ヘヴィーオブジェクト タマネギの調理法:アラスカ方面検証戦 作:明田川
デモリッションコードのエリートは臆病な人物だった。リスクの高い戦法は取りたくない、だが勝たなければエリートとしての価値は無い。エリートを神聖視し、彼らの先天的な才能に合わせてオブジェクトの設計を調整することもある信心組織は、彼女に合った機体を作り上げた。
「…あのオブジェクト、怖かった。あれでよかった、だいじょうぶ…だいじょうぶ……」
第一世代であっても、その腕前は熟練者のそれだった。下位安定式プラズマ砲は直撃こそしなかったものの、地雷散布によって焦らせていなければ被弾していたかもしれない。
その上、あのオブジェクトの同型機が複数の第二世代を撃破しているという情報もあった。やはりあらゆる手段を講じていて正解だ、私は最適解を選んでいる、エリートたる彼女はそう強く自らへ語りかける。
「そうだよね、テューポーン」
テューポーン、このオブジェクトが持つ本来の名前だ。正統王国のコードネームとは毛色が違い、信心組織は神話や伝説などからオブジェクトへ名を付ける。この兵器がもたらす破壊の規模を考えると、神の名を与えたくなるのもむべなるかな、といったところだ。
『衛星からの映像が使い物になりません、先程のミサイルによりレーダーが乱されました。ご注意を』
「くもにチャフがまかれましたか」
『はい、そう思われます』
「…わかりました、司令はなんと?」
『このまま敵の第二世代を釣り出し、撃破しろとのことです。加えて、あの第一世代は同型機が高い功績を残しています、このまま鹵獲するために回収も阻止しなければなりません』
彼女が見せたセオリー通りとは言い難い行動は、欲を出した司令部によるものらしい。この地域は元々信心組織のウォーターストライダーが、正統王国軍のベイビーマグナムを下したことで得られるはずだった土地だ。それを生身の兵士に阻止されたことは、屈辱的としか言いようがないだろう。
『この試練を乗り越えてこそ、我々はこの地を治める権利を得る…と、司令は仰っています』
「このオブジェクトをあずかった身として、せきむを果たすしょぞんとお伝えください」
幾ら戦いが嫌いとはいえ、ここまで暴力的な装備に身を包んでは気も休まらない。もっと別のアプローチがあったのではないか、本当にこれが自分の能力に合った装備なのか、彼女の疑問は尽きない。
だが皮肉なことに、恐怖からくる完璧主義は、この装備を最大限に活かしていた。現に真正面からの戦闘を避け、第二世代を相手に土地を得ている。
「…えいせいを警戒したということは、まだ残ってるへいしがいる。何かをするから、みられてはこまるからチャフを使った」
デモリッションコードはその爆発の威力故に、デリケートな各種センサー類を自ら破壊してしまう。距離さえ取れれば問題はないが、オブジェクト同士の接近戦ともなれば、必ずしも有利な範囲でだけ撃ち合えるとも限らない。
その点で言えば、接近してベースゾーン側へ進ませまいとするタイニーリボルバーの戦い方は、彼女にとってやり難いものだっただろう。
「なにか、ある」
万が一を潰すため、大量の爆薬に身を包むオブジェクトが前へと進む。同族の残骸が広がるこの大地において、信心組織の勝利を確実なものにするために。
地雷の上を通るが、それが爆発することはない。敵味方の識別能力を持つそれは、敵オブジェクトにのみ牙を剥く。地雷と混ざって散布された伸縮式の高さ3.5mのセンサー塔、これによる索敵網は歩兵の接近も許さない。
ウォーターストライダーと同じ轍は踏まない。信心組織は確実に以前の戦訓を活かし、歩兵による妨害ができない環境を作り上げていた。
『地雷間ネットワークは正常に動作中、敵部隊の動きは確認できません』
センサー塔は万能ではないが、そう簡単に妨害できるものでもない。自ら電磁波を発して敵を探すアクティブ式ではなく、周囲の電磁波を受け取って情報を得るパッシブ式だ。
オブジェクトとしては平均的な水準であっても、軍の兵器として見ると最高クラスの電子戦能力を持つタイニーリボルバーでも詳細を把握できなかったのは、最初から何も発していなかったからに尽きる。
『あまり前に出る必要は…』
「てきはまだ、何かをしようとしています。わたしはそれをとめたい」
換装したセンサー群により雪の中へ潜んでいる筈の敵兵士を探し、地雷のネットワークにも気を配る。その瞬間だった、何処からか照準用のレーザーが照射されたのは。
「このしゅつりょくのレーザー、まさか!」
