ヘヴィーオブジェクト タマネギの調理法:アラスカ方面検証戦 作:明田川
ネタバレ注意ですが、完結まで書いてから投稿してます。毎日更新で話数は五話、大体二万五千字くらいです、よければお付き合いください。
戦争は無くならなかった。国連が崩壊して以降、世界は四つの勢力に分かれる。しかし過去の勢力図とは違い、領土はステンドグラスのように飛び散った。それは緊迫した国境線をあらゆる大陸に生むこととなり、結果としてこの世界は各地で局地戦を繰り返しているというわけだ。
「オブジェクト戦の後は酷い有様だな、雪が覆い隠してくれるとはいえ…放射線は無いにしろ、土壌の金属汚染は考慮してるのか?」
「全長50m、重さ20万トンの金属ボール同士の撃ち合いだ。環境へのダメージがないわけがないっての」
四角いフレームの眼鏡をかけた男の問いに、目元に大きなクマのある青年が返す。この世界の有様に疑問を投げかけるのは御法度だが、監視の目が緩い最前線では彼らもこの手の話題を出すようだ。
「核戦争を終わらせたオブジェクトが核以上の脅威になっている、なんて論文もあったっけな」
「真実かどうかは別として、慌てて否定されていたがな。命が惜しければ、そうそう言及しないことだ」
世界各地で行われる局地戦を担うのは、オブジェクトと呼ばれる戦争の主役様だ。莫大な電力を生み出すJPlevelMHD動力炉を中心に、何層もの鋼板を重ねて巨大な球体の装甲を作り上げる。
その装甲は製造時に電子基板や送電線が焼き付けられており、弱点となるケーブル類の通り道がそもそも存在しない。
二人の会話に出ていたように全長50m、重さ20万トンの超大型兵器だ。20階建てのビルを束ねたような代物が最高速度500kmで走り回り、核にも耐え、主砲は山をも貫く。既存の兵器が太刀打ちできないわけだ。
「人と人とが戦わずに済むクリーンな戦争か、建造費50億ドルのタマネギの化け物をぶつけあってどこがクリーンだ…」
その攻撃はあらゆる兵器を打ち砕き、その装甲は核兵器にも耐える。とある島国によって生み出された兵器は各国に大きな影響を与え、情報が洩れてからは建造競争の幕開けだ。
人を並べて総力戦、なんて時代もオブジェクトの登場によって終わったわけだ。
「環境へのダメージも雪が覆い隠してしまっては、それも確認しようがないがな。それにしてもアラスカか、こんなところまで来ることになるとは」
「前線とはいっても、破壊されたウォーターストライダーの残骸も粗方漁り終わった頃じゃねえの。情報同盟も三七が退けた訳だしな」
何やら神妙な顔をして話し合っている男達だが、袖を通している軍服は四大勢力の一つ、正統王国の所属であることを示しており、積雪地帯に合わせた白い迷彩が施されている。
彼らの目的は戦果の分析、そして勝利に至った要因に対する情報収集だ。実地まで赴いたのは、今回に限っては本国で大手を振ってやるべき仕事ではない、そう考えたからだ。
それなりの階級はあるのか、彼らは運転手と護衛付きの装甲車の中でタブレット型の端末を見ている。周囲には更なる分析に必要なのか、引っ張り出されてきた電子機器の類がコンテナに収められていたが、それらは高価な代物であることが伺い知れた。
「第三七機動整備大隊はこれまで、大きな犠牲を出しつつも敵軍のオブジェクトを屠って来た。それも時代遅れの第一世代でだ」
「今や局地戦に特化した第二世代が主流の中、転戦に次ぐ転戦で生き残っているのは確かに疑問だが、その要因には検討が付いてるんじゃなかったか?」
「…ああ」
オブジェクトはその性能故に、同じオブジェクトでしか撃破できない。なので局地戦もオブジェクト同士をぶつけ合い、負けた方がそそくさと撤退し、その場を明け渡す。ある意味形式的、そして紳士的な決闘にも見える。
しかしこれは紛れもない戦争だ。その紳士協定は破るに足る理由があれば破られ、流れ弾の一つでもあれば基地は壊滅し、自軍の勝率を上げるためなら裏でどんな工作を行うかも分からない。
