ヘヴィーオブジェクト タマネギの調理法:アラスカ方面検証戦   作:明田川

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 タイニーリボルバー、正統王国軍が保有する時代遅れの第一世代オブジェクト。

 ベイビーマグナムという原型機が生まれた後、設計者が(原型機への低めな評価は別として)手慰みに作っていた「ここはこうしてもよかったかもな」程度の予備案を基に作られた。

 

【挿絵表示】

 

 本来は正統王国の首都たるパリを守る、三重の防衛線に配備される量産型になる予定だった。建造競争による、世界的なオブジェクト数の増加により、現在の数では守り切れないかもしれない、という状況に対応するためのものだ。

 

 しかしオブジェクトの建造費は50億ドル、量産効果で多少は安くなろうとも負担は大きい。それにオブジェクトには次々と新技術を投入し、技術競争に遅れを取らないようにしなければならないのだ。

 島国から生まれた原初のオブジェクトも、その技術の進歩によって今や海の底に沈んでいることが、その重要性を物語っている。

 

 同規格のオブジェクトを幾つも作る間に、相手は新たな機体を作り続けていく。その間にタイニーリボルバーは陳腐化するだろう。

 また、四大勢力同士の睨み合いが続く限り、電撃的な首都進攻はまず起きないと目されたことも大きい。

 

 兎に角だ。この六門の砲を備えた機体は、生まれるはずの姉妹達と共に首都を守ることはなくなった。今は各地で第二世代機の穴埋めに奔走する、それだけの運用がされていた。

 

「ばくどうさくはうち落とせる、けどさがりながらじゃ…いつかベースゾーンをうたれる」

 

 どこか常人とは違う雰囲気を醸し出すのは、オブジェクトの操縦士たるエリートだ。幼い頃から搭乗予定のオブジェクトを最大限操るための訓練を積み、高Gに耐えられるような処置を受け、戦場に最高峰の待遇でもって送り出される。

 

 乗っているのが時代遅れで更には原型機の劣化版、最新の第二世代を相手にすれば処刑台と変わらないとしても、彼女はこの椅子から逃れる手段を知らなかった。

 

『敵オブジェクトの爆導索は以前確認された時よりも威力が増している、既存のデータを用いた被害予測は信用しないでくれ。電子シミュレート部門が修正データをすぐに送る!』

 

「このままおされると、おそらくきちを守りきれない。ぞうえんは?」

 

『…他のオブジェクトと交戦した直後だ、現在は修理や補給に入っている。できるだけ早く来るとは言っているが、これは』

 

 万全の状態の第二世代機で、消耗したデモリッションコードを撃破する。それまでの時間稼ぎでタイニーリボルバーが破壊されようとも、他の部隊は気にしないということだろう。

 

 原型機を駆るエリートは数々の功績を打ち立て、オブジェクトを失っても同型に乗り換えて今も戦い続けている。それなのに自分はなんだ、この場で時間稼ぎのために死ねというのかと彼女は憤慨しながらも、主砲を敵に向ける。

 

「ふくほう?しゃらくさい、こんな撃ち合いで」

 

 主砲以外でオブジェクトの装甲は貫けないが、それでも被害がないわけではない。細かな砲弾を浴びせ合う中で、大小さまざまな副砲が被弾によってはじけ飛んでいく。

 

 敵は副砲の数を絞り、比較的威力の高いものを搭載していた。それによりタイニーリボルバーは弾幕勝負で遅れを取るが、果敢に主砲を放ち続ける。しかし敵の主砲は当たらずともその威力は凄まじく、避けたはずの攻撃で左側の主砲が一門脱落する。

 

『主砲五番大破、脱落!?アーム基部への負荷が許容範囲を超えています!』

 

 地面に転がる主砲を見て彼女は以前の想定がどれだけ役に立たないかを実感しつつ、攻撃の機会が失われ続けていくのを感じる。

 

『対歩兵用のレーザー兵器喪失、副砲の60%を喪失した!爆導索の迎撃が難しくなるぞ!』

 

「…まずい、かも」

 

 この状況で大きく後ろへ下がることは、自身の首を絞めるのと同義。しかし、そうしなければならないと思わせられる何かがあった。デモリッションコードが発射した主砲が地形を変えると同時に、分厚い弾頭が砕けて副砲を根こそぎえぐり取る。