レーザーを照射した位置を逆探知し、咄嗟に動かした副砲の幾つかで纏めて吹き飛ばす。しかし照準のために照射されたものに、何故か敵味方識別装置が反応する。
照射元は味方のオブジェクトだとシステムが言い張るのだ、副砲は咄嗟に安全装置が割り込んだために逸れた地点へと着弾する。
「な、にが!」
『これは、プロメテウスです!大破したプロメテウスからの…』
プロメテウス。製造元である信心組織が与えた、ウォーターストライダー本来の名前だ。かつての味方であろうとも、敵に利用されたのなら邪魔なだけだ。動力炉無しに主砲の発射能力を保持しているとは思えないが、万が一は全て潰して回るのが彼女のやり方だ。
「あんぜんそうち解除、まとめてふきとばす」
『待っ、残骸の回収も任務の…』
副砲は照準を修正し、今度は正確に残骸を吹き飛ばす。しかし複数の地点からレーザーが放たれ、コックピットには警報が鳴り響く。時間稼ぎのための嫌がらせだろう、動かせるのは恐らく照準用のレーザーのみだ。
だがどうやって細工をしたのか、センサー塔による監視を潜り抜ける方法があったというのか。彼女はこの地で二機のオブジェクトを屠った生身の兵士の記録を思い出し、更なる恐れを抱く。
「おそらく擱座したオブジェクトのしゅほうを、これに紛れてつかうのがもくてきです」
『敵オブジェクトは山の裏側から出ていません!』
「かいあんていしきプラズマ砲なら、あのていどの山はつらぬけます」
敵の識別を機械に任せず、手動でセンサー塔へアクセスする。細工が行われたウォーターストライダーの主砲と副砲には車載バッテリーとケーブルが繋げられていたが、既に兵士はその場に居なかった。仕事の早い奴らだと彼女は苛立ちを覚えつつ、次々とカメラを切り替える。
「どうして画像しきべつにひっかからない、そうかんたんには搔いくぐれないはず…」
積雪地帯向けの迷彩服であっても、人型の物体は否応なしに目立つ。これだけの工作を起こったのだとすれば、画像識別システムを掻い潜る何かを持っていたと考えるしかない。
派手に砲弾を撃ち込んだのだ、敵の兵士の一人や二人は動きを見せてもおかしくはない。そう思って地形データを呼び出し、逃げ込むのに最適な窪地になっている場所を探す。
「居た」
センサー塔が搭載するカメラの画角内に、灰色の特殊な迷彩服を着込んだ兵士が見える。雪の中では目立つそれは、機械の目を欺くことに特化したものだ。
人としてのシルエットを崩し、AIに認識されることを避けるという、こういった環境下でしか役に立たない服を何故持っているのか。彼女は歩兵も対オブジェクト戦に組み込んだかとある程度の推察を行いつつ、容赦なく歩兵を窪地ごと吹き飛ばした。
『こちらでも確認しました、これよりセンサーの映像は人力で確認します』
「りょうかい。オブジェクトはまだ動かせないはず、このままかたずけて…」
山の裏側が爆発した。正当王国軍のオブジェクトが擱座していた地点だが、自爆させたにしては規模が小さい。そうなるとこの爆発は別の理由で起こされている、その中でデモリッションコードのエリートが最も恐れるのは、奪った筈の移動能力を回復させられることだ。
「このたんじかんで、発破までやるなんて!」
『確認のために飛行中の無人機が撃墜されました、敵オブジェクトが戦闘に復帰します!』
「ろかくはあきらめ、脅威のはいじょをゆうせんします」
試作レベルから抜け出していない電子励起爆薬を詰め込んだ砲弾が、主砲に装填される。そしてレールガンの技術を応用したカタパルトによってそれは加速され、一瞬にして射出された。軌道は大きく上に伸びた放物線を描いており、このまま行けば山を避けてオブジェクトに直撃するだろう。
「んなっ…!?」
『か、下位安定式プラズマ砲により、主砲弾が迎撃されました!』
「だいいちせだい、迎撃はおてのものか」
しかし、未だ発射能力を維持していた主砲が砲弾を撃ち落とす。ならばと発射角度を調整し、もう一度山を崩しにかかる。移動能力を回復させるための爆発だとしても、地雷になるダメージは大きい筈だ。フットワークが失われている以上、二度目とはいえ土砂崩れを避けるのは難しい。
『やあ信心組織の爆弾オブジェクト、悪いがやられっぱなしというのも癪に合わないものでね』
「通信の中継拠点からのものです、暗号化されていません!」
『正統王国軍のやり方はそちらも分析していると思うが、報復は必ず24時間以内に行われる。我々はそのための時間稼ぎを拝命した、名誉ある仕事だ』
「ゆさぶりをかけてるだけ、そうきにしなくてもいい」