「戦果には生身でオブジェクトを破壊した特異点、勲章を授与された二人の青年が絡んでいる。彼らはあの手この手で盲点を付いてはオブジェクトの撃破に繋げているが、上は完全に扱いかねているようだな」
「ヤバい戦域に飛ばされ、懲罰部隊に行き、軍事機密を民間の電波でバラして…生き残るためには手段を選ばないタイプか」
「選べなくなるタイプさ、そんな状況に放り込まれてる」
そんな彼らの足取りを追おうというわけだ。彼らが初めてオブジェクトを撃破したアラスカ方面にわざわざやってきたのだが、残されている物は少ない。
それもその筈、この地は我々正統王国の手によって制圧されて以来、敵軍の情報を少しでも得るためにありとあらゆる場所をひっくり返されている。
「彼らはここで信心組織の第二世代オブジェクト、ウォーターストライダーと交戦した。そして第三七機動整備大隊が運用する第一世代、ベイビーマグナムが敗北。白旗を挙げた」
「オブジェクト戦の敗北で取る対応としては、セオリー通りだな」
白旗、これが紳士協定における敗北宣言だ。この地は明け渡すので、これ以上の戦闘は無用と告げるものだが、オブジェクトという戦場での主戦力を失った部隊がどうなるか。
辿る末路は複数あるが、彼らを待ち受けていたのは無慈悲な掃討戦だった。
「機動整備大隊だ、その名の通りオブジェクトの整備能力を有している。敵軍はこの場を明け渡したとて、後方で別のオブジェクトと合流すればもう一度刃を交えると考えたんだろう」
「それでも、ウォーターストライダーは撃破されたんだよな」
「信心組織はオブジェクトにコストを割きすぎていた。警備の甘い基地への侵入を許し、整備用の予備パーツへの破壊工作を許した。その結果機密保持のための自爆を止められず、基地もろとも吹っ飛んだ…か」
片方へ説明するというより、事実の確認だけを淡々と進めているような会話だった。二人は装甲車が止まるのと同時に後部の扉を開き、雪の上へと足を下す。そして写真の撮影を部下に任せ、数人の護衛を引き連れつつウォーターストライダーの残骸を見る。
「主砲の下位安定式プラズマ砲か、内側から吹き飛んでも案外原型を残しているものだな…」
「ちょっとした観光名所だぜ、どの国もこぞって覗きに来てやがる」
オブジェクトはレアメタルと機密の塊だ。誰もが欲しがるこの残骸を前にして、三七も迎撃に出ている。再建されたベイビーマグナムでも四大勢力の一つである情報同盟が駆る第二世代には苦戦したが、またもや二人の青年による奇策でもって勝利、敵軍オブジェクトを鹵獲した。
「分かりやすい範囲の調査は終わったみたいだが、大きすぎる部品は運ぶのもやっとだな。まだこんな残骸がそのまま残っているとは」
「全部が全部必要って訳でもないだろうぜ。主砲の下位安定式プラズマ砲は面白い砲配置だが、オブジェクトの主砲としてはメジャーな代物だ。それよりも山岳地帯の高低差をものともしない脚部こそ、見る価値があると思われたんだろうな」
オブジェクトはその装甲の堅牢さにより、主砲以外の攻撃は有効打にならない。そのため如何に最大火力を正確に、効率よく撃ちこむかが鍵になる。つまるところ場所取り合戦だ、有利なポジションを先に取ったものが勝つために、その移動手段は重要な要素だ。
「情報同盟とのオブジェクト戦以降、この辺りは暫く正統王国軍が保持できている。この残骸も価値が下がったか?」
「分析が進んだからだろうさ。四本の細い脚でオブジェクトを持ち上げて滑るように動かす、そんな設計上の無理を無茶な運用で通してるってことがバレたんだ」
ウォーターストライダーは頻繁な整備を必要とし、脚部への負担はかなりのものだった。そこを突かれて撃破されたわけで、情報が明らかになる度に各勢力の興味は薄れていったのだろうか。
「まあいい、それよりも実地調査だ。果たして彼らの道のりは、現実的に可能な物だったのかを明らかにする必要がある」
「当時の地形データは引っ張って来てある、周囲の敵オブジェクトも特に動きは…」
