に一緒に鎚を振って火を起こして。
私達が人生でやり続けたいものはこれだったんだ!って、笑って作ってた。
でも、一族は良く思わなかったみたい。

私は女だから。鍛治は女人禁制だから。
弟は男だから。長男だから。
引き剥がされる。
はっ。知ったことじゃない。私は鎚を振るう。
親ならいざ知らず。一族の他の人間の声とかどうでもいいね。
私は弟と一緒に鍛冶場に潜ってた。
でも、弟は耐えられなかったみたい。

ある日、家族会議が開かれた。
題目はさっき言ったことと同じ。長男が家督を継ぎ女は裏方に回れ。
別にそんな厳しい口調で言われたわけじゃないけど、それでも。
お父様とお母様にも否定されたのは、ちょっと悲しかった。
けどそれよりおかしかったのは、それを言われて、
私じゃなくて弟が泣いてたこと。
その後は色々あった。
弟は両親と喧嘩して、取り返しがつかないやり方で自分に術式使った挙句、
お父様の工房ぶち壊して出ていった。
私は終始傍観してた。大変なことはしてたけど...でも、笑えて。
心が軽くなった。
あの子も嫌だったんだろうし、私のことで怒ってくれたんだなって思う。

だから。
私の世界は炎と水が渦巻いた。

一緒に叩いた藁の煙、炎の色、水の音。
初めて二人で造り上げた、出来損ないの刀。
その全てが私を満たしたから。

私は、私を曲げ私を火に焚べる。
叩き、年輪を刻み、冷水に浸し、繰り返し、繰り返し、研ぎ澄ました。
半年で、私という刀を、私という鎚を、私という工房を造り上げた。
そして終に、誰も私に文句なんざ言えなくなった。

特別特級特定術師、忌部陽月(いむべのようげつ)様にね。


第二話「眩い光が背を照らす」

 爆発音が鳴り神社に駆け込む。

 

「何が...」

 

 結界内へ侵入。

 警報音、異変は無し。内部から内部への呪力感知は機能する。

 

 ひとまずの結界効果の予想は的中。少女が気になるが結界の存在を忘れてはいけない。ひとまずの予想的中なだけで、可能性は低いけど他にも効果があるとすれば厄介。

 

「これは...」

 

 呪力を感知する。

 一般人が多くてもこれだけハッキリしていればすぐに位置は分かる。結界を維持している四人は補足、そして音源と思われる場所に田中の呪力、そして...

 

「これ、さっきの女の子の?でもこれは...」

 

 呪力量、出力が明らかに飛び抜けている。

 これは一級術師並の呪力だ。それも一級の中でもかなりの出力。イメージ的には醜伏の術師みたいな、莫大なエネルギーの塊が意思を持って動いてるようなもの。

 そんな呪力が高速で動いている。田中の呪力も動いているから…恐らく戦っているのだろう。

 心配だけど…一人でどうにか出来ているのなら、この隙に結界役を排除してしまおう。その後に田中たちの場所に合流し、確実に田中を無力化する。

 

 地面に手を触れ術式に呪力を通す。

 結界役四人の呪力を捕捉。地中成分分析。足元に術式効果を指定。

 

火口(ひぐち)さん大丈夫かなぁ...」

 

 男の一人…いや、他の男たちもそうだろう。

 彼らは火口──────田中という偽名を使っている男の心配をする。彼らは今までも、そして今も。火口が必ず仕事を成功させてきた事、そして自らの師であり、兄弟分の兄であるが故に、心配せども危機感が欠如していた。

 

ボコッ、ボコボコ。

 

 地中から何かが生える。

 

「ガァッ...!?」

 

 それは四人の男たちの腹部を貫通する。

 貫通したそれは、槍のようなものを先端に持ち、先端は貫通後、蝙蝠傘のように骨が伸びる。骨は地面へと傘が伸び、突き刺さる。更に地中から傘の骨を伝って絡みつく金属の蔦は生え始め、男たちの四肢を拘束した。

 

「呪力が、練れない...!」

「力もこれじゃ...!くそ、動かねぇ!」

 

 槍は呪力を練る部のみを的確に貫いた。内臓も数時間以内に死ぬような致命傷は避けただろう。

 あとは無駄に動かなければ回収班が来るまでに一人は生き残ってるはず。

 

 桃色の少女は結界が晴れていくのを確認して、田中の元へと駆けだした。

 


