ヘヴィーオブジェクト タマネギの調理法:アラスカ方面検証戦   作:明田川

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原作で毎回やる流れなのに、お決まりの考察タイムが滅茶苦茶面白いの、やっぱり凄いっスよね。


03

 

 

 雪山の中を移動している間に、敵オブジェクトが発する爆音は鳴りを潜めていた。攻撃する対象を失ったので、もう撃つ必要がなくなったのか。そうするといつ敵の駆動音が聞こえてもおかしくはないわけだ。

 

「脱出したエリートの状態を確認しましたが、無事です。目立った外傷もなく、本人の意識も明瞭です」

 

「つうしんはノイズばっかりだったけど、つながってるの?」

 

「は。大型の通信機があればなんとか、というレベルですが」

 

 彼らが無線通信を使えているのは、二人のうち片方が背負っている大型の通信機器があるからだろう。

 クリーンな戦争という代名詞によって実戦で本当の意味での戦いができる兵士は限られているが、彼らは最高峰とはいかずとも、できる方に分類される者達らしい。

 

 手際よくエリートを救い出した彼らは山を下り、装甲車を中心とした車列へと向かっている。逃げるついでに助けに来たと考えるには方向が逆であり、兵士達の肩にある部隊章も彼女が属する機動整備大隊とは違うものだった。

 

「はやくにげないといけないけど、あの子もこわさないと。それにええと…」

 

「敵オブジェクトは後退しました、恐らく弾薬の補給だと思われます」

 

「こうたいした、このじょうきょうで?」

 

「…貴女が所属していた大隊のベースゾーンは、敵オブジェクトからの攻撃を受けました。現在は被害の確認中、整備能力は失ったものと思われます」

 

 半身の次は家だった。脱出させられる間際の爆発には、基地を吹き飛ばしたものも混ざっていたのだ。初速が低く、そこまでの射程があるとは思われていなかったデモリッションコードの主砲だが、飛ばそうと思えば飛ばせたのか。

 

 それとも強化された爆導索と同様に、装備のアップデートが行われていたのか。なんにせよ、この戦いは正統王国の敗北だ。

 

「この状況で来た命令は後方で主力オブジェクト部隊の編制が終わるまでの時間稼ぎ、ベースゾーンの部隊はタイニーリボルバーの回収と応急処置を指示されています」

 

「そんな、むりでしょ」

 

「同意見です」

 

 タイニーリボルバーは見逃された。主砲の残弾がなくなったからか、それとも折角ならば鹵獲したいという欲を出したのか。

 ウォーターストライダーがその残骸を漁られたように、報復のために分かりやすい戦果を得ようとしたならば、こちらとしては好都合だと兵士はこぼす。

 

「我が方の第二世代は敵オブジェクトが補給に戻ったことで、即座に対応する気をなくしました。消耗した第二世代に勝つにはオブジェクト一機でどうにかなりますが、万全なオブジェクトと戦うとなれば…」

 

「こっちもかずをそろえなきゃいけない、ってことね」

 

「…はい。ですが味方がオブジェクトを複数揃えてこちらに来るより、敵が補給を終えて再度侵攻を行う方が速いのは確実です。また何か、こちらの予想とは違う動きを見せない限りですが」

 

 ひとまず、エリートが無事に救助されたのは僥倖だった。装甲車を中心に兵士達は機動整備大隊とは指揮系統が別だが、混乱している今では有利に働いた。

 

「エリート殿をお連れしました」

 

「入ってくれ、ハッチを開けさせよう」

 

 装甲車の後部ハッチが開き、彼女は暖房の効いた車内に招かれた。報告をする前に、有無を言わさずに上着と暖かい飲み物を渡されたため、乾いていた喉にそれを流し込もうとして暑さに悶える。

 

「すまない、熱かったか」

 

「これくらいのほうが、好みだから…だいじょうぶ」

 

 エリートが着る体に張り付く特殊スーツは、水着を全身に広げたような見た目のわりに多機能だ。

 腰辺りに取り付けられたポーチには食料や水分の類は入っていた。しかしそれよりも、士官向けに支給されているとはいえあまり味の良くない紅茶は、何故か身にしみるらしい。

 

「我々は付近の通信中継施設を拠点に、後方の友軍へ戦闘データの送信を行っていた。現在は壊滅した機動整備大隊の生き残りに対して、集結を呼びかけている」

 

「あつめたって、たたかいになんてならないとおもう」

 

「承知の上だ。相手は白旗を無視してベースゾーンを吹き飛ばした、こちらも抵抗するしか方法がない。それに差し当たってのことだが、タイニーリボルバーはまだ動くだろうか」

 

 目の前の士官は戦う気のようだ。車内にはもう一人士官がいたが、そちらは机の上に置いたラップトップPC相手に格闘中で、エリートを見て片手を挙げ、さっと挨拶するだけに留めている。