鳴り響く警報を聞き、彼らは即座に装甲車へ引き返す。こちら側の基地から、この戦域へ接近するオブジェクトありと緊急連絡が入っている。
こちらが駐留させているのは第一世代オブジェクトが一機、それ以外は周囲を転戦中の主力第二世代に援護してもらう手筈になっている。
「不味いな、レーダー分析官からの報告は?」
「敵オブジェクトはこちらへ真っ直ぐ進軍中だってよ、警告は意に介していないらしい」
「このタイミングで動くか…間の悪い時に来てしまったな。相手の勢力は?」
「信心組織、ここに来て残骸を奪い返しに来たか、それとも処分しに来たか。兎に角後方へ下がろうぜ、万が一捕虜にでもなれば、ここの部隊に迷惑をかけることになっちまう」
オブジェクトと戦うのはオブジェクトの仕事だ。博打でしか得られない勲章を欲しくはなかった二人は、自身の職務を全うするために規定通りの動きをする。地形から敵軍の侵攻ルートはある程度制限されている、強行突破をしたとしても過去の反省から仕掛けられた大型地雷群が…
轟、と風が鳴った。鳴ったというよりは、耳をつんざく爆音をそのまま衝撃波とともに運ばされた、と言った方が正しいか。敵軍の侵攻ルートに仕掛けていた地雷は、ちょっとしたキノコ雲を作るほどの炸薬量では無かった筈だ。
「…敵オブジェクトの判別結果が出たぜ、聞くか?」
「ああ」
「コードネームはデモリッションコード、爆薬を束ねたワイヤーを使う変わり種だ。元は地雷処理用の爆導索なんだろうが、オブジェクトサイズにまで拡大すれば、とんでもないことにはなるって寸法よ」
「そして現にこうなっている、というわけか。地形を破壊してオブジェクトの行動範囲を狭め、推進機関の損傷をも狙ってるのか?」
「設計を見るにそうだろうな。奴の足回りは複数に分割したエアクッションとキャタピラの複合式、自分で作った瓦礫の中でも戦えるように工夫してやがる」
だがそんな爆薬を搭載して使うとしても、オブジェクトの迎撃精度は折り紙付きだ。地面に命中する前に撃ち落とされて、内側から吹き飛ばされそうなものだが、交戦記録を見るにそうではないらしい。
「主砲は大口径のレールガン亜種ってとこか。弾頭が大きい分弾速は遅い上に弾数もないらしいが、問題はその炸薬量だな。新型の爆薬を詰めてるとかで、炸裂した際の加害範囲は基地を丸ごと吹っ飛ばせるらしい」
実験レベルだったはずの電子励起爆薬を砲弾に詰め込み、発射している可能性が高い。電子シミュレート部門の解析結果はそう告げている。
完成すれば核兵器レベルの威力すら発揮するというそれは、核兵器の時代を終わらせたはずのオブジェクトにとって新たな脅威となるのではないか。
「…戦場を破壊し尽くして、勝てずとも撤退に追い込むオブジェクトか」
「ド派手な焦土戦術を勝手に始められるんだ、アレに負ければ整備基地も兵隊も何もかも残らねぇぜ」
多少の情報を得たところで、彼らにできることはない。迎撃のために出撃した正統王国軍のオブジェクトが、他の見方が来るまでの時間稼ぎを成功させることを祈るのみだ。
「こちらの戦力は?」
「タイニーリボルバー、マルチロール型第一世代だよ。主砲はアーム懸架式の下位安定式プラズマ砲が扇状に六門、火力だけ見れば大したもんさ」
「主砲が複数、それにこのレイアウトは…ベイビーマグナムが原型か?」
「建造された当時は数を揃えたかったんだろう、ベイビーマグナムが持つ装備の複雑さを軽減したような設計だよな。しっかし単一機種の量産は、陳腐化した際の危険性が大きすぎたってんで計画変更、実際に作られたのはこの一機だけらしい」
廉価版でござい、そういいたげな風貌をした機体だった。しかし単純化された主砲は本来持っていたレールガンやレーザー砲への切り替え機能を失った代わりに、強力な冷却性能を有している。それ故に連射性と火力で言えば、ベイビーマグナム以上というのが唯一誇れるポイントか。