 

「誰だ...!?」

「呪詛師狩りですよ、お兄さん」

 

 田中の首元に刃を振るう。

残念、間一髪…いや、これは落花の情かな?呪力のプログラミング(設計)も出来るとなると…厄介だな。

 向こうには女の子が倒れている。出血もあるみたい、流石に殺してはないだろうけど…。

 

「よくわかったな...」

「バレバレでしたよ」

 

 田中は暗器を手につけている。

 バグ・ナグ...形状は所々、現代の暗器として使いやすくなってるな。田中とは異なる呪力も感じる。呪具っぽい。暗器な以上は毒あたりも警戒した方が悧巧…他に暗器を持っている可能性もある。最悪鉄砲も。

 何より術式もこれまでの調査で判明していない。術式持っていないなら楽でいいけど、どうかな。

 ひとまずは飛び道具で様子を見よう。

 

ヒュンヒュン、ピッ。

 

「!」

 

 苦無を数本投擲する。

 田中は苦無を落花の情で叩き落としながら、一歩下がる。苦無の叩き落としは落花の情は維持しつつも出力を落として呪力を節約したようだ。

 対象物の脅威度合によって出力を自動調節してたり?手動でも中々な芸当だけど。

 

「逃がしませんよ」

 

 矢継ぎ早に、左手に取り出していた"蔵"から弓矢を形成し田中を射る。田中は走って矢を回避しつつ、避けきれないものは落花の情で叩き落す。

 どうやら落花の情を移動しない縛り等もなく使えるようだ。

 

「(田中の目的はこの子だよね)」

「(ターゲットはこのガキ、だがこの女を片づけないと逃げるのは難しいだろうな)」

 

 田中は仕事の目的を考えつつも、目前の脅威に腹をくくる。

 少女は自分より幼い少女の身と田中の思惑を考えながら獲物を次々と生産する。

 

「それがお前の術式か?」

「そうかもしれませんね?」

 

 次に動いたのは田中だった。

 田中は倒れたターゲットの元へと駆け出し、回収を試みる。

 

「させない」

 

 少女は脚を踏むと、地面を伝って術式が走り、天園聖華を岩壁のドームで包んでしまう。

 

「地形操作も出来んのか...っ」

 

 田中は足にブレーキをかけターゲットから下がり、桃色の少女へ振り返る。今見えている情報の限りでは、リーチの差は大きい。加えて飛び道具の生成も自在。

 だぎ田中を最も困惑させていたのは、今こうして目の前で対峙してなお、少女の呪力を捉えることが出来ないことだった。

 

「(呪力が読めない…単純に呪力操作の巧さとは違う感じがする)」

「(天与呪縛…? いや、だとしたらさっきの術式の説明は付かない)」

「(……やりづらい。)」

 

 脂汗が流れる。

 元々小学生一人を白昼堂々と誘拐するための仕事。持ち歩く武装は数えるほどしか無い。

 ダメ元で田中は口を開く。

 

「おい、俺の賞金額はどれくらいなんだ?」

「ん。」

 

 少女としては意外。直球な質問が投げられた。

 

「大体600ですね」

 

 600。田中はそこまで目をつけられていたのかと歯軋りをした。

 そこまでの額だと二級から準一級、最悪一級呪詛師として登録されているだろう。被害規模、犯罪としての重さ。そして術師としての強さ。それらを複合して呪詛師の等級は下される。

 実力を隠し陰に陰にと行動して上手くやってきたつもりだったが、甘かったのだと突きつけられる。田中は歯軋りした。

 

「半分やるから見逃してくれって言ったらどうだ?」

 

 今こいつと戦って、勝てるかもしれない。

 だがターゲットとの交戦で身体を痛めたこと、多少なりとも呪力を消費したことが痛い。その上、落花の情も見せた上に飛び道具と見て使い続けた消費も更に来ている。

 一番美味いのは、賞金丸々支払ってでもターゲットを連れて、この場を投げ仰せて仕事を達成する事。

 次点で金払ってターゲットを諦めて俺だけでも逃げる事。

 

「その選択を選ぶ理由が無いですね」

「そもそもどうやってお金を払うんだか。」

「600円じゃなくて600万円ですよぉ?」

「んな事は分かってるわ、このクソガキ。」

 