 

「せいび班がくれば、ふっきゅうはできる。問題はあしまわり、埋まってるからじゅうきがいる」

 

「なるほど。かなりの激戦だったが、武装はどれほど残存しているかも教えてくれ」

 

 一方的にやられていたことをオブラートに包むと激戦になるよなと少女は思いつつ、目の前の男が見せるできる限りの配慮や善意を有難く受け取ることにした。

 彼から空いている端末を一つ借り、実際に戦った者としての情報を打ち込んでいく。

 

「ぜんぶかくから、ちょっとまってて」

 

「汎用端末の処理速度ギリギリの入力速度だな…」

 

「かげんしてる、専用たんまつならもっとはやい」

 

 彼女はすこし得意げになりつつも、タッチパネル上に表示されたキーボードを指で器用に押していく。物理的なキーがないため高速のタイピングは行いにくいはずだが、慣れたらタブレットでもこうなるのか、と眼鏡をかけた士官の男は思わず唸る。

 

 そして彼は彼女が入力した情報を見て、更にデモリッションコードの恐ろしさを知ることになる。環境破壊など当たり前、核さえ使わなければいいと言わんばかりのに火力を振り回す破壊の権現。

 手負いの第一世代オブジェクトで勝てる相手ではないことは、確かめずとも明白だった。

 

「…お嬢さんが共有してくれた情報は見たか、値千金だぞ」

 

「こっちの検証結果ともかなり合致するな、ありがとうお嬢様!壊滅した電子シミュレート部門と技術解析部門が合流次第、本格的に暴きにかかってやるさ!!」

 

 もう一人のクマが目立つ士官は、この手の技術に詳しいらしい。デモリッションコードに関する偵察情報や交戦記録から、できる範囲で分析を進めていく。

 

 そしてキーボードのタイピング音が鳴りやんだ後、三人はラップトップの画面を前に集まった。

 

「まず、まずだ。デモリッションコードの主砲は電子励起爆薬を弾頭内部に格納したレールガン…というか電磁カタパルトだが、これがどうにもおかしいんだよ」

 

「ばくはつの威力がひくすぎるってこと?」

 

「その通り。戦術核クラスの破壊力には遠く及ばない、やっぱりアレはまだ試作段階の域を出ない代物である可能性は高い」

 

 一発一発が戦術核レベルなら、信心組織のオブジェクトは皆それを搭載して放り投げて来ているだろう。

 既存の火薬よりも余程高性能だというのなら、それを利用した新兵器が生まれていなければおかしいわけだが、こんなものを搭載しているのはデモリッションコードのみだ。

 

「それに地雷はばら撒いても、主砲を打てば吹っ飛ばしてしまうわけだ。爆導索だって地雷処理用、対オブジェクトで使うには装甲を貫通できない代物で何をするって話になるだろ?」

 

「やっぱり、ちょっとちぐはぐだよね」

 

「最初のミサイルはどの迎撃手段を用いるかのテストだろう。その後の爆導索もテストの一環、空と近距離で何の迎撃手段を使うか見た可能性はないか」

 

「それからどうがたの副ほうをねらって、ねこそぎこわした」

 

「装備の多様さは一撃で倒せるっつう自信がないことの現れだ。爆薬がいくら高性能だろうと、オブジェクトは元々核に耐える装甲持ちだぞ。アレだけ大きな砲弾を遅い速度で発射するより、普通の砲弾を高速でぶっ放したほうが役に立つだろ」

 

 破壊力は確かなものだ、だが本体の装甲を真正面から撃ち抜くことを考えた主砲ではない。

 タイニーリボルバーが有する六門の下位安定式プラズマ砲は、一門一門がオブジェクトを正面から動力炉まで貫通できる性能を与えられていると考えると、確かに不自然だ。

 

「オニオンそうこうをだめにしたい、とか?」

 

 オニオン装甲、オブジェクトの動力炉を包み込む、鋼板を重ねたもののことだ。核にも耐えるが、その製造と整備にはかなりの労力と、熟練の職人による調整が必要な代物である。

 

「…確かに、アリかもしれないな。天才だぜお嬢様!」

 

「シミュレータあるかな、やってみるとわかるかも」

 

「こいつじゃ追っつかねえな、ちょっと待ってろ」

 

 彼は簡易的なオブジェクトの被弾時シミュレーションソフトを立ち上がげ、PCを車内の器材とケーブルで繋ぐ。

 

「オブジェクトの装甲は重ねた装甲板の塊だ。莫大な衝撃で潰されれば、衝撃の吸収能力は発揮できなくなる」

 

「そうすれば、装甲としてのせいのうもガタおち」

 