主砲が一門減っているので、実際にはプラマイゼロだが。また攻撃手段が多様でないということは、同じ機体が殆ど居ないこの戦場において、敵の弱点を突きにくいということでもある。
「第二世代を相手にできる戦力か?」
「得意の砲撃戦であれば相性的にはやれなくもない、相手は極端な不整地用だ。地面を荒されるまで、足の速さはこっちに分がある」
通常の第二世代機が得意な地域に合わせて機体を設計しているとすれば、デモリッションコードは得意な地形を作り出す機体と言えるだろうか。大量の爆薬で雪原を耕していくその姿は、正に破壊の権現とでも言いたくなる。
「信心組織のことだ、破壊神の名前でも付けてそうなものだが」
「情報同盟のナントカ000~みたいな名前よりはマシだな、可愛げがないってもんだよアレは」
「鉄球の化け物に可愛いも何もあるか」
危機的状況だが、彼らは狼狽えていなかった。敵オブジェクトの標的にはまずならない、残骸からはすぐに距離を取ることができる。タイニーリボルバーが負けたとしても、周囲の第二世代が駆けつければ戦線の穴は塞がるわけだ。
「て、敵オブジェクト視認!谷から抜け出して来たようです!」
「早いな、妨害が意味をなしてないぞ」
「ちょいと不味いなこりゃあ、速度上げられるか?」
「既に出せる範囲では出していまして…」
「陣形を変えて後方の車両を前に出してくれ、この車両は速度を維持。まだ速度の出せる車両は先行して安全確認を」
もし流れ弾を受けても、装甲車であればある程度耐えられる。しかし護衛はそうもいかないため、何かと理由をつけて前へと逃す。オブジェクトが相手では誤差のような物だが、兵士達は速度を上げて前へと抜けていく。
「…陣形は取ってるな、ならばよし。抜け駆けしようとしたら今後に響くぞ」
「おお、怖い怖い」
敵オブジェクトは遥か遠くに小さく見えるのみだが、その大きさはどんどんと膨らんでいくようだ。こちらが逃げるよりも、向こう側が近づく方が早いのだ。差は縮まっている、敵はいつでもここへ砲弾を叩き込めるだろう。
「さあ、どう出…」
「敵オブジェクト背部から飛翔体!対地ミサイルかと思われます!」
「方式と方向は!」
「通常の対空ミサイルのようですが、これは…目標は味方のベースゾーンです!」
拍子抜けだった。第一世代は核の時代を終わらせた兵器、今や飛ぶことなどないが、当時通常兵器の中で最後の脅威だった核ミサイルの迎撃能力は第二世代以上だ。
案の定ミサイルはタイニーリボルバーの副砲にて簡単に撃ち落とされ、お返しだと言わんばかりの下位安定式プラズマ砲が放たれた。
「…情報収集のつもりか、それとも他の何かか」
「ブラフって線もあるぜ。第二世代は今や詳細がバレる前に初見殺しの手段を振り回すってのが戦い方だろ、戦いの中で意識を割かせるには良い手なんじゃないか?」
「確かに主砲と同じ電子励起爆薬が詰まっていれば、主砲の一本くらいはもぎ取りかねんか」
「ちょいとよく分からん手だったのには同感だけどな、というかアイツはどんだけ爆発物を抱え込んでるんだよ」
ひとまずの目標地点は山の裏側、爆発の衝撃波から逃げるには遮蔽物が必要だ。それに一定の間隔で設けられた通信中継施設へアクセスできれば、戦場の推移についても、ある程度の情報は得られる。
「ひとまずオブジェクト戦の推移を見つつ、場合によっては後退だ。もとより我々ができることなど、何もないわけだからな」
オブジェクトの戦闘はどのように決着が付くか。敵を一撃で破壊できる主砲と最高時速500キロの速力が合わされば、勝利条件は明確だ。
有利な位置から、先に撃つ。特殊な武器と尖った性能のデモリッションコードと、オールラウンダーとして設計されたタイニーリボルバー。下馬評は言うまでもなく、前者の勝利を予見していた。
しっかり原作風の敵機体情報を用意しました、苦労したぜ…!
【挿絵表示】
こんな感じの下書きから輪郭だけを整えて、その他は気合いで作りました。原作はコレ3Dモデルを毎回作ってたんだよなぁ…すげぇや……
感想とか評価とか、良ければぜひ。