 青筋が浮かぶ。

 ……が、怒った所でどうしようもない。落ち着け…そしてどうするか。このクソガキを殺して仕事を完了するか、もしくは全部捨てて逃げるか...。

 はぁ。選ぶ選択権なんてない。

 全部捨てたところで"上"から追跡者が出てくるに決まってる。職を失って高専にも"上"にも追われたらもう積んだのと同じだ。

 つまり─────こいつ殺して仕事達成するしかねぇ。

 

「はぁ…よし。お前殺して仕事を完了することにしたよ」

「腹を括ったようですね」

 

 こいつは僕との実力差がどうであれ、金を払って仕事を優先する道を選ぼうとした。冷静かつ、欲張らない賢明な案だ。

 彼女を売買することでどれだけの額が出るかは分からないけど、600万がぽんぽんと支払える業界ではないだろう。仮に今回の報酬がそれ以上だとしても、報酬がそっくりそのまま減るわけだ。身代わりのお金が経費で出るわけもない。

 仕事の達成を第一にするそいつが全取りを選ぶということはそれだけ尻に火がついたわけで、本気で来るんだろう。

 飛び道具と術式は持っている頭で行ったほうがいい。

 

「ッ」

 

 田中が少女へと接近する。

 直線的な移動。暗器をそのまま殴りつける腹か。

 

「近寄らないでください」

 

 少女もまた、矢を番え発射する。

 一、ニ、三、四、五、六。"蔵"を右手に持ち帰え、次々と矢を生成し打ち出す。

 

 しかし。

 

ジジジ…。

 

 田中は真正面から矢を見切る。掠れた音を発しながらも、速度をほとんど落とす事なく距離を詰める。

 

「(落花の情を使わない...?)」

「(あとなんだ今の音、ほんとに掠った音か?)」

 

 六本目の矢も躱された所で少女は"蔵"から鞭のような剣を生成する。少女は迫る田中に、鞭の剣で薙ぎ払いながら地面を蹴り距離をとった。

 

ジジジジジジ。

 

「(まただ)」

 

 田中はギリギリの所で鞭を飛び越える。

 

「(意図的にギリギリを狙っている?寸での回避が縛りで反撃的なタイプかな)」

「(少なくとも、至近距離である必要はありそう、か)」

 

 少女は後ろに跳躍し、鞭で薙ぎ払い続ける。大縄跳び、あるいは新体操のリボンのように舞う鞭に対して、田中もまた踊るようにその刀身を避け続けている。

 

ジジジジジジジジジジ。

 

 そして掠れる音もまた、無数に鳴る。

 

「(やっぱりそうか。さて、どうしようかな)」

 

 少女の予想は的中していた。田中は少女が鞭を振るうたびにギリギリで回避し続ける。しかし、決して接近して来ない。むしろ少女からすれば攻撃したくなる絶好の間合いに位置を取り続ける。

 

「(どうやって攻略すべきか。回避のしようもない広範囲攻撃がベストだけど)」

「(距離を積められている以上は一瞬の隙に攻撃を捻じ込まれるな)」

「(とすれば...)」

 

 少女は鞭を投げつけ、"蔵"を握りしめる。田中は投げつけられた鞭をも律儀に躱し、一撃を構える。

 

 瞬間。

 

バフっっっ。

 

「(なんだ!?)」

 

 二人の周囲に異常な土埃が舞う。視界は潰され互いに互いの姿を見失う。

 

「(煙幕か、俺の術式の仕組みに勘づいたようだがこの程度じゃリセットされない)」

 

 田中は目の代わりに耳と呪力で少女を探す。

 

ザ…ザ…。

 

 ゆっくりと田中の背後に移動する音と呪力。

 

「(抑えているようだが甘いな)」

「出てこい卑怯者!まともに戦うことも出来ないのか!」

 

 田中は挑発混じりに少女の動きに気が付かない演技をする。

 

「(キタ。左後方)」

「(正直、こいつの呪力隠蔽の技術はヤバい。)」

「(俺はこいつの監視に気が付かなかった。それ程の使い手だ)」

「(どれだけの期間監視されていたのかは分からん)」

「(だが。)」

「(これだけの至近距離で、俺が探知が出来ないとでも思うか!)」

 

 田中の左後方から、呪力を強く込めた刀が振り下ろされる。

 

「そこだ! ぶち抜け、『摩擦衝突(グレイズ&ストライク)』!!!」

 

