園に明ける   作:クエクト1030

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家に帰るだけ。
それでも少し怖い。
後ろめたさと、恥が僕を蝕む。
姉は手を差し伸べ、昔話を始めた。


第三話「手を引かれて、一人立って」

2019年1月某日。

 

 僕は家に帰る事を告げた。

 姉はとても喜んでくれた。連絡した翌日には到着している程に。

 両親はどうだろうか、一族はどう思うか。

 僕は、父の工房を破壊して出て行ってしまった。職場の破壊というだけの話ではない。それだけで作成予定だった呪具の予定が大幅に遅れただろう。父は頭を下げたろう。受け取る相手は当然困っただろう。

 もしかしたら、その呪具を受け取る事が出来なかった事で命を落とした者がいるかもしれない。

 

 そもそも家のしきたりに我慢がならず、感情のまま飛び出してきてしまった自分の未熟さはどうだ。

 今でも燻っているというのに、自らの恥の源に舞い戻るいうのは、恥知らず甚だしいと思う。

 

 駅を降りて、家に向かう。

 駅の中で、車の中で。姉は僕の手を引いて歩く。そんな事を考えている僕を、心配する事はないと言うように。

 これもまた、恥なのだろう。

 14の齢になったというのに、姉に手を引かれ、家出した恥ずかしさを、姉の背を追い続けることを、その全てを、恥じるという事すらも。

 全てを呑み込んで足を踏み出せというのは分かっている。けど、頭で理解しようと心が思い通りになるとは限らない。

 

「懐かしいね」

「何が?」

「色んなコトが。」

「白夜、負けず嫌いだし、抜けてるし、よく失敗してさ。その上泣き虫だったから」

「色んな事が我慢出来なくなって、立ち止まって泣き続けてたじゃん?」

「その度にこうやって私が手を握ってお家に一緒に帰ったなってさ。」

「まぁ…うん……」

 

 姉は楽しそうに、過去を思い出しながら繋いだ手を振って歩く。

 思い返すだけで居たたまれない出来事ばかり。そのほとんどは、今になっては他愛もなくてどうでもいいような事ばかり。転んだとか思い通りに行かなかった癇癪ならまだしも、物を落っことした拍子に泣いたり、姉と追いかけっこしてて距離が縮まらなかっただけで泣いたり。

 物を落として泣いた事で始末が悪いのは、別にそれ自体は大切な物でもなんでもなかったはずだから。本当に、落としてしまったという失敗に対して泣いてたはずだ。確か折紙を折るための紙を取ってきた途中で落としてしまったとかだった気がする。別に中の紙がバラバラに散ってしまったわけでもないのに。

 振り返ると、昔から失敗が嫌いだったのかもしれない。

 

「姉さんの手に引かれると、安心出来たんだ」

「確かに、手を握ってあげるとすぐ泣き止んだよね」

「姉さんはいつも暖かかったから。だから安心したのかも」

「今も安心してる?」

「……うん」

 

 姉は悪戯っぽい満面の笑みを浮かべる。

 

「もうすぐ着くよ」

「...うん」

 

 忌部の敷地、その中でも僕たちの家族の屋敷。

 僕は姉から手を離して、先に歩いた。

 そして。

 

「ただいま。」

 

 そう言って、忌部白夜として帰った。

 

後ろで、姉が微笑んだような気がした。




姉が手を繋いで歩いてくれるとは思っていなかった。
歩きながら話しているだけで、色々と思うことはあったけど...
それでも、気持ちが落ち着いた。
家の前に来て、敷地を跨ぐ時。
自然と、僕の手は姉の手を離した。
重要な時、一人で前を見ないといけないとしても、
その直前まで、誰かと手を繋いでいても良いのだと。
踏み入れた時に悟った。
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