「だが、だからって貫通力に長けた兵装なんてないだろ。装甲を駄目にして、それからどうやってぶち抜くんだ?」

 

 シミュレータは敵主砲の攻撃により、オニオン装甲の防御力が著しく低下するという計算結果を示した。だが、それからどのような攻撃に繋げるというのか。

 衝撃の吸収能力を失ったとて、分厚い装甲がなくなるわけではない。

 

「割り込んですまない、シミュレータを使ってもいいか?」

 

「いいぜ、何か気になることでもあったか」

 

「いや、衝撃を吸収出来なくなったのなら…」

 

 デモリッションコードの砲撃を浴びたオニオン装甲に、もう一度砲弾をぶつける。その衝撃を受け止めきれなかったオニオン装甲は溶接による継ぎ目から破断し、装甲板に割れ目が走る。簡易的なシミュレーションとはいえ、その結果にはある程度の信憑性はある。

 

「爆発による衝撃が内部にまで通る。装甲が変形すれば焼き付けられた回路も噛み合わなくなり、動力炉にまでも致命的なダメージを与えかねないんじゃあないか」

 

 このオブジェクトは周囲の環境を自分にとって有利な場へと変える。防御力を落とし、自らの主砲が敵を穿たずとも破壊できるようにすることも、その一環なのだろう。

 そう考えると装備自体の煩雑さとは裏腹に、一貫性を持った構成であることが窺い知れた。

 

「…衝撃で内側から破壊するオブジェクト、か」

 

「オブジェクトがそもそも非常に重い兵器だ。設計上許容できる範囲以上の衝撃を何度も受ければ、自壊することだって考えられる」

 

「じゅうりょくからは逃れられない、たしかにそのとおり。もしかすると、鹵獲もかんがえているのかも」

 

 変わり種に見えて、一度でも喰らえば装甲がダメになるという主砲。一般的なオブジェクトから考えると威力の高すぎる副砲、そして多種多様な兵装…厄介な相手だ。三人はこの敵を相手に勝機を見出すため、糸口を探す。

 

「一度でもこのデカい爆発を起こす主砲の加害範囲内に居て、装甲の能力を大きく劣化させられたら、もしかするとあの副砲でも危ないんじゃあないか?」

 

「あの副砲、たしかにふべんなくらい強力だった。デモリッションコードにとっては、だいにの主砲なのかも」

 

「ここまで厄介なら、他の部隊との交戦記録から調査が進んでいないわけがないが…」

 

「正面切っての撃ち合いは少ないんだよ、あんな能力だから戦う側が嫌がって前線を下げるのさ。折角の土地を使えなくされるのが一番嫌だからな」

 

 大量の爆発物を搭載している以上、互角の撃ち合いというのは避けたいのだろう。あの威力だ、主砲の誘爆でも起きれば倒せるかもしれない。だがそれを可能とするタイニーリボルバーは中破、自走も不可能な状態だ。

 

 現状で分かる範囲の調査はできた、後は機動整備大隊との合流を待ってから進めるしかないだろう。

 

「中隊長、整備大隊の残存戦力から報告です。攻撃される可能性を考え、整備機材の一部はベースゾーンから離れた位置へ移送されていたようです。爆発で土は被りましたが、使えるとのことです」

 

「行幸だな。人員の再編も行う、タイニーリボルバーをもう一度動かすぞ。最低でも主砲は動かさなければ、我々は鏖殺を待つのみだ」

 

 情報部隊の彼らがこの戦場に留まる義理は本来無いはずだが、上層部からの命令は現地で戦えとの一点張りだ。この調査を始めてから感じていた違和感に男二人は毛が逆立つのを感じつつ、通信機を手に各部隊へ指示を飛ばしていく。

 

「整備班は機材の回収とオブジェクトの再起動だ、隔壁を開いて新しい操縦座席を取り付けなきゃスタート地点にも立てねぇ」

 

「電子シミュレートと技術解析はこっちだ、中継拠点を中心に分析に当たる。戦闘が可能な部隊は浸透してくる可能性のある敵歩兵への警戒に当たれ」

 

「敵がばら撒いた地雷と…センサーかアンテナか分からん棒についても調査が必要だよな、情報部隊の戦い方を見せてやっか!」

 

「わたしは?」

 

「「体力温存!」」

 

 作戦の要である彼女は、二杯目の紅茶を渡された。

 




 原作だとクウェンサーの発想力がズバ抜けていて、対等なもう一人と案を練る機会が少なかった気がするので、士官二人は思考のキャッチボールができるイメージで練ってます。

 クウェンサーが他人と相乗効果を発揮してる時はヤバい、相棒のヘイヴィアが頼もしい上に心理的な面でもベストパートナー。彼と別行動してる時の主人公が不安げなの、良いっスよね。

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