 背後に振り向き、呪力と勘を元に拳を振り抜く。背後に迫った呪力は刀を伴う殺意の込められた一撃であったが、拳の前に砕け散った。

 そして、そのまま。拳はその奥の存在を、一撃で以って破壊し尽くした。

 


 

火口豊和(ひぐち・とよかず)の術式

『摩擦衝突(グレイズ&ストライク)』。

 自身の脅威を、ギリギリのタイミングで回避することで一定時間、受けるはずだった脅威の一定威力を獲得、蓄積・累積する。

 蓄積した威力はまともに被害を受けるか、消費することで消滅する。蓄積した威力は小分けにして使う事も可能であり、また一定時間が過ぎるか使用して消費しない限り、威力は累積し続ける。

 火口は障害となる少女が遠近絡めた攻撃が可能な点、そして時間をかけていられないことから短期決戦のため、今回の一撃に全ての威力を消費していた。

 


 

 パラパラと、土煙の中、今し方破壊し尽くした残骸が落ちる音が立ち続ける。

 

「…パラパラ?」

 

 疑問を抱いた時、田中は脚を崩し地面に倒れ伏す。

 疑問、困惑、攻撃。そして。

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 

 熱。痛み。

 

 それは術師の常套手段である凡策。

 そう。

 勝利を確信した者への───────急襲。

 

 田中の両脚は切断されていた。

 田中が倒れるのと同時に、土煙は人為的に晴れていく。そこには刀を"3cm立方の箱"に納めていく少女の姿、そして。

 粉々に砕け散った、狛犬の像と刀が田中の目の前に落ちていた。

 

「(落花の情も間に合わなかった...!)」

 

 田中…火口の術式は「回避」が必要なため、「防御」する落花の情との相性が悪い。そのため火口は術式発動中、落花の情を解いていた。

 戦闘不能になった田中を尻目に、少女は電話をかける。

 

「もしもし。白夜です。準一級呪詛師、仮名、田中実を捕えました」

「他にも仲間と思われる結界術の術者が四名います」

「あと、被害者の女の子がいます。こちらで応急処置をしますが念の為こちらにも人員を。」

「見た所...傷は深くな...ッ!?」

 

 少女は横たわる少女の容態を確かめる。

 

「息をしてない!」

「…脈、心音もない、すぐに心配蘇生を始めます!」

 

 拍動を確かめると、少女は女の子の胸元を開け心臓の直上に手を置く。

 

「(さっきの戦闘中のどのタイミングから呼吸が止まっていたのかは分からない)」

「(すぐに蘇生しないと脳がやばい)」

 

 少女は目を閉じ、呪力を巡らせる。

 

「(呪力の拒絶反応無し。内臓位置、形状把握)」

「(心配蘇生を開始)」

「転身呪法『有為転変(ういてんぺん)』。」

 

 術式を心臓に発露させ、強制的に心臓を動かす。続いて"蔵"から注射針とパックを作り出し、針を静かに腕へと差し込む。注射針は血を吸い上げ、少女は摘出した血液パックに片手を当てながら目を閉じる。

 

「(解析。変なのが血中に混じってるな)」

 

 女の子の胸に置いた手から、新たな情報を得る。

 

「(神経含めていろんなものの動きが悪い。

神経毒か?)」

「(ということはあのバグ・ナグ、やっぱり毒塗ってあったんだな)」

「(毒物の治療は高度な反転術式を要する…くっそー、どうしよーーー!)」

「(透析は流石にまだ出来ないし、血清も作り方なんて分からん!)」

「(反転アウトプットなんか論外だ!)」

 

 少女は頭を抱える。

 

「そうだ」

「おい田中、お前この毒使ってるなら血清持ってないのか」

「……」

「縛りだ。この場でお前の両脚、治してやる。その対価にこの毒の血清を寄越せ」

「縛り……か。」

 

田中は力のない声で呟く。

 

「俺が逃げる時間も…寄越せよ…」

「それは出来ない。血清と同時にお前の脚をくっ付けて治すだけだ」

「そもそも僕はこの子を見るので手一杯だからお前は知らん」

「あとこっち攻撃するなよ。僕も攻撃しないから。一日の間この子含めて不可侵な」

「……」

 