正統王国が報復に躍起になるのは、騙し討ちでまんまとやられた場合に限る。騎士道精神に準ずる考え方によるものだが、今回は真正面からのオブジェクト戦だ、騙し討ちには当たらない。
『この戦争は結局のところ土地の奪い合いだが、その戦い方はなんだ。山を崩し、土地を荒らし、不必要な破壊をばら撒いている』
報復の理由は色々あるが、つまり戦い方が卑怯だと正統王国が感じればそうなる、ということだ。デモリッションコードの戦いはあまりに周囲への被害を顧みていなかった、その点が正統王国側にどう取られたかは、信心組織側も気にするところだろうか。
『こちらは最後まで対抗する』
「こわれたオブジェクトでなにができる、徹底てきにつぶして…」
主砲弾はまたしても空中で撃ち落とされた。射線が通るはずがない、オブジェクトが山の裏から姿を現さない限り。
「うごいたっ!?」
タイニーリボルバーは、山と山の間から機体を出すほんの一瞬で迎撃を成功させた。地面を滑るような動きはこの機体が持つ静電気式の推進装置のもの、移動能力がまだ発揮できる状態であったことにエリートは歯噛みする。
『我々は不屈だ、そちらにもまだ付き合ってもらうぞ』
タイニーリボルバーは再度山間から顔を出し、主砲を放つ。蒼いエネルギーの奔流はデモリッションコードの横を通り過ぎ、背後の峡谷へと突き刺さる。
「はずした、いや…てったいルートを狙ったか」
撤退に使うルートの幾つかを潰されただけだ、迂回すれば問題はない。それに手負いの旧式に、再度の補給が必要なほどの労力を割く気もない。主砲たる電磁カタパルトを構えつつ、副砲を大雑把にばら撒いて山の裏側を牽制する。
「撃ちおとさない、じぶんのいちを隠すきだな?」
『お前の地雷はAIによる画像認識能力を持つセンサーポールと、金属杭を真上に射出する弁当箱地雷の二セットだ』
「…何を」
『傍受や妨害を避けるためだろう、電磁波を自ら発することは殆どない。センサーポール同士が雪の中のレーザー通信では賄えないほどの通信量を必要とする時以外には!』
峡谷が崩れ、前線まで出張って来ていた部隊の一部が巻き込まれる。敷設していた前線と峡谷後方のベースゾーンを繋ぐ通信ケーブルも幾つかが千切れ、戦いに巻き込まれた支援部隊が悲鳴を上げる。
オブジェクトを無力化し、不用意に部隊を前に出した弊害だ。前回の敗因に引っ張られ過ぎたのだ、歩兵など殆どの場合でオブジェクトにとってアリ以下の存在というのに。
『流石にエリートと言えど、大量のカメラ映像を全部確認ってわけにもいかないだろう。だから支援部隊に人力での映像確認をしてもらう必要があったんじゃないか』
『ちなみに、吹っ飛ばしてくれたアレは人形だ。よく出来ていただろう?』
『オブジェクトの電子線能力は大抵の部隊よりも上だぜ、地雷の映像確認に使う帯域さえ分かっちまえば!』
支援部隊への損害は復旧できるかもしれないが、カメラが捉えた映像は妨害によってノイズだらけだ。レーザー通信は晴れてさえいれば高い性能を発揮するが、生憎ここは大量の雪が降る。レーザーは曲がるのだ、雪によって光が拡散したことで、本来なら秘匿性の高いレーザー通信にも勘付かれた。
「…もんだいなし、スタンドアローンでも地雷はきのうする」
『この地雷はどんな地形でも自分の有利な地形に変える代物だ。確かに強力に見えるが、ある問題があるよな』
『オブジェクトは何十万トンもの重量を、分散するなり浮かせるなりで無理矢理かっ飛ばしてる。アンタはどうやってこの地雷を踏んでも起爆させずに、問題なく通り過ぎられた?』
「…これはせいしんこうげき、マトモにあいてをする必要なんて、ない!」
『これは重量を検知して爆発しない、できないんだ。不整地用に設計されたアンタの脚部に、器用に地雷を避けて進む機能なんて付けられない。事実アンタは避けずに、地雷を踏みながら俺達のオブジェクトと戦った』
『踏んだ地雷は地面に埋まったが、その部分を気にする様子はなかった。地雷は多少の荷重がかかっても壊れず、誤った検知もせず、敵だけに牙を剥く』
『じゃあどうやって敵を選ぶのか、それは今から確かめてやるよ』
信心組織は脚部で無理をしてるウォーターストライダー、飛び回るけどやっぱり脚部が無理してるウィングバランサー、なんか開拓してるコレクティブファーミング、バネとかソリとかetc…。
変わり種が多くて、度肝を抜く一発芸で敵を倒すオブジェクトが多い印象ですね。なので現在も実用化していない電子励起爆薬を始めとした、大量の爆薬を使うオブジェクトもアリかなって。
最強オブジェクト論争とかはナシ!感想欄が荒れる!!
規格外のラスボスは出禁な!