 

 相手は環境を自分が有利になるように変える第二世代オブジェクト、その環境は敵機の状態も含むのは当たり前と言えただろうか。

 分厚い装甲越しで互いにエリートの顔など分かるわけもないが、格上に立ち向かう彼女には敵がニヤリと口角を上げたように感じ取れた。

 

「たぶんかてない、ベースゾーンはてったいの準備をして」

 

『この状況で撤退などできない。それに今から基地を分解してもオブジェクトの最高時速は500kmだ、一蓮托生だよ』

 

「…そう」

 

 その言葉を単純に受け取れないほどには、彼女は擦れていた。オブジェクトが破壊されても最悪白旗をあげて逃げればいい、兵士や指揮官は気楽なものだ。

 それは撃破されたオブジェクトから脱出したエリートを、誰も回収する気なんてないと言っていることに等しい。

 

「じゃあ、わるいけど覚悟はして」

 

 デモリッションコードが背中に隠していたコンテナを景気よく開くと、そこからは大型のミサイルが何発も続けて放たれる。ミサイルといってもそのサイズは、衛星打ち上げ用のロケットにすら匹敵する。

 

 それを迎撃する手段はほとんどない、副砲は大多数が沈黙し、主砲は相手に向けていなければ、致命的な一撃を放つだけの隙を与えてしまう。

 

「ひだりがわのしゅほう、アームがやられてる。さっきの爆発をよけられてなかったから…」

 

 そのミサイルは大粒の何かをばら撒きながら地面と水平に飛翔し、複数の飛翔体が示し合わせたかのように扇状に広がって、散布範囲に戦場の全域をおさめてしまう。

 基地の近くへ飛んで行ったものは迎撃ミサイルが叩き落したが、時すでに遅しとはこのことだ。

 

「クラスターだん、いや…じらいさんぷ?」

 

 やることは一つだった、更なる後退だ。基地を守っている最大の要因、敵との距離が急速に縮まっていく。小さなパラシュートを開いて降下してくる地雷が地面につけば、それで負けが決まる。脚部の推進装置に被弾してしまえば、主砲を避けられずに粉砕されるだろう。

 

 落ちてくる物は二種類、平らな板状のものと、棒状のものだ。棒状のものは形状的に通信の中継アンテナか、索敵装置の類いに見える。

 しかしそれから電磁波は発せられていない、彼女はどう言った性質のものかを判断しかねつつも、分からないことに対して悩むのをやめ、全速力で後退した。

 

『タイニーリボルバー、どうした!?』

 

 一気に敵が基地へ近づいたからか、通信から聞こえて来る声の声色は明らかに恐怖が滲んでいる。彼らも頼みの綱であり生贄でもある彼女との間に、しっかりとした信頼関係を築けていないことは理解していたらしい。

 

「じらいがまかれた、もう後ろにしかにげばがない」

 

『主砲で吹き飛ばして道を…』

 

「ろくもんのうち、もう半分もまともにうごかないし、たぶんバレてる」

 

 指揮官は彼女に降伏しろ、とは言わない。恐らくこちらに言っていないだけで撤退の準備を進めているのだろうし、機密の塊であるエリートが捕虜となれば死んだ方がマシな末路を辿ることも、また事実だからだ。

 

「やまを盾にしてじかんをかせぐ、ぞうえんを急がせて」

 

『…分かった』

 

 演技は良いからサッサと逃げろと彼女は思いつつ、残った僅かな副砲で地雷を少しでも撃ち落とす。しかし広大な散布範囲から抜け出す前に地雷は地に降り立ち、起動した。

 

 タイニーリボルバーの脚部推進装置、その接地面から立て続けに爆発が起きる。単純なものではない、金属杭を真上に打ち出す対オブジェクトに特化したそれは、デリケートな脚部を裏から破壊していく。

 対する敵は地雷の上を進んでも、全く被害を受ける様子がない。やはり撒いた側には反応しない仕組みなのだろう。決死の迎撃も虚しく、お構いなしに距離を詰められていく。

 

「まにあって、かるさはもとの機体よりうえなんだから!」

 

 山の裏側へ隠れた瞬間、敵の砲弾が炸裂した。タイニーリボルバーは咄嗟に使い物にならない左側の主砲を敵の方へと向け、生き残った砲を庇う。しかし山から降り積もった雪と土砂が崩れ落ち、ただでさえ損傷によって出力が下がっていた脚部に覆いかぶさる。