 男は一瞬迷う。

 このままでは間違いなく死ぬ。

 ターゲットがこのまま死んだら、その後に自分を死なない程度に治療して拘束するだろう。その後はそのまま高専に引き渡して裁判にかけられるのも間違いない。

 呪術界の裁判は酷いものだと聞く。

 死刑か、理不尽な縛りを結んで仮釈放かの二つだと。

 それだったら、足を治してもらい逃げる方がまだ可能性がある。"上"には追われるか…もしくはこの負傷を見て、情状酌量の余地ありとするかもしれない。

 

「わか、った。縛りを飲む。俺の左の内ポケットに入ってる…」

「縛り成立だな!」

 

 少女は田中の足を素早く拾い、田中の足の断面はくっつけながら術式を行使する。

 

「呪力を解け。治療するのに邪魔だから」

「…分かったよ」

「よし。転身呪法『有為転変』。」

 

 田中の足の骨、神経、肉が激痛と共に癒合していく。

 

「いっっ、って、ぇぇぇぇ」

「動かないで。ズレると変なくっ付き方するよ」

 

 数時間にも思える数秒の激痛の後。白夜は手を離して田中の左内ポケットから約束の血清をひったくる。

 

「痛みは酷いだろうけどくっ付けはした。もう回収班は呼んであるから後は一人でどうにかしな」

「そりゃ、どーも…!」

 

 田中の返事を待たず、血清に呪力を微かに込めて女の子に投与する。

 

「(仮に偽物だったら付与した有為転変で強制的に血清を摘出する)」

 

 心配蘇生を再開し、血清の経過を観察する。

…………

………

……トクン。

 

「〜〜〜〜!!!っはーーーーー!」

 

 鼓動が回復する。

 自己呼吸も始まり、山場を越える。

 

「ふーーーーー…人命救助とか全然やらないし、しかも毒とか...」

 

 自分も深呼吸をして、天を仰ぎ見る。数回呼吸し、そのまま仰向けになって後ろを振り返ると田中の姿は消えていた。

 

「はぁ…600万は逃げたかぁ…」

「流石にそうだよね」

 

 幼い命を救った達成感と共に、逃した大金の惜しさが少女に流れる。

 

「(鼓動も安定してる…もう大丈夫かな)」

「脳に損傷出てなければいいんだけど...」

 

 心配をしていると、救急車やパトカー、消防車の音が聞こえてくる。

回収班も当然いるだろう。

 

「…そういやこの子の具合見るので電話放り投げちゃってたな。もしもーし」

『大丈夫ですか白夜さん!えっと、被害者の容態は!?』

「何とか持ち越しました」

「ただどれだけの間、心肺停止状態にあったか分からないので検査を...」

 

 言葉を続けようとすると、背後から何かがのしかかる。

 

「うわっ、なに!?」

 

 反射的に呪力を放出しながら振り向くと。

 

「お姉ちゃんすごかったねさっきのバトル!!!」

 

 救助────回復したばかりの女の子が抱きついていた。

 

「み、見てたの?というか心肺停止してたんじゃ」

「身体は全然動かなかったけど、穴が空いてたからそこから覗いてた!」

 

 確かに呼吸のために咄嗟に通気口は作っていたなと思い出す。

 

「どうやって武器作ってたの!?持ってたちっちゃな箱で何かしてたの!?」

「武器あんなに振り回したり弓矢ばーんって撃てるのもすごいね!!!」

「えーーー…あー…うーんっと…」

 

 とても言葉に詰まった。

 年端も行かない女の子に残酷な光景と体験をさせた罪悪感、脳に異常はないか、どこか具合悪くないかという心配、ここまで元気なことと、殺し合いを見ても平気どころか楽しそうな様子。

 

「私もいい感じに戦えてたと思うんだけどなー!」

「あのお兄さんの方がずっとうわて(・・・)だったーーー!」

 

 悔しそうに、楽しそうに全力で笑ってる。

あんな事があったのに、あんな目にあったのに。

心底楽しそうな、幸せな顔をしている。

 

「…ぁ。」

 

 ふと、少女から何でもない声が漏れる。

 

 それは、この女の子がとても眩しい光を放っていたから。

 純粋な心。純粋な思い、意欲。

 他の子供とは異なる、突き抜けた青天井の清涼、我儘。それが光となって少女の世界へと焼き付き、見える景色を、色を変えてゆく。

 くすんだ色が鮮やかな色へ。淀んだ色が淡く暖かな色へ。

 冷ややかで美しい、明暗が存在する、全てが目を見張く価値へ。

 心臓がじんわりと暖かくなり、締め付けられ、鼓動が早まる。

 

「ぷっ」

 

 つい笑いが溢れる。

 この顔が熱くなる感覚、胸のトキメキというやつ。あぁ、僕は信じがたいことに、こんな小さな女の子に惚れてしまったらしい。きっと僕はこの子に出会うために生まれてきた、なんて考えも浮かんでくる。まだ小学生くらいの子供相手にだ。所謂変態、犯罪者ってやつじゃないか。

 景色の変わり様と、馬鹿馬鹿しさに笑いが込み上げてくる。前世の想い人とかかもしれないな。魂レベルでの恋とか、そんなの。

 

 じゃなきゃ、あまりにもおかしすぎるだろう。僕は。

 

「あははは」

「なになに、面白いことでもあった!?」

 

 女の子は肩になりながらきょろきょろと辺りを見回す。

 とても愛らしく思う。

 

「何でも。きみ、体調は大丈夫?具合悪くない?」

「気持ち悪い!身体に力入らない、お腹すいた!」

「あはは。元気だ」

 

 直に回収班と救急隊がやってきた。

 

「大丈夫ですか白夜さん。あとその子は...」

「僕は大丈夫ですよ。この子は電話で言ってた被害者の子です」

「心肺停止の時間はどうも短かったみたいです。でも検査とか、お願いしますね」

「それと、この子を助けるために田中が持ってた血清と取引しちゃいまして」

「田中は逃げちゃいました。足を一回切断して、取引で治しましたけど、まだ痛むはず」

「もしかしたらまだ見つけられるかもです」

「わかりました。後はお任せください」

 

 呪術界とも繋がりのある救急隊が女の子を救急車に乗せる直前。

 

「お姉ちゃん!」

 

 大声で、手を振りながら話しかけてくる。

 

「また会おーね!!!」

「うん、また会おうね」

 

 自然と優しく笑って。再会の約束をした。

 

 そして女の子は救急車で去っていった。後から聞いた話では、すぐに両親も病院に駆けつけ、検査の結果後遺症が残ることもなかったらしい。高専側も説明をしたりしたとかで...まぁ、なんとか無事に片付いたらしい。

 

 去っていく救急車を眺めながら、回収班の人に話す。

 

「あの子、術式持ってました」

「あの子がですか?」

「えぇ。かなり強力でした」

「単純に使うだけでも一級レベルだと思いまさ」

「一級レベル!?」

 

 声を荒げて驚く。当然っちゃ当然だけど。

 でも僕の意思はそこ報告とは別の場所に向いていた。深く息を吐いて、深く息を吸い込んで。

 僕は回収班の人に言う。

 

「僕、家に帰ります」

「!」

 

 回収班の人は嬉しそうに表情を変えた。外の人にそんなに嬉しがられるのも複雑なんだけどな。

 

「あと。あの子、保護者とも相談した上で定期的に高専で面倒を見ましょう」

「今回みたいに狙われるよりマシですしね」

「分かりました!」

 

 私利私欲のためにあの子を呪術師の道に巻き込む。

 あの子のためになるんだか、ならないんだか。

 後ろめたい気持ちで一杯な上にどの面下げて帰ればいいかも分からないけど。

 とりあえず、帰ろう。

 帰って、修行を積む。

 術師として。

 そして金打(かぬち)として。

 

その日。いつの間にか、世界(ソラ)は晴れていた。




[永遠の姉弟♡チャット]
白夜:姉さん、僕帰ることにしたよ
陽月:!!!!!!!!!!!!!!れ!!!!
陽月:いつ!?何時何分!?地球が何周した時!?!??、
白夜:三日後に京都行きの新幹線に乗るつもり
陽月:三日後ね!迎え行く!!!
白夜:そこまでしてくれなくても大丈夫だよ?
陽月:いいやダメ!我慢出来ない!
白夜:何に!?
陽月:今から迎えに行くね!!!
白夜:三日後って言ったよね?
白夜:姉さん?
白夜:ちょっと?本気で東京まで来るとか言わないよね?
〜一日後〜
陽月:もうすぐ駅着くよ
白夜:何やってんの!?!?れ?
陽月:あ、白夜の呪力を感じる!今迎えに行くからね!
白夜:うわぁ本当にお姉ちゃんの呪力感じる。いや待って!朝の支度す してない!
陽月:お邪魔します
〜会話はここで終了している〜
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