 

「やられた、みうごきがとれない」

 

 周囲で大きな爆発が相次いで起きるのは、敵が主砲を放っているからだろう。移動不能に陥り、攻撃能力の大部分も失った。それによって半強制的に、システムが機密保持のためのプログラムを走らせる。

 

「だめ、だめだってば…まって!」

 

 彼女はそれを止めようとし、プログラムは中途半端な状態で実行される。その結果動力炉の自爆は起こさず、タイニーリボルバーはエリートだけを射出した。何と言われようとも、この機体は彼女の半身だった。

 最早死は避けられない状況だとしても、ここでオブジェクトを失えば後が無い。

 

 同型機に乗り換える、それはもっと優秀なエリートが優先される。別の系統の機体に乗る、それはその機体専用に調整されたエリートが担う。あの機体こそ、彼女の最後の居場所なのだ。

 

「あはは……だっしゅつそうち、はじめてつかったかも」

 

 いっそのことレーザーで撃ち落としてくれという思いは山で遮られた敵には届かず、パラシュートを開いた彼女はオブジェクトから少し離れた位置に落下していく。完全に戦場を掌握されたためか、信心組織の後方支援部隊も前に出てきたのだろう。個人用の小さな通信機では、ノイズしか拾わない。

 

「…おわっちゃったなあ」

 

 針葉樹の森の上だったのが不味かった、彼女はできるかぎり軌道を修正したが、見事に引っかかってしまう。宙吊りにされたまま、通信機から救難信号を出すか迷いながらも、どうでもいいかもしれない、なんて思いながらぼーっと地面の雪を見る。

 

「どーせ、だれもたすけにこないだろうし。こんなでがらしのエリートなんて、たすけるかちもないですよーだ」

 

 誰も来ない、当たり前ではある。オブジェクトから少し離れた地点とはいえ十分に危険だ、この辺り一帯からは戦力という戦力が退避していたはず。偵察くらいはしていたかもしれないが、救難信号を出していないので場所を割り出すのは難しいだろう。

 

 救難信号を出したとて、敵に居場所を掴まれるだけというのが関の山だ。押せば万に一つくらいは救助が来るかもしれないが、今頃白旗を挙げて大急ぎで逃げ出している最中だ。

 

「…こないか、こないよね」

 

 信号弾でも撃つか、そういえばポーチにしっかりと入れていただろうか。どうせ使う機会はない、そう思って碌に確認などしていなかった。そうやって思案すること暫く、流石に寒くなり始めた。

 

「信号はじゅみょうが縮むだけ、おきゅうりょうも使っておけばよかったかな」

 

 不貞腐れる彼女だったが、近付いてくる足跡を聞いて我に帰る。浸透して来た敵か、それとも付近に居た味方か。咄嗟に引き抜いた拳銃を自らの頭と敵とどちらに向けるかを悩んで前者を選んだ。

 

「こっちだ、こっちに落ちてきていた筈だ!」

 

「他の班も捜索中だ、目視じゃあどうしても誤差は……あ」

 

「あれ、えっ?」

 

 しかし、現れたのは味方の軍服を着た兵士だった。二人は自殺を試みるエリートを見て一瞬固まった後、味方だと慌てて叫ぶ。

 出会い頭に自殺されました、なんて報告をすれば上官になんと言われるか分からない、兵士も必死だった。

 

「味方!味方です!」

 

「武器捨てろ馬鹿ッ、正統王国軍第504中隊です!」

 

 味方に扮した敵の可能性もあったが、彼女はひとまず銃をおろした。偶然だったが、その番号の部隊がどこに所属しているかを把握していたのだ。

 

「じょうほうぶたいの、ひと?」

 




タイニーリボルバーは、原作のベイビーマグナムが撃破された後に同型機が用意されてた件と、最終巻付近で明らかにされたパリ防衛線の設定から居そうなラインと、居なさそうなラインの間くらいを狙いました。

ベイビーマグナムのデザインが良すぎる。わかりやすい格好良さで戦える形状ではないのに、主人公機感のある雰囲気が出るデザインってマジでどうやったら考え出せるんだ。人型メカ以外の枠組みにおいて、アレは後世に語り継ぐべきだと思ってます。
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